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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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適材適所

「キアズさん、こんにちは。大変お疲れのようですね」


「はい……。もう、仕事、仕事、仕事ですよ……」


 キアズさんは寝不足気味の顔になっていた。さすがに疲れが顔に現れると危険なので、休んでもらわないとな。


「仕分け作業とか雑用に関する仕事ですか?」


「えっと……、それもあるんですが、魔物の討伐や護衛に回す冒険者の数が足りなくて……」


 キアズさんは足をずるずると引きずるように入ってくる。


「冒険者の数が足りない? 物凄く多いと思うんですけど……」


「冒険者の数はいるんですが、今、ウトサの素材が大変高騰していて……。ここぞとばかりにウトサの素材を取りに行く冒険者が後を絶たず……、他の仕事に向かう冒険者が少なくなっている現状にあります」


 キアズさんはウルフィリアギルドに所属する冒険者の親玉のわけだが、冒険者に仕事を割り当てているわけではない。管理しているだけだ。

 冒険者達が、自分が行きたいと思う依頼に行くと言う体制のため、偏りが出ていると言う。


「護衛に適している獣族の冒険者を使いたくないと言う貴族や、獣族は場を汚すから討伐に来ないでくれと苦情が毎日のように入ってきます。私は依頼者の機嫌を取ることばかりで精神的に疲れて……」


 キアズさんはぱたりと倒れ込み、意気消沈していた。


「さすがに疲れすぎですね……」


 私はサモンズボードからクロクマさんを出し、キアズさんのベッドになってもらった。そのまま、しっかりと休ませてあげる。


「キララさん、その方ってウルフィリアギルドのギルドマスターさんよね?」


 クレアさんはキアズさんをしっかりと覚えていた。人に対して覚えが良いのは流石貴族といったところか。


「この方はギルドマスターです。どうも、多忙で疲れが出てしまったようですね。疲れている時に安心感を得ると体が一気に限界を迎える現象が起こったと思われます。私を見て安心しちゃったんでしょうね。別に、私が何かできるわけじゃありませんけど」


「キララって安心感がすごいもんね~」


 ミーナは私の体に抱き着いて頬擦りしてくる。安心感というか、魔力が多いからというか……。まあ、そのところはどうでもいいか。


「雑用の仕事は私が代わりに行えば問題ない。でも、ウトサの素材が高いのは今の国の状況を見れば明らか。多くの者が高い素材を求めるのは当たり前だよな。そうなると、人数制限するしかないかな」


 私はどんな仕事でも大切な役割を担っていると知っている。ゴミ拾いやどぶ掃除だって誰かがこなさないと国が不衛生になってしまう。

 生えすぎた雑草を抜くことや配達だって立派な仕事だ。どんな仕事でも多くの者の役に立てるわけだが、どんな仕事でもお金を同じにできない。

 危険な仕事をする者に大金を払うのは当たり前。お爺ちゃんやお婆ちゃんでも出来そうな仕事の賃金が低いのも仕方がない。

 まあ、冒険者は夢見がちな者が多いから一攫千金を狙ってウトサの素材を取りに行っているのだろう。私みたいに小さな仕事を一気にこなせるスキルを持っている者は稀、持っていたとしても普通に魔力が無くなって不可能。そう考えると、お金を稼ぐ才能だけは、私は持ち合わせているようだ。


「うーん、獣族がルークス王国で嫌われているのも文化じょう仕方がない。ウトサの素材を手に入れてお金を稼ぐというのもわかる。すべて完璧に回せる政策は存在しないんだよなぁ。そうなると、ウルフィリアギルドにしわ寄せがくるわけで、キアズさんがバタンキューしたわけだし……」


「なんで獣族の冒険者が嫌われているのかわからないよ~。皆強くてしっかり仕事をこなすのに。偏見なんじゃないの~」


 ミーナは後頭部に手を当て、尻尾を軽く揺らしていた。


「獣族の冒険者さんがしっかりと仕事しているかどうかわからない。でも、仕事している者と仕事していない者はいる。人間でもそうだよ。獣族の方がルークス王国だと目立つから仕事をさぼっているような者がいると、やっぱり獣族だからっていうふうになるんだよ。獣族の国で人が働いて失敗したらやっぱり人族だからっていうふうになる。これは仕方がない」


