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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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教会の子供たちとレイニー

「はあああっ!」


 レイニーは剣が歪んで見えるほどの速度で私に振りかざしてくる。


「ふっ!」


 私はグローブについている輪に指を入れ、引っ張る。剣を糸で受け止めるも、突風で吹っ飛んだ。人の体が吹っ飛ぶ風圧って秒速何メートルなんだろうか。


「よっと……」


 私が地面に衝突しそうになった瞬間にフルーファが背中で受け止め、ふんわりと着地。


「ありがとう、フルーファ。気が利くじゃん」


「まあ、俺は危険じゃないから」


「……後で角を殴る」


「や、やめてぇ……」


 フルーファは角を前足で隠そうとする。なんとも可愛らしいしぐさだ。


「防がれた……。まじか」


 レイニーは私に攻撃を防がれて驚いていた。


 ――高速演算が無かったらまず見えないし、反応も出来ない。事前に来るのがわかるから防げているだけと言うのもなぁ。


「レイニー、ものすごく早い剣だね。力も強かった。でも、それだけだね」


「く……、言ってくれるな。『風剣ウィンドソード』」


 レイニーは剣に風の刃を纏わせる。魔力操作もお手の物らしい。

 緑色っぽい風が纏わりついている剣を振るった。すると風の刃が飛び、私に襲い掛かる。


「これが当たったら私の体は真っ二つになりますけどちゃんと制御できる?」


 私はノーガードで風の刃に当たりに行く。めっちゃこわいけれど、レイニーに魔力操作ができるなら当たらないはず……。


「当たり前だ!」


 レイニーは指を動かし、風の刃の起動を変えた。真上に飛んで行き、魔力として散り散りになる。


「はぁ、はぁ、はぁ……。危ないことするんじゃねえよ!」


「子供に危ない攻撃を放ったのはレイニーでしょ。もう、戦いは十分。レイニーは強いよ。でも、挑発に乗るのは経験不足かな」


「な……。はぁ、そこまで見られてたか……」


 レイニーは剣に纏わりついた風の刃を払う。その後、目にも止まらぬ速さで鞘に納めた。


「レイニーは切れやすいから、挑発に乗ったら駄目だよ。冷静に判断しないとカウンターを食らう」


 私はフルーファをレイニーの横に配置させていた。


「ん? ぐはっ!」


 レイニーはフルーファの噛みつき攻撃を食らった。


「私は、戦いは十分と言っただけで、終わりとは言っていないよ。レイニーは優しいから、相手に騙されないか心配」


 私は地面に倒れているレイニーのもとに向かう。


「あぁ……、俺は何回殺されているんだろうか……」


「さあ、何回殺せたか知らないけど、皆が皆、私みたいに優しい相手じゃないよ。盗賊とか、悪い奴とか、皆あの手この手で生き残ろうとしてくるし、簡単に命を奪おうとしてくる。その点、魔物の方はわかりやすいから冒険者活動をしてみたら? レイニーならいい線行けるよ」


 私はレイニーに手を差し伸べる。


 レイニーは私の手を握るのを躊躇していた。


「あんまり考えすぎると、周りのみんなが敵に見えちゃうから、信頼できるもの、相棒を見つけた方がいい。そう考えたら、レイニーのスキルは良いスキルなんじゃないかな? もう、要らないスキルなんて言わないでね」


「ふっ……、そのことが言いたくて俺をめためたにしたのか」


 レイニーは私の手を握り、立ち上がった。


「スキルは使えば使うほど強くなるんだって。だから、レイニーのスキルだって戦いに直接関係なくても、使い続ければ強力な武器になる」


「なるほどな……。わかった、バートンを相棒にして連れて行く。そのために、キララの村に一緒に行くよ」


 レイニーは腰に手を当てて、私に潔くしたがった。


「じゃあ、子供達に別れの挨拶をしておいて。いきなりいなくなったらマザーの時みたいに悲しんじゃう。その時の顔をよく覚えているのは、ほかでもないレイニーでしょ?」


「まったく……、キララに口で勝てる気がしねえよ」


 レイニーは頭に手を置き、頭皮を掻きながら理解してくれた。

 私たちは裏庭から移動し、教会の中に入る。人気はなく、子供達が礼拝金の換算をしている。


「皆、訊いてくれ」


 レイニーは子供達に向かって声を掛けた。


「レイニー、お帰りなさい。どうかしたの?」


 子供達はレイニーが帰ってくるとすぐに寄って来た。笑顔が絶えない。それだけ、慕われている証拠だった。


「皆……、俺は旅に出ようと思う。皆も内緒だが、魔法がちょっと使えるようになったはずだ。その力があれば、この街で生きていくことは難しくない。だから、今日でお別れだ」


「ちょ、何言ってるの、レイニー。私、レイニーとお別れなんて嫌だよ」


 少女はレイニーに抱き着き、泣きそうな顔をする。


「もう、皆に俺の支えは必要ない。あと、俺はまたここに戻ってくる。絶対だ。なにがあっても絶対に戻ってくる。だから、皆でここを守ってほしい」


「レイニー……」


 子供達は皆、半泣きになっていた。だが、誰も無理やりレイニーを引き留めようとしない。


「レイニー、今まで私達を守ってくれてありがとう……。ずっとずっとレイニーが大好きだよ……」


 子供達は泣きながらレイニーに抱き着く。


「ああ……、俺も皆が大好きだ。だから、絶対に帰ってくる。約束だ」


 レイニーは子供達をぎゅっと抱きしめながら呟いた。長い間ずっと守り続けて来た子供達との別れはさぞかし辛いだろう。

 だが、すでに守る必要がないくらい安全になった教会にレイニーがいる必要はない。

 そもそも、成人になったら子供は教会から出て行かなければならないのだ。だからレイニーが教会から出ていくことは必然。今まで、マザーの役割をしっかりとこなし、この教会を守り切ったレイニーの凄さが私はしっかりとわかっている。彼はやり切る男だ。


