17 報告
今回の調査で分かったことを、レーナはノヴァジェネの仲間達に報告した。
【ノヴァ・ジェネシス本部にて】
「みんな、朗報よ! 以前からノヴァジェネで信じられてきた、ルカ片親人狼説がほとんど確定事項になったわ!」
ノヴァジェネの魔法使い達はレーナの報告に湧き立った。
「レーナ! その情報は確かか!」
「私はずっとそうだと信じていたわよ!」
「どこでその情報を?」
皆が歓喜する様子を見ながら、レーナは得意気に答える。
「例の人狼が謎の上級魔法使いに通じているという噂、アレが完全にビンゴだったの!なんとその上級魔法使いの父親が人狼だったことが分かったのよ! キモいわよね~!おそらくルカも同じメカニズムで産まれたはずよ」
「しかし、昔王族が行った検証では、魔法使いと人狼の混血でルカのような魔法使いは現れなかったとされている。アレは王族が真実を隠蔽するためのデマだったのか?」
「王族共、姑息な真似を……!」
「みんな~落ち着いて! まだ話の途中なんですけど! それがただ混血なだけじゃダメなんだって。まず、人狼の片親が特定の条件を満たしていること。さらに、ここはまだよく分かっていないんだけど、両親の死、もしくはどちらか片方の親の死が、魔力増幅のトリガーになるらしいの。そうすると突然変異持ちの魔法使いの子のに莫大な魔力が受け継がれるんだって!」
レーナの言葉に場はざわめいた。そんな中、ふと一人の老紳士が静かに口を開いた。
「親の魔力が受け継がれる? そういえば昔、同じような説を唱えていた者がノヴァジェネにいたような?」
そう呟いたのは、長年ノヴァジェネに属する重鎮だった。
「多分そいつが謎の上級魔法使いの母親、ソフィアよ!」
「ああ……! そういえば昔そんな子が来ていたな。三十年前くらいか?」
「そいつ、おばさん……謎の上級魔法使いのことね。産んで死んじゃったの」
「ああ、そうだったのか。まだ若い子だったのに、可哀相に」
重鎮が感慨深げに悲しむと、レーナは眉をひそめ、思わず口を開いた。
「可哀相? 正直、私はサイコパスイカれ女が自業自得で死んだとしか思えなかったけど」
レーナの小さな呟きに、周囲の空気が一瞬ぴりついたが、重鎮はやんわりと話を続けた。
「それで、強い魔法使いの出生に必要な人狼の親の“特定の条件”とは?」
レーナは困りながら答えた。
「それが、分からないのよ! あのヤバ母、肝心な情報を寄越さないんだから! 全くもう!」
中堅メンバーの女性が、憤るレーナを微笑ましげに見ながら褒めた。
「そっか~それにしてもレーナちゃん、まだ十二歳なのに大活躍ね!」
レーナは褒められて満足げな表情を浮かべたが、あることを言わなければいけないと思い、渋々ながら話した。
「実は、私は王族派の研究者についてきて偶然この情報を拾ったの」
「なんと! つまり王族にもこの情報を知っているということか」
ノヴァジェネのみんなは落ち込んだ。
「いや、今回の情報で困るのは王族共の方よ! 私達は一歩、魔法の力の本質に近づいたの!」とレーナは周りを鼓舞した。
ノヴァジェネの魔法使い達は、レーナの言葉に再び活気を取り戻した。
「そうだな、確かに我々は大きな進展を得たのだ。王族が真実を隠そうとしても、もう我々の勢いは止められない!」一人の魔法使いが力強く言い、他の者たちも次々と頷いた。
「それにしても、その一定の条件とは一体何なのだろう」
重鎮が再び呟くと、レーナは困った顔で答えた。
「うん、そこが問題よね。でもさ、確実にこれまでの常識を覆すヒントが隠されているのは間違いないわ」
一同は再び静まり返り、各々が思索にふけった。レーナはその沈黙に耐えかねたように、
「まぁ、これからも情報は集まるでしょ。あいつら、これからも研究を続けていくだろうし、案外すぐに新しい手がかりが出るかも!」と楽観的に話を締めくくった。
