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第22話 因縁

 この町は、異界に近い町。雑多なエネルギーが渦巻く。

 時に牙を向き、時に共存する、異界の存在たち。企みを隠すには、格好の場所。隠れた者を探るのは、困難だった。それは、高い能力を持つ者たちであっても――。




 それは、勇一がこの町に赴任する何か月か前のこと。

 幽玄と紫月(しづき)は、銀硝空間(ぎんしょうくうかん)にいた。


 がああああ……!


 見上げるほどの巨大な、ムカデのような形をした化け物が吠える。大きさや吠えること以外、大きくムカデと違う点といえば、目、鼻、口が人間にそっくりで、たくさんある脚の先も、人の手そっくりの形状をしているというところだった。


「幽玄!」


 幽玄が、傘を構え化け物に向かって宙を駆ける。幽玄を掴もうと広げた化け物の「手」の間をすり抜けて、幽玄は飛ぶ。

 紫月は人差し指を口元に添え、それから大きく腕を振り下ろし、呪文のようなものを唱えた。


「風よ、吹け、そして、封じよ! 人の血肉を喰らう悪しき存在を……!」


 つむじ風が渦を巻く。つむじ風は勢いのまま突き進み、ムカデの化け物の胴体に激突した。つむじ風が巻き込んだのは化け物の全身ではなく、下半分くらいの範囲だったが、ムカデの化け物の動きが、絡めとられたように鈍る。化け物の体に当たってもなお、風は胴体を巻き込むように渦を描き続けている。


「消滅せよ……!」


 幽玄は化け物の手をかいくぐり、化け物の顎の下から突き上げるように傘を刺した。

 紫月が、呪文を唱える。


「連なりし悪しき力よ、大いなる自然のもとへ……!」


 ムカデの化け物の全身から、黒いもやが噴き出す。たくさんの、もや。うねりながら広がり、やがて散っていく。これは、鏡家の行う封印ではないもう一つの方法、「エネルギーを散らして自然に還す」という退治法だった。

 二つの退治法の使い分けは、化け物の性質の違いというものもあるが、主に化け物の強さによって、なされていた。

 封印が、とても強い化け物に対する手法であり、それ以外は自然に還す手法だった。

 見た目が恐ろしく、いかにも強そうだったが、この化け物は弱い部類のものだった。術者の強さと経験値が、その判断を可能にさせた。幽玄も紫月――紫月の本体は小学生のゆかりであり、圧倒的に経験値は少ないが、生まれつきの強さ、すなわち術師としての豊かな才能があった――も、見た目に惑わされることはなかった。

 

「紫月様、これは……」


 ひらり、と化け物の頭に当たる部分から、小さな和紙が降ってきていた。幽玄は、それを手にする。


『百足鬼』


 和紙には、不気味な言葉が筆でしたためられていた。


「もしかして、これは――」


 幽玄は、紫月の答えを待つ。


「人為的に造られた、化け物――!」


 術、だった。術師による、なんらかの術。


「この化け物はあきらかに、銀硝空間からこちらの世界に出ようとしていた……! いったい、なんのために……!」


「異界からの召喚ではなく、化け物の創造……」


 幽玄から、和紙を受け取る。紫月は、手にしたときの感覚を口にした。


「私の誕生に、似てる。つまり、化身を創り出す手法に似てる。術師本人のエネルギーの他に、なんらかの、多くのエネルギーが必要だと思うけど……」


 化身が、自分自身の誕生について語るのは奇妙ではあるが、紫月は自分について客観的に深く理解していた。


「術師が……、なんのために――」


 化け物の召喚より、化け物の創造のほうが難しいが、意のままに操れるという大きな利点があるから、ということはなんとなく理解できた。しかし化け物の創造の背後に、いったいどのような人物、どのような企みがあるのか――。


『予言のときは、近い』


 不意に聞こえてきた、傘の声。幽玄も、紫月も、傘の言葉を受け取っていた。


「れい様の、予言――!」


 幽玄が、驚きつつも傘に確認する。


『背後にいる術師たち。そして、その上位にいる者。星の予言は、それら邪悪な存在を暗示しているのだ』


 いよいよ来たか――。


 幽玄と紫月は、運命のときを、静かに覚悟した。




 術師との遭遇は、それから数日後のことだった。


「全然、鏡家、わかんないんですけどおー!」


 唐突に背後から、ちょっと舌たらずな女の子の声がした。

 幽玄と紫月は、ぎょっとした。

 

 ここは、銀硝空間なのに――!


