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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~
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無詠唱魔法

「その話と獣族が魔法学を勉強する必要性に何が関係あるんですか?」

「そうだな、簡単に言うと人間は魔法に触れる機会が多い環境に昔からいた。逆に獣族は魔法に触れない環境にいた。その差を例えるなら母国語だ。日頃から魔法に触れていない獣族にとって魔法は無縁の異物。だから、拒否反応が出る。加えて扱うことが難しい。だが、スキルは魔力を使うだろう。獣族もスキルを持っている。つまり、魔法は使える。魔力は魔法に直結する。そう考えたら魔法学で魔法の知識を得ることによって獣族も魔法が扱えるようになるかもしれない」

「おおおおおっ! 本当ですか! 物凄く勉強したくなりました!」


 ミーナはキースさんの話に簡単に飲まれた。でも、ものすごく難しい話だとキースさんはしない。あえてだろう。ミーナが魔法学に興味を持ってもらうのが一番大切だ。


「もし、魔法学を学んで魔法が出来なかったとしても問題ない。相手の魔法の原理が理解できれば戦いで有利に動ける。知識は持っているだけで武器となる。勉強すればするだけ強くなれる。強くなりたい人、手を挙げて!」


 キースさんは右手を大きく上げる。すると、レオン王子やメロア、パーズ、ミーナ、ライアンが勢いよく手を挙げた。さすが長い間、教鞭をとってきただけある。すでに授業が楽しく感じてきた。私は強くなりたいと思わないが、魔法学に興味は沸いている。


「魔法学は多くの学問の中で長い間研究されてきた。それはなぜか。魔法に付いての知識が必要不可欠だったからだ。必要でない知識はすたれ、必要な知識は探求されていく。魔法学の歴史はわかっているだけでも数万年前から魔法に付いての石碑が残されていた。この世の歴史は魔法の歴史だ。今から、君たちは魔法の歴史の旅へといざなわれる」


 キースさんは杖を振るった。すると、教室が一気に広々としたふきっさらしの荒野に変わった。

 ベスパ曰く、魔力で荒野の状況を映し出しているだけだと言う。現に私は椅子に座ったままだ。


「最初の魔法は何だったかわかる者?」

「はい。『ファイア』です」


 レオン王子は優等生のごとき速さで答えた。


「その通り。まあ、『ファイア』であったとされているが、実際のところはわからん。だが『ファイア』の魔法陣は多くの魔法の原型と近しい。だからこそ、最初に使われた魔法だと言われている。魔法の歴史を始めたのは火属性魔法の初級魔法『ファイア』だったわけだが、この魔法を行使するために必要な要素は何かわかるかな?」

「魔法陣と詠唱、魔力の三つです」


 レオン王子は無理なく答えた。きっと魔法学基礎の基礎だろう。基礎の基礎って何だよと思うが、数字の一を何と読むか? みたいな問題だ。


「うーむ、惜しい。現に魔法陣と魔力で事足りる。詠唱は魔法陣を描く時間を短縮するために生み出された技術に過ぎない。現に詠唱がなくとも魔法は使える」


 キースさんは手の平に魔法陣を生み出し『ファイア』を作り出した。さすがSランク冒険者。無詠唱魔法もお手の物だ。


「む、無詠唱で魔法を使った。凄い……」


 魔法が使える者達はキースさんの手の平に浮き出ている『ファイア』をまじまじと見つめていた。


「このように、詠唱が無くても魔法は使える。これは『ファイア』の魔法陣を理解し、脳内で描けるからだ。魔法が使える想像ができると言ったほうがわかりやすいか。難しい魔法を瞬間で作るのは無詠唱だと難しい。だが、詠唱は脳内に魔法陣を浮かび上がらせる前段階のような行為となる。つまり、詠唱が無くても魔法は使える。皆にはぜひとも無詠唱で魔法が使えるようになってもらいたい。一学期の最後の試験で初級魔法の無詠唱を披露してもらう。ミーナは今後の経過を見ながらだな」

「む、無詠唱で魔法を使えるようになれるんですか」


 レオン王子は苦笑いを浮かべながら、この一の八組がなかなかぶっ飛んだ組だと心底感じているような顔だ。


「わしが出来るのだから、どの人間でも出来る。なーに、まだ四カ月ある。その間に無詠唱で魔法が使えるようになれば、他の生徒と大きく差が生まれるはずだ」

「無詠唱魔法はほとんどの人が使えませんけど、使えたところで何か利点があるんですか? たかが初級魔法ですよね」


 スージアは手を挙げてキースさんに質問する。まあ、初級魔法を無詠唱で行うなど一桁の足し算に電卓を使っているような状態なので無詠唱にする必要があるのか私も謎だ。


「うーむ、いい質問だ。初級魔法は勉強すればほとんどの人間が扱える魔法。これを無詠唱で出来たからどうなるか。それは……カッコいい!」


 キースさんは両手を握りしめ、はっきりと言い放った。

 私達は口をポカーンと開けて、この老人は何を言っているのだろうと、耳を疑う。


「んんっ。まあ、わしはカッコいいと思っているだけだ。現実的なことを言うと、速い攻撃が可能になる。それが大きな利点だ」

「でも、詠唱をいうだけでもすぐ……」


 スージアの眼鏡が風で吹っ飛んだ。黒ぶち眼鏡がふよふよと風で浮き、落ちそうで落ちない。


「今、わしがスージアに魔法を放った。だが、スージアは魔法で対処する間もなく眼鏡を奪われた。人間の戦いの中で正面から戦うことは多い。詠唱は今から魔法を使いますよ~、と言っているような状態だ。そんな時、無詠唱の魔法で隙をつかれてみろ。その間に次の強力な魔法が飛んでくる。無詠唱魔法の使い方はねこだましに近いな。使えるか使えないかで勝率は大きく変わる」

