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21 鳩使いからの依頼

 街の劇団員であるリヒトは、突然姿を消した親友アランのことを、ずっと気にかけていた。彼の心には、アランへの思いが重くのしかかっていた。そこで彼は、王族のソラシドが運営する伝書鳩を利用し、短いながらも心のこもったメッセージを鳩に託した。


「アラン、元気にしてるか? お前がいきなりいなくなった理由は、なんとなく察している。でもやっぱり俺は、もう一度直接会ってちゃんと話がしたい」


 数刻後、リヒトはアランからの返事を受け取った。メッセージにはアランの心情が素直に書かれていた。


「いきなり消えて、心配かけて本当にごめん。俺はわりと元気だよ。だけど、俺はもう色々と怪しまれてるから、今お前と会ったらヤバいんだ。本当に申し訳なく思ってる。これだけは言っておくけど、俺とお前の絆は本物だ。リヒトも元気でな!」


 リヒトはその言葉を見て複雑な気持ちになった。アランが元気であることに安心したものの、二人が再会することが難しい現実が重くのしかかる。しかし、アランが自分との絆を信じてくれていることは、リヒトにとって大きな救いでもあった。リヒトは静かにメッセージを握り締め、友を想いながら胸の内に温かなものを感じていた。


 ◇ ◇ ◇


 王都の宮殿の片隅にある伝書鳩の休憩所。ソラシドはその運営者として、鳩たちの仕事の管理をしていたが、休憩中の鳩たちが運んだメッセージの履歴をこっそり覗き見るのが趣味だった。通常、伝書鳩は届け先の相手にしかメッセージを見せない仕組みになっているが、運営者であるソラシドはその制限を自由に超えることができる。


「うわっ! このカップル、えげつない趣味してるな!」ソラシドはメッセージを読んで思わず吹き出す。


「……この上司、部下に対してのパワハラがエグいな。これはちょっと労働局に連絡しておくか」


 そうつぶやきながらも、ソラシドは次々にメッセージを覗いては、その内容に驚いたり笑ったり、時には社会正義に目覚めたりと、彼なりの楽しみを見つけていた。彼にとっては、これが日常の中のささやかな息抜きだった。



 ソラシドはある鳩のメッセージ履歴を覗き見た。そのメッセージは、アランとリヒトのものだった。


「うわ~泣けるねぇ、親友との唐突な別れ! 片割れは身分詐称の人狼かな? こういう人間ドラマがやっぱ一番おもしれぇわ!……僕は優しい男だからね! 見逃してあげるよ。アランくん……!」


 と、彼は楽しげに独り言をつぶやいた。

 しかし次のメッセージを読んだとき、彼の表情は一瞬で硬くなった。


「アラン、お前に拒否されたとしても、やっぱり諦めきれないんだ。絶対会う。待ってろよ」


 リヒトがアランに強引に会おうとしていることを知り、ソラシドは冷や汗をかいた。メッセージのやり取りから、彼が本気でアランの居場所を探し当てるつもりでいることは伝わった。リヒトのような普通の人間が取れる、常識の範囲内の手段では、アランの居場所を突き止めるのは難しい。しかし、ソラシドは一つの噂を思い出していた。


「国境のダンジョンに『会いたい人に会わせてくれる秘宝』があるって噂があったな……」


 彼は小さくつぶやいた。その秘宝は、失った者や離れた者に再び会わせてくれるという伝説のアイテム。危険なダンジョンに潜むその宝を手に入れれば、アランに再会できるかもしれない。

 しかし、国境のダンジョンは王族の支配も及ばない危険な場所であり、普通の人間が無事にたどり着く保証はない。加えて、万が一リヒトがダンジョンでトラブルを起こし、隣国との間で何か問題が発生すれば、王国全体に影響が出る可能性がある。


「おいおい、ちょっと待ってくれよ、リヒトくん、これは本当にヤバい展開だぞ。隣国とトラブルになったら、王族にも何かしらの責任が降りかかってくるかも……!」


 ソラシドは腕を組んで思案にふけった。王都から例のダンジョンまではかなり遠く、今すぐに自らダンジョンへ行って対応することは難しい。しかし、リヒトがこのまま行動を起こすと予想外の事態に発展しかねない。


「どうするかな……これは」


 思い悩むソラシドはあることを思い出した。今シドウが、東の国境近くの街を拠点に謎の上級魔法使いの噂を調査しているという。そこでソラシドは、シドウにダンジョンの周辺に結界を張って立ち入りできないようにしてもらおうと考えた。ソラシドは早速伝書鳩を通してシドウへメッセージを送った。


