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第7話 どれがお好み?〜苺パフェ

空が(あかね)色に染まり始める夕刻。仕事終わりのOLやサラリーマンが少しずつ訪れ始める頃。そんな中、高校生と思われる男の子が来店した。部活帰りなのだろう。通学鞄(つうがくかばん)と一緒にテニスのラケットを抱えている。男の子は少し周りを確認するように辺りを見回すと店の奥の席に一直線に進んでいった。周りが大人ばかりで緊張しているようだ。

「いらっしゃいませ!どうぞ!」

モードが笑顔でお水とメニューをテーブルに置く。

男の子は軽くお辞儀(じぎ)をしてメニューを開くと、一通りメニューを見てからモードに声を掛けた。

「苺パフェをお願いします。」

「はい、苺パフェね。ちょっと待っててな。」

そう言うとモードはカウンターに戻ってきた。

「苺パフェ1つよろしく。」

ブレンドさんにオーダーを伝えると何気にさっきの男の子を見る。男の子はこういう場に慣れていないのか、あっちを見たりこっちを見たりとソワソワしている。

「なんかえらく緊張してるみたいだな。」

隣にいた小倉さんもその様子を見ながら苦笑いをした。

可哀想(かわいそう)だから早く持ってってやれよ。」

そう言うと、出来上がった苺パフェをモードに差し出した。


パフェグラスに苺ジャムとコーンフレークを入れその上から生クリームでふたをする。それをもう一度繰り返し、グラスの1番上に繰り抜いたバニラアイスをのせる。その周りに生クリームを絞っていき、スライスした苺を何枚も重ねて飾り付けしていく。完成した苺パフェは食べるのがもったいないくらいの気高さを感じさせていた。

「お待たせしました!苺パフェです!」

モードが苺パフェを差し出すと少年は興味深そうにそれを観察した後にスマホを取り出した。何枚か苺パフェの写真を撮り終わるとやっとそれを口に運んだ。

「あ、美味しい…これがいいかな…。」

小声で何かを呟きながら苺パフェを完食した少年は食べ終わると逃げるようにレジまで行くと会計を済ませて出て行ったのだった。

次の日。昨日と同じ時間に少年が来店した。この日はプリンアラモードを注文すると写真を撮り、食べ終わると(そく)店を出て行く。また次の日も今度はパンケーキを注文した。少年が帰ると小倉さんが面白そうに笑って言った。

「おい、明日は小倉トースト頼むぞ、あいつ。間違いない。」

自信満々に小倉さんが宣言した次の日。再び少年が店を訪れた。

「いらっしゃい。メニューはもう決まってるのか?」

今日は自分が少年にお水とメニューを持っていくと言った小倉さんが少年に(たず)ねる。

「あ、は、はい。えーっと苺パフェを…。」

「は?小倉トーストじゃないのかよ。」

「え?は、はい。すみません!」

カウンターでその様子を見ていたモードたちは大笑いをしている。小倉さんは体裁(ていさい)悪そうに頭を()くと少年に再び話しかけた。

「苺パフェが好きなのか?」

「え、いえ、違うんです。実は…。」

少年は(あわ)てたように首を振ると話を続けた_。


杉野孝介17歳。高校2年生。テニス部で副部長をしている。実は孝介には同じテニス部に好きな子がいる。1年下の後輩の萌絵(もえ)だ。萌絵がスイーツ好きだと他の後輩から聞いた孝介は美味しいスイーツを探していた。その時にこの喫茶店のことを知り、萌絵が気に入ってくれるスイーツのリサーチをすることにしたのだった。苺パフェにプリンアラモードにパンケーキ…。どれも魅力的だが萌絵のイメージに1番合っているのは苺パフェかなと思い、もう一度食べに来たという。

「今度の日曜日に彼女と遊びに行く約束をしたんです。その時ここに連れて来たくて。」

そう言うと孝介は恥ずかしそうに下を向いた。

「ふーん。そういうことなら仕方ないな。」

孝介の話を聞いて小倉さんが優しく微笑んだ。そして私の方を向いて私に声を掛けた。

(ゆず)、あれ持ってきてくれ。クッキー。」

「あ、はーい!」

私は言われた通りにフォーチュンクッキーを小倉さんに持って行った。小倉さんは私からフォーチュンクッキーを受け取ると孝介にそれを渡した。

「これは願いが叶うフォーチュンクッキーだ。持ってけ。」

「えっ?これが噂のクッキーですか?」

フォーチュンクッキーの袋を興味深そうに眺めていた孝介だが何かを決意するように顔を上げた。

「これは自分で買わせてください!」

孝介の真っ直ぐで固い決意に小倉さんは頷いた。

「頑張れよ。」

それだけ言うと小倉さんはカウンターの方へ戻っていった。


「お待たせ〜。苺パフェだよ〜。どうぞ!」

日曜日。パフェくんが孝介と萌絵のテーブルに苺パフェを運んでいく。

「うわぁ可愛い!」

萌絵の嬉しそうな声が聞こえてくる。そんな萌絵を見て孝介も笑顔だ。そんな微笑ましい2人をカウンターからみんな笑顔で(なが)めている。

「孝介くん頑張ってほしいですよね、小倉さん?」

パンくんの言葉に少し笑顔になっているのを隠すように新聞を読み続ける小倉さんなのだった…。












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