若い二人
レイニーとバレルさんは剣の鍛錬を再開した。やはり、メリーさんの姿がカッコよくなったことで破廉恥さが消え、鍛錬に集中できるようになったようだ。
私もメリーさんに感化されて一緒に走った。ランニングは誰かと一緒に走った方が頑張れる。そのため、メリーさん一人で走らせるより、丁度良い力加減の私も一緒に走った方が効率が良いと考えたのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
私もメリーさんと近しい恰好で走る。私とメリーさんの体は真反対といってもいい。
私はブラジャーなんて付ける必要もないほどまっ平な胸。スポーツブラと言うか、もう、ただのインナーな、気もする……。くびれはあり、お尻は小さい。脚も細く、メリーさんの二分の一くらいだ。
まあ、年齢差と身長差があるので仕方ないと言えばそれまでだが、メリーさんは私の体を羨ましいと言う。私の体のどこが羨ましいと言うのだろう。
どこに羨ましがられる要素があるのだろう。
私が堂々と自慢できるのは顔と髪、魔力量、頭脳くらいだ。あとはメリーさんに劣っているのに。
「メリーさん、私、いろんな女性に羨ましがられるんですけど、なにが羨ましいんですか?」
「え……、だって、キララちゃんは妖精みたいなんだもん」
「でた、その例え話し。妖精みたいと言うのは褒め言葉なんですか?」
「当たり前だよ。妖精っていうのは土地に住まう神様の分身と言うか、化身というか、ともかくありがたい存在なの。加えて物凄く可愛くて誰からも愛される存在なんだよ。森の民って言う種族が物凄く美人が多いのは妖精と拘わりが深いからとか言われてるの。まあ、全部絵本の中で知った話だけどね」
メリーさんは微笑み、走りながら私に教えてくれた。
「なるほど……。皆さんの中で可愛いは妖精と言う認識なんですね」
――人形みたいと言う日本の褒め言葉と同じか。まあ、こっちの世界は海外に似てるのかな。でも、別に嬉しくねぇえ~! だって、妖精ってぺったんこな胸に小さなお尻で小柄な存在じゃん! 私からすれば嫌がらせに聞こえるんだけど!
「よ、妖精が可愛いっていうのはわかりましたけど、妖精みたいって他の人にも使いますか?」
「うーん、妖精みたいは最大限の可愛いと言う表現だから……。普通の人に使えないかな。だって、胸が大きくてお尻もふっくらした大人に可愛いって言わないでしょ。どっちかと言えば綺麗って言うんじゃないかな。だから女神様みたいって言うのが最大限の褒め言葉だよ」
メリーさんは胸に手を当てながら言う。
「なるほど……。なるほど……。可愛いと言う言葉は誰にでも使う訳じゃないのか……」
――現代の日本じゃ、どんなものにでも可愛いって言っておけばいいみたいな風潮があるから感覚が狂っていた。おじさんにすらかわいい~っていう時代だもんな。この世界の人からしたらおじさんが妖精みたい~、って良いっているようなものか。いや、きもいな。
私は自分の感性と異世界の感性が違うことを知り、おじさんに向って可愛いですねなんて言うへまをせずに済みそうだ。周りがそんなことを聞けば、私が一気に浮くだろう。
「じゃあ、メリーさんは女神様みたいですね」
「えへへ……、そ、そうかな~。私もそろそろ大人の色気が出て来たかな~」
メリーさんは女神様みたいですねと言われて物凄く嬉しそうにしていた。実際の女神様を見た覚えがある私からすれば、メリーさんは十分女神様のようだ。
でも、駄女神はもっと子供っぽくて大して大人ではない。なんせ、仕事をいつも滞納するくらいの駄女神さだ。メリーさんの仕事っぷりの方がよっぽど大人なので、すでに女神を超えている。
「メリーさんは十分大人ですよ。まあ、今の話を聞いたら妖精みたいと言われてもムカつかなくなりました」
「あぁ、でも……。胸とお尻が小さな人に言う煽り文句みたいな意味もあるから……」
「……俄然ムカついてきましたっ!」
私はメリーさんのデカいケツを追いかける。
「わ、私は本当に可愛いって言う意味で使ったよ!」
「本当に! って言うと嘘っぽく聞こえるんですよっ!」
私はメリーさんに追いつき、抱き着く。汗でぬるぬるムチムチの肌に腕が付き、私達は倒れ込む。
「はぁ、はぁ、はぁ……。さ、最後の最後で全力疾走をするの、死ぬぅ……」
メリーさんは草原に倒れ、仰向けになりながら夕暮れの空を見ていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。そ、そうですね……。つ、疲れました……」
私も久々に全力で走り、メリーさんの隣に倒れ込むように寝転がった。
「メリーさん、走った後は少し歩いたほうが良いので、もう一度立ちましょう」
「えぇ……。今から立つの……。も、もぅ、立てないよぉ~」
メリーさんは手足を動かし、駄々をこねる。こういうところは子供っぽい。
「はぁ、メリー。情けない恰好で駄々をこねるなよ。みっともない」
レイニーも鍛錬を終えたのか、メリーさんに手を差し出す。
「レイニー。鍛錬、終わったの?」
「ああ、今日のところはもう終わりだ。メリーもよく頑張ったな」
レイニーはメリーさんの手を握り、引っ張って立ち上がらせた。
「レイニー、お疲れ様~。ぎゅっとして疲れを癒してあげるね」
メリーさんは汗だくの状態でレイニーに抱き着いた。
「ちょ、俺は汗だくだから……」
「私も一緒だから同じだよ~。はぁ~、レイニーの匂いがする……」
