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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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新種の魔造ウトサ

「はあ……。わかりました。しっかりと飲ませてもらいます。あと、次からはちゃんと買いますね」


「ありがとうございます。またの来店をお待ちしております」


 カロネさんは満面の笑みを浮かべ、私に頭を下げて来た。商売がうまい方だ。

 私はコーヒー豆が入った紙袋を持ち、お店の外に出た。レクーが待つ荷台のもとに移動し、荷台の前座席に乗る。珈琲豆を荷台の中にしまい、少しばかり珈琲の後味に浸っていた。

 透き通る青い空がとても綺麗で、吹き抜ける春風も温かく心地よい。


「あぁ……。いい時間だぁ……。銀貨八枚の珈琲を飲むのも悪くないなぁ……。じゃあ、レクー。騎士団に向ってくれる」


「わかりました」


 レクーは脚を動かし、大通りを通って騎士団に向かった。

 騎士団に牛乳を配達するわけではなく、私はスグルさんに用があるのだ。以前送った新しい魔造ウトサの解析がそろそろ終わったのではないかと考えたのだ。


「はっ! そりゃっ! せいやっ!」


「そんな動きじゃ、クソデカいブラックベアーに太刀打ちできないぞ! もっと本腰を入れろ!」


「は、はいっ!」


 新しく配属された騎士達と元から駐屯している教官がグラウンドで訓練していた。もともと駐屯していた騎士達は他の仕事に向っているのか、グラウンドにいない。まあ、新人研修のような感じだろう。三月の始まりごろから騎士団に配属されるのかな? 別にどうでもいいか。


 私は初々しい騎士達を横目に騎士団の入り口に向かう。今日は倉庫の方ではなく、堂々と入口から入って行った。


「ベスパ、スグルさんの研究室に移動してくれる」


「了解しました」


 ベスパは建物内を散策し、スグルさんがいる研究室を探し当て、私の前を飛んで教えてくれた。


「ここです」


 ベスパは中々質のいい扉の前に私を連れて来た。


「おお……。前より、更に質が上がってる。もしかして昇格したのかな?」


 私は扉を叩き、名前を言った。


「すみません、キララです。スグルさんはいますか?」


 私が名前を言うと扉がガラガラと空き、頬が欠けてげっそりしたスグルさんが顔を出した。


「あぁ……、て、天使が目の前に……」


 私の姿を見てお迎えが来たのかと勘違いしている秀才の研究者ことスグルさんは跪いて両手を握り合わせる。どうも、仕事が忙しいようだ。


「こんにちはスグルさん。残念ながら私は天使ではありません。なんなら、仕事をお願いしている悪魔ですよ」


「…………」


 スグルさんは泣きそうになりながら立ち上がる。私も中に入り、椅子に座った。


「スグルさん。だいぶお疲れですね」


「ああ……。もう、疲れが溜まっていてね。仕事量が昔の数倍になって辛いどころじゃないよ」


 スグルさんは大量の資料が積まれた仕事机に額を当て、ぼそぼそと呟いた。


「ちゃんと寝ていますか?」


「寝れたらこんなにげっそりしないよ……。後輩が失敗した尻拭いとか、街の発展に助言したりとか、俺がしないといけない仕事じゃない所で無駄に時間が取られて……」


 スグルさんはなまじ優秀な方なので仕事を回されてしまう。加えて優しい方なので断れないようだ。このまま行ったら普通にうつ病になりそうなくらい辛そう……。


「仕事を休んでも良いんですよ。そうしないとスグルさんの方が壊れてしまいます」


「もう、壊れてもいいよ……。壊れたら仕事をしなくて済むんだ……。このまま、誰かにぐさりと殺されても……。って、お、俺は何を考えているんだ。死ぬのは嫌だ」


 スグルさんは頭を振り、冷めきった紅茶を飲む。


「はぁ……。まっず」


 スグルさんはカップを机の上に置き、呟いた。紅茶の渋さが冷めたことにより強調されてしまったのだろう。


「スグルさん、休むのも仕事ですよ。わかってますか?」


「休めたら休んでるよ。でも、今、ものすごく忙しくて休めそうにないんだ……。数日後にビースト共和国のお偉いさんも来るし、ライト君の影響でビースト語が話せるようになってしまった手前、俺が相手しないといけなくなったし……。はぁ……、なんで俺はこんなに仕事ができてしまうんだ……」


 スグルさんは仕事が出来るからこそ悩んでいた。仕事が出来なければ面倒な仕事は確実に回ってこない。本来嬉しいはずの仕事が回ってくる状況だが、数が容量を超え、スグルさんと言う人間を押しつぶすほどに膨れ上がっていた。


「仕方ないですね。仕事、手伝いましょうか?」


 私は自分でも仕事が出来る方だと自負している。だが、子供の私に仕事を任せていいのかはスグルさんの判断次第だ。


「ほ、本当かい! キララになら、安心して任せられる!」


 スグルさんは立ち上がり、私のもとに沢山の素材や食べ物、飲み物を持って来た。


「多くの店が販売許可を求めて来た品々だ。これを調べて纏めてほしい。えっと、まず安全かどうか。安全なら問題ないけど、危険ならどこが危険なのか。値段の相場や販売相手なんかも事細かに書いてほしい。ここに書いてほしい表があるから、これを見て判断して。技術が必要な部分は俺がするから」


