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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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似た波長

「ウロトさん、このボワの角煮、ものすごく美味しいです。もう、文句があるとすればウトサを使っていないことだけですね。それ以外は完璧と言ってもいいくらいです」


「はは、料理に完璧は無い。いつまでも探求しなければ、満足の行く品は作れない。だから、俺は良い品を使って料理を作るんだ。自分の満足いく品を作るために……。イーリスさんが作る品は俺にとってなくてはならない品なんです。これからも、末永くよろしくお願いします!」


 ウロトさんは告白ですか? と言いたくなる発言を連続し、イーリスさんの手を握り返した。


「う、ウロトさん……。つ、強いです……」


 イーリスさんの頬が少々赤らみ、視線を下げる。泣いていたからか、はたまたウロトさんの男らしさに当てられたからか。私にはわからないが、イーリスさんもウロトさんに悪い印象を持っているわけじゃなさそうだ。


「イーリスさん、いったん座って落ち着いてください。心から美味しい品を食べた時はじっくりと味わうのが大切です。そうした方がより一層食のありがたみを感じられます」


「そうですね」


 イーリスさんは椅子に座り、残っていたボワの角煮を口に入れて味わう。ものすごく美味しそうに食べるので、私の方も美味しく感じた。


「あぁ……。俺、料理人になってよかった……」


 ウロトさんは握られた手を頬に当て、はにかんでいた。乙女かっと言いたくなるくらい可愛らしい。結婚した形跡はなく、女性のイーリスさんに好意らしき気持ちを持っていることからして未婚。又はイーリスさんと同じく未亡人……。どちらもあり得るので、これからに期待したい。


「ウロトさん、味見役を頼むときはイーリスさんにお願いしたらどうですか? イーリスさんも美味しい品と美味しくない品はわかりますよね」


「そ、そんな。私は無理です。だって、美味しいと言う言葉しか出てこない頭なんですよ。美味しいを分解して表現できないんですよ」


 イーリスさんは自覚していたのか、私の申し出を断った。まあ、味見役はちゃんとした意見を言わないといけないのも確かだ。


「うーん、そうですね……。今まで食べた三種類の中で改善するとすれば、握り飯の中に角煮を入れるとかですかね。なんなら、焼き魚を入れてもいいですね。やっぱり、ただの握り飯だけだと味気ないので」


「なるほどな。わかった」


「あと、川魚のレモネソース和えは確かに美味しかったですけど、魚の触感がもったいないですかね。柔らかくて溶けるような味わいも嫌いじゃないですが、やっぱり獣族は歯ごたえがあった品の方が好きだと思うんですよ。氷で〆るとか、身の張りが残るような作り方をしてみたらもっと新鮮な味わいが出せるんじゃないでしょうか」


「確かに……。試してみる」


「最後のボワの角煮でこれ以上を目指すと言うのは難しそうですが、もっと上を目指してほしいですね。ボワの角煮だけではなく、色が濃い野菜が入っていると見栄えが良いと思います。緑、赤、黄、などの栄養がある野菜を上手く加えてください」


「ああ、わかった」


 ウロトさんは私に頭を下げ、品の向上を目指す。


「や、やっぱりキララさんは凄いです……。商品の販売だけじゃなくて助言まで……。ますます子供とは思えません……」


 イーリスさんは私の手腕を見て、目を輝かせながら呟いた。私だってそう思うさ。なんなら、ライトが本当に子供か疑わしいが、彼はちゃんと子供っぽいところが残っている。だが、私にそんな子供っぽいところがほぼ無い。だから、疑われるのかもしれないな。


「はは……。私はこうしないと生き残れなかったんです。だから子供心を無くして大人になっています。もう、子供に戻れません」


「そ、そんな……」


 イーリスさんは瞳を潤わせ、慈愛に満ちた表情で呟いた。

 私は別に子供に戻れなくてもいいのだが、子供だと思っているイーリスさんにとっては可哀そうな対象に見えるのかも。


「イーリスさん、今、私は凄く楽しいので何も悲しまないでください。人生は楽しく生きた者が勝ちなんです。どんな人生を送ろうとも、最後の最後、楽しかったーっ! って言って死ねたらいいんですよ。子供の内の数年は辛い出来事ばかりでしたが、今は楽しいで満ちています。イーリスさんも楽しいで満ちてほしいんです」