 目に映るのは、どう見てもかわいらしい、長い巻き毛の女の子。


 化身とは、違う……。これが、術師……!? 


 幽玄も紫月も、ここは銀硝空間ではあるが、化身ではない、感覚的にそのように判断していた。

 女の子は、驚くふたりを意に介さず、しゃべり続けた。


「私、あなたたちがムカデちゃん殺しちゃったとき、遠くから見てたの。だからわかっちゃった。あなたが、あの(・・)幽玄。それから、あなたが紫月。あなたたちのお名前とお顔」


 女の子のおしゃべりは続く。幽玄と紫月の反応など気にしていない様子。


「んで、鏡家のことは調べて知ってるからあー。化身の紫月は、現代の鏡家の長女(・・・・・・・・)、つまり小学生ってことよね」


 知られている……!


 驚きのあまり、言葉を失ってしまった。


「でもねえ、強ーい術がかかってて、苗字しか見えなくて、肝心のお名前もお屋敷も、ぼやけてて見えないしわからないし、お屋敷の場所にいたっては、ぐるぐる同じ道歩かされて、全然辿り着けないのー」


 ひどいよねえ、ある程度のことはわかるのに、と女の子はご機嫌斜めといった調子で、自分の腰に両手を当てていた。


「あ。これ、一応せんせんふこくね。私たち、まだあまり動けないから、この程度にしといてあげる!」


 女の子は、くるり、と背を向けた。しかし、なにか言い足りないのか、肩越しに幽玄と紫月へ視線を投げかける。


「そっちの情報、こっちが知りすぎよね。私いい子だから、びょうどうにしてあげるね。こっちは私の他に、兄上とお兄様――、それから――、えっと、まあ秘密、ね!」


 訊いてもいないのに、ぺらぺらおしゃべりし、それから忽然と――。


「待って……!」


 銀硝空間から消えた。

 のちに、勇一の報告で彼女は架夜子(かやこ)という名であることがわかるわけだが――。

 余談だが、「勝手をするな」、この命令は架夜子の自由過ぎる言動からきていた。




 ろうそくの明かりだけが灯る土蔵の中、幽玄は口を開いた。


「私のことを前々から知っていた様子。『現代の鏡家の長女』、そのように語ったことから、鏡家のことを昔から知っている者たち――、つまり、この町に昔からの因縁を持つ者、そのような予想から、そう思われたのですか」


 幽玄は、ゆかりの考えを肯定するわけでもなく、あえて尋ねる。

 ゆかりはうなずき、それから幽玄の言葉を継ぐよう付け足した。


「これは私の感覚なんだけど――。れい様の予言。それが今であること。それは、れい様の時代と今の時代が繋がっていることを意味しているような気がするの。たくさんのご先祖様がいらしたのに、予言について語ったのは、れい様だけだった」


 時代の中の点と点。他のご先祖は、あえて言及しなかったのではないか。そんな気がしていた。

 ろうそくの光が、銀の髪に彩りを施す。幽玄は、ゆかりの言葉にうなずいていた。


「傘の生まれた時代。予言。過去を知る者。運命のとき――。そしてあの場にいた私自身が今生きている。断言はできないかもしれませんが、やはり忘れられないあの一件と、因縁があるような気がします――」


 異様な一族。鏡家を知る謎の術師三きょうだい。幽玄とゆかりは、あの一族ときょうだいたちの繋がりを感じていた――。

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