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第54話 不老不死の魔人

「どこじゃ、ここは……!?」


 一瞬で変わった視界にクロウィエルは目を丸くして驚いていた。まさか自分が転移させられるとは思ってなかったみたい。〈転移〉で距離を取ったわたしを見て、彼女はギシッと歯を剥き出しにする。


「おのれ、小娘! 儂を謀りおったな……!?」


「ふふぅーん。己の経験不足を呪うんじゃな」


 わたしがさっき言われたセリフをそのまま返すと、クロウィエルは「この小娘……!」と頬をぴくぴく痙攣させてこめかみに青筋を立てた。


 こうしてみると、彼女は人間と何ら変わりない。感情の起伏があって、言葉を交わしあうことができて、角と羽と尻尾があるだけの女の子。


 だけど彼女は、王都を滅茶苦茶にして、お母様に大怪我を負わせて、他にもたくさんの人を傷つけた。


 これ以上、クロウィエルの好きにはさせない。わたしがここで、彼女を倒す!


「こんな所まで儂を連れてきたのじゃ。本気を見せてくれるんじゃろうなぁ?」


「もちろん。嫌って言うほどみせてあげるよっ!」


 わたしは軽く杖を振るい、魔法を発動する。杖の軌道に沿うように、魔力で形作るのは七本の氷の槍。それらを一斉に撃ち放つ魔法、


「〈氷槍爆撃(アイシクルクラスター)〉!!」


「なぬっ……!?」


 氷槍はただまっすぐには飛ばない。七本が別々の軌道で弧を描きながら、それぞれにクロウィエルへ向かって飛翔する。この魔法はミナリーと一緒に開発したわたしたちオリジナル。氷魔法に風魔法をブレンドした混合魔法の一種だ。


「くくくっ! この程度で儂を倒せると思わぬことじゃな! 〈蒼炎槍フレイムランス〉!!」


 クロウィエルは蒼炎の槍を次々撃ち放って氷槍を撃ち落としていく。魔法の威力、込められている魔力はお母様を遥かに凌駕している。


 だけど、


「だったらこれはどうかな? 〈絶対零度アブソリュート・ゼロ〉!」


 それは全てを凍り付かせる氷魔法。危険すぎて街中では使えなかったけど、ここなら何も躊躇う理由がない。


 〈絶対零度〉は射線上の地面や草木を凍らせながら一直線にクロウィエルへ突き進む。


「それはさすがにシャレにならぬのぅ! 〈蒼炎の大槍〉! そして〈砂壁〉じゃ!!」


 杖の先から放たれた蒼炎が〈絶対零度〉に触れたと同時、クロウィエルは〈砂壁〉で身を守った。


 直後に爆発。火と氷の魔法は互いに反発しあうと前にミナリーが言っていた。王都でわたしの〈氷壁〉が爆発したのとたぶん同じ理屈。凄まじい爆風が吹き荒れ、わたしも吹き飛ばされそうになるのを何とか耐える。


 やがて立ち込めた土煙が晴れた向こう、衝撃に砕け散った〈砂壁〉の残骸に紛れて倒れるクロウィエルの姿があった。


 倒せたのかな……?


 ぐったりと倒れるクロウィエルは全身に大怪我を負っていた。皮膚はところどころ凍傷で赤黒く染まり、〈砂壁〉の破片を受けたのか脇腹からは大量の出血もしている。


 だけど、彼女から感じる魔力はまだ死んでない……!


 油断なく杖を構えるわたしの前で、クロウィエルはゆっくりと体を起こす。よろよろとよろめきながら立ち上がった彼女は口元に笑みを浮かべていた。


「これがお主の全力か。なかなかのものじゃったのぅ。危うく死ぬかと思ったのじゃ」


「……その怪我、すぐに治療しないと死んじゃうよ……?」


「くくっ。もしや儂の心配をしておるのかのぅ? お人好しな小娘じゃな。なぁに、心配せんでもよい。――すぐに治る」


「……ッ!?」


 わたしの目の前で、クロウィエルの傷がみるみる内に治っていく。脇腹の大きな傷もそうだし、赤黒く変色していた肌も瞬く間に元の白磁色。何より驚いたのが、彼女が身にまとっているワンピースすらも、破れた個所が修復されていく。


ものの数秒で、クロウィエルは元の姿に戻っていた。まるで時間を巻き戻したかのように。


 なに、これ……。


「せっかく集めた魔力じゃったのに、要らぬ消費をしてしまったのぅ。まあ、お主の魔力さえ奪えれば簡単に取り返せる量ではあるんじゃが」


「どう、して……?」


「なんじゃ、傷が癒えたことがそんなに不思議かのぅ? 簡単な話じゃろぅ、儂が魔人だからじゃ」


「魔人だから……?」


「儂ら魔人は元人間……つまり今は人間ではないのじゃ。この肉体も、この肉体に流れる血液も、そしてこの衣服すらも。全て魔力によって作られておる。魔人じゃからのぅ」


 魔力人間だから、魔人……?


 どんな理屈かなんとなくわかった気がする。魔人は怪我を負っても、肉体と血が魔力でできているから、魔力を消費して傷を治すことができる……? だとしたら、クロウィエルは魔力がある限りどれだけダメージを負っても回復してしまう。


 そんなのに付き合ってたらきりがないっ!


「今の魔法、結構な魔力消費じゃったのぅ。そう何度も連発できるものではないのじゃろぅ?」


「さあ、それはどうかな」


 ……正直、ちょっと厳しい。魔力はまだまだ余力があるけど、もしかしたら先に杖の限界が来るかもしれない。杖なしでの魔法……ミナリーが平然と使っているのを真似して何度か試してみたけど、上手くできたことはほとんどない。


 このままじゃいずれ、クロウィエルに押し切られる……!


「くくっ。強がりがバレバレじゃ。それじゃあそろそろ、儂も本気をだすとするかのぉおおおおおおおおお!?」


「へ……?」


 急に両肩を抱いてビクンビクンと痙攣しだしたクロウィエルにわたしは素っ頓狂な声を出してしまった。


 え、あの……えっ?


「な、なんじゃ!? 儂の中にっ、膨大な魔力がっ、流れ込んでくるじゃとぉ!?」


 クロウィエルはまるで体の中で暴れまわる何かを抑え込むように、背中を丸めてその場にしゃがみ込む。いったい何がどうなっているのかサッパリわからない。


 だけど次の瞬間、わたしは気づいてしまった。


 クロウィエルの体内に膨れ上がる莫大な量の魔力の存在に。


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