質問
「うむ、これから努力すれば中級魔法に届く。諦めずに鍛錬するがいい」
「は、はい」
パーズは普通に落ち込み、椅子に座り込む。
「じゃあ、次は俺だなー」
ライアンは椅子から立ち上がる。
「俺は雷属性と火属性、土属性が使える! はははっ天才だろっ!」
ライアンは腰に手を当てて大きく笑っていた。まあ、三属性使える時点で魔法の才能は確実にある。
「中級魔法まで使えるぜー。じゃあ、キース先生を吹っ飛ばしちゃおっかなー」
ライアンは魔法陣を展開し、キースさんに杖の先を向ける。そのまま、雷属性魔法の『サンダー』を放った。キースさんの体に稲妻が当たるも、特に効いている様子はない。
「うむ、鍛錬していないな。今のライアンは宝の持ち腐れというやつだ。才能だけで生きていると壁にぶち当たった時、越えられずに挫折するぞ」
「げぇ。よくおわかりで……」
ライアンは苦笑いを浮かべながら椅子に座り込む。
最後にレオン王子が立ち上がる。
「え、えっと。私は風属性と雷属性、光属性が使えます。上級魔法まで使った覚えがあります」
レオン王子は杖先をキースさんに向け、魔法陣を展開させたあとに光の弾を発射し、閃光弾のように光らせた。
「うむ、よく鍛錬しているようだな。魔法の才能も十分にある。これからも研鑽するように」
「は、はい!」
レオン王子は大分嬉しそうに笑い、椅子に座った。
「皆の実力が何となくわかった。皆も見ていたと思うが、初級魔法であってもわしを吹っ飛ばせる。生身の人間に魔法を放つことは危険極まりない行為だ。ドラグニティ魔法学園の生徒として恥ずかしくない魔法の使い方をするように心がけなさい」
「は、はい!」
私達は大きく返事してキースさんの言葉を理解したと伝えた。
「うーむ、初回だというのに大分話し込んでしまったな。何か気になることがある者は質問してくれて構わないぞ」
キースさんは髭を触りながら私達に話し掛けてくる。
「使える属性は増えないんですか?」
スージアは手を挙げて質問した。
「いや、増やせる。わしは初級魔法だけなら全属性使えるからな」
キースさんは指先に八種類の初級魔法を浮かび上がらせた。
「うわ……。すっご」
周りの者の目が光輝いている。やはり、無詠唱で八種類の属性魔法を使えるのはぶっ飛んだ技術なんだな。
「という具合に使える属性は数種類だけではない。皆だれしも全属性使える可能性を秘めている。だが、得意不得意があるんだ。不得意な魔法を扱えるようにすることよりも得意な魔法を極めた方が魔法使いとしては大成しやすい」
「なるほど。じゃあ、どうやったら苦手な魔法を得意に出来ますか?」
「無理といっておくのが賢いな。苦手な魔法はいつまでたっても苦手な魔法だ。わしは何十年も光属性と闇属性を使い続けたが結局初級魔法しか使えていない。わしが無理だから皆無理という訳ではないが、難しいとだけ伝えておこう」
「じゃ、じゃあ。魔法が苦手な人はずっと魔法が苦手なんですか?」
パーズは手を挙げて切実に声を荒げた。
「うーむ。ほんとうに苦手な者は難しいかもしれないな。魔法の原理をしっかりと理解できない者、扱うことが苦手な者。苦手と一言に言っても魔法は色々な工程から成り立っている。一つの苦手を克服したら魔法が使いやすくなる場合だってある。諦めるのはまだ早いぞ」
「そ、そうなんですか……」
パーズは微笑み、少し気分をあげていた。まだ、魔法が使えるようになるかもしれないという期待が彼の原動力になるだろう。
「はいはい! 魔法を使うためにまず何をしたらいいですか!」
ミーナは元気よく手をあげ、自分も早く魔法が使えるようになりたいという気持ちがビシビシと伝わってくる。
「そうだな。ミーナの場合は魔力を感じ取るところから始めた方が良いだろう。体を巡る魔力を常に意識するんだ。血液じゃないぞ。魔力の流れを感じ取ればおのずと魔法を扱うために必要な感覚が養われる」
「ま、魔力を感じ取る。む、むむむ……」
ミーナは眉間にしわを寄せ、腕を組む。そのまま、じーっとしていると、ぐるるるるるるるるるるるっという腹の虫が鳴った。
「あははー、お腹空いたー」
ミーナはお腹を摩り、腹の虫をなだめていた。
すでに一一時三〇分を過ぎ、二限目が終わる一二時まで三〇分を切っていた。そりゃあ、お腹がすく頃だな。
「お腹がすくという感覚と、魔力が少なくなっているという感覚は似ている。そこから、魔力を感じることも不可能じゃない。常日頃から魔力がどのように流れているかを感じられるように意識を向けておきなさい」
「はいっ!」
ミーナは手を挙げて、返事していた。
「あの、魔法を使うためには魔力が必要だと言っていましたけど、魔力ってどうやって増やすのが一番効率が良いですか?」
サキア嬢は手をあげ、軽く質問した。
「そうだな。効率だけで考えるならすべての魔力を使い切り、そこから無理やり魔力を引き出そうとする行為が良い。筋肉を大きくするときと考えは同じだ。限界を越えないと魔力量も増えない。まあ、魔力枯渇症は辛いがずっと辛ければいずれ慣れる」
