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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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変わる良さ

 私はショウさんの技術が王都の中で見ても結構上位だと、王都に行ったからわかっていた。彼の作るケーキやお菓子は芸術品のそれだ。もう、飾っておきたいと思うくらい綺麗なので、さぞかし有名な方のもとで修業を積んだのだろう。どれだけスキルで細かい作業が得意だとしても、知識がないと作れない。


「ショウさんって王都の中でも指折りの菓子職人だったんじゃないですか?」


「ど、どうしてそう思うんですか?」


「私、王都で三カ月暮らしました。その時、お菓子もたくさん見てきたんです。でも、ショウさんと同じくらい綺麗なケーキに全然巡り合えなくて……。ショウさんの腕は超一流ですよね。こんな田舎の街で働いていいような人材じゃないと思いまして」


「はは……。ま、まぁ、師匠はそこそこ有名な菓子職人だったので……。それなりに技術は得られました。でも、スキルに頼ってばかりで……。師匠との力の差に嫌気がさして自分で修行に出るなんて言って、今に至ります」


 ショウさんは王都で人気の菓子職人だったが人気過ぎて疲れたのと師匠との力の差に嫌気がさして王都から逃げて来たと言う。なるほどなるほど……。まあ、師匠がすごすぎると弟子も大変だよね。


「ショウさんの作るケーキがとても美味しい理由がわかりました。師匠のケーキを見ればショウさんの師匠だとすぐにわかると思うんですけど、王都で全然見受けられませんでした。師匠はどんなお店で働いているんですか?」


「師匠はお店を持っていません。適当に作って適当に売って生活しています」


「……なんですかその流浪民みたいな菓子職人」


「はは、ほんと王宮に仕えていれば一生安泰なんでしょうけど『それじゃあ菓子は一生同じ味だ。そんなのはつまらない』と言って行き当たりばったりな生活を選んでいるそうです」


「なるほど……。わからなくもない」


 ずっと同じと言うのもいいが、変わり続ける良さもある。ショウさんの師匠は変わり続けるのが美徳だと考えているのか。


「じゃあ、探すのは難しそうですね。私、学園に受かったのでお菓子作りの勉強もしたいなーなんて思っていたんですけど……」


「キララさん、学園に受かったんですか。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「聞いていいのかわからないですけど、どこに受かったんですか?」


「ドラグニティ魔法学園に受かったのでそこに行きます」


「……ど、ドラグニティ魔法学園。超名門じゃないですか! 貴族だらけの血みどろな争いが行われる超危険地帯じゃないですか!」


 ショウさんは興奮しながら話していた。案外、熱い方なので興奮すると止まらない。


「ショウさん、落ちついてください。私はちゃんと視察もして来たので血みどろな学園ではないことくらいわかります。噂をうのみにするのは危険ですよ」


「あ、あぁ、すみません。ちょっと取り乱しました……。でも、すごいですね。さすがライト君のお姉さん。ライト君が話し出すとキララさんの話しばかりし始めるので仲がいいのも羨ましいです」


「はは……。まあ、ライトのおかげもありますね」


 私は頭に手を当て、苦笑いを浮かべる。


「合格のお祝いにケーキを持ってきますね」


「え、良いんですか?」


「そりゃあ、キララさんの合格をお祝いしないなんて罰当たりな真似しませんよ。私は、キララさんが女神の化身だって考えていますから。まあ、それくらい神々しいってことです。キララさんは女神様に愛されていそうなので」


 ――な、なんか絶妙に合っていて怖いな。


 私はショウさんにお祝いとしてケーキをごちそうになった。先ほど食べたケーキは本当に小さかったが、今、私の目の前にあるのは八等分された『ショウのケーキ』ではなく、ホールケーキだった。これ一個でいくらするんだと思いながら、目を輝かせる。

 純白の生クリームを纏い、真っ赤な宝石のような大粒のベリーが八個ほど乗っている。


「これくらいしか私に取りえが無いので、ぜひ小さなご褒美に受け取ってください」


「うぅ、まさか、こんなに大きなケーキが食べられる日が来るとは……。では、いただきます!」


 私はフォークを持ち、フワッフワのスポンジ生地にフォークを突き刺した。


「あぁぁ……。うっめえぇえぇぇぇ……」


 美味しすぎて舌が震える。その影響で喉まで震えてしまった。じんわりと涙が滴り、一口一口食べるたび、幸福感が増して行く。

 丁度お腹が減っているし、甘味が超控えめなのでくどくならず、いくらでも食べられてしまう。もう、今の私にとっては本当に丁度良い甘さだ。

 モークルから出た素材と果実の甘味のおかげで私の舌をうならせている。これくらいの控えめな甘さが一番いい。甘党には申し訳ないが、甘過ぎたらお菓子じゃなくて砂糖だ。


「あぁ、あぁぁ……。って、もうない」


 私は幸せを噛み締めていたはずなのに、いつの間にか無くなっていた。王都の民に売れるか知らないが、私なら毎日買う。ベスパに並ばせて絶対に買う自信がある。美味すぎて泣くお菓子なんて滅多に出会えないのに、今食べていたと思うと感慨深い。


「ショウさん、さすがですね……。こんなに美味しいお菓子を作れるなんてやっぱりすごいです……」


「いやいや、私なんて素材に助けられているだけです。素材がいいからその味が出せるんですよ。なので、本当にすごいのはキララさんの方です」


 ショウさんは技術を謙遜し、笑っていた。


「ショウさん、このお菓子はビースト共和国から来るお偉いさんにも出した方がいいです。きっと喜びます」


「ああ、その話しはスグルさんから聞いてます。飛び切りいいお菓子を作ってくれと言われましたが、獣族の方に喜んでもらえるお菓子と言うのがなかなか難しくてですね……。獣族の方々はお菓子を滅多に食べないので何を作ればいいかずっと悩んでいるんですよ」