「うぅ……。皆、仲良くしようよ~」


 ミーナは誰もが思っているが、そう簡単に実現不可能な願いを呟いた。


「とりあえず、冒険者の適材適所を見極めてその者にあった仕事をしてもらうのが、効率がいいと思うから……、冒険者さん達に軽く試験してもらおうかな」


「試験……。そんな面倒なこと、冒険者がやると思えないけど……」


「試験を受けなければウトサの素材を取りに行ってはいけないという条件を付ければ誰でもやるよ。討伐、警備、採取辺りの依頼をこなしてもらって冒険者さん達の適材適所を見極めて、合った仕事をしてもらう。皆が皆、ウトサの素材を簡単に取れるわけじゃないからね」


「一日で出来るわけがないと思う……」


「長い目で仕事を変えていくことが経営として大切なんだよ。一時しのぎしても同じことが起こったらまた危険を冒さないといけない。だから、今はウルフィリアギルドの方々に耐えてもらうしかないね」


 私は改善案を提示した紙をキアズさんの部屋の机に置いておいた。やるかやらないかはキアズさんしだいだ。私はギルドマスターじゃないので、ただのご意見番のような存在でしかない。


「じゃあ、クレアさん、仕事内容はわかってもらえましたか?」


「仕事内容はわかったわ。でも、ウルフィリアギルドはとても辛そうなのに、キララさんの仕事は全然辛そうじゃないのは何で?」


「仕事の内容が簡単だからです。あと役員が少なくて従業員は無数にいるので」


「よ、よく意味がわからないわ。でも、多少辛くなってもその方がやりがいがあるから、全然気にせず仕事を回してちょうだい」


 クレアさんは腰に手を当て、胸を張った。とても頼もしい。ここまで来ると、姉さんと呼びたくなってしまう。


「キララ、私も仕事してお金を稼ぎたい! 美味しい料理にお菓子、結婚資金、借りたお金を返せるようになりたい!」


 ミーナは両手を握り合わせ、仕事する気を見せてきた。


「はは……。まあまあ、落ちついて。学生の本分は勉強だよ。ミーナは学生だから、お金や仕事のことはあまり考えなくてもいいの。お金のことばかり考えていたら学生生活を謳歌できないよ」


「で、でも、お金が無かったら美味しい料理とお菓子が食べられない……」


「美味しい料理とお菓子が食べたいのなら、作ればいいんだよ。素材を買った方が料理を買うより安い時もあるからね。まあー、その話は学生になってから考えようか。明後日から学生だし、それまで学生生活でどんなことをするのか考えて楽しもうよ」


 私はミーナの手を取って軽く振る。


「学生生活……。学生生活ってどんなことをするんだろう……」


 ミーナは学生になるのに何も考えていなかったようだ。ドラグニティ魔法学園という場所があると知って、興味本位で受験したら合格しちゃった少女。今、学生になったらどうしたいか考え始めたなんて、呑気なのかな。


「そうだなー。学生と言えば……。学生と言えば…………。なんだろう?」


 過去の私は学生中にアイドル活動していたので、ちゃんとした学生生活を送ったためしがない。文化祭や体育祭などの行事も欠席しがちだった。友達もほぼいなかった。仕事ばかりで、思い出が無い……。私にとってもやり直したい学生生活がすぐそこまで迫っていた。


