第1話 スイーツの妖精?!現る
おばあちゃんの喫茶店を手伝うと決めてからの私の行動力は物凄かったと思う。
まず会社に退職届を提出し、溜まっていた有給休暇を利用して退職日まで休暇扱いにする。事務の引き継ぎはほとんど美紀に任せることにした。
私の話を聞いて美紀は快く私を送り出してくれた。
本当にいい同僚を持って幸せだ。
お父さんとお母さんは初めは無理なことはやめろと言っていたけど、私の熱意に負けたらしい。
「やるからには中途半端でやめるなよ。」
普段余り話さないお父さんがボソッと言った。
「ありがとうお父さん!頑張るよ!」
やる気と不安の中にいる時は少しでも背中を押してくれる声がありがたかった。
明日はいよいよ現地に赴く。
緊張するけどワクワクしている自分もいる。
高揚する気持ちを抑えてベットに入った…。
「ここに来るの何年振りだろ。」
木々に囲まれた道を少し入ったところにそれは建っていた。
『喫茶こもれび』という看板が入り口のドアの上に掛かっているがもうかなり色褪せている。
久しぶりに見るその光景に後退りそうになるが覚悟を決めてドアを開けた。
「お邪魔しま〜す。」
誰もいないと分かっているが小声で挨拶をして中に入る。
店内は閉め切ってあるので暗く、森の中の静けさもあって少し不気味だ。
しばらく辺りを見渡して、これからどうやっていこうと考えこんでしまった。
しばらくしてハッと現実に意識が戻った時だった。
ガタン!
キッチンの奥の方から音が鳴った。
「えっ?」
思わず声が出てしまった時と同時だった。
「やべっ。」
「ちょ、声出しちゃだめでしょ!」
2人と思われる男の人の声がした。
(何!何!人がいる?!?!)
(どうしよう!)
パニックになり叫びそうになったその時。
「あああ、ごめんなさい!!!」
2人のうちの1人が焦った感じで謝ってくる。
何が何だかわからない私の前に親指くらい小さな男の子が現れた。
「?!?!」
「あーーー怖がらないでください!すみません。僕たち怪しい者ではないんです!いや、怪しく見えるかもですけど。」
焦りながら説明している小さい男の子をポカンと見つめているともう1人の声が聞こえてきた。
「バレちゃったならしょうがないじゃん。」
「しょうがない、じゃないよ!モードのせいだからね!」
もう1人の男の人はモードという名前らしい。
「驚かしてごめんな。」
そう言うとモードは私の真正面に現れた。
「あ、あなたたちは何なの?」
動揺している私を少し面白がるようにモードが答える。
「俺たち?俺たちはほら、あれだ、そう、スイーツの妖精だよ。」
「スイーツの、妖精、?!」
突拍子もない答えが返ってきて頭が余計に混乱する。
「モードってば何言ってんの?」
「今の世の中、物が人間になるとか普通なんだろ?だったらこれくらい大丈夫だろ。」
「お姉さんが余計混乱しちゃうでしょ。」
そういって男の子は私のほうを向いてまた謝った。
「ほんとごめんなさい。実は僕たち、森の精霊なんです。
ここの喫茶店のオーナーさんが倒れたって知ってみんなで見に来てみたんですけどまさか人が来るとは思わなくて。」
顔をほんのり赤くして下を向きながら男の子が話を続ける。私はそれを信じられない気持ちで見つめるしかなかった…。