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1 出会い

※挿絵があります! 冒頭に続けて二枚です。苦手な方はご注意ください。




 山奥の深い森の中に、ひっそりと佇む屋敷。そこに、たった一人で暮らす魔法使いの少女がいた。彼女の名前はサナ。


 彼女は十三歳にして無尽蔵の魔力を持ち、様々な強力な魔法を使いこなせる天才だった。森で自由に魔法を操り、気ままな生活を送るサナは、周囲から少し距離を置いて日々を過ごしていた。


挿絵(By みてみん)


 ある寒い冬の満月の夜、サナは街での買い出しを終え、空を飛ぶ魔法を使って屋敷へと帰っていた。彼女の長い銀髪が風に揺れ、月光を受けて柔らかく輝いている。


 サナが森の中の広い雪原を通りかかった際、降り積もったまっさらな雪が月光を反射し、キラキラ輝いているのを見て、無性に雪を踏み荒らしたい衝動に駆られた。彼女はそっと雪原に降りたち、走ったり、雪の中に突っ伏したりして遊んでいたが、しばらくそうしていると、足元に違和感を覚えた。


 雪を少し掘ってみると、なんと、人狼の男の子がほぼ裸の状態で倒れていた。サナは、

「こんなに寒いのになぜ?」と困惑したが、以前読んだ本に

「凍死する寸前は身体が熱く感じて、服を脱いでしまうことがある」と書かれていたのを思い出した。

 満月の夜、本来なら人狼は力がみなぎりすぎて暴走してしまうこともあるはずなのに、その子はピクリとも動かない。


 これはさすがに放っておけないと思ったサナは、急いで彼に回復魔法をかけ、屋敷に運び、風呂に放り込み、魔法で即席の服を作って着せ、ベッドに寝かせた。男の子を寝かせている間、サナは屋敷の書庫で人狼に関する情報を調べた。


「人狼は非常に身体能力が高い反面、満月の夜には理性を失い暴走する危険性がある……」


 サナは外に出て、攻撃魔法を放ち、もし彼が暴走したとしても、自分なら問題なく対処できることを確認した。


「うん。問題ない、私なら」



挿絵(By みてみん)


 翌朝、人狼の男の子が目を覚ました。サナの強力な魔法のおかげですっかり回復したその子は、肌つやは良くなり、さらさらの黒髪にもつやが出ていた。


「ここどこ……?」


 彼はしばらくベッドから部屋を見回した。すると、いきなりドアがガチャッと開き、人が入ってきた。


「おはよう。よかった無事そうで。昨日、雪の中で君が倒れていたのを見つけて、救護したんだよ」


 彼は部屋に入ってきたサナに気づくと、目を丸くして驚いた。サナは彼に続けて聞いた。


「君のお名前は? お家はどこ? 親は? どうしてあそこに倒れていたの?」


 しばらく間を空けて、男の子が答えた。


「な……名前忘れちゃった」


「……何歳かは分かる? 誕生日とかは?」

「えっと、わかんない」

「まじで?」


 彼は自分の素性を全て忘れてしまっていた。


「僕、たぶん本当は死ぬはずだったの。助けてきてくれてありがとう」


 男の子は涙を流して話を続けた。


「なんかね、人狼は危なくて、沢山いると危ないから、成長したらもっと危なくて、村に人狼が多すぎると危なくて」


「危ない連呼しすぎでしょ」


 男の子は続けて話をした。


「えっと、子供のうちにどうにかしろって言われて、お母さんに、ここに連れてこられたの」


「それは覚えてるんだ……」


 サナは口減らしだと察した。人狼は、街ごとに抱え込める人数が決まっており、まれにこういうことが起きてしまうらしい。

 返す場所が無いなら、この子はどうしよう?と、サナは困った。ちょうど今日は、街で暮らす祖母が屋敷にやって来て、サナの様子を見に来る日だった。



 彼女がここで一人暮らしを始める前は、祖母と一緒にこの屋敷に住んでいた。元々この屋敷には、祖母とサナの母親が二人で住んでいたらしい。しかし、サナの母親は誰の子かも分からぬ子供を妊娠し、その子を産んだときに亡くなってしまった。その子供であるサナは祖母に育てられたが、彼女が想定よりもずっと早く自立したことで、祖母は生活の便利な街へ引っ越した。


