教会に報告
「私だって特段目立ちたくて目立っているわけじゃないからね。あと、キラキラしている私は私じゃないから」
私は仕事とプライベートで性格を切り分けている人間なので、キラキラしている方の私は別の人格だ。二重人格と言っても過言じゃない。だって、あんなキャラが本心ですなんて思われたら恥ずかしすぎる……。と言うか、私が耐えられない。
「えぇ……、ね、姉さん。二人いるの……」
ライトは頭がいいのか悪いのか、勝手に勘違いしていた。
「いや、私の性格の話だからね。ライトが仕事中と遊びで感情が違うでしょ。あれと同じ」
「あぁー、なるほど。仕事状態と遊び状態で性格が違う訳ね。理解したよ」
ライトは物分かりが良いのであっと言う間に理解してくれた。
私とライト、お母さん、お父さんが食事をしている間、シャインは起きてこなかった。きっと夜遅くまで問題と悪戦苦闘していたんだろうな。
夜更かしは効率が悪いからしない方がいいと言っておかないと。
私達は仕事に向かい、いつもの日常を過ごした。久しぶりのまったりした時間で、こんな毎日が続けばいいのにと思わざるを得ない。でも、こんな日々もあと八年で世界の終末を迎えたら送れなくなるのだと思うと、ほんとどうなるかわからないな。
「今と言う平和な時間をたっぷり味わっておこう……。この先、どんなことがあってもこの平和を取り戻すために努力するんだ……」
私は仕事後に河川敷に寝転がり、穏やかな春風と優しく照らす日の光を浴びる。
「キララ様、今から努力するべきでは……」
ベスパは私の顔の前に飛び、苦笑いを浮かべながら訊いてきた。
「今はご褒美の時間。今まで努力してきたから……、まったり過ごすの……」
私は寝返りをうち、ベスパの言葉に耳を塞ぐ。
河川敷に植えられたレモネの良い香りが風に乗って鼻腔を擽った。眠気が冷めるような爽やかな香り。今年も豊作だな……。
「あぁー、釣りでもしたい気分~」
私は靴と靴下を脱いで、川に足を入れ、バタ足をするように動かす。雪解け水があまりにも冷たく、頭がキーンとするくらい足が冷えた。眠気はあっという間に飛び、午後の仕事を手伝う。
☆☆☆☆
三月一三日に帰ってきた後、四日間仕事して過ごした。
やっぱり私は牧場の仕事が好きなのか、すごく心地よい日々だった。と言うのも、村が最高だ。田舎暮らしが好きな私にとって平和で静かな村がとても居心地が良かった。だからこそ、牧場の仕事も楽しいのかな。
三月一八日、私は教会に向かった。神父と女神に受験が上手く行ったことを伝えに行くのだ。
日が出るか出ないかと言う位の早朝、田舎の村にある建物と考えればとても綺麗な教会に到着し、私は教会の扉を叩く。
「おはようございます」
扉をあけ、中に入ると早朝だと言うのに起きている神父がいた。灰色髪の目が開いているのか開いていないのかわからない糸目の男性だ。白いローブを羽織り、デルタのような首飾りを掛けている。
「おや、キララさん。おはようございます。今日はどうしたんですか?」
「帰って来てから教会に来ていないなと思いまして。受験の報告を神父様と女神様にしに来ました」
「そうですか。女神様もキララさんからの報告を楽しみにしておられますよ」
「はは……、そうですかね」
――たまった仕事のし過ぎで私のことなんて見てないでしょ。
「神父様に言っておきますね。私、ドラグニティ魔法学園に受かりました」
「おぉ、おぉぉ……。す、すごいですね。ルークス王国一と名高いドラグニティ魔法学園に村の少女が受かるとは。スキルも超強い訳ではないのに……。さすが、キララさんです」
神父は驚きを隠せないのか、いつも閉じているようにしか見えない糸目を開け、綺麗な瞳を出しながら身を跳ねさせる。案外子供っぽい。
「私だから受かったわけじゃないですよ。私が努力したから受かったんです」
私は腰に手を置き、無い胸を張りながら堂々と答える。
「そうですね。確かに、キララさんが努力したから得られた結果です。でも、努力出来たのはキララさんだからですよ。とても素晴らしいことです」
神父は私を褒めてくる。彼は私が失敗しようが成功しようが、褒めるのだろう。女神様は誰にでも優しとか言って。
私は椅子に座り、両手を握り合わせる。そのまま、駄女神に祈った。
ざっと八分ほど祈っていると頭の中がボーっとしてくる。ほぼ、瞑想のような状態だが、少し違った。目をそっと開けると辺りは靄になっており、何度か来た覚えがあるよくわからない場所だ。でも、ここに来たと言うことは彼女もいるかもしれない……。
そう思っていたら、前方から走ってくる者がいた。
「キララちゃ~ん、会いたかった~」
前方から超大きな乳をバルンバルンと揺らし、ムチムチなお尻を震わせながら走ってくる駄女神が飛び込んでくる。
私はなすすべなく、駄女神に抱き着かれ、巨大な乳の谷間に顔を埋めた。
「うぐ、うぐぐぐぐぐ……。し、死ぬぅ……」
「あぁ、キララちゃん。ごめんなさい」
駄女神は私をさっと離した。もう、世界の美を集約したと言っても過言じゃないほど美女の駄女神の姿がありありと見える。
「はぁ、女神様。私、学園に受かりました。それを言いに来ただけなので、もう、返してください」
「えぇ~、せっかく会えたのにもう帰っちゃうの~。女神に会えるなんて超好待遇なのに~」
