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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
ドラグニティ魔法学園に入学 ~王子のことが大好きな令嬢と大嫌いな令嬢編~

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モフモフ好き

「はわぁ~。いい香り。キララ、早く食べたい!」


 ミーナは私の体を引っ張り、食道のカウンターに向かう。


「はいはい。焦らないで」


 私とミーナは食堂のおばちゃん……というか。お婆ちゃんに話しかける。

 食堂のお婆ちゃんは白色の調理服を着ており、熟練なのか、多くの男性料理人を纏めていた。


「あのっ! 全部特盛でお願いします!」


 ミーナは朝からがっつり食べられるので、何とも豪快に注文する。


「はいよー。沢山食べて大きくなりなさいね」


 髪を布巾で纏め、皴の多いお婆ちゃんは目にも止まらぬ速さで料理を盛る。私がまばたきをした時にはお盆にスープと野菜炒め、焼かれた肉のソース和え、ホカホカのパンが山積みにされていた。


「うおぉお~っ! ありがとう!」


 ミーナは八人前相当の量を受け取り、目を輝かせていた。まあ、ミーナなら何ら問題なく食べきれるはずだ。


「あなたは?」

「ふ、普通で」

「はいよー」


 食堂のお婆ちゃんはスキルでも使っているのか、男性達が作った料理をいつの間にか皿に盛りつけ、お盆にのせている。

 カウンターに滑らせるようにお盆を差し出してきた。


「ありがとうございます」


 私は頭を軽く下げた後、ミーナの隣に座った。

両手を合わせ、駄女神と食材を作ってくれた者達に感謝し、料理をいただく。

 箸はもちろんないので、スプーンとフォーク、ナイフを使って料理を食べなければならない。もうすでに慣れたものだが、やはり箸の方が使い勝手がよく、私は好きだ。


「野菜の炒め物からいただこうか」


 フォークで野菜の炒め物を刺して持ち上げる。キャベツ、モヤシ、人参、玉ねぎに似た野菜たちが使われており、ソースは掛かっていない。つまり、


「んぅ~。ソウルの味がするぅ~」


 やはり万能調味料、ソウルの塩気が舌全体に広がった。唾液がじゅわーっと溢れ出てきて塩味をうま味に変える。

 野菜は採れたてかと思うほどシャキシャキで、火の入れ具合が完璧だ。火を入れ過ぎてしなしな過ぎず、入れすぎなくて生すぎず、ソウルの塩味と野菜の甘味が調和し合っている。こんな野菜炒めが食べられる日が来るとは。

 野菜炒めだけで充分満足していたのだが、肉もある。肉は魔物の肉だと思われた。通常よりも赤身が弱く、黒っぽいのだ。魔物は血液が黒いため、肉も黒っぽくなる。ソース自体が黒いので嫌な見た目ではない。

 焦げているわけではなく、熟成肉のような感じだ。きっと貴族たちにとっては目新しい品かもしれないけど、よく食べられるのが魔物肉なので値段を安く抑えられる。フォークとナイフで食べやすい大きさにした後、黒っぽいソースに絡めて口に入れた。


「あぁ~。いい肉みたい」


 噛めば噛むほどうま味があふれ出てくるジャーキーのような味。あそこまで硬くはないが、少し歯ごたえがある。私にとっては十分柔らかくて美味しい肉だ。黒いソースはゴマっぽい風味がある。油にソウルと黒ゴマでも混ぜて作ったのかな。悪くない。

 ミグルムの香りが鼻腔を抜け、食欲が増す。加えてピリッと辛い刺激が舌に与えられ、パンが食べたくなってくる。大人の拳程度の大きさのパンを手に取り、千切って香りを嗅いだ。全粒粉、玄米、穀物の良い香りがして良い小麦を使っているわーとわかる。パクリと口に含むと麦畑が脳内に広がった。


「んん~。パンも柔らかくて美味しぃ~」

「…………」


 周りの者達が私の方を向いて固まっている。


「えっと……、なにか?」


 私は周りの雰囲気が気になり呟いた。


「いや、美味しそうに食べるなーと思って」


誰かがぼそっと呟くと、多くの者が頷いていく。どうやら、皆にとってはなじんだ味らしい。

 私にとっては今日まで滅多に得られなかった味のある料理だ。美味しく食べられるに決まっているじゃないか。


「私、味がしない料理ばかり食べてきたので、ここの料理がものすごく美味しくて。感動していました。うるさかったら、すみません」


 私は貴族と荒波を立てないように頭を軽く下げる。謝りすぎもよくないが、謝らないよりはましだ。


「そ、そうなの。まあ、平民ならそうよね」


 女子生徒は特に気にしていない様子で料理を食べ進める。彼女たちは恵まれた環境に生まれ、何不自由なく育ち、今、最高峰の学園に入学している。

 すでに人生勝ち組コースを独走中だ。

 この味気のある料理がどれだけ凄いか、彼女たちは知る由もない。それを私は知っている。これが、世界を知る者と知らない者の差だ。私だって全世界を見てきたわけではない。この状況がどれだけありがたいことか、実感できるかということが大切なのだ。


