癖のあるパーティー
「メリーさん、すみませんでした。私、メリーさんの気持ちを全然考えられていませんでした。もっとメリーさんの気持ちになれればよかったんですけど……」
「ううん、キララちゃんが教えてくれたからレイニーが旅に出るって知れたし、レイニーがどこかに行く前に気持ちをしっかりと伝えられた。だから、ありがとう」
メリーさんは大きな乳を私に当てながら抱き着いてきた。とても優しくて包容力のある体で羨ましい。でも、好きな相手に振りむいてもらえないと言うのは何とも悲しい現実だ。こんなエロイ体をした美人な優しい女がいるのに、なぜレイニーは靡かないのか……。
――あぁ、レイニーはメリーさんよりもエロイ体をしていて美人で超優しい女の人が好きなんだった。ううぅ、メリーさんの勝ち目は何パーセントなんだ。
私はメリーさんの巨大な乳を存分に堪能しながら抱き着いていると、レイニーとバレルさんがやって来た。
「メリーさん、あなたは『包容力』と言うスキルを持っているんでしたね?」
バレルさんは私に抱き着いているメリーさんに訊いた。
「え……。あぁ、はい。持っています」
「『包容力』はどれくらいの効果があるかわかりますか?」
バレルさんは続けて質問した。
「え……。そ、そうですね……。眠気を取ったり、疲れを解消させたり、傷を癒したりできます。どれくらいの効果があるのかはまだよくわかりません。でも、風邪を引いた子を治したりもできます」
「なるほど……。冒険者の業界では回復系のスキルや魔法が使える者は貴重な人材なんです。回復系の者がいるだけで冒険者パーティーの生存率が大きく上がる」
「へ、へぇ……。そ、そうなんですか?」
メリーさんはバレルさんの発言に少々とまどっていた。メリーさんは冒険者なんかに微塵も興味が無いのだ。
「メリー、バレルさんが回復系のスキルや魔法を使える者がパーティーに欲しいんだってよ……。だから、その……。俺について来てくれないか……」
レイニーはあまりにも恥ずかしい手の平返しをして来た。
どうも、メリーさんの発言に心動かされたレイニーはバレルさんに認められたのか旅に同行してもらえるようになったのだろう。
だが、バレルさんの要望により回復系スキルや回復魔法が使える者が欲しいと言われ、メリーさんに白羽の矢が立ったわけだ。
レイニーはメリーさんにちょっとカッコよく別れを決めたと言うのに、すぐ戻ってきて勧誘してきた。でも、メリーさんは行かないと言っていたので、なんて発言するのか……。
「わかった!」
メリーさんは満面の笑みを浮かべ、二つ返事で了承した。
――手の平返しのオンパレード……。行きたくないんじゃなかったんかい。
私は相手の心を読むのが上手いと自負していたがそう言う訳でもなかったようだ。
「えっと、えっと、ほ、本当に私、レイニーについていってもいいの? 邪魔にならない? 手伝えるの?」
メリーさんは耳と尻尾が生えていれば完全に犬に見える。尻尾をブンブンと振りながら大好きなご主人様に舌を出してハアハアと言っている状態と大差ないほど興奮している。
メリーさんの興奮状態にさすがに引いているレイニーは少し離れ、彼女を落ち着かせた。
「まあまあ、落ち着け。メリーの力はとても貴重だ。回復系スキルは神から中々もらえないらしい。だから、あまり見つからない。お前がいるだけで俺は死ににくくなるわけだ。まあ、お前が危険に陥ったら……俺が絶対に守る」
レイニーはメリーさんの肩に手を置き、頬を赤らめながらはっきりと言った。
「……ふっ、カッコつけちゃって」
メリーさんはレイニーの動揺した表情を見ながら、くすりと笑った。
「か、カッコつけてねえし。ただただ本心を言っただけだし」
レイニーは年相応に恥ずかしがっており、メリーさんから視線を反らして呟いていた。
「バレルさん、レイニーとメリーさんを旅に連れて行ってもいいんですか?」
私は近くで微笑んでいるバレルさんに訊いた。
「レイニーの素質は本物です。心を入れ替えると言うのは物凄く難しい。今の私は簡単に出来ません。でも、レイニーは出来てしまった。さっきまで自分の命を投げ捨てても叶えたい目標を熱く語って来ていました。ただ、女性に強い言葉を言われ、心を入れ替えた」
バレルさんはレイニーとメリーさんの姿を何かと重ねるような優しい目をしていた。
「どうも、似ている。昔の私と幼馴染に……」
バレルさんは過去の自分とレイニーを重ねている様子だった。
「似ている……。そうですかね。バレルさんの方が八倍はカッコいいですよ」
「ははっ、キララさんはおだてるのが上手ですね」
バレルさんは前髪を掻き揚げ、苦笑いを浮かべていた。いやいや、冗談じゃなくて本心なんですけどね。
バレルさんの方が大人の色気を醸し出していてカッコいい。別に私がおじさん好きと言う訳ではなく、苦労や楽しさ、悦びを沢山経験し、人間味が増しているから味のある人間に見えているだけだ。
「冗談を言っているつもりはないですよ。バレルさんはカッコいいです。まだまだ結婚も夢じゃないですよ」
「結婚はもう十分です……。妻と娘に申し訳が立ちませんし、彼女以上の方が見つかるとも思えません」