「そうだな、まだ終わりではない。我々はこれからも追求を続ける。だが、同時に王族派には警戒を強めるべきだ。彼らも同じ情報を得た以上、何かしらの対策を講じてくるだろうからな」
と重鎮が真剣な表情で言い、ノヴァジェネの会合は一旦終わりを告げた。レーナは軽い足取りで部屋を後にし、その背中を見送る他の魔法使いたちも、彼女の年齢を忘れるほどの頼もしさを感じていた。
◇ ◇ ◇
シドウもまた、今回の調査で分かったことを王家に報告した。
【王都、宮殿最深部にて】
「……シドウか。今更何の用だ」
「……お久しぶりです! 国王陛下」
二人の間には重々しい空気が流れていた。
「私が趣味で続けている魔法の研究ですが、今回、とある噂を聞きつけ調査したところ、重大な事実を発見しましたので、その報告に参りました」
シドウはサナの出生のことについて国王に報告した。
「それは確かか?」
「はい。かなり信憑性が高く、重要な情報だと判断したので、わざわざここまで来てお伝えしたのですよ?」
国王はしばらく考え込んだ後、こう言い放った。
「この情報、何があっても絶対に外へ漏らしてはならぬ。我々王族は命を尽くしてでも隠蔽するべきだ」
国王の言葉に、シドウは眉をひそめた。
「なぜ? せっかく魔法の根元について色々と分かりそうなのに。この情報を公開することで更なる魔法の発展が望めま……」
国王はシドウの発言を遮りこう吐露した。
「私は、魔法の発展など端から望んでおらぬ。私が望むのは、我が王族、ルカの血を継ぐ者の繁栄だ! もし中級・初級の魔法使いたちが我らと同じ力を手に入れれば、今我らが独占している富は分散されてしまう。それくらい少し考えれば分かるじゃろう、研究者さん?」
国王は皮肉を込めてそう言った。シドウは苦々しい表情を浮かべながらも、静かに答える。
「分かりました。しかし、いつまでも真実を隠し通せるとは思わない方が、国王陛下ご自身のためかと」
そう言い残し、シドウはその場を後にした。宮殿を出ると、彼は心の中で国王とのやり取りを思い返していた。シドウは王族派の中でも異端であり、魔法の発展を純粋に追い求める者だった。しかし、国王が富と権力の独占を最優先し、魔法の本質的な探求を拒む姿勢に、彼は限界を感じていた。
「国王は結局、魔法そのものに興味はないのか……ただ、支配を守るための道具として利用しているだけなんだな」
シドウは思わず拳を握りしめた。胸の内に湧き上がったのは、「盛者必衰」という言葉だった。彼は、自分たち王族が長年握ってきた強大な力を、いずれ手放さなければならない時が来ると確信していた。一度サナのような存在が現れた以上、このまま真実を封じ込めることなどできるはずがない。そして、その時に何が起こるか、彼らはまだ理解していないのだろう。
シドウは静かに息をつきながら考えを巡らせた。
「王族がただ生まれ持った魔力に依存し、時代遅れの支配にしがみつき続ける限り、いずれ必ず破綻が起こる。そのためにも、王族に頼らなくても成り立つ新しい魔法の体系を築くんだ。その日が来たときこそ、この国の未来も、王族も守れるはずだ」
シドウは複雑な思いを抱えながら、宮殿の外に出た。風が彼の顔に当たり、冷静さを取り戻そうとするが、内心の葛藤は収まらなかった。
「いずれ、国王も自らの愚かさに気づく時が来るだろう。しかし、それまでに私はどこまで進めるのか」
その瞬間、シドウの心には一つの決意が固まった。
「私は、どの派閥にも縛られず、魔法そのものの真理を追い求める。それが国王に疎まれようとも、ノヴァジェネに危険視されようとも、私はこの道を進む」
そう強く心に誓った彼は、再び自分の研究をさらに深化させるための新たな一歩を踏み出す覚悟を決めた。彼の背後で、宮殿の重厚な扉が閉まる音が響いた。