「と、とりあえず、友達が欲しいね。昼食を一緒に喋りながら食べたり、遊んだりさ」


「うーん、全然想像できない……。お父さんとお母さんも学園なんかに通ってなかったから学生生活なんて全然知らないって。行って砕け散ってこいって言われたし……」


「く、砕け散ったら駄目だよ」


「二人共、ここに人生の先輩がいるんだから、私に何でも聞きなさい! 学生の経験があるから、いろいろ教えられるわよ」


「じゃあ、クレアさんが一番印象に残っていることってなんですか?」


「そうねー。……試験で赤点を取って追試を受けまくったことかしら」


 クレアさんは苦い思い出を覚えていた。思い出したくもないのか、顔がすでに苦い……。


「じゃ、じゃあ、楽しかった思い出は何ですか?」


「楽しかった思い出は学食で大盛り料理を沢山食べたことかしらね」


「…………な、なんか、夢が無い」


 ミーナは正直にぼそりと呟いた。


「…………」


 クレアさんは部屋の隅っこで縮こまり、指先で床をなぞっていた。


「だって、友達が出来なかったんだもの……。女の子同士ってすぐに友達ができるって思ってたのにできなかったんだもの……」


 クレアさんは見た覚えもないくらい沈んでいた。どうやら、あの元気なクレアさんでも苦い学生生活を送っていたようだ。クレアさんの実家は大貴族らしいので周りから警戒されていたのかもしれない。そんなクレアさんが元気はつらつに生活していたら近寄りがたいと思うのも無理はないか。


「じゃ、じゃあ、最後に、私達に何か助言はありますか?」


「そうね、私が学生の時に思ったのは何もしないと何も起こらないわ。ただ、生活しているだけで頭の中で思い描いているような出来事は絶対に起こらない。だから、自分から動くしかないのよ」


 クレアさんは昔の自分に言い聞かせるように力強く答えてくれた。


「なるほど……。自分から動く。とても大切な教えを伝えてくれてありがとうございます」


 私はクレアさんに頭を下げた。


「じゃあ、クレアさん。私達はドラグニティ魔法学園に行ってきます。ここにいるか、家に帰るか、どちらがいいですか?」


「そうねー。私、通路にあるマドロフ商会の支店に行きたいからここで待っているわ。また、迎えに来てくれる?」


「もちろんです。じゃあ、フルーファを護衛に付けておきますね」


 私はフルーファの頭を撫でながら微笑んだ。


「えぇ……。クレアさんの護衛……。面倒だなぁ……」


 フルーファは床にべったりとお腹を付け、大変だらしない恰好になる。


「仕事をしないと餌抜きだからね」


「仕事頑張ります!」


 フルーファはスタっと起き上がり、クレアさんの足下に駆ける。やはり、魔物にとって餌抜きというのはとても強い言葉のようだ。


「フルーファがいれば安心できるわ」


 クレアさんはフルーファを抱きしめ、艶やかな黒毛を撫でていた。フルーファは尻尾を大きく振り、綺麗なクレアさんに鼻の下を伸ばしている。

 クレアさんとフルーファは共に部屋を出て行った。


「じゃあ、私とミーナはドラグニティ魔法学園に行こうか」


「うん! はぁ~、楽しみだなぁ~。どんな生活が待っているんだろう。料理が食べ放題だったらいいなぁ~」


「ミーナがいるのに料理が食べ放題だったら学園が破産しちゃうよ……」


 私はミーナの大食いを知っているので、少しソウルを使っているような料理ならバカみたいに食べつくしてしまうだろう。そうなったら学園側は大損害を被るわけだが……、大丈夫だろうか。


 ――まあ、私が魔力を込めた料理をあげれば問題ないか。


 私とミーナは昇降機に乗って一階に下りる。そのまま、建物を出てウルフィリアギルドの敷地をあとにした。レクーが待つ駐車場まで向かい、荷台の前座席に乗る。


「ベスパ、クレアさんを見張っておいてね。なにが起こるかわからないから」


「了解です」


 ベスパは光り、ビー達をクレアさんの周りに待機させた。何かあればフルーファとビー達が対処してくれる。ひとまず安心かな。


 私は手綱を握り、撓らせる。すると、レクーが足を動かした。

 大通りに出て北方向にある巨大な学園、ドラグニティ魔法学園に向かう。

 王城の横を抜けると、広大な敷地内の奥に大きな黒っぽい建物がありありと見えた。森か……と疑うほどの広い土地を保持しており、ドラグニティ学園長がどれだけの権力者なのか優にわかる。

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