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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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しばしの別れ

「はぁ、はぁ、はぁ……。キララさん、お待たせ」


 私達が話し合っていると、髪型や服装を整えたクレアさんが走って来た。村でよく着られている民族衣装っぽい服装で身を包み、子供達と一緒に作った髪飾りで長く綺麗な金髪を纏めている。

 もう、頭のてっぺんから足先まで村娘に染まっており、彼女が貴族のご令嬢だと、誰が信じるだろうか。

 体から溢れ出る気品は他の村人と違い、別格だ。周りがタンポポなのに一凛だけ、菊の花があるような、そんな感じ。


「おはようございます、クレアさん。起きられて何よりです」


「も、もう。バカにしないでよ。私だって起きようと思えば起きられるんだから」


 クレアさんは腰に手を当て、微笑んだあと、大きなトランクを荷台に積む。


「そんなに大きなトランクでしたっけ?」


「村の想いでが沢山詰まっているの。どれもこれも、捨てられないわ」


 クレアさんはこの村を大変気に入ってくれたのか、すでに泣きそうになっている。まあ、一年もいれば生活に慣れてしまったのかな。


「クレアさん。また、いつでも来てください。私の仕事を請け負ってもらうお礼に、二カ月の長期休暇なんかも考えますから、ルドラさんと村でのんびりできるよう、クレアさんの家はずっと綺麗に保っておきます」


「ほんと! 嬉しい、ありがとう、キララさんっ!」


 クレアさんは私に抱き着き、一年で大変豊満に育った、たわわな胸を私に押し付けてくる。これだから、この世界の女は嫌いだ。一年で簡単に育ちやがる……。


「じゃあ、出発組がそろったし、村の出口に移動しようか」


 私達は皆と共に西にある村の出口まで向かう。

 出口に到着した後、私とクレアさん、レイニー、メリーさん、バレルさんは並んだ。

 目の前にライトやシャイン、お父さん、お母さん、お爺ちゃんと言った今までお世話になった皆が並んでいる。


「皆、なんか、盛大にお別れみたいな雰囲気になっちゃってるけど、私は学園に行くだけだから、怖がらないで。三ヶ月後にまた会おう」


 私はしんみりした雰囲気を和らげるために、少し簡単に挨拶した。


「皆さん、一年間、本当にありがとうございました。私、ここの村と村に住む皆さんが大好きです。王都に帰りますが、また、必ず来ます。その時はまた、温かく迎え入れてください」


 クレアさんはボロボロと泣きながら、貴族らしくしっかりと喋り、頭を下げて挨拶していた。


「えっと……。一ヶ月も経っていないけど、ほとんど知り合いだし、改まって挨拶するのは恥ずかしいんだが……。俺は少し旅に出る。いつ帰ってくるかわからない。でも、必ず生きているから、心配しないでほしい」


 レイニーは男子特有の恥ずかしさを覚えているのか、頬を掻きながら苦笑いして呟く。


「皆……。うぅ、うぅぅ……。皆、大好きだよぉお……」


 メリーさんは一番大泣きしており、まともな挨拶もできていなかった。でも、皆に心は通じたはずだ。


「皆さん、こんな私を受け入れてくださり、ありがとうございます。まことに勝手ながら、しばし休養をいただきますことを、お許しください。ですが、必ず戻ってまいります。まあ、このような老骨に戻って来られても困ると思いますが、ここは私の第二の故郷だとすでに私の中で決まっております故、戻ってきた時に声をかけていただけると……」


 バレルさんは途中までよかったのに、最後の方でこらえきれなくなったのか、目頭を押さえ、男泣きしていた。それだけ、村の暖かさに触れて心が戻った証拠だ。


「えっと、牧場の皆を代表して僕が話します。姉さん、クレアさん、レイニー、メリーさん、バレルさん。皆さんの新しい旅路に僕たちがご一緒出来て、とても光栄です。僕はまだ九歳児なので、皆さんよりも大分若いですが、今、どういう気持ちなのか、だいたい察せます。辛い時、苦しい時が今後、必ず来るでしょう。ですが、僕たちは皆さんの帰りをここでずっと待ち続けます。何か悩んだら、気にせず帰って来てください。ともに暖かい牛乳でも一緒に飲みましょう」


