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13 調査開始

 研究の日、サナの屋敷へシドウとレーナがやってきた。


「こんにちはサナさん。今日は研究にご協力いただきありがとうございます」


 シドウはにこやかに挨拶をした。


「シドウさん、レーナちゃんいらっしゃい! まず二人に忠告です。……シドウさんに結界を見抜かれてしまった時から、自分以外の魔法使いナメてた! って、ビックリしてさ。レーナちゃんも、どこから私とユキ、ユキとアランさんの繋がりを見つけたのか知らないけど……とにかく、プライバシー保護と、セキュリティを強化しなきゃと思ってね」


 サナがつらつらと喋り出したので、二人は黙って聞いていた。サナは続けてこう話した。


「あれから、一度結界の中に受け入れた人は、許可なく他人に屋敷の場所を教えたら即刻私に連絡が行く上、一年間、毎日足の小指を何かの角にぶつけるペナルティを受ける呪いをかけました! くれぐれも気を付けるように! まぁ、本当、ガチで結界強化したから、屋敷の場所を知れたとしても簡単には入れないはず……たぶん」


 レーナとシドウはサナの言葉にヒヤッとしつつ、こう答えた。


「うっわ。ノヴァジェネの仲間にここの場所とか密告しないで良かった~」


「それ、前回アランさんもいたときに言うべきだったんじゃありません⁉ まぁ、私は屋敷の場所を誰かに言うつもりは初めからありませんから、なんの問題も無いです。あと、私は探求が好きなのでね。この前、偶然にも屋敷の場所を特定出来たのは本当に奇跡だったんですよ。私は結界や解析などの魔法を得意としていますが、戦闘力はそれほどでは……」


 サナはシドウの話を聞いて、「本当かよ……」と疑わしげな視線を向けた。レーナも同じようにシドウをじろりと見て、少し眉をひそめながら問いかけた。


「シドウ……あんた戦闘力がないとか言ってるけど、それって王族基準での話でしょ? というか、結界を解析するって、そんな簡単なことじゃないわよね?」


 シドウは二人の視線に気まずそうに苦笑いしていた。


「まぁ、得意分野ってやつだね。結界や解析の魔法は昔から興味があって、研究してるんだ。逆に、戦闘魔法の習得は本当に怠ってるから、実戦ではそこまで役に立たないかもしれないけどね」


 サナは彼の謙遜する様子を見て少し微笑み、優しく言葉をかけた。


「戦闘ばっかりの魔法使いよりも、シドウさんみたいな頭脳派の方が魔法研究の時は頼りになるわ。……じゃあ、今日の研究、何から始める?」


 サナは最近、シドウやレーナといった、自然に自分のアイデンティティを認めてくれて、一緒に魔法について話し合える人たちに出会い、実は少し楽しかった。まぁ実際のところ、二人とも勝手にサナの素性を暴いてきただけだが。



「まずはサナさんの血液を少し提供してもらって、その魔力の特性を調べたいんだ。それで、他の魔法使いとどう違うのかを分析したい」


 シドウが穏やかな声で提案した。彼の目は真剣で、手元の資料には既にびっしりと書き込みがされている。


「そうね、まぁそのくらいなら大丈夫よ。ちゃんとここでやるって約束だし、悪用されないように私も見てるから」


「この前の検査は、サナさんが王族かどうかだけを調べる簡易的なものだった。今回はもっと色々なことを分析出来るように、色々な資料を使って調べます」


 そう言ってシドウは大量の魔道書や遺伝、生物学などの本を机に広げた。


「では、血液の提供をお願いします」


 サナは、「了解!」と言ったあと、おもむろに何か魔法を使った。

 レーナは、「何? 今の魔法?」と質問したが、すぐにどんな魔法か分かった。


「え、鼻血⁉ なにその魔法! キモッ!」


 サナは鼻血を出しつつ、少し照れたように笑いながら答えた。

「私もこんな魔法絶対役に立たないでしょ~って思ってたんだけど、暇だから片っ端から色々な魔法を覚えてた時期があってね。まさかこんなところで役に立つとは」


 シドウはその言葉を聞いて、目を輝かせた。

「これなら痛みなく血液を採取できる! 画期的な魔法ですよ、サナさん!」


 レーナは首をかしげながら、不思議そうにサナを見てつぶやいた。

「そんな意味のわからない魔法どこで覚えたのよ……」



 しばらくして血液検査の結果が出た。


「こ、これは凄い結果が出た……なんと、不明だったサナさんの父親、人狼の可能性が高いです!」


 サナは驚き、困惑した表情を浮かべた。

「え? 私の父親が人狼? そんな話、おばあちゃんからも聞いたことない……」


 シドウは冷静に資料を見ながら説明を続けた。


「まだ確定ではないけど、サナさんの血液中の成分を解析すると、その可能性が高いという結果が出ているんだ。ただ、昔の混血実験とは異なる部分もあって、だからこそ普通の結果とは言えないんだよね」


