22 ダンジョン
二人は一緒にダンジョンを調べに向かった。すると、既にダンジョンの入り口に、リヒトがいるのを見つけた。
「クソっ、間に合わなかったか……! 普段からちゃんと食事を取っておくべきだった!」
シドウは自分の生活習慣を悔やんだ。
「リヒトさん! そこは危ない! 入らないで!」
「君は、ユキ君? すまないが俺は行くぞ!」
そう言ってリヒトはダンジョンの中に入ってしまった。
「リヒトさん!」
そしてなんと、ユキもリヒトを追いかける勢いでダンジョンの中に入ってしまった。
「えぇ⁉ ユキ君⁉ ……しょうがない。私も行こう!」
シドウは自分の魔法があれば、二人を守れると考え、ダンジョンへ入った。
ダンジョンの内部は、冷たい空気と重々しい静寂に包まれていた。暗闇の中、壁にはぼんやりとした青い光が揺れており、迷路のような構造が広がっている。シドウは解析術を使って周囲の安全を確保しつつ、ユキとリヒトを探しに進んでいく。
「ユキ君、リヒトさん、待ってくれ! ここは本当に危険だ! 普通の人間には耐えられない試練が待っているんだぞ!」
シドウは声を張り上げたが、反響するだけで二人の姿は見当たらない。一方、リヒトはユキの追跡を振り切るように走っていた。彼の心の中には、アランへの強い思いが渦巻いていた。
「俺は、どうしてもアランに会いたいんだ!」
しかし、ユキがすぐ後ろから迫っていることに気づき、リヒトは少し驚いた。
「リヒトさん! このダンジョンは危険すぎるんだ! 会いたい気持ちは分かるけど、ここじゃ命を落とす可能性だってある!」
ユキは必死に呼びかけるが、リヒトの決意は固かった。
「分かってるさ。でも、アランを失うくらいなら、俺はここで命を懸けてもいいんだ!」
その言葉にユキはハッとした。リヒトの覚悟は本物だったのだ。しかし、ユキも彼を見捨てるわけにはいかない。ユキはリヒトに近づき、彼を止めようとした瞬間、ダンジョンの床が突然揺れ始めた。
「っ⁉ 罠か!」
シドウは遠くから状況を察し、すぐに駆け寄った。
「やっぱりこのダンジョン、ただの噂じゃなかったか……!」
床が崩れ、ユキとリヒトは急に足を取られて奈落の底へと落ちていった。
「リヒトさん! ユキ君!」
シドウは反射的に結界を展開し、二人を空中でなんとか保護した。
「ふぅ……危なかった。二人とも、私の結界が無かったら今頃地の底に落ちていたかもしれないぞ」
シドウは少し息をつきながら、二人を安全な場所に引き寄せた。ユキとリヒトは少し呆然とした表情を浮かべながら、お互いを見つめ合った。リヒトはその瞬間、少しだけ冷静さを取り戻したようだった。
「すまない、ユキ君。俺は焦りすぎていたのかもしれない」
ユキは微笑みながら、リヒトの肩に手を置いた。
「リヒトさんの気持ちは分かります。でも、無事でいることが一番大事です。俺たちは一緒に、もっと良い方法でアランさんを探すべきです」
リヒトは深く息をつき、少しうつむいた。
「ありがとう。そうだな……ユキ君の言うとおりだ」
リヒトは俯きながらアランへの強い思いを二人に打ち明けた。
「……俺とアランはあの劇団で唯一の同期だったんだ。演技に行き詰まって悩みを相談し合ったり、初めて舞台でメインキャラの役を貰って喜んだり、そういうの、全部アイツと一緒だったんだ。だから、いきなりお別れなんて……受け入れきれなくて、軽率な行動に出てしまった」
ユキはリヒトの強い思いに心を打たれ、何とかして二人を会わせたいと思った。
「うぅっ、リヒトさん……! 確かにアランさんは貴方のためを思って去りました。でも! やっぱり会わせてあげたい! ファンとしても!」
シドウも
「二人の絆の強さ、部外者の私にも伝わってきたよ……私も協力するから、とりあえずここから出よう」と二人に呼び掛けた。
そして、三人は来た方の道へ引き返した。しかし、
「ウソだろ」