「なるほど。簡単な部分を私に任せると言うことですね。それなら、おやすい御用です」


 私に簡単な作業をさせたら右に出る者はいない。簡単な作業に数で勝てる相手はいないだろう。

 私が抱える従業員はすでに計り知れないので、あっと言う間に仕事を終えられるはずだ。調べる部分はビーやベスパに任せ、私は羽ペンで記載していく。


「そりゃそりゃそりゃそりゃそりゃそりゃそりゃっ!」


 私は資料を見ずに羽ペンを動かす。ビーが調べ、別のビーが考え、ベスパが考えをまとめ、理解した私が書きこんでいく。

 私は読んで書くだけと言う簡単な作業を終わらせ、ざっと四八品の仕事を終えた。


「す、すご……」


 スグルさんは私が仕事を終え、資料と書き記したメークル皮紙を差し出すのを見て口を閉じないくらい驚いていた。


「私、単純作業が得意なんですよ。なので、すぐに終わりました。まあ、すぐと言っても八〇分かかってますけどね」


 私は懐中時計を開き、時間を見た。すでに一一時を超えており、お腹が空いてきたころだ。


「えっと、少しは楽になりましたか?」


「あ、ああ。楽になったどころか、飲みに行く余裕ができるくらい時間が出来そうだ……」


「飲みに行かないですぐに帰って寝てくださいね」


「そ、そうする」


 スグルさんは小さく頷いていた。


「こんなに大量の仕事があるのに、スグルさんに面倒な仕事をお願いしてすみません」


「あの話しか……」


 スグルさんはとても嫌そうな顔をした。私だってしたくないが、せざるを得ない。そうしないと、世界が危ないのだ。


「私が渡した資料は調べてくれましたか?」


「調べた。以前の魔造ウトサととてもの似ていたが、魔法の種類が少々違った。別の魔法を組み合わせて作った魔造ウトサなのだろう。あんな品をいったいどこで見つけたんだ?」


 スグルさんは机に肘を置き、息を吐きながら訊いてきた。


「王都から西に行った森の泉で見つけました。別種族の魔物同士が交尾していて……。完全にやばい物質だと思って持って来たんです。最近、新種の魔物が頻繁に発見されていますし、何か繋がりがあるんじゃないかと思いまして」


「なるほど、確かに可能性は高い。液体に溶けた魔法は以前の魔造ウトサと同じものに魅了の魔法が新たに加わっていた。どう考えても食用で作られてない。何を魅了するのか謎だ」


 スグルさんは頭を振り、理解できない魔造ウトサにお手上げの状態だった。


「今回も正教会が作った品で間違いないでしょうね。加えて、正教会の利点にしかならないことも確実です。つまり、私達にとっては害悪でしかない」


「そうだな……。あまり知りたくないが、この成分が多くの場所でばらまかれたらと思うと恐怖でしかない。思考能力が落ち、欲求のみが前に出てくる。もう、人間ではなく獣のに変わるだろう。匂いだけでも危険だ。研究の時、汚水から成分だけを抽出した品の匂いを嗅いだら股間が爆発しそうになった」


 スグルさんは少女の前でなんて下品なことを言うのだろうか。まあ、実際に起こったら恐怖なのは間違いない。


「私が知りたかったのはその魔造ウトサはライトが作った特効薬で消せるかどうかです」


「ああ、消せる。ライト君が作った特効薬で検証積みだ。ほんと、俺も特効薬を持っていなかったらエロ爺みたく娼婦に飛びついていただろうな」


 スグルさんは腕を組みながらウンウンと頭を縦に動かしていた。


「……」


 ――スグルさん、私が子供だと思って話しているんだろうな。


「大人が効果を受けるならまだしも、子供に効果が現れたらひとたまりもない。急激な心拍数の上昇で心臓が止まる可能性もある。と言うか、子供が盛る姿なんて誰も見たくないだろ」


「絶対に駄目ですね。そんなの情報ニュースで流せません!」


 今の地球はとんでもなく厳しいんだから、そんな映像が流れたら速攻で凍結されちゃう。

 通常の魔造ウトサが子供にも効果があったことを考えると、新しい魔造ウトサも効果があると考えた方がいい。大人が盛っている姿すら見たくないのに、子供なら最悪だ……。なにがなんでも蔓延を阻止しなくては。正教会もなんでこんなものを作ったのか……。


「魔造ウトサの製造方法が変わっていないのなら、新しい効果が盛り込まれたなんて信じられない。もう、とんでもない領域に到達している。人外なんじゃないかって程だ」


 スグルさんは苦笑いを浮かべながら話し出す。


「今年の聖典式で賢者が現れましたし、その子に色々お願いしているのかもしれません」


「賢者か……。あり得る。なんなら、聖女もいるし、正教会の本領をこれでもかと発揮できる。聖女ほど奇跡を上手く扱える者はいない。人々の体調を悪くさせ、聖女に治させる。そのまま、お金を巻き上げるなんて言う荒業も可能だ」


「なるほど、だから、危険な魔造ウトサを使っても正教会は何もダメージを負わないんですね。たとえ、狂暴な魔物が現れても勇者や剣聖が倒せるし……。何なら、魔王にも勝てる。悪魔も倒せる。すでに、正教会の力が他を圧倒している気がするんですが……」


「勇者や剣聖、剣者、聖女を抱えているだけでルークス王国の中でも権力は随一だ。だが、その四名を引き付けて置けるだけの説得力が必要になる。人を傷つけたり、危険な目に合わせているような正教会の本心を知れば、離れてくれるかもしれない。奴らは良い顏して四名を騙していると推測できる。なんせ、勇者と剣聖は一二歳、賢者と聖女は一〇歳だ。そんな子達に何が理解できる?」


 スグルさんは睡眠が足らない脳で必死に物事を考えていた。

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賢者が現れたのは1/8で、ホーンピドゥが現れたのは1/7の夜だったはず。 去年から既に開発は成功していたってことだから賢者は関わってないかも?
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