「ぼ、僕の眼鏡、返してください」


 スージアは手を伸ばし、空中に浮いている眼鏡を受け止めようとする。風が止まり、眼鏡はスージアの手に落ちた。すぐに眼鏡をかけ、椅子に座る。


「今は『ウィンド』の無詠唱を見せた。初級魔法であれば何でも構わない。皆が得意とする属性の初級魔法を期末試験に見せてもらおう。失敗しても可能性が見えればそれでいい。ただし、何もしていないということがわかれば単位は渡せん。いいか。努力は怠るな」

「は、はい!」


 私達は大きな声を出し、返事をした。ただ、一つ問題がある。


 ――私、無詠唱で魔法が使えるんだよなぁ。ここで、楽をしてもいいのだろうか。


 私は全属性の初級魔法を無詠唱で扱える。それはフリジア学園長に見せたのできっとキースさんも知っているはず。ドラグニティ魔法学園で皆と足並みをそろえるとは考えにくい。

そう思っていたら……、


「あー、初級魔法の無詠唱が簡単に出来ちゃった~という者は、中級魔法の無詠唱、又は上級の無詠唱に挑戦してみるといい。もし、出来たのなら成績の加点とする。人間であるならばいつまでも高みを目指すものだ。停滞を考えた時点で人間の成長は止まるぞ」


 キースさんの黒っぽい瞳は前を見ているはずなのに、前方にいる私の方に向けられているような気がした。キララはもちろん成長するよね? とでも言わんばかりだ。

 あぁ、中級魔法と上級魔法も無詠唱で出来るようにならないと駄目みたいだ。ライトに出来るのなら私にもできるかな。努力してみるしかない。


「さて、この魔法学基礎の目的を話したところで、今の皆がどれだけ魔法を使えるか少し見せてもらおうか。そこから今後の指導方針を考えよう。わしから見て右側からお願いしようか」


 キースさんは私達から見て左側に座っているスージアに視線を向けた。


「どれくらい魔法が使えるかと言われても、どう見せればいいんですか?」

「そうだな。自分が使える属性の魔法と、どの階級の魔法を使った覚えがあるか教えてくれ。その後、一番得意な初級魔法をわしに放ってみなさい」

「わ、わかりました」


 スージアはゆっくりと立ち上がる。


「えっと、僕が使える属性魔法は水と闇です。中級魔法までなら使った覚えがあります」


 スージアは杖を持ち、水属性魔法の初級魔法『ウォーター』をキースさんに放った。


「うむ、闇属性が使えるとはなかなか珍しい。扱いやすい水属性も兼ね備えていると考えると十分戦えそうだな」


 キースさんは勉強の方が得意なスージアに戦闘させようと考えているのだろうか。

次はメロアが立ちあがる。


「私は火と風が使えます。上級魔法まで使った経験があります」


 メロアは杖を持ち、火属性魔法の『ファイア』をキースさん目掛けて放つ。

キースさんは体で受け止め『ファイア』は消滅した。


「うん、さすがフレイズ家といったところか。体の作りと魔力の質が大変高い。三年もすれば立派に成長するだろうな」


 メロアは父親の強靭な体と母親の膨大な魔力が合わさったサラブレットのような存在なので、評価が高い。さすが最も強い大貴族と言われるだけある。

 次にサキア嬢が立ちあがった。


「私は風と水が使えます。中級魔法までしか使ったことがありません」


 サキア嬢は杖を持ちながら『ウィンド』の魔法陣を展開し、キースさんに放った。キースさんが着ていたローブが大きく捲れ上がる。


「ふむ、皆、二つの属性を持っているなんて、優秀な者達が多いな。上品な良い匂いがする風だった」


 キースさんは気持ち悪い発言をしながら頷いている。


「私は魔法を使ったことがありません」


 ミーナは手をあげ、元気よく話す。


「うむ、これから使えるようになれるよう努力していこう」

「はーいっ!」


 ミーナは椅子にしっかりと座る。

 次は私の番だった。私は椅子から立ち上がり、はてさてどうしようか。八種類ある属性すべてが使えますと言ったら普通に浮く。レオン王子よりも凄いということにならないように皆に合わせて二属性で行くか。


「わ、私は火属性魔法と風属性魔法が得意です。えっと……中級魔法くらいしか使った経験がありません」


 私は右手を斜めに向けて『ウィンド』を放った。皆、風の塊が飛んだ方向に視線を動かしたので、その間に左手で『ファイア』をキースさんに撃ち込んだ。


「ごはっ!」


 キースさんは『ファイア』を体にうけ、後方に吹っ飛んだ。黒板に背中を打ち付け、背中を痛めている。


「あ、す、すみません。ちょっと魔力量が多すぎましたか……」


 私は軽く『ファイア』を放っただけだが、魔力量の影響かキースさんでも吹っ飛ぶほどの火力になっていた。


「いや、まさか『ウィンド』で視線を誘導してくるとは。戦闘慣れしすぎじゃないか」


 キースさんは笑いながら、立ち上がり、体に付いた埃を手で払う。


「うむ。威力が予想以上だった。魔力をもっと練り込んだら一体どれだけの力になるのか楽しみだ」


 キースさんはなぜか不吉な笑いをしている。私と戦う気満々なのでは。

私はすぐに座り、隣にいるパーズに視線を送る。


「え、えっと。僕は水属性魔法しか使えません。使った覚えがあるのも初級魔法だけです」


 パーズは両手で杖を持ち、杖先をキースさんに向け、魔法陣を展開してから水の塊を放つ。発動するまで数十秒かかり、水風船が飛んだのかと思う程度の威力しかなかった。

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