第4話 あの日の約束〜プリンアラモード
『喫茶こもれび』改造計画から約2週間が経った。
この間私たちはお店の改装やSNSへの拡散、お土産用のフォーチュンクッキーの製作など忙しく動き回っていた。
仕事の役割分担も決まった。まずキッチンがブレンドさんと小倉さんとラテさん。フロアがモードとソーダさんとパフェくん。レジとお土産販売がパンくんと私だ。
SNSの拡散もあり、新装開店の初日は話題を聞きつけて来てくれたお客さんが大勢押し寄せた。念のため30袋用意したフォーチュンクッキーもすぐに売り切れてしまった。
パフェくんによるとオーダーしたスイーツの写真をSNSに載せてくれているお客さんがたくさんいるらしい。
(『喫茶こもれび』行って来ました〜!スイーツも美味しかったし、お店のお兄さんたちがイケメン揃いでした♡)
(ここのスイーツめっちゃ美味しくて幸せでした!)
(今度来た時は違うスイーツも食べてみたい。)
(フォーチュンクッキーのおみくじ面白いw)
お客さんがたくさんのコメントを残してくれて胸が熱くなる。まだまだ慣れないことばかりだけど明日からも頑張ろう!まだ残る熱気と興奮の中でそう誓うのだった…。
「いらっしゃいませ!」
爽やかな朝を迎えた開店直後、1人の女性が来店した。
一通り店内を見渡すと奥の窓際の席に腰掛けた。
被っていた帽子を取り荷物を横の椅子に置くとしばらく窓の外を眺めていた。
モードがお水とメニューを持ってオーダーを聞きにいく。
「いらっしゃいませ。どうぞ。」
「ありがとうございます。あ、メニューはもう決めてるんです。調べてきたから。プリンアラモードをお願いします。」
「おっ、お姉さんわかってるねぇ。ここのプリンアラモードは絶品だぜ!ちょっと待っててくれよ。」
モードがニコニコしながらカウンターに戻ってきた。
「プリンアラモード1つな!」
「ニヤニヤしてんじゃねーよ!はいよ。プリンアラモードな。」
ブレンドさんは冷蔵庫の中からよく冷えたプリンを取り出し平たい形のガラスの入れ物の真ん中にプリンをのせる。
それから冷凍庫に置いてあったバニラアイスをくり抜いて盛り付けた。それを横にいる小倉さんに渡すと小倉さんはプリンとバニラアイスの周りに生クリームを綺麗に絞っていく。
仕上げのフルーツとクッキーを飾るのはラテさんだ。飾り切りにした林檎とみずみずしい桃のスライス。プリンの横にさくらんぼを1つ置くと最後にハート型の可愛いクッキーをのせて完成!出来上がったプリンアラモードはキラキラ輝いている。
「お待たせしました〜!プリンアラモードです。」
モードがテーブルにプリンアラモードを置くと窓の外を見つめていた女性がそれを確認し嬉しそうに微笑んだ。
「これ!この昔ながらのプリンが食べたかったんです。」
スイーツのレシピはおばあちゃんが作る通りに作っているので確かに昔ながらのプリンだ。
「昔ながらのプリンがそんなに好きなのか?」
「実は昔、仲の良かった男の子と一緒にデパートでプリンアラモードを食べたんです。私もその子も昔はこの辺りに住んでいて…。」
昔を懐かしむようにプリンアラモードを見つめた女性は静かに語り出した。
上坂みゆき28歳。20年前この近くの集合住宅で暮らしていた。小学校2年生。隣の部屋の清水裕樹は同級生だ。
みゆきと裕樹の家族は仲が良く、家族ぐるみでよく出掛けていた。ある日みんなでデパートに買い物に行くことになりその際入ったお店で初めてプリンアラモードを注文した。卵をふんだんに使った少し硬めで濃厚な味わいのプリンはいつまでも幼いみゆきの記憶に残ったのだった。
それからしばらく月日は過ぎ、学校帰りに2人で森の近くの丘の上に行った時だった。
「僕もうすぐ引っ越すんだぁ。お父さんが外国に転勤になるんだって。」
裕樹が下を向きながら小さい声で話し出した。
「え、、、。」
突然の話にびっくりして何も言えない。
そんなみゆきを見ているのか見ていないのか裕樹が話を続ける。
「みゆきちゃんや学校の友達と別れたくないよ。」
今にも泣き出しそうな裕樹を見ながら同じく泣きそうになる自分を必死に抑えて言葉を吐き出す。
「20年後。」
「え?」
「20年後にさ、またここで会おうよ!約束しよ!」
急な約束に驚いている裕樹の小指に無理やり自分の小指を絡めて指切りをした_。
「今日が約束した日なんです。」
みゆきはそう言うと窓の外の先にある丘の上を見つめた。
「きっとそいつも覚えてるんじゃないか?」
モードが同じ方向を見ながら優しく呟いた。
みゆきはプリンアラモードを綺麗に食べ終わると笑顔で席から立ち上がった。
「ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
そう言ってモードにお辞儀をするとレジに向かった。
レジの横を通った時、フォーチュンクッキーが置いてあるショーケースが目に留まる。興味深そうにフォーチュンクッキーを見つめるみゆきにパンくんが話しかける。
「これは願いが叶うフォーチュンクッキーなんですよ!
まぁ叶う願いも大なり小なり様々ですけど!」
「そうなんですね!今の私にピッタリかも。1袋いただきます。」
パンくんから袋を受け取ったみゆきは嬉しそうにレジで会計を済ませた。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしています。」
軽くお辞儀をして店を出て行くみゆきをパンくんと2人で見送っているとモードが近づいてきた。
「あのお姉さんの願い、叶うといいな。」
穏やかな陽射しが差し込む緑の森の中に小さく消えていく後ろ姿を私たち3人はいつまでもいつまでも見送っていたのだった…。