年増のお姉さん
「キララ女王様! 万歳っ! キララ女王様! 万歳っ!」
庭に住むビーや虫達が私の出発に大きな声で叫ぶ。恥ずかしいのでやめてほしいが、送り出されると言う感覚はとても心地よく、元気が出てくる。
――ベスパ、皆に魔力を与えて。とびっきり質が良いやつね。
「わかりました!」
ベスパは張りきり、光を放つ。すると、庭にいるビー達が煌びやかに光り、超元気よく動く。気持ち悪いが、沢山頑張ってくれたお礼だ。グレー企業だが、報酬はとことん良いようにしている。反感を買ったら私は終わりだ。
「キララ様に歯向かう者などおりません。皆、キララ様のために死ぬまで働きます!」
ベスパは胸に手を当て、軽く会釈する。その言葉にウソ偽りはなく、本当に死ぬまで働くので、困った虫達だ。
「よし、レクー。まずはフリジア魔術学園に行くよ」
「わかりました」
レクーはマドロフ家の玄関を出て、道路に出る。ベスパが先導し、安全で速い道を移動した。
☆☆☆☆
フリジア魔術学園はとても混んでおり、多くの人達が泣いたり、笑ったり、抱きしめ合ったりしている。合格した者、落ちた者、皆それぞれあると思うが、これが受験の醍醐味だ。
私はレクーと荷台を厩舎に預け、大きな園舎に入る。在学生はおらず、フリジア学園長がいる学園長室に移動した。
受験日にも入った部屋なので緊張はしないが、奥にフリジア学園長がいると思うと気が重い。一呼吸おいて、木製の扉を三回叩いた。
「キララ・マンダリニアです」
「開いている」
部屋の中からフリジア学園長の声が聞こえた。とても、貫禄のある声質だ。
「失礼します」
私は扉を開け、綺麗に片付いている部屋の中に入った。
「やあ、キララちゃん。久しぶり」
フリジア学園長は仕事机の後ろにある高級な革椅子に座っていた。緑色の長い髪とエメラルドのような美しい瞳、人とは違う長い耳に小柄な背丈。見るからに妖精のような方だが、実年齢は八〇〇歳以上のお婆さん。
でも、見た目はロリっ子だ。いわゆる、ロリババア……。なんて言うと、彼女は確実に怒るので綺麗な年増のお姉さんと言うくくりに入る。
「お久しぶりです。フリジア学園長が元気そうで何よりですよ」
「キララちゃんに言われた通り、健康的な生活を心がけるようにしたら、体調がみるみるよくなってね。肌や髪の艶が増したよ。爪もボロボロにならなくなったし、便通も……、んんっ」
フリジア学園長は胃腸の方も改善されたらしい。恥ずかしさからか、最後まで言い切らなかったが、ものすごく嬉しいことだったのだろう。
「何よりです。えっと、何か話すことがありますか?」
「そうだなー。キララちゃんに学園に入ってほしいと言う気持ちがあったんだが、君から色々話を聞いて、あまりお勧めできなくなってしまった。残念で仕方がない」
フリジア学園長は机に突っ伏し、だらしない姿を見せる。八〇秒も経たずに集中力が切れていた。
「正教会が拘わってくるとなると、キララちゃん以外の生徒にも危害が加わる可能性が高い。私は在校生を守る義務がある。ただ、キララちゃんを守れるか自信がない。情けない話だ……。それくらい正教会の力が強まっていると言ってもいい」
「そうですか……。フリジア学園長が自信をもってフリジア魔術学園に入ってくれとおっしゃるのなら、迷わず入っていたかもしれません。でも、フリジア学園長が私を受け入れられないと言うことなら、その気持ちを汲ませていただきます」
「すまない。あれだけ来てほしいと言っていたが、在校生をすでに危険に晒してしまっている私だ。責任を持つだけの根拠がない」
フリジア学園長はとても落ち込んでいた。過去、魔造ウトサを学園内で蔓延させてしまったのは自分の落ち度だと思っているらしい。
「フリジア学園長は落ち込む必要ありません。学生たちはフリジア学園長のように気高くカッコいい女性になろうと頑張っています。その目標であるあなたがそんな弱々しくしていたら生徒たちがもっと不安になると思います。学園長は堂々としていないと駄目です」
「はは……、キララちゃんに慰められると効くな……。ああ、キララちゃん、私を良い子良い子してくれー」
フリジア学園長は椅子から飛び降りて私に抱き着いてくる。
「はぁ、もう、フリジア学園長は沢山頑張っていますよ。良い子良い子」
私はフリジア学園長の頭を優しく撫でる。
「うぅ……。こんな風に私を甘やかしてくれるのはキララちゃんだけだよ……。ふがいない私だがこれからも友達でいてほしい……」
フリジア学園長は泣きそうになりながら、綺麗な瞳を私に向けてくる。
「もちろんです。私はフリジア学園長とずっと友達でいます。私、こう見えて友達が少なくてですね……。なんなら、ちゃんとできた友達はフリジア学園長が初めてだったりします」
「ほ、本当かい! 私がキララちゃんの初めてを貰ってもいいのかい!」
「……その言い方だと破廉恥なので、やめてください」
「そう言っているキララちゃんの方が破廉恥じゃないかい?」
フリジア学園長は微笑み、私を弄って来た。こういう方なので、面倒臭がられて他に友達がいないのだろう。
「はぁ……。フリジア学園長は捻くれていますね」
「ふふふっ、キララちゃんほどじゃないよ」
フリジア学園長は微笑んだ。妖精と言うより、小悪魔と言ったほうが正しい気もする。ただ、とても可愛いので騙されても仕方がない。
「じゃあ、フリジア学園長。早速学園内にある魔造ウトサを調べますね」
「ああ、頼む」
フリジア学園長はコクリと頷いた。
――ディア、王都中の魔造ウトサを食べた時、フリジア魔術学園にどれだけの魔造ウトサがあった?
