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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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クレアさんの嫁ぎ先

「フェンリル、お座り」


「はいっ!」


 フェンリルは礼儀正しい犬のようにびしっとお座りして、瞳をぎらつかせている。

 私の魔力がふんだんに込められた肉を食べたくて仕方がないのだろう。


 私は肉が入った皿を持ち、少し待つ。フェンリルを餌付けしているわけではないが、教育することは大切だと思い、躾けていた。

 危険なことを起こそうとしても、躾けておけば止まれるはずだ。


「よし」


 私はフェンリルの前に肉が入った皿を出す。


「ぐわぁあ~っ!」


 フェンリルは漂流してから何も食べていなかった船員のように肉に食らいついた。

 ガツガツと食す姿は子どものようで、可愛らしい。


 私はフェンリルの頭を軽く撫で、食べているうちに安心感を与える。やりすぎるとウザがられるので隣で涎を垂らしすぎて体がベタベタになっていたフルーファの前に来た。


「あぁ。腹減った……」


 フルーファはすでにお腹が減りすぎて毛の色が灰色っぽくなっていた。空腹具合が毛の色でわかるのは私にとってありがたい。でも、毛の色が灰色になっていると老けているように見え、心配してしまう。


「まったく、今日の朝、一杯食べたんじゃないの?」


「動きすぎて魔力が無くなっちゃった……」


 フルーファは間抜けだ。なので、いつも飼い主の私に迷惑をかける。まあ、ペットというのはそういう存在か。その姿を見て私は癒されていると思えば、なんら問題ない。


「はい、フルーファ用の肉。私の魔力入りだから、お腹がいっぱいになるよ」


「うぉおおおっ~!」


 フルーファは光る肉を前にして無我夢中で食べ始めた。灰色っぽかった毛はあっという間に黒色に戻り、若々しさを取り戻す。

 まあ、食べすぎも老ける原因になるんだけど……。

 フルーファの背中を優しく撫で、私の心も癒した。やはり、動物に触れていると心が安らぐ。


「いいなぁ、私もキララのキラキラのお肉を食べたい……」


 ミーナはフェンリルやフルーファの方を見ながら、呟いた。どうやら、ただの焼いた肉では満足できない体になっているらしい。


「もう、仕方ないな……」


 私はミーナが食べている肉に魔力を詰め込み、光らせた。魔力は無料なので問題ない。ただ、あまりの魔力量に悪魔たちが反応しないかが問題だった。


「うわ~い、ありがとう!」


 ミーナは魔力が込められた肉を食べ、耳と尻尾を盛大に動かす。


「はぁ。ウロトさんが作ったボワの角煮を食べた後だと、ただの肉ってこんなに硬かった? と思うわ……」


 クレアさんは肉を半分ほど食したころ、顎が疲れたのか、フォークとナイフを置いた。ウロトさんが作ったボワの角煮は歯が要らないくらい柔らかかったので、咀嚼が何度も必要な肉は硬いと思うのも仕方がない。


「一口ずつ小さく切ったら食べやすいですし、焦らなくてもいいですよ。もし、食べられなかったらここにいる食いしん坊に食べてもらえばいいので」


 私は胸元でブローチに擬態しているディアの背中を撫で、可愛がった。減らず口のベスパなんかよりも大人しくて、ツルツルの外翅の撫で心地が癖になる。


「うぅ。私もキララ様によしよしされたい……」


 ベスパはハンカチのような布を噛み締め、悔しがっていた。残念ながら、私は未だにビーに触れないので、もちろんベスパにも触れない。

 触れるようになったらもっと活用の幅が広がるが、一向に触れる気がしない。


「はぁ~。何とか食べきったわ……」


 クレアさんは肉を小さく切ってから食べる戦法で完食していた。

 噛めば噛むだけ満腹中枢が刺激され、お腹がいっぱいになる。そういう部分を考えれば硬い肉の方が痩せやすいし、経済的だ。


「もう一枚食べたいくらいだけど、これくらいがちょうどいいかも~」


 ミーナは獣族なので、骨まで簡単に砕ける強靭な顎を持っている。人の顔と同じ構造だと思うのに、骨を砕ける咀嚼力がある獣族は不思議だ。


「ふぅ。腹がいっぱいになった……」


 フェンリルは一息ついたお爺ちゃんのように呟き、尻尾をゆっくりと振っていた。


「はぁ~、美味かった~。やっぱりたまらないな」


 フルーファは若者に戻り、尻尾を大きく振っている。やはり、この二体はどこかしら似ている。そう思うのは私だけかな。


「じゃあ、お腹もいっぱいになったことですし、帰りましょうか」


「そうね。そろそろ帰りましょう」


 クレアさんは立ち上がり、お肉が乗っていた皿を食堂のおばちゃんに返す。ミーナも皿を返し、私も手渡しに行った。そのまま、テーブルの上に皿を置いておけば勝手に回収してくれるが、私達はちょっとした手間を自らこなし、おばちゃんたちの苦労を減らす。

 ちょっとした気遣いで、だれしも嬉しくなる。そう考えたら落とし物を交番に届けるとか、ゴミを拾うとか、席を譲ることも簡単にできる。


「はぁ~。王都の空気ってやっぱり王都の空気なのよね。田舎とは違うわ」


 クレアさんはウルフィリアギルドを出て、息を大きく吸い、ふーッと吐いていた。周りに木々は少なく、建物と人だらけ。そりゃあ、酸素の量も減るから新鮮な空気ではない。

 酸素があるから生物が生きていける。この世界の者が酸素で動いているか謎だが『ファイア』や『ウォーター』は酸素や水素が空気中にあるから使えていると考えられる。

 原子という概念が無かったとしても、この世界に空気や水があるなら酸素や水素はある。ならば、森林が、人々が生きていけるだけの酸素を作り出せてるのだろう。


 地球では酸素よりも二酸化炭素の方が問題になっていたな。懐かしい。温暖化など、この世界の者達が考えられる訳がない。自分たちが明日生きて行くのも大変だというのに、環境に気を配るなんて難しいに決まっている。


