ついて行きたくない
ライトとクマタロウのコンビは中々に強い。
なんせ、遠距離のライトの攻撃を掻い潜っても近接戦で物凄く強いブラックベアーが待ち構えているのだ。つまり、魔法と物理攻撃が得意じゃないとライトを攻略することは不可能。なかなか鬼畜なコンビだ。
ライトはクマタロウの背中に乗ると、あっと言う間に寝落ちした。日差しで温まったクマタロウの背中と言う極上のベッドがあまりにも気持ちよかったのだろう。あのライトが気を許せるほどクマタロウは信頼されているらしい。
「ら、ライト、僕の仕事は~?」
「うぅ~ん、むにゃむにゃ……」
ライトは今朝の四時まで起きていたのだ。そりゃ、眠たくなるのも仕方がない。
「ベスパ、ライトの仕事を代わりにやってあげて」
「了解しました」
ベスパは頭に手を当て、返事をすると光り、ビー達に仕事を振る。
「これで問題ない。クマタロウ、ライトが起きるまで暖かい場所で日向ぼっこしていて」
「う、うん」
クマタロウは日差しが当たる広間に移動し、ゴマ団子になってライトのためにベッドになる。ライトが無防備になる時間。睡眠中をクマタロウが補ってくれるため、隙がない……。
「ライトも友達が出来て嬉しいだろうな。魔物だけど……」
私はライトとクマタロウの姿を見た後、本題に向かう。
メリーさんにレイニーとバレルさんを繋ぐ役目をやってもらえないかとお願いしに行くのだ。
私はメリーさんがいる場所をベスパに訊き、ブレーブ平原にある牧場に移動した。
「好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、嫌い、好き、き、きら……、キララちゃん」
メリーさんは仕事の休憩中、花占いでもしていたのか咲いていた根に毒がある綺麗な花を抜いて花びらを千切っていた。
「メリーさん、こんにちは。その花、根に毒があるので危険ですよ」
「え……」
メリーさんは最後の花びらを残した状態で捨て、魔法で水を出し、手を洗っていた。メリーさんも魔法が使えるようになっており、初級魔法くらいなら無詠唱でも扱えている。ライトの教え方が上手いのかな。
私はディアを地面に置き、根っこごと食べさせる。
「うぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……。不味いです……」
ディアは死にかけるもギリギリ耐えた。ブラットディアは強靭な胃袋を持っているから毒を食べても簡単に死なない。まあ、魔法じゃないので普通に苦しいそうだ。
でも、彼らからしたら食べられれば毒でもいいと言う……訳じゃない。普通に毒は嫌った。
でも、私が無理やり食べさせている。死なないのなら、食べてもいいじゃんと言う軽いノリだ。この場に毒が残っていることの方が問題なので、私は心を殺し、ディアに命令している。
「よく頑張ったね、ディア。偉い偉い」
毒をちゃんと食べられたらディアの頭を撫で、しっかりと褒めた。
「あぁ……、キララ女王様からのお褒めの言葉、感無量です!」
ディアは生粋のドMだ。まあ、虫はだいたいドMだ。厳しい環境下に置かれすぎて感覚が狂っている。
「あぁ、私も毒を食べてキララ様に褒めてもらいたい一生だった……」
ベスパは部下であるディアの姿を見て羨ましそうに呟いた。
「ベスパは毒を食べてもほぼ効果ないじゃん」
「私、魔力ですし。なんなら、ディアも魔力なので、ほぼ効果ないと思いますけど……」
私はディアを見る。ディアはひっくり返って死んだふりしていた。先ほど苦しがっていたのは演技のようだ。私に褒められたい一心でやったと思われる。
「まったく、足りない頭で考えたんだね」
私はディアをふっと投げる。
ディアは翅を広げ、不格好に飛ぶ。ブラットディアが翅を広げて飛ぶと言うことを思い出した時、頭脳指数が八から三〇〇まで上昇する。
「大変申し訳ございませんでした。キララ女王様に褒められたいがために、このような情けない演技をしてしまい、心からお詫びいたします。この件は死んでお詫びいたします」
「いや、死なんでいいから」
私はディアを包み、ブローチにしてから胸にくっ付ける。
「えっと……、キララちゃん、独り言が激しくなってるね……」
メリーさんは苦笑いを浮かべて私の方を見ながら呟いた。
「す、すみません。周りが騒がしい者で……」
私はメリーさんに謝り、その場に座る。
「メリーさん、お願いがあります」
「お願い?」
メリーさんは首をかしげながら、私の言葉を待っていた。
「レイニーと一緒に旅に出てほしいんです。レイニーが死なないように見ていてあげてください。バレルさんも一緒に行くので、比較的安全な旅になるはずです」
「え……。わ、私がレイニーと旅に……。で、でも、レイニーがなんて言うか……」
