第64話 振り返り
◇◇◇
相変わらずだなぁ、とニーナちゃんに悪戯をするシユティ様を見て思わず苦笑してしまった。ロザリィ様のお母様、シユティ陛下はとてもお茶目な人柄で、わたしも子供の頃はよくからかわれていた。もちろん嫌なことはされなかったけどね。
むしろ、自分の子供のように可愛がってくれていたと思う。そんなシユティ様がわたしは大好きで、シユティ様の昔と変わらない様子が見られて嬉しかった。アリシアとロザリィ様はうんざりした様子だし、お母様はもう達観したかのように遠くを見ているけど……。
「お久しぶりです、シユティ様」
わたしはミナリーより一歩前に出て、シユティ様に挨拶をする。
「5年ぶりですね、アリス。随分と長い家出だったようですけれど、息災で何よりです。心配していたのですよ?」
「ごめんなさい。少し母と喧嘩してしまいまして」
「まあ! それならわたくしに相談すればよかったのに。いつでも養子に迎えて王位継承権を分け与えましたよ?」
「い、いらないです……」
そんな軽いノリで王位継承権なんて渡されても困っちゃう。
「冗談ですよ、アリス。貴女の選択が正しかったことは、今の貴女を見ればよくわかります。良い出会いに恵まれたようですね」
「……はい。大切な弟子に出会いました」
シユティ様はミナリーを一瞥してニッコリと微笑む。その笑みは悪戯を企んでいる時の笑みに似ていて、けれどそれだけじゃないと今の私にはわかる。
「お母様、そろそろ本題に入って頂きたいのですけれど」
「聞き捨てなりませんね、ロザリィ」
微笑み一転、シユティ様はロザリィ様に睨むような視線を向けた。
「わたくしのことはママと呼びなさいといつも言っているでしょう!?」
「断固拒否ですわよっ!」
ロザリィ様は顔を真っ赤にして即座に否定する。わたしが家出する前は確かシユティ様のことを「ママ」って呼んでたと思うけど、5年が経ってさすがに恥ずかしくなっちゃったみたい。ぜんぜん気にしなくてもいいと思うけどなぁ。
「んもぅ、娘がすっかり反抗期でママ寂しくなっちゃう」
「いい加減にしないと怒りますわよ?」
「冗談ですってば、ロザリィ。本題ですね、わかっていますよ」
シユティ様はお母様に視線を向けると、お母様は頷いてわたしたちに話しかける。
「あなた達を呼んだのは、昨日の一件について幾つか尋ねたいことがあったからよ」
「尋ねたいこと、ですの?」
「まずはあなたたちが、どのようなきっかけで今回の事件に関わるようになったのか。そこからお話を聞かせてくれないかしら?」
「きっかけですか……」
「きっかけなら、ミナリーが侵入者に気づいた事だよね」
そもそもの始まりは、ミナリーが侵入者を感知する学園の結界に揺らぎを感じた事だった。それでわたしとミナリーは、アリシアと一緒に侵入者を探すため図書館棟へと向かった。結果的に侵入者は取り逃がしちゃって、そこで盗まれた魔導書が後々の事件に大きくかかわることになる。
「学園の警備不備に教師陣による隠蔽工作。頭が痛くなる話ね……」
「夜の学園に忍び込むなんて、なんて楽しそうなのでしょう。アメリア、わたくしたちも今度夜の学園に忍び込んでみない? せっかくだからロザリィたちから制服も借りましょう!」
「絶対に阻止してみせますわ!」
とんでもない提案をするシユティ様にロザリィ様が本気で嫌そうな顔をする。
ちなみにシユティ様から誘われたお母様は「アリスの制服は丈が合わないし、アリシアの制服は胸元がきつそうね……」と真剣な表情で呟いていた。アリシアと顔を見合わせて、聞こえなかったことにした。
「話を戻しますわよ……。それからわたくしたちは、魔導書盗難の罪を着せられそうになったアリスさまやミナリーの疑惑を晴らすために、魔導書を盗んだ犯人を追うことにしたのですわ」
けれど、学園内での捜査は教頭先生に妨害され、学園長が不在ということもあって思うように進まなかった。行き詰っていたそんな矢先、王都で発生していた魔力を奪われる連続通り魔事件の事を知ったわたしたちはその調査に乗り出すことにした。
「アリシアが通り魔事件の被害に遭ったと聞いた時には肝を冷やしたわ。アリシア、あなたには後でお話をする必要がありそうね?」
「か、母様っ! そ、そんなことより今は事件の話を続けるべきだと思うわ! ねっ? ニーナもそう思うわよねっ?」
「わ、わたしに聞くんですか!? え、えぇっと……、後でしっかり叱られた方がいいと思いますよ?」
「だそうよ、アリシア。良い友人を持ったわね?」
「ニーナの裏切り者ぉ……っ!」
ニーナちゃんのまさかの追撃にアリシアが撃沈していた。わたしもニーナちゃんの意見に大賛成なので助け舟は出さないでおこうかな。ちゃんと叱られようね、アリシア?
「えぇっと、学園から盗まれた魔導書が通り魔事件に使われているとわかったから、師匠さんとアリシアさんのお母様に事情を説明する手紙を送ったんでしたよね?」
「ええ。その手紙で初めて、我々は学園から魔導書が盗まれたことを把握したわ」
そうして決まった王国魔法師団の視察。わたしたちはお母様たちを迎え入れるための前準備として、学園によって調査が禁止されていた書庫の調査を行おうとした。
けれど、それは黒幕によって家族を人質に取られた警備主任のロベルトさんに阻まれることになる。
「警備主任のロベルト・グレンジャーは情状酌量の余地ありと判断して、1か月の停職処分が下されたわ。その後は元の職務に復帰させるつもりよ」
「子供も生まれたばかりなんですってね。その1か月で子育ての大変さをその身を以て知りなさいと伝えておいたの。今頃大変な思いをしていることでしょう」
そう言って悪戯する時と同じ笑みを浮かべるシユティ様。
ロベルトさんには寛大な処置が下されたみたいで、わたしを含めてみんながホッと胸をなでおろす。シユティ様とお母様ならロベルトさんを悪いようにはしないと信じていたけど、ここまで暖かな処分になるとは思わなかった。
シユティ様とお母様に近い身として、誇らしい気持ちで胸がいっぱいになる。
ミナリーの活躍で人質になっていたロベルトさんの妻子を解放したわたしたちは、ロベルトさんから魔導書を盗んだのがセプテンバー家のドラコ君だったことを聞いた。
それと同時に起こった学園への襲撃。
そして、黒幕による王国魔法師団長――お母様への襲撃。
二つの襲撃事件に、私たちは対処することになる。
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