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第83話 飛箒祭

 飛箒祭のスタート地点になっている円形闘技場。参加者のわたしたちは箒の最終調整を終えて、スタートの時を今か今かと待ちわびていた。


「こ、こんなに大勢のお客さんに見られながら飛ぶなんて緊張しちゃいますよぅ……っ」


 ニーナちゃんは観覧席に詰めかけた大勢の人たちを見渡して、ぷるぷると小さくなって震えていた。


 そこまで怯えなくていいと思うけど、まあ仕方がないのかなぁ。


 観覧席に居るのは王国各地から集まった王立魔法学園の卒業生たち。高名な魔法使いや貴族などの来賓の方々だ。


 そして、観覧席の中央にある貴賓席にはシユティ陛下とお母様の姿もある。


 ニーナちゃんほどじゃないけど、わたしもちょっぴり緊張していた。


「毎年こんなにも人が集まる催しなんですか?」


 ミナリーの質問に、近くに居たロザリィ様が「いいえ」と首を振る。


「昨年はわたくしが陛下の名代として出席しましたけれど、観覧席は空席だらけでしたわよ? 城下は毎年お祭り騒ぎですけれど、ここにはそれほど人が集まるイメージはありませんわね」


「そ、それじゃあどうしてこんなにお客さんが居るんでしょう……?」


「今年はいろんな意味で注目度が高いのよ」


 そう言いながらアリシアがこっちに歩み寄ってくる。


「今年はまずロザリィが参加するわけでしょ。王族が飛箒祭に出るなんてシユティ様以来のことだから注目されて当然よ」


「わ、わたくしのせいでしたの!?」


 そういえばわたくし王女でしたわ……、とロザリィさまが口元を手で覆っていた。


 学園では王族であっても一生徒として扱われるし、最近はロザリィ様も飛箒祭に集中していたからそのことがすっかり頭から抜け落ちてたみたい。


「それから、今年は終戦25周年記念行事の一環として帝国からお客様も来てるわ。今はまだ姿が見えないみたいだけど」


 シユティ様の隣がちょうど空席になっていた。


 たぶんそこが帝国からのお客様の席なんだと思う。


 シユティ様と並んで座るってことは、かなり位の高い人が来てるみたい。


「帝国からお客様が来るのに空席だらけじゃ格好がつかないでしょ。だから母様が色々と根回しして動員したらしいわ」


「そ、そんな裏事情があったのですわね……」


 生徒会長として飛箒祭に関わっているアリシアだからこそわかる裏事情だった。


 だけど……。


 うーん、気のせいかな。気のせいだったらいいけど、それだけじゃない気がする。わずかに感じる視線。たぶん、隣に居るミナリーが注目を受けている。


 スークスの神童。


 その噂はロザリィ様どころかニーナちゃんが知っているほどに、王国に広がっている。だからこの場にミナリーがスークスの神童だと気づいている人が居ても不思議じゃない。


 ……むぅ。


「師匠、どうして覆いかぶさるように抱き着いてくるんですか。暑苦しいです」


「レース前にミナリー成分を吸収しておこうかなぁーって」


「変な成分を吸い取らないでください」


 ミナリーは口ではそう言いつつ、満更じゃなさそうな顔で溜息を吐く。


 そんなわたしたちのやり取りを見てロザリィさまとニーナちゃんは苦笑していた。


 そしてアリシアは、どこか困ったような顔をしていた。


「姉さま、ミナリーが好きなのはいいけど時と場所は考えてくれないと困るわ。もうレース開始直前よ?」


「あ、うん。ごめんごめん」


 わたしはミナリーとアリシアに謝りながらミナリーから離れる。


 ミナリーに注目している視線、ちょっとは減ったかな?


 それにしてもアリシア、どうしちゃったんだろう……?


「ミナリー」


「何ですか、アリシア」


「…………ううん、何でもないわ。良い勝負にしましょう」


「はい。もちろんです」


 ミナリーとアリシアは握手を交わして、並んで箒に跨る。


 いよいよスタート直前。


 シユティ様が大きな旗を振り上げると、楽器隊のファンファーレが会場を包み込んだ。


 音楽が鳴りやみ、シユティ様が旗を振り下ろしたと同時。


 わたしたちは一斉に大空へと舞い上がる。


「行きます」


 ミナリーはさっそく、魔力を箒へと流し込んでトップスピードで飛び上がろうとした。


 だけど、


「そう思い通りに行くかしら?」


「――っ!」


 ミナリーの行く先に割り込むように別の参加者が飛行する。


 それは一人だけじゃない。


 少なくとも十人以上がミナリーの行く手を遮るように飛行して、さらには上下左右、後方にも参加者が飛んでいる。


 ミナリーを中心に集団が形成されて、ミナリーはその中でまったく身動きが取れなくなってしまっていた。


「こ、これは……?」


「毎日あんなバカみたいなスピードで飛び回ってたんだもの。警戒されて当然よ」


「アリシアが仕組んだんですか……?」


「まさか。あたしだって身動きが取れないわ」


 ミナリーの隣で同時に飛び立ったアリシアも、集団の中に囚われている。


 だけどアリシアの表情に焦りの色は一つもなかった。


「考えましたわね、アリシア……」


 集団の後方、第二集団とも言える位置でわたしとニーナちゃんの横を飛びながらロザリィさまが呟く。


「練習飛行で目立っていたミナリーと、前年度優勝者であるアリシアがすぐ隣でスタートしたんですもの。優勝を狙う他の参加者たちは、当然無視できませんわ」


「そっか、二人を前に行かせないためにマークせざるを得ないから……」


 必然的に、ミナリーとアリシアを中心にした一つの集団が形成される。


 アリシアは仕組んだわけじゃない。


 ミナリーの隣でスタートすることでこうなるように仕向けたんだ。


 自然に会話に混ざって来たから気づかなかったけど、もうあの時点でミナリーとアリシアの勝負は始まってたんだね。


「く……っ」


「そう焦らなくたっていいでしょ、ミナリー? なんたってレースはまだ、始まったばかりなんだから」


しばらくお休みします(・∀・)ノ


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[良い点] 続きをとても楽しみにしています
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