「レイニーが帰ってくるまで、この教会をずっと綺麗なままにしておく。だから、いつでも帰って来てね」


 少女はレイニーに微笑みながら言った。


「ああ。お土産を沢山買ってくる」


 レイニーは立ち上がり、教会の出入り口に向って来た。


「行こう……」


 レイニーは今さら泣き、弱虫な所は一切見せずに子供達と別れた。


「ふっ、強がっちゃって」


 私はレイニーの背中をさすりながら教会の扉を閉める。夕方の柔らかい光と風が頬を撫でる。


「うう……、皆と別れたくないよぉ……」


 レイニーは分厚い扉に背を当て思ったよりも泣いていた。イケメンの泣き顔はあまり見たくはないな。


「はは……、まだまだおこちゃまだね。そんなんじゃ、厳しい世界を生きていくなんて無理だよ。もっともっと心まで強くならなくちゃ」


「はぁ……、そんなこと言っても、この街から出ていくなんて俺は初めてなんだ。怖くて仕方ない……」


 レイニーは握っている拳が震えている。相当怖がっていた。


「一番に向かう場所が私が住んでいる村だから絶対に安全だよ。そんなに怖がらないで」


 私はレイニーの手を握り、優しく微笑みかける。


「……本当にマザーみたいなやつだな。子供のくせに」


「子供のくせには余計だよ。ほら、さっさと荷台に乗って。私には人の護衛がいないからさ、ちゃんと守ってよね」


 私たちは荷台に向かって歩き、レイニーを護衛として荷台の乗せる。


「ここにキララを守る護衛がいるじゃないか」


 レイニーはすでに荷台に乗っていたフルーファの体を撫でる。


「この糞犬……、滅茶苦茶痛かったぞ」


 レイニーは少々怒りを込めながら頭をマッサージしていた。


「グルルルル……」

(余所見しているお前が悪いんだよー)


 フルーファは喉を鳴らし、尻尾を振っていた。


「じゃあ、レクー、出発してくれる」


 私は前座席に座り手綱を握ってレクーに声を掛けた。


「わかりました」


 レクーは私達と荷台を運び、走り出す。あっと言う間に東門に到着した。


「ん……。おおっ! 嬢ちゃんじゃねえか。久しぶりだな」


 東門で長い間門番を務めている兵士のおじさんに会った。三か月ぶりだ。前は頻繁に会っていたので懐かしい。


「お久しぶりです、おじさん。元気そうで何よりです」


「嬢ちゃんも元気そうで何よりだ。で、学園の方はどうなった?」


「いい結果を得られました。なので、また長い間、会えなくなりそうです」


「そうか……。受験に成功したみたいでほっとした。嬢ちゃんとはただ挨拶するくらいの仲だが、近しい仲だと思っている。しっかりと学んできなさい」


「はい、ありがとうございます。では、失礼します」


 私は兵士のおじさんに頭を下げ、走りなれた道に出た。


 左側が私の土地『ブレーブ平原』またの名を『キララ平原』私の名前を入れると言う何ともダサい名前だが、手記上は『キララ平原』になっている。でも私は元の名前で呼んでいる。なんせ、自分の名前が着いた土地を言うのは普通に恥ずかしい。


「ああ……、街から出た……」


 レイニーはあっけらかんとした表情を浮かべ呟いた。


「街から出るくらい簡単なんだよ。どう、壁が見えない世界は?」


「広いな……。そこら中、草だらけだ」


 レイニーは荷台から頭を出して、視線をあっちらこっちら動かす。壁がないだけで世界は驚くほど広く感じるはずだ。


「左側の平野は私達の村が買収したんだよ。今はモークル達がのびのび暮らしているの」


「は? まじかよ……」


 レイニーは苦笑いを浮かべ、左側の広い平野を見ていた。広すぎて、どこまでが私の所有物なのかわからない。でも、平野に無断で入れないように柵が作られていた。モークル達が出られないようにするため、土地の箇所を知らせるためだろう。


 私達はざっと四時間ほど走り続けた。私がいない間に、結構変わっているところがあるかもしれない。三カ月じゃ、大きな変化はないと思うけどね。

 六時間ほど走ると、村が見えて来た。明りがぼんやりと浮かび、まだ起きている者がいるとわかる。

 周りはすでに真っ暗になっており、明かりがないと危険だ。なので、ベスパの発光で道を照らしており、八〇メートル先まで見えるほど明るい。

 村の明りが見えたおかげで心が温かくなる。懐中時計を見ると、すでに午後一一時。もう、夜中だ。


「ふわぁ……。ねむぅ……」


 レイニーはあくびをしていた。警戒心が無さすぎる。


「ずずずず……、すぴぃー」


 フルーファはお構いなく眠っていた。あとで角を突いてやる……。


「レクー、疲れていると思うからゆっくり走ってね。安全走行を心掛けるように」


「はい、お気づかいありがとうございます」


 レクーは体力おばけで、ちょっとの休憩で容易に走り続けられる。

 八分もしないうちに村の入り口を潜った。

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