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14 向き合うとき

 私は努力してきた。ただ魔法が好きだったから、頑張って習得してきた。それなのに、血統が全てだって言われたら、今までの努力は何だったんだろう。


 そんな考えが頭をよぎり、サナは静かにため息をついた。シドウやレーナの前では冷静を装っていたが、心の奥底では、自分の出生の事実に対する戸惑いや、これまでの自分をどう見つめ直すべきか悩んでいた。


「血統があったからじゃなくて、自分で努力して強くなれたんだよね?」


 自分に問いかけるようにそう呟いたが、答えはまだ見つからない。シドウの研究が進むにつれて、もっと多くのことが明らかになるかもしれない。だけど、それが怖くもあった。サナは今まで感じたことのない、不安と迷いに包まれつつも、それを表には出さないように、いつものように笑顔を浮かべて、シドウとレーナに向き合い続けた。


 そのとき、サナの独り言を聞いたレーナが、彼女に軽くからかうように言った。

「で? その努力でさっきの意味分かんない鼻血出す魔法も覚えたんだ?」


「うん……お母さんの形見の魔道書に載ってた」


「あんたの母親、なんて本読んでるのよ! というか、人狼との間に子供作るなんて気持ち悪……吐き気がしてきたわ」


 レーナは本当に体調が悪そうにそう言ったので、サナは苦笑しながら答えた。

「うん、まぁ鼻血の魔法は確かに変わってるけど、他にもいろいろ役に立つ魔法も覚えたから」


「いやいや、他に役に立つ魔法も覚えたとか関係ない! だいたい、そんな魔法を覚えようって発想自体が変だって!」


 一方で、シドウはまったく気にする様子もなく、複雑な心境の二人の元気を吸い取ったかのごとくはしゃぎ、研究の結果に夢中になっていた。


「すごい、すごいぞこの実験結果は! 魔力の進化の過程について、色々な新事実が分かるかも! これは魔法界の歴史を変える発見になるかもしれない!」


 シドウは、資料を次々に広げながら、楽しそうに独り言を言っている。


「あの男は! さっきからキモい情報しか出てきてないのに、なんであんなにはしゃいでるの! 本当に意味分かんないんだけど!」とレーナは荒ぶっていた。サナはシドウの興奮とレーナの荒れた様子を交互に見て、ため息をついた。


「まぁ、私もこうやっていろんなことが分かってきたけど、結局は自分がどう生きるかなんだよね」と小声でつぶやいた。


 レーナは「もう、ほんとに耐えられない!」と言いながら、気持ちを落ち着けようと深呼吸していたが、シドウは次々に新しい情報を発見するたびにまた荒ぶっていた。

 サナは、そんな二人を見ながらも、自分自身に対する迷いや不安をどうにか整理しようとしていた。

 努力やセンスは大事だけど、やっぱり血統の力も無視できないのかな

 と、心の中で自分に問い続けていた。


「そういえば、サナさんのご家族は?」

 シドウはサナの家系について質問した。


「おばあちゃんはつい最近死んじゃったし、お母さんも私を産んだときに死んでる。父親とか、今の今まで知らなかったし、もう私には血の繋がってる家族はいない。今は家族はユキだけ」


「おばあさんから、母親の話は聞いたりしませんでしたか?」


「うーん、おばあちゃん、あんまりそういう話私にしなかったかも。私が十二歳のときまでここで一緒に住んでいたんだけど、年取って生活が不便になってから街に行っちゃったの。私が魔法で生活手伝うって言ってもなぜか拒否されたし……まぁ、週一で様子見に来てくれてたけどね! そもそも、おばあちゃんにとっては誰の子かも分からない、自分の娘が犠牲になって産まれてきた私のこと、内心どう思ってたんだろうな」


 サナは亡くなった祖母に対して想いを馳せた。

「サナさん、十三歳の時からこんな山奧に一人で暮らしていたんですか⁉」


「うん。私は魔法が得意だからね! 私にとっては街よりも、自由に魔法を使えるここの方が暮らすのに向いてたんだ」とサナは得意気に言った。


「でも今思えば一人だと暇で寂しかったかも。あの時は、本当にひたすら魔道書を読みあさって魔法を習得しまくってたかな。ユキと出会ってからは毎日楽しいよ!」


 しばらく黙って話を聞いていたレーナが口を開いた。

「とりあえず、あんたのその変な母親について謎が多すぎるわ。何か母親について分かるものは本当に残ってないの?」


 サナはレーナの質問を受け、祖母の遺品やこの屋敷に残る母親の痕跡について調べてみることにした。

「そうだね。母親のことはあまり詳しく知らないし、私が覚えているのはおばあちゃんが話してくれた断片的なことだけ。でも、何か母親に繋がるものが残ってるかもしれないし、調べてみる価値はあるかも」


「屋敷には昔の荷物も残ってるし、どこかに母親の遺品があるかもしれない。おばあちゃんも全部は整理してなかったはずだから、見つけたら何か手がかりになるかもね」


 サナは、無自覚に自分の中でずっと閉じ込めていた母親への疑問を、ようやく解決する時が来たと感じた。


「そうですね。お母さんがどんな魔法使いだったのか、何か記録が残っていれば重要な手がかりになるかもしれません。それに、今のサナさんの才能にも繋がる何かが見つかる可能性があります」


「じゃあ、早速屋敷の中を探してみようか!」


 サナはすぐに行動に移ることを決め、レーナとシドウを連れて屋敷の古い書庫や物置を探し始めた。

 サナは母親の形見である魔道書をはじめ、いくつかの古びた箱を開けていった。長い間放置されていたせいか、埃が舞い上がり、レーナが

「もう! 埃っぽいし、これ本当に見つかるの?」と文句を言った。


「こうやってわざわざ手作業で探すのも、宝探し感あって面白くない?」とサナが呑気に答えた。レーナは文句を言いながらも、真面目に手がかり探しに協力した。



 しばらく探していると、サナはふと目に留まった古びた日記帳を見つけた。


「これ、もしかして、お母さんの日記かな?」サナは表紙に書いてあるかすれた文字を読んだ。そこには、いつか祖母から聞いていた“ソフィア”という母親の名前と、「母子手帳」の文字があった。


「これを読めば、もっと母親のことが分かるかもしれない」


 サナは日記をしっかりと抱きしめ、

「シドウさん、レーナちゃん、これ……」

 と、二人にその日記帳を見せた。シドウとレーナが固唾を飲んで見守るなか、サナは意を決して、母親の日記を開いた。

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