1話
俺は守れなかった。何一つ、守れなかったんだ。
目を開ければ地獄と化した村。視界にうつるのは、ごうごうと燃え盛る炎と人々の亡骸のみ。
あんなに見慣れた家も、母さんが丁寧に手入れしていた庭も、ニ一ナやロイドと遊んだ広場も。もう見ることさえ叶わない。
そして、母さんやニ一ナ達とももう二度と……
◆
魔王軍の襲撃によって俺の住んでいた村は壊滅した。
生き残りは俺一人。母さんに頼まれ森に薬草を取りに出かけていた俺は魔王軍の兵士達に見つからず、難をのがれた。
家に帰る頃には全てが終わっていた。
しばらくその場に立ち尽くしていたら、後からやって来た王国兵に救助された。その時、幸運だったなと言われた記憶が朧気にある。
本当にそうだろうか?
あの日あの場所で、みんなと共に逝けたらどんなに幸せだっただろうか。
あれから14年たった。当時6才だった俺も今では立派な大人だ。
そして、あの日得た苦しみは…今でも俺を蝕み続ける。
「ロッド、休憩は終わりだ。持ち場に戻れ。」
隊長のハ一キンスだ。
「了解」
俺は今、魔王討伐軍の兵士をしている。自ら志願したんだ。
何一つ守れなかった罪滅ぼしからか、魔王軍への復讐からか…。
「みな、きけえぇぇーッ‼」
突然、周囲に響き渡るような大声がとどろいた。
きたか…
「いよいよ我々はこの日を迎えた!目の前にあるのは魔王城!亡き同胞達の敵討ちの時だ‼」
「「「うおおぉぉー一一ッ‼」」」
「我々には勇者ライセル・ホ一リンク様がついている‼恐れることはない!我々は必ず勝つ‼」
勇者……代々受け継がれる人類の希望。度々復活する魔王に幾度となく立ち向かってきた最強の戦士
聖剣レイボルトを担いし選ばれし者。
俺とは、天と地ほどの差があるな
ちなみにホ一リンクの名は歴代受け継がれる襲名らしい。
「全軍、突撃!!!」
考えごとはここまでだ。戦闘に集中しよう。
これが最後の戦い…。皆、もうすぐ会えるよ…