「なるほど……。なら、牛乳や生クリームが主体のお菓子を作ったらどうですか? 獣族の方達の方がモークルの乳はなじみ深いはずです」


「牛乳や生クリームが主体のお菓子ですか。確かに獣族の方々は牛乳や生クリームが多く使われたお菓子を買っていく傾向にあります。その考えを貰ってもいいですか?」


「はい。もちろんです」


 私はショウさんに向って頭を下げる。


「では、案を練って試作します。出来ればキララさんに試食してほしいんですけど……」


「私でいいなら、喜んでします。丁度、ウロトさんのお店にも試食を頼まれていまして、三月三〇日に獣族の知り合いと合流して試食する約束をとったんです。その日に試食に来てもいいですか?」


「わかりました。三月三〇日までに試作を仕上げておきます」


 ショウさんは頭を下げ、やる気をみなぎらせていた。やはり菓子職人なのか、良い品を提供したいと言う気持ちが表情で見て取れる。


「あ、長々と話していましたけど、素材を下ろすの忘れていました」


「あ……。本当ですね。いや、キララさんと話すと楽しくて忘れてました。ライト君の時はいつも仕事の話しから入るので忘れたりしないんですけどね」


 ショウさんはライトの仕事の速さを思い出したのか、苦笑いを浮かべていた。

 私はショウさんに発注票を渡し、商品を倉庫に降ろして行く。

 ショウさんからお金をもらい、配達が終了した。

 全体で一時間くらいかかり、菓子職人さん達の休憩になったことだろう。私はビー達に魔力と言う報酬をしっかりと配る。


「では、確かに商品を卸しましたので、今日のところはしつれいします」


 私はショウさんに向かって頭を下げてお店を出る。


「はい、三月三〇日にお待ちしています」


 ショウさんも頭を下げ、私を見送ってくれた。


 ☆☆☆☆


 私はレクーが待っている広場に歩いて向かう。


「はぁー、美味しかったなー。私もあれくらいのお菓子が作れるようになりたいよー」


「素材はあるので作ろうと思えば作れますが?」


 ベスパは私の頭上に飛んできて易々と言う。あまりにも簡単そうに言うので、少々むっとした。


「ベスパ達なら作れるかもしれないけどね、私は作れないの。心を込めて作った品とそうじゃない品は全然違うからね。ベスパ達は無心で作ってるでしょ」


「まあ、虫だけに」


 ベスパは上手いことを言ったと心の中で思っているのか、ドヤ顔が物凄くうざい……。燃やしてやろうかと思ったが、冷静になった。


「美味しい品は心が籠っているの。たとえ見た目が悪くとも、心が籠った品の方が温まるものなんだよ。わからないかな」


「んー、理解しがたいですね。心を込めると言う行為がどの虫にもできないですから」


「確かに……。まあ、子孫を反映させることしか能の無い虫にはわからないか……。でも、理解してくれればもっと良い品が作れると思うんだけどな」


「まあ、そうですね。でも、買うものは皆、ショウさんが作ったと思っていますから、何も思いませんよ。現に、多くの菓子職人の方がお菓子を作っていましたからね」


 ベスパはそれを言ったらおしまいということを呟いた。


「でも、菓子職人の方達はお客さんに美味しいお菓子を食べてもらいたいと思って全力で作っているよ。そうだ、ベスパ達も今度から作る品を全部私に献上する品だと思って作ってみたら? そうすれば、誰が見ても心が籠っている品になるよ」


「なるほど! キララ様に献上する品だと思って品を作れば心が籠った品になるのですね。それなら簡単です! 私達の命を全てかけてでも最高の品を作り上げたいと言う思いを込めまくります!」


「……お、重い」


 私はベスパの想いが重すぎると言うことに気づき、あまり心を込められすぎるるとメンヘラが作ったバレンタインチョコレートのような憎悪があふれ出ていそうな品になりそうで身が震える。


 私達はレクーが引く荷台の前座席に座り、引っ張られる。そのままオリーザさんのお店まで向かった。この時間帯なら比較的人数は少ないはずだ。


 オリーザさんのパン屋さんの前に来ると案の定、いつもよりも人数が少ない。

 レクーを道のはじに止め、私はお店の中に入る。


「いらっしゃいませー」


 一人の女の子がお店の中におり、見覚えがあった。


「君、教会の子?」


「はい! レイニーがパン屋さんの仕事を辞めると聞いて代わりに私達が行うことになりました」


 少女はパン屋さん特有の長袖長ズボンを着ている。とても可愛らしい。


「そうなんだ。子供達で頑張ってレイニーの仕事をこなしてね」


「はい! レイニーの分も私達が頑張って働きます!」


 少女の熱量は大きく、子供の仕事っぷりがとても発揮されていた。元気な挨拶に商品の説明、美味しさを表現する笑顔などなど、子供が相手だと大人は可愛く思ってしまいついつい買ってしまうのだ。

 私も気付けば板の上にパンが八個ほど乗っていた。少女の可愛らしい口車に乗ってしまい、あれもこれも板に乗せてしまったのだ。


「まあ、高すぎるわけじゃないし、なかなか来られなくなると思うからこれくらい買うか」


 私はパンが八個乗った板を受付に持って行く。

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