駄女神はキャバ嬢のような無駄に高い声を出し、私に乳を擦り付けてくる。私の乳を大きくすることも出来ない全知全能の駄女神は私にどんな好待遇してくれたと言うのだろうか。
「えっと、キララちゃんのおかげで世界の終末はまだ八年だよ。王都に魔造ウトサが散らばったままだったら、普通に一年もせずに世界は終わってたね~。危ない危ない~」
駄女神はほんと何も出来ないのか、私頼り過ぎると言うか、世界が終ろうとしていたのに乗りが軽すぎる。
「えっと、世界が終わったら女神様はどうなるんですか?」
「そうだな……、仕事を首になって宛ての無い道を放浪することになるかな」
「つまり死ぬってことですね?」
「そう言うこと~」
駄女神は満面の笑みを浮かべながら話す。
「神様も死ぬんですね」
「まあ、死ぬと言うか、神の位から人間に代わるのかな。だから、世界が終わったら私も別の一生を得るんだよ。今の記憶は無くなるけどね。でもでも、今、死んじゃったらキララちゃんのライブを一生見れなくなっちゃうでしょ。そんなのは嫌だからさ、世界の終末を食い止めてね」
「自分でしてくださいよ……。なんなら、異世界から別の勇者でも呼んで食い止めてもらってください」
「それが出来たら話は早いんだけどさ~。そう簡単にいかないんだよね~。もう、魂の移動を二回くらい行っちゃってるから数百年は無理かな」
「……二回?」
「あ~、何でもないよ。キララちゃんは気にしないで」
女神は視線を斜め四五度に向け、白々しく呟く。何か隠していることは明白だったが、訊いても仕方がない。
「はぁ……。ともかく、世界が終わるのが八年後なのは変わらないんですね。それならよかったです……。って、よくないか。原因を取り除かないと回避できないんですか?」
「うん。終末の原因を取り除かないと何度も何度も世界が終わりかけちゃうの。だから、地球で言うところの生き仏のキララちゃんに頑張ってもらいたいな~、なんて神一同思っているわけだよ」
駄女神は結局私頼りなのか、ゴマをけっこうすってくる。
「私はただの村娘ですよ。そんな私に何しろって言うんですか。世界を救うのはいつだって勇者とか、剣聖とかって相場が決まっているんですよ。村娘が世界を救うなんて話はあり得ませんっ!」
私は仕事を私に投げ出そうとしている駄女神に怒る。
「うぅ……。キララちゃんを聖女にしちゃえばよかった~」
駄女神は私に抱き着き、揺れる。この女性にスキルを与える権限を与えた上司の神はもう少し真面な者にした方がいい。私情でスキルをぽいぽい与えちゃうやばい神はさっさと辞めさせるべきだ。
でも、私は大きな役割を持たされることなく、生活できている。
「はぁ、命拾いしました……」
「キララちゃん、スキルが強くなる話を森の民(フリジア学園長)から聞いていたね」
「見ていたんですか?」
「ちょっとね。あの話しは本当だから、スキルをジャンジャン使ってもっと強くなってね」
駄女神が言うのだから本当なのだろう。やはり、スキルを使えば使うほど強くなるようだ。
「多くの者がスキルを使っても強くなったように感じないのはなぜですか?」
「そりゃ、使う回数じゃなくて時間の方が大切だからね。どれだけ長い間使ったのかが強化される条件だよ。キララちゃんの場合は常時発動しているからそりゃあもう、強くなって行くよね。もともと魔力を生み出す力が強くなる体にキララちゃんの魂を入れたのは正解だったよ」
駄女神は赤子もちょっと弄って作れるようだ。ほんと、神様って怖いな。
「はぁ……。この体、一度死にかけてますよね。でも、そのおかげで私は過去を思い出したわけですけど」
「そうだね。でも、結果、良い感じになっているんだからいいじゃん。気にしない気にしない~」
駄女神はヘラヘラ笑い、ふわふわの長髪が靡くほど頭を振りながら言う。
やべぇ、殴りたくなってきた。
私の拳に力が入り、超美人な顔をゆがめてやりたいと言う欲望が芽生える。
「キララちゃん、学園合格おめでとう。何か欲しいものとかある? 私、キララちゃんに送り物でもしたいな~って思っているんだけど」
「胸をください」
私は欲しいものと聞かれて、即答した。胸、胸、胸……。とりあえず胸。
「…………」
駄女神は顔を固め、すーっと立ち上がった。
「私! 仕事が残っているから行くねっ~!」
駄女神は私を置いて、全力疾走した。
「ちょっ! まてぇえ、この駄女神っ! 私にそのでかい胸をよこせぇええっ~!」
私は全力で走ろうとしたが、足が無いことに気づく。
「キララちゃんの魔力量を神獣も従えられるくらいに上げとくからぁ~」
駄女神は颯爽と走り、私の視界から消えた。どうやら、私の胸は女神でもどうしようもないほど絶壁のようだ。
「はぁ……」
私が溜息をつくと、現実世界に戻って来た。あれは夢なのか現実なのか、どっちなのだろう。無駄に疲れている気がする。
「キララさん、どうかしましたか?」
神父は私の顔色を窺っていた。
「いえ……、ちょっと疲れまして」
――駄女神と話すと疲れるんだよな。無駄に魔力を使っているような感覚に似てる。なんだろう、鍛錬後みたいな……。そんな感覚だ。
「なら、ゆっくりして行ってください。時間がゆっくり流れるのがこの村の良い所ですから」
「ほんとですね……」
私は長椅子に寝転がり、軽く二度寝する。この村に来てから寝てばかりいるような気がするな。