メリーさんはレイニーの胸に額を押し当てる。
レイニーの身長が一八〇センチメートル近いのでメリーさんとの身長差が三○センチメートルほどある。身長差カップルの尊さは異常だ。まあ、カップルじゃないが、いずれそうなってほしいと言う願望はある。
「キララさん、お仕事お疲れ様でした」
バレルさんも額にほどよく汗を掻いて戻ってきた。
「バレルさんもお疲れ様です。えっと……」
私はメリーさんみたくバレルさんの体にぎゅっと抱き着いた。
「バレルお爺ちゃん! お仕事お疲れ様。凄くカッコよかったよっ!」
どうも私はバレルさんの娘とよく似ているそうなので誤認してくれればいいと思い、行った。まあ、さすがにお父さんと呼ぶのは忍びないのでキラリさん(バレルの娘)の娘役でもしようかということでお爺ちゃん呼びだ。
「はは……、いやはや、参りましたね……」
バレルさんの身長も一八〇センチメートル近いので私と四〇センチメートルほどの差がある。バレルさんの体から加齢臭はせず、働き者の男性っぽい匂いがした。まあ、嫌いじゃない。お父さんと似た感じだ。
バレルさんの威厳溢れる表情が緩み、孫娘に甘々のお爺ちゃんになっていた。
「じゃあ、メリーさん。私は村に戻ります。鍛錬、頑張ってくださいね」
「うん、レイニーとバレルさんの足を引っ張らないように頑張るよ」
メリーさんはレイニーに未だに抱き着きながら頷く。
「ちょ、メリー。もうそろそろ良いだろ。体調も良くなったからさ」
「えぇ~、もうちょっとこうしていようよ~。ほらほらぎゅ~っと」
メリーさんは胸を光らせ、レイニーの体を優しく包む。
「あぁ……。あったけぇ……」
レイニーはほわほわした表情を浮かべ、日向ぼっこしているようなまったりした声を出す。
「メリーさん。スキルは使えば使うだけ強くなるので、寝るときレイニーに抱き着きながら眠ってください。そうすれば、レイニーの疲労回復だけじゃなくてメリーさんのスキルを強くすることも出来ます」
「そうなんだ。じゃあじゃあ、今日から毎日ぎゅって抱きしめながら寝るね」
「か、勘弁してくれ……。お、俺が持たん……」
レイニーはメリーさんをぐっと押し、身を放す。やはりまだまだ高校生くらいの年齢なので、幼さが残る反応だった。
レイニーも案外可愛いところがあるんだね。と言ってしまいそうになったが、ぐっと留まる。あのまま行ってしまったらレイニーは妖精みたいだねと伝わってしまうところだった。
「えっと、レイニーも案外子供っぽいんだね」
「な……。き、キララに言われたくねえよ」
レイニーはそっぽを向き、スタスタと施設に歩いて行った。素直じゃない所がまさしく子供なのだけど。
「もう、待ってよレイニー。一緒にお風呂はいろうよ~」
メリーさんはレイニーの腕を掴み、肉食系女子ばりにグイグイ攻めていた。本当は草食系なのに頑張ってるな。
「まったく、若いとは良いですね……」
バレルさんは腕を組みながら微笑んでいた。
「バレルさんも十分若いと思いますけどね」
「まあ、そう見えるだけですよ。中身はもう年老いているんです」
バレルさんは若い二名を見ながら微笑み、後ろに着いていった。何とも大人な対応。大きなおっぱいに目を盗まれていたルドラさんとは大違い。
「さて、私も帰りますか」
私はレクーが引く荷台に座り、村まで帰った。いつもより街を早く出たつもりだったが、森の中で鍛錬をしていたので少々遅くなってしまった。でも、午後八時に帰ってこれたのは珍しい。
「ただいま~」
「お帰り……。って、キララ、何その恰好。素肌、見せすぎでしょ!」
お母さんは私のランニングスタイルを見て両肩に手を当てる。
「あ、これは走りやすい恰好で、別に恥ずかしい恰好じゃないよ」
「そ、そうだとしても、まだ子供なんだから、そんな素肌を曝した服を着ちゃいけません」
お母さんはエプロンを私に掛けて来た。
「な、なんか逆に駄目ね」
お母さんは私の姿を見たあと、エプロンを外した。なにが駄目なのか、私にわからなかった。
とりあえず、手洗いうがいをした後、そのままの服装で食事を得る。
「お姉ちゃん。ものすごく動きやすそうな服装だね。動きやすい?」
シャインは私の服装をじっくり見ながら訊いてきた。
「うん。凄く動きやすいよ。まあ、私は胸が無いからシャインよりも、もともと動きやすいんだけどね……」
私は食事をとりながら、自分で言って自分で落ち込む。
「お姉ちゃんの服、私も着てみたい」
「良いよ。ベスパ、シャインにも作ってあげて」
「了解しました」
ベスパはシャイン用のスポーツブラと軽い上着、短パンを作って持って来た。シャインのスポーツブラは私の品より完全に大きい。
「よっと」
シャインは私が渡した服に居間で着替える。まだ、家族に体を見られてもなんとも思わないらしい。
「おおぉ~っ! ナイトブラよりもしっかりと抑え込まれている感じがする。これなら、普通のブラジャーよりも動きやすいよっ!」
シャインは身を動かし、体の軽さを体験していた。
「運動するときは軽い服装でもいいと思うけど、鍛錬とか危険な動きをする時は体に傷がつかないように防護する品をつけてね」
「は~いっ!」
シャインは嬉しそうに飛ぼ跳ねる。ポインポインと跳ねる胸が憎たらしいが、妹に嫉妬してどうすると言う姉のプライドを内に秘め、ぐっと堪えた。
「姉さん、明日はデイジーちゃんのところに行く予定なんだけど、一緒に来る?」
ライトは食事をとりながら私に訊いてきた。