「こんにちは~! ソラシドです。突然ですがシドウ兄様へお願いがあります! ちょうど今、シドウ兄様のいる街の近くにかなり危険なダンジョンがありますよね? そこに、その街の劇団員にガチで入ろうとしてるヤツがいるっていう噂が入ったんです。しかも多分そいつ真人間なんですよ。初級魔法使いでも、中級でもちょっと危険なレベルのダンジョンなのにですよ⁉ これはエグいと思い、シドウ兄様にダンジョン周辺に結界を張るのを依頼したく、メッセージを送りました! どうかよろしくお願いします!」


 ◇ ◇ ◇


 ソラシドからのメッセージを受け取ったシドウは、微かに笑みを浮かべた。


「しかし、わざわざ僕に結界を張れって、ソラ君も人使い荒いなぁ」


 彼自身、結界術には長けているし、危険なダンジョン周辺に結界を張ることくらいはお手の物だ。ただ、この依頼にはどこか面倒な臭いがする。


「サナさんの噂を調査している最中に、こんな雑事を押し付けられるとは……」


 口では文句を言いながらも、内心、シドウはこの状況を楽しんでいた。ソラシドの依頼からは、重要な“何か”がありそうな匂いを感じたからだ。


「まぁ、ソラ君がそこまで言うなら、少し見に行く価値はあるかもな」


 シドウはそう呟き、すぐに行動に移すことに決めた。彼はダンジョンに向かう前に、周辺の状況を軽く確認し、魔法道具を手に取り、準備を整えた。


「ダンジョンを調べれば、もしかしたら何か、魔法の力に関する資料が見つかるかもしれない!」


 シドウは、胸の奥でその期待が膨らんでいくのを感じていた。すると、ぐぅ~とシドウの腹が鳴った。彼は、研究に没頭して食事を忘れていたのだ。


「腹が減っては戦は出来ぬって言うしね……!」


 ◇ ◇ ◇


 ダンジョンの様子を見に行く前にシドウは、街の食堂で食事を取ることにした。そこで偶然、アルバイト終わりにバイト仲間とまかないを食べていたユキに出会った。彼は人狼特有の尻尾や耳を隠し、完全に人間に擬態していたので、シドウは興味深げにその姿を見ていた。ユキはシドウに気づくと席を外し、彼のそばへやってきた。


「シドウさんがここに来るなんて珍しいですね! 何かあったんですか?」

「いや、ただお腹が空いて来てみただけですよ」


 シドウはユキにダンジョンの件について話した。ユキは小声で、


「伝書鳩を運営している王族がその情報を掴んでいるってことは、やっぱサナが俺との連絡の方法変えたのは正解だったのか!」と呟いた。


「まぁソラ君は王族の中でも、私ほどではないけど結構ユルいタイプだから、そんなに警戒しなくても大丈夫だと思いますよ」


 ユキは、シドウの話すダンジョンへ向かおうとする劇団員に妙に心当たりがあった。


「あの、シドウさん、そのダンジョンにある秘宝って、会いたい人に会わせてくれる力があるっていうやつですよね? それをこの街の劇団員が求めているって……俺、多分その劇団員が誰か分かりましたよ。アランさんの親友のリヒトさんです」


 シドウはユキの言葉を聞き、少し驚いた表情を見せた。


「アランさんの親友、リヒトさんですか?」


 シドウは眉をひそめ、思案にふける。アランの名前を聞くたびに、彼の背後にある事情が頭をよぎる。


「なるほどね。じゃあ、リヒトさんはアランさんに会いたい一心で、そのダンジョンに向かおうとしているんですね?」


 シドウは少し考え込むようにしながら、ユキの言葉を整理していた。アランの親友であるリヒトが、危険を顧みずにダンジョンに向かおうとしているのは、彼なりの強い意志があってのことだろう。


「そうだと思います。リヒトさんはアランさんのことを本当に大切に思っていて、彼が突然姿を消したことをずっと心配していたんです。でも、リヒトさんは普通の人間で、ダンジョンなんて危険すぎます。なんとか止めたいです」


 ユキは焦りを感じ、シドウに助けを求めるような眼差しを向けた。シドウは少し笑みを浮かべた。


「なるほど、事情は分かりました。確かに普通の人間が国境近くのダンジョンに入るのは自殺行為ですね。私が結界を張ることで、少なくとも彼が不用意に中へ入るのは防げるでしょう」


 ユキは安堵の表情を浮かべながら、


「ありがとうございます、シドウさん。俺も何かできることがあれば協力します」と力強く答えた。

「まぁ、まずは腹ごしらえが先ですね!」シドウは笑いながら食事を再開し、


「それにしても、サナさんがユキ君との連絡方法を変えたのは賢明ですね。ソラ君、多分悪気はないんですが、色々な情報を覗き見てしまいますから」と、冗談めかして付け加えた。


 ユキは苦笑しながら、

「はい、サナの判断は正しかったみたいです」と答えた。


 ユキは、アランとリヒトのことがずっと気がかりだったが、シドウが力を貸してくれるということで少し安心したのだった。

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