デイジーちゃんの帰る日
そして、デイジーちゃんの帰る日がとうとう来てしまった…。
デイジーちゃんの帰る日…それは5月の最終日だった。
「デイジー帰らないで~! もっといっぱいお喋りしたかったよ~!」
シャインが珍しく駄々をこねてる…。まぁ…デイジーちゃんはシャインにとって初めてできた友達だからね…。…そりゃ恋しくもなるか…。
「大丈夫だよ、シャインちゃん。私達いつでも会えるよ! だってすぐ近くの村だもん」
「うん…絶対に会いに行くから。どうせなら、7日後の休みに会いに行く」
「うん、待ってるね。あ、それとも私から会いに行った方が良いかな。もう道も覚えたし」
――いやいや…そんな近いわけでもないんだし…。よくさらっと言えるよ…。この村からデイジーちゃんの村までレクーが全力で走っても日が15度くらい傾くよ…。よく考えたら…デイジーちゃんが仕事中疲れているところ一回も見たことない…。ホントにどういう体力してるんだろ。
「じゃあね、ライト君。また遊んでね!」
デイジーちゃんはとびっきりの笑顔をライトに向けるのだが…。
「あ…う、うん…もちろん…」
ライトはデイジーちゃんと目を合わせること無く、表情筋が引きつっている…。
――7日間以上一緒の家に住んでたんだから、ライトとデイジーちゃんはもっと仲良くなると思ったんだけどな…。やっぱり男の子と女の子は違うのかな…。
「デイジーちゃんが帰っちゃうなんて…寂しくなるわね。デイジーちゃんのお母さんに『よろしく』と伝えてね」
「はい! 分かりました」
「何かあったらすぐ相談しに来るんだぞ。マンダリニア家一同はデイジーちゃんの味方だ」
「はい! ありがとうございます!」
「それじゃあ…お父さん、お母さん、私はデイジーちゃんを連れて一度街まで行ってくる。デイジーちゃんのお母さんと弟君をネード村まで送ってあげないといけなから」
「そう…分かったわ。でも、気を付けるのよ! 無理しちゃだめだからね!」
「は~い! 分かってるよ。夕食までには帰ってくるから…多分…」
「はいはい…分かったわ。ちゃんと夜食には帰ってくるのよ」
「はは…夜食って…そんな遅くならないよ…多分…」
――仕事ばっかり手伝ってもらっちゃって…デイジーちゃんにはホント…助けられたな…。何かお礼しないと。
☆☆☆
今…私達は日に照らされながら、何もない一本道をゆっくりと走行していた。
「今日はよろしくね、ウシ君!」
人を運ぶということで、少しゆっくり走行の方がいいと思いウシ君に荷台を引いてもらうよう、お願いした。
「いきなり呼び出されてとうとう食われるのかと思ったら…、バートン車のまねごとかよ…」
「もう、いつまで捻くれてるの。貴方にもちゃんとした仕事があるんだから、そう簡単に殺したりなんかしないよ! 何回いったら分かるのかな…」
「キララ様、性格というものはそんな簡単に変わるものではないですよ。私もキララ様も性格を変えることは中々難しいと思います」
「正論はいいの!」
「キララさん…やっぱり誰かとお話してるよね…。いったい誰がいるの? 牧場にいるときも、ずっと誰かと話してるし…」
――あ…隠すの忘れてた…。まぁ、別にデイジーちゃんなら知られても大丈夫だと思うけど。
「えっとね…私、動物とか昆虫とかとお話しできるの…。相手が意識を持っている場合に限るけど…」
デイジーちゃんは口と目をあんぐり開けて、驚きのおの字すら出てこない様子だ。
「す…凄い! いいな~! 私も動物さんたちとお話したいです! それじゃあ、さっきモークルに話しかけてたのは会話してたってことですか!」
デイジーちゃんは興奮して太鼓を叩くように手を胸の前でブンブン振っている。
――そんなに振ったら腕が引きちぎれちゃうよ…。
「さっきモークルに話しかけていたのは…モークルの言葉が分かるから…。あの! キララさん、私もモークルとお話ししたいんですけど、いいですか!」
「もちろんいいけど…何を聞きたいの?」
「えっと、えっと…何してるときが一番楽しいか…とか、いつも何を考えているのか…とか!」
「だってさ、ウシ君。何してるときが一番楽しいの?」
「そりゃあ、雌モークルと交尾してるときだろ…」
「………えっとね、散歩しているときが楽しいって」
「へ~そうなんだ! じゃあじゃあ、いつも何考えてるの?」
「何考えてるの…ウシ君?」
「いつ死ぬのかずっと考えてるよ…」
「………食べ物のことを考えてるんだって」
「へ~やっぱりモークルも食べるのが好きなんだ~、凄い凄い!」
――この牛…なんてことを考えてるんだ…。純粋無垢なデイジーちゃんに聞かせられないようなことばっかり言いやがって…。
その後も、デイジーちゃんからの質問は止まらず、いくつもの質問をウシ君にしたが真面な回答は1つも無かった。
「はぁはぁはぁ…。デイジーちゃん…今日はこのくらいにしておこう。ウシ君も疲れたって…」
「そうなんだ…残念」
――あからさまに残念がるデイジーちゃん…、ごめんね…今までの質問…全部私が考えた答えで…。
レクーよりもまったりした速度で進むウシ君のモークル車は、地面の凹凸によってガタガタと揺れる。
振動はそれほど大きくないが、木の板に座っているとお尻に響いてやはり痛くなってくる…。
日が45度ほど傾いた頃…。
「ほら見てデイジーちゃん、もう街が見えてきたよ。やっとお母さんと弟君に合えるね」
「うん! 早くお母さんにいっぱい、いろんな話をしてあげたいんだ!」
「きっと喜んでくれるよ。さ、ウシ君安全走行でお願いね」
「へーい…」
私達は、街の門へと到着した。
いつも通り門の横に立っている兵士のおじさんは、口をあんぐりと開けていた。
「おじさん! 今日はしっかりとゆっくり走行しております! 」
私は以前に兵士のおじさんから高速走行を叱られてからというもの、移動速度には気を付けている。
その頃からおじさんとはちょっとした挨拶をする仲になっていた。
しかし、今日は様子がおかしい…、おじさんの開いた口が塞がらない。
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