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19 王家の家庭事情

 今から四年前、シドウは王族が関与した裁判で有罪判決を受けた魔法使いが、元々体が弱かったこともあり、獄中で亡くなってしまったことを知った。その魔法使いの幼い娘“レーナ”がノヴァ・ジェネシスに加入したことも耳にしたシドウは、王族の一員として、彼女の様子を見るために父親の葬儀へ参列することにした。


 葬儀場は静寂に包まれ、黒い喪服に身を包んだレーナは俯き、誰とも目を合わせようとしなかった。彼女の表情からは深い悲しみと怒りが感じ取れる。シドウは少し距離を保ちながら、慎重に声をかけた。


「……君がレーナさんだね。お父さんの件、心からお悔やみを申し上げます。そして何より、君からお父さんとの最期の時間さえ奪ってしまったこと、本当に申し訳なく思っています。獄中での状況が適切に把握できていなかったのは、私たち管理する側の重大な過失でした……」


 シドウの声は苦しげで、深い後悔がにじんでいた。しかし、レーナの怒りはその言葉で和らぐどころか、さらに燃え上がった。彼女は顔を上げ、涙を湛えた目でシドウを睨みつける。


「奪ってしまったって……アンタ、本当にわかってるの? あたしはお父さんに『ありがとう』も、『さよなら』すらも言えなかったんだよ! あんなに弱っていたなんて……どうして知らせてくれなかったの!? あのとき面会の機会があれば、あたしは……!」


 レーナの言葉が途切れ、震える声で嗚咽が漏れる。その姿に、シドウは言葉を失い、ただ頭を下げることしかできなかった。


「そもそも、判決の内容にも全く納得してないから。……お前が今更反省した風な顔を見せたところで、お父さんは戻ってこないんだ。あたしは絶対にお前らを許さない。いつか力をつけて、お前ら王族を殺す」


 シドウは、まだ幼いレーナの瞳に宿る憎しみの深さを目の当たりにし、一瞬言葉を失った。彼の謝罪は到底彼女に届かず、逆に怒りを煽ってしまったのだと理解した。


 その後、シドウはレーナの母親から「娘の無礼をお許しください」と謝罪を受けた。しかし、彼女の表情にもどこか複雑な感情がにじんでいた。内心では王族に対して割り切れない思いを抱えているものの、平和主義者である彼女は、事を荒立てず穏便に済ませようとしていたのだろう。


 一方、レーナは母親から「お葬式で『殺す』だなんて言わないの!」とたしなめられ、しぶしぶ黙り込んだ。だが、その怒りと悲しみが完全に収まることはなかった。


 シドウは、レーナの母親からの謝罪に対し、申し訳なさでどう答えれば良いのかわからなかった。ただ何とか言葉を絞り出し、頭を下げることしかできなかった。


 シドウはその後何も言えず、ただ彼女の父親に祈りを捧げ、静かにその場を去った。その帰り道、彼は王族という立場の重さを改めて痛感した。魔力や権力を持つ一方で、その責任の重さゆえに、一つの判断が人々の人生を狂わせ、深い憎しみを向けられることもあるということを、現実として突きつけられたのだった。



 ◇ ◇ ◇



 シドウは王族として責任感を持った人物である……とは、決して言い切れない。彼は、自分の信念に基づいて突き進むことを優先するあまり、その過程で多くの人々を巻き込み、時には迷惑をかけてしまう一面がある。


 今から三年前、実はシドウは、第一王子の第一子のため、長子先継のこの国において、将来的に王位を継ぐことになっていた。しかし、彼は王族に課せられた基本攻撃魔法習得の義務を放棄し、個人的な魔法研究にのめり込んでいた。