「まだわかりません。ただ、メリーさんくらいしかレイニーの心を繋ぎとめる者がいないんです。レイニーの自分が死んでも周りを助けると言った精神が未だに残っていて……。バレルさんがそこを直さないと旅に行くのは無理だって……」
「レイニー、まだ自分が死んだらいいなんて思ってるの……。あの、バカ……。私の気も知らないで」
メリーさんは視線を下げ、心から絞り出したような小さな声を出す。あまりに小さな声だったので耳が良い私じゃないと聞き取れなかった。
「メリーさん、レイニーと話し合ってくれませんか」
「……わ、わかった。あのバカに話をしてくる」
メリーさんは花弁が一枚だけ残っている花を手に取り、立ち上がった。
レイニーはどこにいるのかと思ったら、ブレーブ平原の方にいると言う。バレルさんと仕事しているそうだ。なぜ、そうなったのか私には知らない。
レイニーからバレルさんに旅の同行をお願いしているのかも……。
「はぁ……。どうしたらいいんだ」
牧場に向かうと、レイニーが地面に腰を下ろしていた。
「レイニー、こんにちわ!」
メリーさんはレイニーの前に立ち、手を腰に当てて大声を出す。
「メリー、ああ、こんにちわ……」
レイニーはメリーさんの大声に驚きながらも、顔をあげ、挨拶を返す。
「レイニー、旅に出るんだってね」
「……キララ」
レイニーは私の方を見て、ため息をついた。メリーさんに言わないでほしかったのだろうか。
「お前は連れて……」
「私は行かないよ!」
メリーさんは堂々と大きな声を出した。
私はてっきり私も連れていってと言うとばかり思っており、困惑する。
「なに、私が行くとでも思ったの? 私ならついてくるとでも思った? バカ、誰があんたみたいな男に付いていくもんですか。ちょっと背が高くてカッコよくて優しくて強くて頭が良くて皆に好かれているからっていい気にならないでよね!」
メリーさんはレイニーの良い所ばかり言いながら彼が本当に好きなんだなとわかるくらい顏を赤くする。
「な、なにを怒っているんだ。俺は別にお前に来てほしいなんて思っていないぞ……。こ、これっぽっちも思ってない」
レイニーは頭を振りながら弱弱しく言う。
「ああそう、そんなこと言わなくてもわかるわよ。だって、レイニーはマザーのことばかりだもんね。マザーが大好きで仕方がないんだもんね。私なんて眼中にないことくらいわかってる。でも、私はレイニーが好き」
メリーさんは手に持っていた花弁が一枚だけの花をレイニーに見せた。
「なんだよ……。はげた花なんて貰っても……」
「一枚とって」
「一枚って、もう、一枚しかないじゃないか」
レイニーは花弁を一枚とった。
「はい、花占いは好き好きで終わりました!」
メリーさんは空に向かって大きな声を出した。神様にでも伝えているのだろうか。
「お前が何を言っているのか全くわからないんだが……」
「私、さっきまで花占いをしていたの。レイニーが好き、嫌い、好き、嫌いってね。で、私は好きで止まった。レイニーが花びらを取ることになったから好きから始まって好き好き」
メリーさんは頭が悪くなったのか、私にも訳がわからない持論花占いをしていた。
「はぁ……、付き合ってられん。俺はバレルさんに修行を付けてもらいたいんだ」
レイニーは立ち上がり、メリーさんに背中を向ける。
「私はレイニーが死んだら絶対に嫌! もし死んだら結婚してあげない! せっかく好き好き同士なのに結婚しないなんてもったいないよ!」
メリーさんは顔を真っ赤にしながら叫ぶ。心からの告白だろうか……。その発言でレイニーの心を動かそうとでもいうのか。
「……俺は皆を助けるためなら命すらいとわない。そう言う気持ちで今まで生きて来た。今はマザーを助けるためなら命すら投げ捨てる覚悟だ。そう言う気持ちで生きている。メリーと結婚出来たら幸せなんだろうが、俺はマザーが好きなんだ」
レイニーはメリーさんの告白を振り、バレルさんの方に向って歩いて行った。
「…………うぅ」
メリーさんは地面にペタンコ座りをする。二度目の告白も玉砕。
「め、メリーさん、話しが違うんですが……」
私はメリーさんにレイニーと旅に出てほしかったのだが、なぜか旅に行かないと叫び、レイニーに告白して玉砕した。どういう意図があるのだろうか。
「私が旅に行っても邪魔になるだけだよ……。なんせ、私はおっぱいが無駄に大きいだけの女の子だもん……。レイニーの力になれない。強かったらよかったけど、私は弱いからレイニーを無駄に危ない目に合わせるだけ。なら、行かない方がレイニーは安全だよ」
メリーさんは自分のせいでレイニーが危険な目に合うと言うのが耐えられなかったようだ。
――どうやら、私はメリーさんの気持ちをちゃんと汲み取れていなかったみたいだ。悪いことをしてしまったな。