 私はイーリスさんに一二〇パーセントの笑顔を見せた。


「ほんと、笑顔だけは子供のまま……」


 イーリスさんも微笑み、とても綺麗になった。

 私とイーリスさんはウロトさんに食べ物のご褒美として可愛いを送ることにした。


「ウロトさん、今日も一日頑張ってくださいっ! 応援しています! 私は、ウロトさんの料理が大好きでーすっ!」


 私は手でハートを作り、満面の笑みを浮かべながらウロトさんを褒めまくる。


 ウロトさんは「ぐふっ!」と声を上げ、私の可愛さに心臓を打ち抜かれていた。


「う、ウロトさん。今日はありがとうございました。料理で多くの人を幸せにしてあげてください。私もウロトさんの料理が大好きになりました」


 イーリスさんは恥じらいながら両手でハートを作り、微笑んだ。


 ウロトさんに刺激が強すぎたのか「ぐはっ!」と叫びながら吹っ飛んで行った。やはり、好みの違いで威力が変わるみたいだ。


「だ、大丈夫ですか!」


 イーリスさんはウロトさんに駆け寄り、抱き寄せる。


「は、はい……。し、心配いりません。つ、疲れが吹っ飛んだだけです……」


 ウロトさんは鼻から血を流し、頬を赤らめて呟いた。


「疲れているのなら休まないと駄目ですよ」


 イーリスさんはハンカチを取り出し、ウロトさんの鼻血を止め、乱れた髪を手で直すように撫でた。その姿が良い子良い子しているようで、親と子共みたいに見える。


 ウロトさんは今にも昇天してしまいそうなほど心地よさそうな声を「あぁ……」と出した。


 私は苦笑いを浮かべながら、そんな光景を視界にとらえていた。ポケットから懐中時計を取り出し、蓋を開けた。午後一時だ。集合時間まで三時間しかない。


「イーリスさん、もう行かないと時間がありません」


「あ、そうですね。じゃあ、ウロトさん。このハンカチは差し上げます」


 イーリスさんは立ち上がり、私のもとに掛けて来た。


「あ、あぁ……。女神様……」


 ウロトさんから見たらイーリスさんの背後から光りが差し込む状態になっていた。その影響もあってか、彼女を女神と誤認している。まあ、イーリスさんは女神と言ってもいいぐらい可愛いので間違いじゃない。


「ウロトさん、恋にかまけていて仕事をないがしろにしないように」


 私は釘を一本刺しておき、ウロトさんの仕事をしっかりとしてもらう。


「あ、ああ。わかってる……」


 ウロトさんはコクリと頷き、立ち上がった。

 私とイーリスさんはウロトさんのお店を出て、レクーの元に戻る。荷台の前座席に乗り、次のお店に向かった。


 ☆☆☆☆


「ショウベリーズ。ここにもまた来てしまった……」


 私はショウさんのお店にやって来た。イーリスさんのお得意様だ。まあ、お菓子を作るために小麦は必須だ。質がいい品を求めるのは当たり前。


「すみません、ショウさんはおられますか?」


 イーリスさんはお店の裏口から声をかける。


「はい、あ、イーリスさん。こんにちわ。店長ですよね、少々お待ちください」


 ショウさんのお店で仕事している菓子職人の方が扉を開け、イーリスさんの顔を見た後すぐに店長を呼びに行った。


「イーリスさん、お待ちしておりました。ネード村からわざわざありがとうございます」


「いえいえ、ショウさんのお店で小麦を沢山買ってもらって私達も助かっているので、本当ありがとうございます」


 イーリスさんは慣れた口調でショウさんに頭を下げる。昔は私が持って来た話しだったが、今では自分一人だけで仕事が出来るようになっていた。やはり人は成長するんだな。

 ショウさんのお店はあっという間に仕事が終わった。大量の小麦を倉庫に移し、お金をもらうだけだ。ショウさんもイーリスさんに惚れてるんじゃないかなと思っていたが、どうやら違うらしい。美人な女性ばかりの職場だから、イーリスさんの美貌に耐性があるのかも。


「では、ショウさん。また八日後に伺います」


 イーリスさんはショウさんに頭を下げる。


「はい、お待ちしております」


 ショウさんは頭を下げ、イーリスさんを見送った。

 私達はレクーが引く荷台の前座席に座り、移動した。


「えっと、イーリスさん。ショウさんはどう思いますか?」


「え……。ショウさんですか? そうですね……。いい方ですよ。でも、女性に興味なさそうな雰囲気がしますね。お菓子が相当好きなんでしょうか」


 イーリスさんはショウさんに魅力を特に感じていなかった。まあ、好みのタイプじゃないんだろうな。


 ――なるほど、なるほど。イーリスさんは王子様系じゃなくて騎士系が好みと……。


「なにを分析しているんですか……」


 ベスパは私の脳内に突っ込みを入れてきた。


 ――イーリスさんの好みの分析だよ。イーリスさんが好きな男性に会えるように好みを把握しておけば、この人、イーリスさんに良さそうって、すぐにわかるでしょ。


「よくそんな面倒なことが出来ますね……。大概、匂いや雰囲気、相性というもので分かりますよ」


 ベスパは虫だからか、相性がいい相手を見つけるのが上手いのかもしれない。だから、恋愛ベテランのような発言をしていた。


 ――じゃあ、イーリスさんにあった男性は誰なの?


「そうですねー。ウロトさんが相性がいいと思いますよ。波長が似ているので」


 ――あぁ、やっぱりそうなの? 適当に言ってない?


「言ってませんよ。魔力の質の話しになりますが、波長があってですね、キララ様だと質が良くて波が多く安定しているんです。その波長が合う者が居心地の良い相手になります。なので、私とキララ様の相性は抜群! なんせ、全く同じ波長なんですからね!」


 ――私のスキルなんだから当たり前のことを言わないの……。で、その波長がイーリスさんとウロトさんで似ていたと。


「はい。似ていました。仲がいい者はだいたい波長が似ています。逆に好きではない相手は波長が違います。加えて物凄く仲が悪い相手は正反対の波長になっている場合が多いです。でも、逆に相性がいいとも言えます」


 ベスパは魔法の相殺方法と似たような話しをしていた。同じ魔法を打ち付け合った場合、強い魔力の方が優位になる。全く同じなら打ち付け合って相殺されるのだ。仲が悪いと言うのは質が違う魔力同士がぶつかって相殺することの例えだろうか。

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― 新着の感想 ―
初めてイーリスさんをウロトさんのところへ連れてきた時は人妻に手を出すのは犯罪!狙うな!って言ってたのに熱い手のひら返しですね
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