 ライトはどこの会長だと言うくらい良い話をした。まだ、九歳児なのに貫禄が大企業の会長って……。


「レイニー、メリーさん、バレルさん。皆さんが少しでも安全に旅ができるように作りました。受け取ってください」


 ライトは小さな箱に入れた懐中時計をレイニー、メリーさん、バレルさんに手渡した。それぞれ、箱を開いていく。


「こ、これ……。懐中時計じゃねえか。こんな高い品……」


「いえ、僕が作ったのでタダです。でも、正教会に見つからないようにしてくださいね。なるべく似せてますけど、ちょっと作りが違うので」


「作った……?」


 レイニーとメリーさん、バレルさんは目を丸くして驚いていた。まあ、当たり前の反応だ。私だって、初めはああなったし。


「では、長くなっても野暮でしょうし、最後の一言……。皆さん、死なずに生きて帰って来てください」


 ライトは微笑み、体から光を発するくらいのイケメンオーラ全開で話した。


「『行ってらっしゃいっ!』」


 目の前にいる皆が、口をそろえて私達に元気が出る言葉を掛けて来た。身がビリビリと震え、大量の熱を感じる。


「「「「「行ってきますっ!」」」」」


 私達も元気よく大きな声で皆に元気を返した。その後、それぞれの荷台に乗る。


「レクー、行こうか」

「はいっ!」


「ビオタイト、準備は良いな」

「ふっ、愚問だ!」


 私とレイニーが御者を務めている荷台は二頭の親子のバートンによって動き出し、村を出発した。

 後方を少し振り向くと、村の皆が手を振っている。私達も手を振り、最高の出発ができた。


「うわぁああああんっ、うわぁああああああんっ! 帰れるのは嬉しいけど、村を離れるのが辛いよぉっ~!」


 クレアさんは我慢の限界だったらしく、大口を開けながら、ワンワンと泣いていた。


「ウェええええええんっ! うわぇえええええんっ! みんな、絶対に帰ってくるからぁ」


 メリーさんも大声で泣き、村での生活を思い返しているような視線を空に向ける。


「はぁ……。泣くなよ、こっちまで涙が出そうじゃねえか……」


 レイニーは皆から生きて帰ってきてほしいと言われ、胸に刺さったのか、目尻から小さな粒がほろりと零れていた。


「生きて帰ってくる……。なにがなんでもな……」


 バレルさんはローブのフードを深く被り、流れ出る涙と気づかれてはいけない顏を隠す。


「私も、皆の元気に負けないように頑張るぞっ!」


 私は一人、瞳に涙をためて上を向いた。涙はこぼさず、顔を笑顔にしてこれからの人生を必死に生きると開けた空に誓う。

 涙が溜まっているせいで、キラキラと輝いて見える青い空が滲み、雨が降っているのかと思うほど霞んで見える。顔を前に向けた途端、目尻からツーっと熱い雨が垂れ、まばたきをすれば、一滴二敵と溢れ出てくる……。


「は、はは……。な、泣かないようにって思ってたんだけどなぁ」


「キララさん……」


 クレアさんは私の顔に気づき、ムギュっと抱き着きてきた。


「うぅ、うわあ~んっ! どうしよう、滅茶苦茶寂しぃいっ!」


「そうよね、そうよね。私もそうだもの。でも、キララさんならきっと大丈夫」


 クレアさんの暖かい抱き着き攻撃により、私の涙はすっと引っ込み、心が温まる。

 鼻水を啜り、涙を飲み込むと心が落ち着いた。


「すぅ、はぁ……。危ない、危ない。心が乱れるところでした……。ありがとう、ございます。クレアさん」


 私はクレアさんに向かって頭をさげて、感謝した。


「レイニー、これからの進路は決まっているの?」


「そうだな……。ある程度決まっている。ただ、行ってみないとどうなっているかわからないから、行き当たりばったりなのは変わらないな。とりあえず、目的地にたどり着けるように努力するつもりだ」


「目的地って、バレルさんの故郷?」


「ああ。今のところはな。師匠の故郷にある奥さんと娘さんの墓に花を添えてくる」


「バレルさんは特殊な人間だから、レイニーたちが庇ってあげてね」


「ああ。わかってる。魔法やいろんな方法で検問を潜るさ」


「まあ、ほぼ犯罪だけど、仕方がないか……」


 私はこの犯罪にだけは目を瞑ろう。なんて、調子が良い人間なんだろうか。まあ、悪いことをするわけがないので、多めに見てもいいか。

 私達は共に街に向かった。街までは一緒に行ける。北方向に走っていくのも一緒だが、私はまだしなければいけない仕事が残っているので、レイニーたちとは街でお別れだ。


「お、お……。す、すっげぇ……」


 街の東門の門番をしている兵士のおじさんはレクーと姉さんの並びを見て驚いていた。普通のバートンより完全に大きいので驚くのも無理はない。


「おじさん、おはようございます。今日は王都に行く経由地にこの街を通るだけなので、荷台を調べる必要はありません」


「ああ、おはよう……。嬢ちゃんがそう言うなら、問題ないな。学園生活、頑張れよ」


 兵士のおじさんは微笑み、私を見送ってくれた。何だかんだ、あそこにずっといてくれるのはとても心が温まってよかった。安心感があるんだよね……。

 レイニーたちのバートン車も点検せずに通してくれた。仕事としては駄目だけど、信用してくれていると言うのがわかり、ちょっと嬉しい。


「じゃあ、キララ。俺達は先に行く。また、どこかで会おう」


 レイニーは姉さんを操り、北門に向かった。


「うん、元気でね~っ!」


 私は手を振り、レイニーたちの最後の立ち合い人になる。

 彼らの動向はどうなるかわからない。でも、きっと大丈夫。だって、強いもん。それ以外に何か心配しない理由はない。

 強ければ生きていける時代だ。強ければ、どんな逆境も乗り越えられると考えると、何とも脳筋な世界だなと思う。でも、それでいいじゃないか。いや……それでいいのか。弱い者も生き残れる時代じゃないと意味ないんじゃ……。

 私は色々考えたが、今考えても意味ないと思い、頬を叩いてバルディアギルドに向かう。


「キララさん。なんで、北門じゃなくて別の方向に移動しているの?」


 クレアさんは私の行動に疑問を持ったのか、訊いてきた。


「すみません、クレアさん。私はまだ仕事が残っていてですね……。今から、獣族の知り合いに会うんです。クレアさんは獣族に偏見を持っていませんよね?」


「ええ、別に気にしないけど……。キララさんに獣族の知り合いがいたの?」


「学園の試験の時に知り合って、帰ってくるときに一緒に学園に行こうと約束したんです。三月三〇日にバルディアギルドで待ち合わせしようって」


「そうなの。じゃあ、私も友達になれるかしら?」


「なれると思いますよ。ルークス語が得意な獣族の女の子なので、何も気にせず話しが出来ます。獣族の話しがルークス語で聞けるなんて結構珍しいですから、クレアさんも聞きたいことがあれば、聞いてみてもいいかもしれませんよ」


「わかったわ。何か、質問できることを考えておく」


 クレアさんは頭を小さく動かし、私の話しを理解していた。

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