「一杯食べたら、眠くなってきた……」


 ミーナは目の下を擦り、あくびをする。なんて子供っぽい姿だろうか。食べて眠くなるのは血糖値が関係している。血糖値が乱高下すると体調の悪化につながるが、まだ子どものミーナは気にする必要ないだろう。


「じゃあ、荷台でちょっと横になっていてもいいよ。屋敷に着いたら起こすから」


「わかった……。ちょっと横になる」


 ミーナは荷台に寝転がった瞬間に爆睡した。寝つきがいい。


 私とクレアさんは荷台の前座席に座る。手綱を握ってレクーを歩かせた。


「レクー。ルドラさんの屋敷に行くよ」


「わかりました」


 白いバートンのレクーは私達が乗った荷台を軽々と動かし、速度を少しずつ上げて走る。王都の南西方向にあるルドラさんの屋敷に到着したころ、日は大分傾いていた。


「午後五時か。もう、夕方かな……」


 三月の終わりごろなので、日は大分長くなったが、それでも夜は暗いし寒い。さっさと屋敷の中に入ってお風呂に入りたい……。そう、私の目的は大きなお風呂だ。そのためにルドラさんの屋敷に来たといっても過言じゃない。


「お帰りなさいませ。クレア様」


 バレルさんの代わりに入った門番の男性はクレアさんを見て、扉を開けた。ルドラさんにクレアさんが帰って来たら門を開けるようにお願いされているのだろう。

 私とレクーは大きな門から広い庭の通路を走る。春が近いからか、ビーや虫達が活発に働いており、私の訪問に歓喜している。


「うぉ~っ! キララ女王様!」

「キララ女王様!」

「キララ女王様万歳っ!」


 多くの虫達が私の帰還に狂喜乱舞し、蚊柱のように見える。翅音をブンブンと鳴らしながら赤く染まりかけの空に黒い点々を作り出す。

 あまりにも幻想的じゃない光景に乾いた笑い声しか出なかった。どうせなら、バタフライが飛びキラキラで可愛い幻想的な景色にしてほしかったよ。


「皆、静粛に! キララ様はお疲れなのだ。もう少し優雅に飛びなさい!」


 ベスパはびしっと背筋を伸ばし、厳しく命令する。すると、狂喜乱舞していた虫達は少しゆっくり優雅に飛び始めた。さすがベスパ……。まあ、今飛んでいる虫達自体が可愛くないので幻想的な風景には見えなかったけど、先ほどよりはマシだ。


 私達は屋敷の前に到着した。クレアさんを荷台から降ろし、メイドさんに預ける。


「クレア様、お帰りなさいませ。一年前よりも大変美しく、立派に成長されましたね」


 メイド長と思われる女性が頭を深々と下げ、クレアさんを迎えた。


「ええ、私もそう思うわ。この胸があればルドラ様もウハウハよ」


 クレアさんは一年で豊満に育った胸に手を当て、はにかむ。性格は全く変わっていないのに、見かけは大分大人っぽくなっちゃって……。赤ちゃんが出来るのも時間の問題かもしれない。


 私はクレアさんの荷物を荷台から降ろし、手渡した。


「じゃあ、クレアさん。私はレクーを厩舎に連れて行くので、先に屋敷の中に入っていてください」


「わかったわ」


 クレアさんはトランクを持ち、メイド長と共に屋敷の中に入っていった。


 私はレクーを連れて厩舎に向かう。荷台は荷台置き場に置いておき、必要な品はベスパに持たせる。


「うわぁ……。クレアさんの家、でっかぁ」


 ミーナは起きたのか荷台から顔を出し、外を見回しながら家の広さに驚愕していた。そりゃあ、広すぎる庭を移動していて後方にデカい建物が見えたら驚くだろう。


「ここはクレアさんが嫁いだ家だよ」


「あぁ、クレアさんの嫁ぎ先なんだ。へぇー、これが貴族。私の村と全然違う……」


「ミーナが住んでいる村に貴族はいるの?」


「貴族というか、豪族っていうか……、お金持ちの家はあるけど、ここまでじゃないよ。さすがルークス王国の貴族だね。大貴族くらいかな?」


「中級貴族だよ。大貴族の家はもっと大きいかもね。でも、持っているお金の量は大貴族と同じくらいかも」


「えぇ。この大きさで中級貴族なの。すっごぉ……」


 ミーナは口をあんぐり開けて信じられないといいたそうな表情になっている。

 私も始めて来た時はそのような顔をしていたのだろう。自分で自分の表情は見えないが、ミーナがいい顔しているので、私を見ていたルドラさんの顔が思い浮かべる。


 私はレクーを厩舎に連れてきた。


「きゃぁ~っ! レクー様っ!」

「レクー様、お帰りなさいっ!」

「レクー様、一ヶ月前よりもっとカッコよくなっておられますわっ!」


 厩舎の中にいる雌バートン達はレクーの帰還に大興奮。もう、田舎に里帰りしていたイケメンの幼馴染が東京に帰ってきた時くらい興奮していた。


「ちぇっ。なんだ、レクティタばかり良い思いをしやがって……」


 黒い雄バートンがバートン房の中にいて、レクーと似た体格でとても強そうだ。ルドラさんの弟、マルティさんの相棒イカロスだった。一ヶ月程度しか経っていないが、レクーの帰還が嬉しいのか、尻尾を振っている。口調は荒いが、いい子なのはマルティさんを見ればわかる。

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