女神様の乳は最高
「はぁ……。私と相性のいい相手はいないかなー」
「いますよ」
ベスパは、とてもはっきりと言う。
「え、いるの?」
「はい。さっきも言いました通り、この私です!」
ベスパは満面の笑みを浮かべながら翅をブンブンと鳴らしていた。
「『ファイア』」
私は指先をベスパに向け、火の玉を放った。
「ぎゃああああああああああああああっ!」
ベスパは燃え、散り散りになって消える。
「はぁ、これのどこが相性がいいんだか……」
私は溜息を吐き、なんだかんだ笑っていた。
私達はイーリスさんと共に、オリーザさんのお店に移動した。今日はお休みなのか、お店の前に休みと書かれた文字版が置かれている。
「すみませーん。コロネさん、イーリスです」
イーリスさんはお店の裏口から扉を叩いて声を出した。
「はーい。あ、イーリスさん。こんにちわっ!」
新妻のコロネさんはトルン君を抱きながら出てきた。トルン君は私が上げたおしゃぶりをしゃぶりながら大人しくしている。
「きゃぁ~っ! トルン君、こんにちわっ~!」
イーリスさんは赤ちゃんを見て母性を爆発させていた。トルン君の頭をなでなでして、先ほどは一切見せなかった溢れんばかりの笑顔を弾けさせている。
「こんにちは、コロネさん。トルン君の様子はどうですか?」
「あ! キララさん!」
コロネさんは私に気づき、目を輝かせる。どうも、体調が良さそうだ。しっかりと眠れたのかな。
「キララちゃん、もうね、すっごいの。トルン、哺乳瓶で粉ミルクを飲んだらすぴーってすぐ眠っちゃうんだよ。なかなか起きないし、ぐっすり眠れてるみたいで私達も疲れが取れるくらいしっかり眠れたんだよ!」
コロネさんはどうも調子が良いようで、ハキハキ喋る。
「それは良かったです。おしゃぶりも気に入ってくれているようですし、問題なさそうですね」
私はトルン君の手を握り、赤子の尊さをひしひしと感じる。
――くぅー、赤ちゃんを見ると、母性を刺激されてしまうのは全世界共通なのか。もう、赤ちゃんは可愛いの化身だよ。ほんと、可愛いが詰まっている。逆に、可愛くない部分が無い。
誰が見ても赤ちゃんを可愛いと言うだろう。この赤ちゃん、イケメンだね~。美人だね~。というより、可愛いね~というのが普通だ。この世界だと、妖精みたいだね~。となるわけだが、本当に妖精のようで可愛らしい。
「イーリスさん、小麦の件ですよね。夫を呼んできますね」
「はい。お願いします」
コロネさんはお店の中に戻り、オリーザさんを連れてきた。
オリーザさんとイーリスさんは仕事の話をささっと行い、パン生地を作って味見していた。
「うん、やっぱり、オリーザさんのパンは他のお店と一味違いますね。小麦の美味しさがしっかりと際立っています。今後もよろしくお願いします」
イーリスさんはオリーザさんに頭を下げた。
「ああ、任せてくれ。ネード村産の小麦は質が良くて最高なんだ。もう、手放せない」
オリーザさんはつるつるの頭に手を置き、イーリスさんの美貌に当てられていた。たわわな胸がお辞儀によって動くと鼻の下が伸びる。これだから、男は……。
横に立っていたコロネさんの鋭い拳がオリーザさんのボディーに炸裂した。
オリーザさんは腰を引き、顔を青くしていた。
「オリーザさん、なにを見ていたんですか?」
コロネさんは微笑みながらオリーザさんに訊く。表情があまりにも怖い。これが母親の強さか……。
「い、いや。何も見てない。イーリスさんの乳がモークルみたいでって、違う、違う!」
オリーザさんは大変いかがわしい考えをしているようだ。
コロネさんがオリーザさんの鬱憤を発散させていないからかもしれない。すぐにそう言う行為が出来なくなるのが出産というものだ。それだけ、子育ては大変なのだよ、男ども……。
「まあまあ、コロネさん。落ち着いてください。男は皆こんなものですよ。気にしても仕方ありませんって。男は目で、女は心で判断するわけですから」
私はコロネさんをなだめる。イライラは母乳の出に影響するので、心を穏やかにしてもらう必要があった。
「そ、そうですね。イーリスさんの胸を見ていたオリーザさんを見て少しむかっとしてしまいました……」
コロネさんは荒々しい呼吸を静め、穏やかになる。
「うぅ……。すみません、すみません。私の胸が大きなばかりに……」
イーリスさんは頭を何度も下げながら胸をタユンタユンと揺らしていた。彼女が無自覚なのはわかっているが、私はニッコリ笑顔の裏でにえたぎるマグマのような憤怒の感情を無理やり押し殺していた。もみしだいたろかわれぇえ~っ!