「出口が塞がれてる……!」
「マジかよ」
シドウは冷静にダンジョンについて解析した。
「二人とも、残念な報告がある。このダンジョン、一度足を踏み入れると、秘宝を見つけるまで出られない仕様になっているらしい」
「えぇ~マジですか……?」
ユキは頭を抱え、リヒトも驚愕の表情を浮かべていた。
「そんな、アランに会うどころか、ここから出られないなんて」
リヒトの声には焦りと絶望が滲んでいた。シドウは苦笑しながらも、気持ちを切り替えた。
「まぁまぁ、そんなに絶望的にならないで。秘宝を見つければ出られるわけだし、私には強力な結界術と解析術がある。さっさとその秘宝を見つけて、出ればいいだけさ」
「でも、秘宝がどこにあるかなんて全然わからないし、このダンジョン、罠だらけなんですよね?」
ユキは心配そうにシドウを見つめた。
「確かに罠は多いだろうけど、それもまた楽しみの一つじゃないか?」
シドウは少し楽しそうに目を輝かせた。
「何より、リヒトさんの気持ちは真剣だし、そんな時は何かしらの力が手助けしてくれるものさ」
リヒトはシドウの言葉に少しだけ元気を取り戻し、深呼吸をした。
「わかった。秘宝を見つけて、アランに会いに行く。それしか道はないんだな」
「その意気ですよ、リヒトさん!」
ユキも励ますように笑顔で返した。
「俺も一緒に探します。絶対に見つけましょう!」
こうして三人はダンジョンの奥へ進むことに決めた。罠や謎を解きながら、秘宝を探す旅が始まる。シドウは魔法で罠を見破り、ユキは鋭い感覚で危険を察知し、リヒトはアランへの強い思いを胸に進んでいった。
「それにしてもこのダンジョン、思ったよりも広いな……どこに秘宝が隠れてるんだろう」
ユキが呟いた。
「大丈夫だよ。こういう場所では、だいたい一番奥に重要なものがあるからね」
シドウは自信満々に答えた。
「焦らず進めば、きっとたどり着くさ」
シドウの高度な解析術と結界術、ユキの人狼ならではの身体能力の高さ、さらに幼い頃からサナに仕込まれた体術が見事に噛み合い、ダンジョン攻略は想定以上にスムーズに進んでいた。また、リヒトも普段から劇の稽古で激しい動きを繰り返していたおかげで、真人間にしては驚くほど高い身体能力を発揮していた。
時折、ユキが勢い余って罠にかかることもあったが、彼の頑丈さとシドウの結界がそれをカバーしたため、どうにか切り抜けることができた。そして、ユキが身代わりとなったおかげで、リヒトは特に大きな怪我を負うことなく進むことができた。
そして遂に三人は最深部に辿り着き、シドウは二人に気を引き締めるよう呼びかけた。
「二人とも! ここが最深部のはずです。しかし気は抜かないで下さい。ダンジョンというのは大抵、秘宝を見つける直前に何かあります!」
三人の緊張感が高まる。するとどこからか、低い良い声が聞こえてきた。
「──よくぞここまで辿り着いた。お前達にはそこまでして会いたい者がいるのだな」
「シ、シドウさん! 何ですかこの声は!」
ユキは突如として聞こえてきた謎の声に驚き、シドウにしがみ付いてきた。
「うわっ! ちょ、ユキ君邪魔! これはダンジョンの声です! 私達が秘宝に相応しいか、最終試練が待ち構えているはずです!」
リヒトは息を飲んだ。
「二人がいなかったら、俺は何度も死んでいた。だけど、ここまで来たからには絶対に試練を乗り越えて、アランに会う! かかってこい」
リヒトの決意に応えるかのように、ダンジョンの声が再び響いた。
「ならば、その覚悟を示すがよい……最後の試練は『心』だ。力や技ではなく、お前たちの絆、想い、そして真実の姿を見せよ」
その瞬間、周囲の景色が歪み、三人の視界が真っ白になった。次に目を開けた時、彼らはそれぞれ別の場所に立っていた。それぞれの場所で、三人は自らの過去や心の奥底に向き合わされる試練を受けることになった。