 その言葉にレーナは興奮しながら、持論は正しかったと主張した。


「ほら! ほら見なさいよ! 片親が人狼で強い魔法使いなんて、絶対ルカと同じじゃない! シドウ、ルカの片親人狼説を陰謀論扱いしてきたけど、信憑性が高まったんじゃないの~? というかおばさん、父親が人狼とかキッモ!」


 シドウは、驚いた表情を浮かべつつレーナの方を見て、一部同意した。

「確かに、この結果はその説の信憑性を高めるものだ。ただ、過去にすでに魔法使いと人狼の混血についての検証は行われている。その結果はこうだ。魔法使いと人狼、両方の特性を受け継ぐことはなく、どちらか一方の特性を引き継ぐ。魔法使い、人狼それぞれ五割ずつだ。また、ルカのように特別強力な魔法使いも出現しなかった」


 サナはその話を聞き、興味深げに呟いた。

「へぇ~昔そんなことが行われていたんだ。……その検証って、どういう人達が対象になったんだろ……」


「……だがもし、ルカのような強力な魔法使いの発生に、二つの種族の混血である要素が関係するなら、何か別の部分に重要なトリガーがあるのかもしれない!」



 シドウのその言葉に、サナは内心複雑な思いを抱いていた。

 サナは正直、自分は特別な存在なのではないかと自惚れていたのだ。幼少期、自分を産んだときに亡くなってしまった母親の形見である魔道書を屋敷で見つけたとき、祖母からこう言われた。


「あぁ。あの子は自分が使えるわけでもない難しい魔法についての本を読むのが好きだったからね……魔法は九割が才能。どんなに読み込んでも、自分で使えるわけでもない魔法を見て何が楽しいんだか、私には全然分からなかったよ」


 しかし、サナはその難しい魔法の数々を、たった数日で習得してしまったのだ。これには祖母も驚いたし、サナも自分が天才だと思った。それから、サナは魔法がどんどん好きになっていった。彼女はただ魔道書に記された魔法を覚えるだけでなく、それらの魔法を自分なりに応用するセンスもあり、色々な魔法を努力して習得してきた。

 しかし、それが今、自分の才能は血統の影響である可能性が大きいと言われている。サナは内心複雑だった。



 レーナは興奮気味に、サナにさらに追い討ちをかけた。


「だから言ったでしょ⁉ おばさん、ルカと同じような存在なんだって! 強力な魔法を使える理由も、やっぱりそういう血筋に関係してたんじゃない?」


 サナは少し投げやりな様子で返答した。

「いやいや、まだ確定したわけじゃないし……それに、仮にそうだとしても、それは今の私に関係ないと思うんだけど?」


 シドウは真剣な表情で考えを巡らせ、サナに向かって話し始めた。

「この結果がただの偶然とは思えない。もし人狼と魔法使いの混血が、強力な魔法使いを生み出す要因になるのだとしたら、今後の研究でその謎を解明できるかもしれない」


 シドウの熱心な口調にサナは一瞬考え込んだが、投げやりな口調のまま返答した。

「ふーん、もしそうなら面白いけど、とりあえず私は今まで通り過ごすだけよ。研究には協力するけど、あんまり大事にしないでね」


 そんなサナの軽い返答に、レーナは少し不満そうな顔で言った。

「なんでそんなに冷静でいられるのよ。自分の生まれに関する重大情報なのに」


 レーナの真剣さに対し、サナは特に気にした様子もなく、ヘラヘラと笑って答えた。

「だって、今さら父親が誰かとか関係ないじゃん? 私が強いのは、ただ魔法が好きで、それを自分で極めてきたからだし。それが一番大事なことだよ」


 シドウはサナの言葉に納得しつつ、微笑みながら答えた。

「君らしいね、サナさん。その自由な考え方も含めて、あなたの力には特別な意味があるかもしれない。それをこれからの研究で解き明かしたいと思ってるよ」

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