プロローグ
おばあちゃんが倒れた。
仕事中の私に連絡が届いたのはちょうど時計の針が正午を指す頃だった。
お母さんの慌てた声が響く。
「もしもし柚?おばあちゃんが倒れたのよ。お母さん病院に行くから今日夕飯自分で用意してね。」
「大丈夫なの?おばあちゃん!」
「意識ははっきりしてるそうだから心配ないって。」
「何かあったら連絡してよ!」
「うん、じゃあよろしくね。」
そう言ってお母さんは電話を切った。
南田柚25歳。小さな自動車販売店で事務の仕事をしている。
入社3年目でやっと仕事にも慣れてきた頃だ。
「おばあちゃん倒れたの?大丈夫?」
同期の事務員の美紀が心配そうに覗き込んできた。
「あー意識ははっきりしてるから大丈夫らしいんだ。」
「そっかー!良かった!」
安心している美紀にありがとね、とお礼をいい仕事に取り掛かる。
おばあちゃんの容態も心配だが、忙しい仕事に追われて気を紛らわせながらその日の業務を終えたのであった。
おばあちゃんが倒れてから3日後の土曜日。
私は入院先の病院へと向かっていた。
地元では1番大きな病院だ。
コンコン。
軽くノックをして中に入る。
「こんにちは〜。」
「あら、柚じゃないの。来てくれたのねぇ。」
「おばあちゃん!大丈夫?心配したんだよ!」
「ごめんねぇ。なんかフラフラ眩暈がしちゃってさぁ。年のせいだね。あははは。」
そう言っておばあちゃんは明るく笑った。
「そういえば、おばあちゃんお店の方は大丈夫なの?」
おばあちゃんは町の外れの森の入り口で喫茶店を営んでいる。今は亡きおじいちゃん、南田創太と2人で30年前に始めたお店だ。今はおばあちゃん1人で地元の人達と交流しながらお店を続けている。
「そうなのよねぇ。お店しばらく閉めなきゃいけないから。みんなに迷惑かけちゃうわねぇ。」
おばあちゃんにとっても生きがいになっているのだろう。
しばらく店を閉めなくてはいけない事は辛い決断だと思う。
そんなおばあちゃんの姿を見て私は思わず叫んだ。
「私がやるから!」
「え?柚が?」
「うん。おばあちゃんのようにはいかないけど、私なりに色々考えてみるから。やってみたい。」
簡単なことではないと思う。
でもその時の私は私がやらなければ!という使命感に囚われていた。
それが『喫茶こもれび』を手伝うことになる第一歩だった…。