「イーリスさん、ちょっと相談したいことがあるんですけどいいですか?」
コロネさんはイーリスさんを見ながら言う。
「相談ですか? 私にできることならなんでも言ってください」
「ありがとうございます。えっと」
コロネさんはイーリスさんを連れてお店の中に入った。周りに聞かれたくない話しだったのかな。
「うぅ……。あんなデカくて揺れている乳があったら見ない方が無理だろぉ……」
オリーザさんは四つん這いになり、涙を流しながら床を叩いていた。
「……けっ」
私は乳と尻にしか目がいかないオリーザさんを見下し、そのまま、靴裏で頭を踏みつけてやろうかと思ったが思いとどまる。
少々私の考えが乱暴になってきていると反省し、私は乙女、私はまだ一二歳の清らかな女の子なのよ、汚らしい言葉を使っちゃいけないわ。などと頭の中で天使のような妖精を作り出し、花畑で飛ばす。
「オリーザさん、見てもいい乳は奥さんのコロネさんのと、この地に生まれたもののすべての母である女神様の乳だけにしてください。女神様の乳ならいくら見ても問題ありません」
「うぅ、女神様の乳か……。なんか、母親の乳を見ているようで気分が悪いんだよな。昔から見続けて来たし、今さら女神様の乳を見てもなぁ」
――女神様、可哀そう。というか、あんまりそう言うことを言ったらばちが当たりそう。
「オリーザさん、嘘でも女神様の乳は素晴らしと言っておいてください。女性は怒ると怖いんですよ。最悪、オリーザさんに天罰が下るかもしれません」
「…………め、女神様の乳は最高だぁ~」
オリーザさんは私の発言をしっかりと聞き、手を握り合わせながらとってもいかがわしい顏で声に出す。
「…………あ~っそうですかぁ。女神様のおっぱい確かに大きいですよねぇ~」
お店から出てきたコロネさんとオリーザさんの発言が完璧にかぶり、彼の声が奥さんに聞かれていた。
「ま、まて、コロネ……。い、今のは違うんだ。今のは女神様に不敬を働かないようにするためで……」
「オリーザさん、コロネさんと言う素晴らしい奥さんがいながら、女神様に浮気するなんて最低ですよ」
普段、優しいイーリスさんもオリーザさんの発言に引いており、目を細めていた。
「き、キララ、弁明を……」
「オリーザさん、女神様の乳をそんなふうに思っていたんですねぇ~」
私はむふふふっと微笑みながら、女性側に着く。これが女の怖いところだ。女は女側に着く。男達は覚えておいた方がいいだろう。
「そ、そんな……」
オリーザさんは神から見放されたような表情を浮かべ、崩れ落ちる。
私はオリーザさんにしっかりとトラウマを植え付けたところで、コロネさんとイーリスさんに弁明し、オリーザさんがズタボロになるギリギリで助ける。私ってS気質なのかな?
「はぁ……。オリーザさんも父親なんですから、はしたない姿は見せないでくださいよ。トルンに悪影響です」
コロネさんはすでに愛する者の一番がオリーザさんではなく、トルン君に入れ替わっている。以前と同じように猫みたく甘えてくれないとオリーザさんに知ってもらわなければ。
「は、はい……。すみません……」
オリーザさんは頭を下げ、しっかりと謝った。まあ、謝れる男なだけマシかな。謝れない男は選ぶ価値がないので、そんな彼氏を持っている者はさっさと切り捨てよう。
「で、イーリスさん。コロネさんの相談はかなえられそうですか?」
「ああ、はい。えっと、一応相談に乗りはしましたけど……、まだ考えるのが速いかなと」
「私に話せないようなことですか?」
「そ、そだね……。キララちゃんにはまだ早いかな……」
コロネさんは苦笑いを浮かべ、頬をポリポリと掻いていた。
――ははーん、そう言うことですか。ピンと来ちゃいましたよ。コロネさん、すでにセ『ビー音』がしたくてたまらない訳ですね。
私の心の中の声で、破廉恥な言葉がビーの音でかき消された。ピーじゃないんだから。
「まぁー、私はまずトルン君をしっかりと育ててからの方がいいと思いますけどねー」
「な、なんかキララちゃんに心が読まれている気がするのはなぜ……」
コロネさんは苦笑いを浮かべ、トルン君をゆさゆさと宥めていた。
「じゃあ、今日はこのままお暇させていただきます」
イーリスさんはコロネさんとオリーザさんに頭を下げる。
「はい。今日はありがとうございました」
コロネさんはイーリスさんに頭を下げた。
「ま、またよろしくお願いします」
オリーザさんもイーリスさんに挨拶し、商品の降ろしは終わった。
☆☆☆☆
「次に行くところはありますか?」
「今から、カロネさんの喫茶店に行って仕事と仕事終わりの一杯をいただこうかなと思っています」
イーリスさんは仕事終わりに一服したいタイプの方だった。
私は仕事の途中に一服したい人間なので、最後にカロネさんのお店に行くことは中々無い。
「なるほど良いですね」
私とイーリスさんはカロネさんが経営している喫茶店に足を運んだ。喫茶店の土地でレクーを止め、イーリスさんと共に喫茶店の中に入る。
「いらっしゃいませー。お二人ですか?」
メイド服調の制服を着ている可愛らしい女の子の店員さんが私達に話しかけてきた。
「えっと、カロネさんにイーリスが来たと伝えてきてください」
イーリスさんは店員さんに優しく話しかけた。
「わかりました。少々お待ちください」
少女は頭を下げ、トテトテと店内を小走りしながら厨房に向かった。私とイーリスさんは空いている席に座り、待つ。
八〇秒もしない間にカロネさんがやって来た。今は忙しい時間だと思うので結構焦っている。三時頃なので多くの者が一服するために喫茶店に足を運んでいるのだ。