バレルさんは未だに妻を愛しているようだった。もう、何十年も前に亡くなった方を今でも愛しているなんてとても強い精神力……。さすが元剣神。
「えっと、その幼馴染さんは……」
「幼馴染と言うか、私と旅に出たいと言ってくれた者なんですけどね……。もう亡くなりました。私が旅から帰って来た時に村が魔物に襲われていて……」
バレルさんは視線を空に向けた。何十年も前の話だろうけれど、あまりにも酷だ。
「……」
バレルさんは何て壮絶な人生を送っているんだろうか。ものすごく癒してあげたい。
私がもう少しおばさんならバレルさんと結婚してもいいと思えるくらい彼は疲れていた。そんなバレルさんが自分の姿を重ね、後悔した経験からレイニーとメリーさんをくっ付けたのかもしれない。
つまり、バレルさんは幼馴染の方を旅に連れて行かなかったことを後悔していると言うことだ。未練があったんだろうな。
「メリーさん。たとえ回復要員だとしても多少の力は付けてもらわなければ足手まといと変わりません。とりあえず走って体力をつけてください。回復要員は力よりも体力と俊敏性さえあれば問題ないので鍛錬で補えます」
バレルさんはレイニーとキャッキャしているメリーさんに話かけた。
「ど、ドジな私でも出来ますかね……」
「メリーは本当にドジだからな……。何もないところで転ぶし。スカート、すぐにめくれてパンツ丸出しになるし……」
レイニーは視線を背けながら微笑み、メリーさんを弄った。
「わ、悪かったわね。ドジで……。自分でもわかってるよ、ドジなことくらい……」
メリーさんは自分の力に自信が持てないのか、肩をすぼめる。
「ドジだろうが弱虫だろうが鍛錬の前に関係ありません。やるかやらないか。それだけです」
バレルさんは老人特融の精神論を持ちだし、メリーさんの肩に手を置いた。
「は、はい! とにかく走ります!」
メリーさんはバレルさんの横を通り、走り出した。
「ふぎゅっ!」
メリーさんは地面の窪みに足を取られ、顔面からずっこける。大きなお尻を突き出し、人間滑り台になっていた。
「…………」
私達は開始八秒でメリーさんのドジっぷりを目の当たりにした。
――だ、大丈夫だろうか。
私はメリーさんの今後が心配になった。誘ったレイニーも酷そうな顔になっている。バレルさんも苦笑いを浮かべ、鍛錬の手ごたえがありそうだと言わんばかり。
前方で戦うバレルさん、魔法や剣術が双子レベルに近いレイニー、回復役のメリーさんと言う何ともバランスがいいパーティーが誕生した。
ただ、齢六〇歳を過ぎ、七〇歳に到達しようとしている老剣士のバレルさん。大きな使命を自分に背負い込ませ、死地を巡ろうとしているレイニー。多くの男を魅了し、自分より神々しい女が大好きなレイニーを好いているメリーさんと言う、癖が強いメンバーでもあった。
まあ、途中までは三人パーティーだが、バレルさんが故郷に到着したら目的地が変わり、別れるはずだ。その時、メリーさんが帰ってくるのか、はたまたレイニーについていくのか。
私はわからないが、きっと無事に帰ってくる。そう信じて生活していくしかない。彼らの実力はほんものだ。冒険者パーティーとして登録できないのが残念なほど強い。まあ、バレルさん抜きでパーティーを作ってもらってもいいけど……。
私は三名の姿を見て、微笑む。これから死地に向かうと言うのに生き生きしていたのだ。そんなに楽しいことでもあるのかと思うほど、笑っている。
若い男同士だったら少し問題になりそうだが、バレルさんが一歩引いてレイニーとメリーさんを見ているので二人の発展しか考えられない。よくなるか悪くなるかしかないわけだ。私もぜひ近くで見たかったが来月には学園に入学しなければならないので見られない。残念だ。
レイニーとメリーさんはバレルさんから基礎訓練を受けるそうなので、仕事をこなしてから仕事終わりに辛いダッシュや筋力の鍛錬を繰り返す。もともと牧場の仕事は大変なのでメリーさんもそれ相応の力を身に着けていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。はぁ、はぁ、はぁ……」
メリーさんが走ると大きな大きな胸が弾む。男どもの心はもっと弾んでいることだろう。
「走りつかれても走れ。足が縺れても走れ。走って走って走り続けろ!」
バレルさんは鬼教官と言う言葉が似合うほどビシバシ指導していた。相手が女だろうと容赦せず、全力で指導している。相手が可愛い子だと少々甘くしたくなるものだが、バレルさんは死線を生き抜いて来た冒険者だ。そんな甘いことを許してくれるわけがない。
「ぐぐぐぐ……。私もレイニーのために頑張るんだ……」
メリーさんは何度転んでも立ち上がり、走って走って走り続けた。初っ端からそんなに飛ばして大丈夫かと思ったが、バレルさんの指導は投げやりではなく、相手の体も考慮されていた。
「レイニー、メリーの体を解してあげなさい」
バレルさんはレイニーに命令する。
「え、俺がですか……」
「レイニーは、あなた以外にいないでしょう。運動後の解しは重要な仕事だ。怠ってはならない。疲れの取れ方と残り方が全く違う」
「わ、わかりました」
レイニーは倒れているメリーさんの体を解す。背中を押したり、足を広げさせたりと言った具合にストレッチを手伝っていた。