「あんたの力はどう見ても異質。誰にその力が狙われるか分からない。本当に、人付き合いには気をつけなさいね」


 祖母はサナにそう忠告し、彼女の強すぎる力を気にかけていた。


「おばあちゃん、おかえり」


 サナは人狼の男の子を助けたが、その後どうすれば良いか分からないと祖母に相談した。


「人狼⁉ 危ないからさっさと帰しなさい」


「いや、だから帰る場所が無いんだって。だからどうすれば良いのか聞いてるの。……あとあの子弱っているし、まだ子供だし、何かあっても魔法で対処するから別に危なくないよ」


「あんたが大丈夫でも私は大丈夫じゃないんだよ! あんたほど魔法の才能のない老いぼれじゃ、暴走した人狼には負けるんだよ」


 祖母は、人狼の男の子を恐れているようだった。男の子は自分の名前を忘れていたため、


「じゃあ、雪の中にいたから、君の名前はユキね」


 と、サナがとても雑に名付けた。その際ユキは「えっ、そんな適当な……」という目でサナを見たが、サナはそれに全く気づいていない。




「ぼく危ないことしないよ! お手伝いするから置いていかないで!」


 ユキは必死に訴えかけた。サナの祖母は人狼嫌いのはずだったが、幼い子供が必死な様子を見ると心が痛んだのか、こう提案した。


「じゃあ、サナがきちんと面倒を見られるなら、隷属紋を押した上でなら飼っていいわよ」


 サナは困惑し、祖母の発言に少し引いた。


「え、飼うの……? というか、それって家畜とかにつけるヤツだよね」


 隷属紋は、魔法使いが相手の胸元に特殊な紋章を付けることで、相手を隷属させることの出来る上級魔法だ。隷属紋を押された者は、主人はもちろんその仲間にも手出しが出来なくなるため、魔獣などの危険な種族を飼う上では便利な魔法である。


 サナは、隷属紋を格下の相手、もしくは同意した相手に無条件に施すことが出来た。ユキはとにかく必死だったのか、「それでいいよ!」と祖母の提案に同意した。


 サナ自身は人狼に負ける気など全くしなかったが、万が一、祖母や他の人間を襲ったりしてしまったときなどの責任を考え、ユキに隷属紋を入れることを承諾した。


 そしてサナは、その場の勢いでユキを養育することを決断したのだった。


「……まぁ、人狼一匹飼うくらい出来るか。私って割と強いしね!」




 ユキの胸元に隷属紋を入れたとき、やはり少し痛そうにしていた。


「あ、ごめんね。しばらくは痛むかも」


「うん……。ねぇ、もうこれしたから、サナさんはずっと一緒にいてくれる?」



「……⁉」



 そのとき、サナの心に衝撃が走った。涙目でそう尋ねてくるユキが、可哀想で、どうしようも無く可愛く感じてしまったのだ。彼女は思わず自らの胸元を押さえ込んだ。


「うん。わかった。ずっと一緒にいよう」


 その言葉を聞いたユキは、やっと自分の居場所を見つけることが出来た安心感で大泣きしてしまった。


「あ、ごめんね! 痛かったよね……もう絶対ユキに痛いことはしないからね!」


 ユキはなかなか泣き止まなかった。サナは、そんなユキの様子に焦りつつも、これはしばらく泣き止まない感じだなと思い、ユキの頭を撫でて落ち着かせた。


「それとね、さん付けしなくていいから! サナって呼んで。もしくは、お姉ちゃんでもいいよ!」


「うぅ……それならサナ、かな……」

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