 ――私は胸の内に感謝の言葉を秘め、味のある料理をありがたくいただけばいい。


「はぐはぐはぐはぐはぐはぐっ!」


 隣に座っているミーナは胃の中に入れば何でも一緒と考えているのか、とりあえずお腹が空かないようにバク食していた。

 私は皿に乗っているパンに手を伸ばし、魔力を込める。キラキラと輝き出したら、足下に歩いてきたフルーファの口に放った。


「はむはむ……。んー、パン」


フルーファの舌は普通で、食べられれば何でもいいという少々おバカな舌だ。美味しそうに食べるので何でも食べさせたくなる。


「ま、魔物がいる」

「ま、魔物だ」

「うそ、なんで、魔物が」

「い、いや、食べられちゃう」


 女子生徒達はフルーファの姿を見て、軽く混乱していた。大きさは小型犬くらいにしてあるのに、それでも怖がるらしい。


「えっと、この子は私の友達で誰も襲いません。無断で襲ったら首を切り落とすと言っているので安全ですよ」


 私はフルーファを抱きしめ、安全なことを皆に知らせた。


「魔物と友達ですって?」


 一番反応したのはローティア嬢だ。顔を顰め、豪華な椅子から立ち上がる。そのまま、私のもとにやって来た。


「魔物と友達になるなど不可能ですわ。スキルでも使っているのかしら」

「そ、そうですね」


 ――まぁ、スキルを使って喋っているから同じか。


「魔物がどんな触り心地なのか気になるわ。触らせてもらってもいいかしら」

「え、ええ。どうぞ」


 私はローティア嬢にフルーファを差し出す。


「ふ、ふーん、なによ。普通の犬と変わらないじゃない」


 ローティア嬢の鉄仮面が軽くほころび、顔をフルーファのモフモフの体に擦りつける。


「はっ……! あ、ありがとう。普通の毛だったわ」


 ローティア嬢は私にフルーファを返した。その後、自分の豪華なテーブルに戻り、皿に乗った四角いケーキを小皿に乗せ、私が使っているテーブルの上にすっと置いた。


「借りた恩はすぐに返すのが、我が家のもっとうなの」


 ローティア嬢は感謝の気持ちとしてお菓子をくれた。案外いい人? まあ、嫌味な部分は多いが、嫌う部分は少ない。変わった方だ。


 ――ベスパ、このケーキに魔造ウトサが含まれていないか毒味して。


「了解です」


 ベスパはケーキの横に下りたち、つまようじのような細い木の枝を使ってケーキの一部を掬い、口に含む。


「ん~、お菓子です。魔造ウトサらしき物質は感知できません」


 どうやら、正真正銘のお菓子なようだ。

 私は今すぐ食べたい気持ちをぐっと堪え、残っている料理を食べきり、フォークでティラミスのような層になっているケーキを掬い、口に含む。


「んんぅ~ん。あまぁ……」


 私は驚くくらい甘いお菓子に度肝を抜かれた。角砂糖をそのまま食べているような甘さ。以前、クレアさんに食べさせてもらったパウンドケーキの味に似ている。お菓子は甘くすればいいってもんじゃない。これは、どうしたものか。

 ローティア嬢がこちらをチラチラと振り返りながら私の様子を窺っている。なにを期待しているのだ。うめぇええええ~っとメークルのように叫びながら発狂したらいいのか? いや、さすがに引かれる。


 私はケーキを食べながら、なにを言おうかどう反応しようか考えた。だがいい感想が思い浮かばない。なんせ、ただの甘い物体なのだ。甘い物体なら喜ぶとでも思ったか。甘いからといってお菓子とは言えない。だって砂糖をそのまま食べているような感覚なんだもん。美味しいという感覚と程遠い。


「う、うぅぅ。あまぃ……。あまいよぉ……」


 私はそれしか言えない。ローティア嬢に後から「ケーキを分けてあげたのに感想も感謝の言葉もなしですの? ほんと田舎娘ね」と言われるような気がしてならない。


 私はケーキを全て食した。糖分過多ですでに糖尿病になってしまいそう。

 お礼をいいに行かないわけにはいかない。すっと立ち上がり、ローティア嬢のもとに向かった。


「ローティアさん、ケーキを分けていただき、ありがとうございます。こんな甘味、初めて経験しました。ローティアさんのおかげです」


 私は頭を下げ、感謝の言葉を伝える。


「ま、感想を言いに来られるくらい礼儀があるのは良いことね。別に、あれくらいならいつでも食べさせてあげるわよ。ふもふもを持って来てくれたらね……」


 ローティア嬢はロール髪を指先でクルクルと弄りながら、呟いた。どうやら、ローティア嬢は大のモフモフ好き。これは良い情報を手に入れた。あまり喜び過ぎてはいけない。

 魔物という特殊なモフモフが好きな変な人だと周りに知られたくないからはっきりと言わないのかも。


「ローティアさん、動物がお好きなんですか?」

「べ、別に好きとかじゃないわ。興味があるだけ。普段はあまり触れられないから、気になるだけよ」


 ローティア嬢は紅茶をグイッと飲み、立ち上がるとフローラルな香りを髪から放ち、食堂を後にした。

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