キースさんは脳筋のような鍛錬方法を教えていた。
「も、もっと現実的な方法は」
「なら、魔力を練り、魔法を放つ練習を繰り返すといい。魔力量が増えるだけではなく、魔力枯渇症になりにくい。時間はかかるが、辛いのが苦手なら根気よく続けるといいだろう」
「はーい、キース先生。質問。魔法って剣を使っていると物凄く使いづらいんだけど、どうしたら上手く使えるようになりますか?」
ライアンは手を上げながら質問した。
「鍛錬不足だ」
「……うぅ」
ライアンは縮こまり、自分のセンスだけで今までやって来たことを完全に見抜かれていた。
「魔法と剣を両方使うためには才能もいるが努力の方が、比重が大きい。いわゆる慣れだ。簡単になんでもうまくいくと思ったら大間違い。もちろん考えすぎもよくないが、考えなさすぎもよくない。精進するように」
「はいぃ……」
ライアンは机に突っ伏し、完全に叩きのめされている。
「じゃ、じゃあ、魔法と武器、極めるならどちらが良いとキース先生は考えていますか?」
レオン王子は魔法使いのキースさんに何とも難しい質問をぶつけた。
「うーむ、難しい。魔法と武器は全くの別ものだからな。魔法は魔法と武器両方対処できる。だが、武器は魔法の対処が苦手だ。もちろん、ぶっ飛んだ者なら武器で魔法を陵駕できるが、普通は魔法が有利を取れる。魔法を極めれば誰にでも勝てるようになるとわしは考えている」
「なるほど。じゃあ、キース先生は魔法だけをやって来たんですか?」
「いや、わしは魔法以外にもいろいろ手を出したぞ。剣や斧、槍、弓、その他諸々試してやはり魔法が得意だとわかった。皆も自分の得意不得意を考えてこれからの道を選ぶといい。まあ、わしとしてはぜひとも魔法を頑張ってもらいたいところだ」
キースさんは腕を組み、頷きながら笑っていた。
「じゃあ、私から一つ。キースさんは結婚しているんですか?」
私は皆が魔法の話ばかりしていたので、少々プライベートの話もしてみた。
「結婚していたぞ」
キースさんは視線を背け、していたということは、今はしていないということ。
「離婚したんですか?」
「そうだなー。そういうことになるのかもしれんな」
キースさんはうやむやにしながら呟く。あまり話したくない話なのかな?
「じゃあ、お子さんは?」
「いたが、今はいない」
キースさんは視線を下げ、少々悲しそうな顔をする。もしかしたら聞いてはいけないような話だったか……。
「話しにくいなら結構です。な、なんか、変なことを聞いてしまってすみません」
私は頭を下げて、穴があったら入りたい状態になっていた。
――普通に魔法のことを聴いておけばよかった。
「もう、一二時になるな。じゃあ、今度から本格的に授業を進めていく。教科書を持ってくるように。板書を書き写したいのなら筆記用具と紙も持ってくるように」
キースさんは教壇から降り、教室を出て行った。
「はぁー。終わった~っ! パーズ、さっさと食堂に行こうぜ!」
ライアンは我先にと教室を飛び出して行った。
「ちょ、待ってよ」
パーズもライアンの後を追って教室を出ていく。
「はぁ。今日のパーティーを行かないと一生彼女が出来ないのか。そ、それはいやだなぁ。行くのも面倒臭いなぁ。とりあえず腹ごしらえするか……」
スージアはブツブツいいながら席を立ち、教室から出ていく。
「あぁー、スージアさん、待ってください。私も一緒に行きます。あ、メロアさん、キララさん、ミーナさん、今夜、また会いましょうね」
サキア嬢はスージアに付いていき、私達に手を振って教室を出て行った。
「め、メロア。その、一緒に昼食でも……」
レオン王子はメロアのもとに向かい、視線をそらしながら手を伸ばす。
「え、普通に嫌だけど。ミーナ、食堂に行きましょう」
メロアは席を立ち、ミーナのもとに向かった。
「うん! もう、お腹ペコペコだよ~。キララも行くでしょ!」
ミーナは私の方に視線を送ってくる。だが、ここで私がいったらレオン王子が一人きりになってしまうではないか。この教室にいる者達、ルークス王国の貴族が少ないからレオン王子に対する敬意が全く足りていない。そもそも、メロアは王子に誘われたんだから、王子と食事しろよ。
王子は社長の息子みたいな存在でしょうが。社員が御曹司に誘われたら行くしかないだろ!
「キララ様、頭の中で怒っても無意味かと」
ベスパは私の頭上で呟き、ミーナの方を見る。
「わ、私は、今はいいかな。メロアとミーナで先に食べてきて」
「そう。じゃあ、ミーナ、行きましょう」
「はーいっ! よーし、モリモリ食うぞ~っ!」
メロアとミーナは教室を出ていき、だだっ広い空間に私とレオン王子の二人きりになってしまった。
――いや、気まずい。
「はは……、キララさん、気を使ってくれなくてもよかったのに」
レオン王子は泣きそうになりながら項垂れていた。