「兄様! またそんな良く分からない研究ばかりして! 今日も魔法のお稽古をサボりましたね! お爺様もお怒りですわ!」


 そう言ってシドウの部屋に忠告をしに来たのは、シドウの妹のリーリエだった。


「リーリエ! いやいや、僕は僕で色んな魔法を習得している! 見てくれ!」


 そう言ったシドウはおもむろに何か魔法を使った。すると、彼の鼻からタラーっと血が出る。


「なんですの⁉ その魔法! 気色悪い」

 リーリエは引いた。


「だって! つまらないんだもん基本攻撃魔法! あんな、ただ魔力を込めてバカスカ打つだけの魔法」

 シドウは駄々をこねた。


「"だけ"⁉ 今、"だけ"って言いましたの⁉ 信じられない! 人が今さっき頑張って覚えてきた魔法をそうやって馬鹿にして!」


 リーリエはついさっき魔法の稽古をしていた帰りだったのだ。リーリエは続けてこう言った。


「それに! そうやって机の上だけで理論をこねても、実践的な魔法の稽古をサボっているようでは、本当に魔法の本質なんて分かるのかしら!」


 これにはシドウも反論出来なかった。何故なら完全に図星だから。


「……ああっあーっ嫌だ! やりたくない! 面倒くさい!」


 シドウはまたもや駄々をこねた。


「兄様!」


 リーリエも面倒くさくなり、シドウの部屋を後にした。



 国王はシドウに苛立っていた。


「なんなんじゃアイツは! シドウ! 我が孫達の中でも実力は高いはずなのに、それを正しい方向に使おうとしない……!」


 その様子を見た第一王子のシドウの父親は、


「まぁまぁ、父上! 人には向き不向きがありますし、あの子は魔法研究や結界術が長所なんですよ!」と、国王をなだめた。


 しかし国王は、

「ならぬ! 基本的な攻撃魔法も使えぬようでは、いざ国が狙われたときにどうするんじゃ⁉」と反論した。


 それを聞いた第一王子は、

「うーん、まぁ、確かに?」と答え、黙り込んでしまった。


「父様が納得してしまった!」


 その様子を見ていたリーリエは、すぐ兄の部屋に行き、最終通告をした。


「兄様! アンタ本当にヤバいですわ!」



 だが、次の日もシドウは個人的な魔法研究を優先し、基本攻撃魔法の稽古をサボった。そしてついに国王から宮殿の最深部に呼び出され、家族全員の前でこう告げられた。


「王位継承権、剥奪!」


 その様子を見ていたシドウのいとこ、ソラシドは、シドウの破天荒ぶりを面白がり、また、少しの憧憬をにじませていた。


「お、面白……! シドウ兄様、マジでぶっ飛んでで最高っすよ! 僕達にはできないことを平然とやってのける……!」


 一方、その様子を見た兄のレミファは、


「お前それ……皮肉で言ってるのか本気で憧れてるのか微妙に分からないな……それにしても、シドウ、まさか本当に王位継承権を剥奪されるなんて……」

 と弟に呆れ顔で言った。


 その後、リーリエは国王に呼ばれ、愚痴を聞かされることになった。


「うう……ワシだってあんなことしたくなかったわい! リーリエ、お前は普通に、王族としてしっかりやっておくれ!」


「ええ……まぁ、そうですね。ところでお爺様、父様の後を継ぐのはどなたになりますの?」

 リーリエは何気なく質問した。


「ああ、第一王子の第二子であるお前じゃ。将来の女王として励んでくれ」

「ええ⁉ 私⁉」


 リーリエは突如として自分に降りかかってきた責務をきちんと果たすため、自由奔放すぎる兄へ複雑な感情を募らせつつ、今日も頑張っている。

【世界観設定】

エルメシア王国では、王族が日々の魔法鍛錬で使用した魔力を各都市の魔力炉に供給し、インフラに利用している。

王族は、魔力を安定的に供給するために、日々の魔法鍛錬が国家運営の一環になっている。

王族の魔法が国の基盤になっているため、シドウのように勝手な行動を取る者は問題視され、処罰を受ける。リーリエのような真面目な王族がいることで、国の安定が保たれている。

田舎では王族の魔力が届かないことが多いため、中級・初級魔法使いが補助的に魔力供給を行う仕事が存在する。

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