「えっと……、そうですね。あんまり覚えていません!」
ディアは頭が少々あんぽんたんなので、どこでどれだけ食べたのかと言う記録はしていなかった。
――じゃあ、フリジア魔術学園の中にあった魔造ウトサは食べた?
「はい! 食べました!」
――食べたのは覚えているんだね。じゃあ、もし、今回見つかったら何者かが魔造ウトサを学園内に入れている可能性がある。見つからなかったら何事もなく無事と言うことがわかるね。
現在、魔造ウトサは国王によって販売できなくなっていた。と言うのも、ルークス王が認めた相手しかウトサを販売できない。そのため、魔造ウトサと言う粗悪品を売りつける悪徳業者がいなくなり、今、巷で流れているウトサは全て本物と言うことになる。
つい最近の出来事なので、最悪、残っていた魔造ウトサを買ってしまった者がいる可能性もあるがディアが全て食べつくしているので、今見つかった場合、何者かが裏で流していると言う事実が発覚する。
「ベスパ、ディア、フリジア魔術学園の中にある魔造ウトサを探して」
「了解です!」
「わかりました!」
ベスパとディアはビーとブラットディアを集め、隅々まで調べつくす。
「フリジア学園長。後は待つだけです」
「はは……。ビーとブラットディアを操るなんてどういう仕組みなんだ……。ビーの方は理解できるが、ブラットディアをスキルなしで操るなんて、訳がわからない」
「まあ、私のスキルが魔力を投げ、繋がりを作っています。簡単に言うと、私の魔力を持っている虫は私の部下になります」
「はは……、なるほど。種族の垣根を超え、魔力で繋がればキララちゃんの配下になるのか。もう、スキルが進化しているとしか言いようがないな」
「スキルが進化……」
――バレルさんもそんなことを言っていた気がする。
「スキルは進化すると言われている。いつ、どのように、どれほど強くなるかはわからないが、スキルを使い続けると以前は出来なかったことが出来るようになる場合がある。これがスキルの進化だ」
「出来なかったことが出来るようになる……。なるほど。フリジア学園長はスキルの進化を経験した覚えはありますか?」
「私はスキルの進化を経験した覚えがある。何年前だったか……。まだ、大森林で過ごしていたころ、私は常にスキルを使っていた。いつもは同族の心の声しか聞こえなかったがしだいに動物の心の声が聞こえるようになった。また数年たち、魔物の心の声が聞こえるようになり、虫や自然の声も聞こえるようになった。何か大きな前触れがあるわけではなくいつの間にか進化している。ほんとスキルとは不思議な力だ」
――バレルさんの『剣速上昇』も使い続けていたらいつの間にか光と同じくらいの速度に到達していたって言ってたな。やっぱり、使い続けられるスキルは進化しやすいのかも。
「キララちゃんはどれだけスキルを使っているんだい?」
「まあ、スキルを貰ってからずっと……」
「……なるほど。すでに二年以上ずっとスキルを使用し続けていると言うことか。そりゃあ、ビー以外の者と仲良くなれるだけの力が手に入ってもおかしくないな。常に使用し続けても問題ないみたいだし、ほんと、キララちゃんは『勇者』や『剣聖』『賢者』『聖女』と同じくらい強くなれるかもしれない」
フリジア学園長は顎に手を当てながら右往左往する。
「『剣聖』の強さはわかるんですけど、他の『勇者』や『賢者』『聖女』の強さってどれくらいなんですか?」
「そうだな……。私が知っている古い『勇者』は魔王を一人で倒していた。『賢者』は全ての属性魔法を扱い、無詠唱なんてお手のもの。あらゆる魔法を使える。『聖女』は相手が生きていればどのような状態からでも回復させられる。扱う奇跡の力が桁違いでアンデッド類が相手なら無類の強さだ。『剣聖』は木の枝でも大岩を切り裂き、ドラゴンすら屠っていた」
フリジア学園長は長生きなので昔の者達を知っているのか、遠い目をしながら苦笑いを浮かべていた。
「まばらに出現することはあっても四人纏まって出現したのは私も初めて経験する。きっとキララちゃんが言っていた話と何か関係があるのだろう。私も悪魔は見た覚えが無いから何も言えないが、古い文献を漁ればそれなりに嘘か誠かわからないが情報は手に入る。通常の者は入れないが、私やドラグニティのような権力のある者なら国立図書館で調べられる。まあ、ドラグニティがすでに調べているかもしれないけどな」
フリジア学園長は歩きながらペラペラと喋っていた。ほんとよく喋るご老人だ。
「キララちゃん、私は年老いていないから、老人じゃない。お姉さんだ」
フリジア学園長の耳が光り、私の心の声を聞き取っていた。




