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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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最後の一日

「キララさん、どうかされましたか?」


「私、三月八日に実家に帰ります。まあ、三月中にまた戻ってくるんですけど、その間の仕事はキアズさんが代理人を務めてください」


「キララさんの代理人……。私がですか。む、無理です、無理です」


 キアズさんは顔を横に振り、私の仕事を変わるのは無理だと言われた。ギルドマスターの仕事をこなしている彼がそこまでしたくないと思うほど、私の仕事は辛いのだろうか。


「えっと、代理人と言っても依頼書がちゃんと戻ってきているか調べてもらうだけです。あと、金貨を受け取っておいてください。そうじゃないと部屋に貯まって行ってしまうので」


「キララさんがいないのにビーの巣はお休みにならないんですか?」


「なりませんよ。私がこの場にいなくても従業員がしっかりと働いてくれます。もちろんギルドの依頼仕分けの仕事も請け負いますから安心してください」


「キララさんがいないのに複雑な作業がこなせるなんて……。どれだけ便利なスキルなんですか?」


 キアズさんは苦笑いを浮かべながら私のスキルが便利だと言う。確かに便利だが、常に付きまとわれている身にもなってほしい。


「便利ですが、単体ではとても弱いです。数の力があってこそのスキルなので、ビーを無暗に殺したりしないでください。まあ、私の魔力を貰っているビーはそう簡単に死にませんけど……。ともかく街中にビーの巣が出来ていたとしても無視してくださいね」


「わ、わかりました……」


 キアズさんは頭を軽く下げた。


「では、言いたいことは言えたので、私はこれで」


 私はキアズさんに頭を下げ、仕事部屋に戻った。

 そのまま、絵を完成させるべく、時間があるときはじっくりゆっくりと描いていく。私の絵の下手さは仕方ないが、それも味になるように丁寧に仕上げる。

 仕事部屋がアトリエのような感覚になってくる。でも、私は気にせず描き続けた。仕事に来ているのか、絵を描きに来ているのかと言われたら、二対八で絵を描きに来ている。

 一八日以上掛けて描いている絵は初めて描いたと思えないくらい良い絵に仕上がっていた。


 三月七日。ウルフィリアギルドの仕事部屋。


「で、出来た……。やっと完成したよ……」


 私は長い間掛けて描いた絵が完成し、色とりどりな見た目に心を動かされている。まあ、完成度に納得していないが、達成感が限りなく大きい。何かを作り上げた時の高揚感……。これは野菜や料理を作り上げた時のような気持ちに似ている。

 種から育てて来た野菜が大きく美味しく実った時。美味しい食材を使って食べたい料理が作れた時。絵を描いている時は物凄く辛かった。だからこそ、逆に描き終えて達成したと言う自分を褒めてあげたい。まさしく自画自賛……。


「飽き性のキララ様にしては頑張って描いたんじゃないですかね」


 ベスパは上から目線で私が描いた絵を見ていた。


「そんなふうに言っていいの? 私、今からここにベスパを描こうと思っていたのに」


 私は景色の空にベスパを描き加えようと思っていた。だが、ベスパの上から目線に腹が立ち、筆を置こうとする。


「申し訳ございませんでしたぁああああああああああっ!」


 ベスパは土下座をしながら額を机に叩きつける。あまりにも必死で私は笑ってしまった。


「冗談だよ。描いてあげるから」


 私は感謝の気持ちを込め、結構頑張ってベスパの絵を描いた。風景しか描かれていなかった絵に一匹のベスパが飛び、中々いい絵に仕上がった。

 魔法で乾燥させ、魔力で纏わせたあと額縁に入れる。


「うん……。良いじゃん」


 私はウルフィリアギルドの八階の窓辺から見えるルークス王国の街並みを描いた。その景色を壊すかの如く、自分を主張しているベスパが決め顔している。真反対の絵だからこそ、互いを引き上げ、いい部分を増幅させていた。


「傑作です! もう、傑作以外の何物でもありません!」


 ベスパはさっきまで見下していた発言が嘘かのような手の平返し。両手両足をブンブン振り、ものすごく喜んでいた。

 描いた絵は物寂しかった壁に掛け、可愛さを加える。


「これでよし。うん、部屋が高級感溢れているから額縁といい具合に合ってとても高そうな絵に見える。……ま、まあ、上手いか下手かは置いておいて、頑張った自分を褒めよう」


 私は綺麗な街並みが描けて良かった。そう思い、夕暮れ時の午後六時頃にウルフィリアギルドを出た。そのまま、ルドラさんの家に移動した。

 今度来る時は学園の寮で寝泊まりするので明日、私がルドラさんの家で泊る最後の日になる。

 フリジア魔術学園とドラグニティ魔法学園の合格発表を終えて家に帰り、学園宛てに入学届を出し、私は学園に入る。


 一ヶ月後に、私は学生生活が始まるのだ。そう思うと、うきうきとワクワクが心の奥から溢れ出しそうになる。でも、王都に正教会がいると言うのが一番懸念しなければならない点だ。

 彼らが今後何をするのかわからない。正教会が長年研究し、販売までこぎつけた魔造ウトサは王様の力技により販売が停止された。と言うのも、販売できない状態となった。

 なので、王都で魔造ウトサが表で広がると言う事態は起こらない。ただ、他国に流通している魔造ウトサまでを取り締まることは難しいので、マルチスさんの伝手を使って阻止してもらうしかない。


「キララ、今日でこの屋敷を出るのか?」


 マルチスさんは食堂で食事しながら、私に話し掛けてきた。


「はい。私は明日の試験発表の後、実家に帰ろうと思っています。長いことお世話になりました」


 私は食事の席ではあるものの、頭を深々と下げ、感謝の気持ちを伝える。


「なに、キララが来てくれて楽しかった。いつでもうちに入って来てくれてもいい。なんなら、マルティと結婚してくれてもいいぞ」


 ケイオスさんは腕を組みながら笑っていた。


「マルティに貴族の女性は合わないかもしれないし、キララさんが相手なら心配いらないわね。でも、キララさんの頭が良すぎてマルティの方が自信を無くしそうだわ……」


 テーゼルさんは頬に手を置き、ため息をついていた。


 ――ま、マルティさんは恋愛対象外なのでそんな未来は起こりえませんよ。


「キララは年上の男性が好みなんだそうだよ。だから、マルティじゃキララを落とせないさ」


 ルドラさんはナイフとフォークで肉を切り、口に運ぶ前に呟く。


「年上の男性が好みなんてその年齢で珍しいな。子供なら同年代の方が惹かれやすいと思うのだが……」


 マルチスさんは私の方を見ながら首をかしげている。


 ――あ、あまり詮索されると色々とぼろが出そうだ。出来る限り話をそらさないと。


「え、えっと。その話はどうでもいいじゃないですか。今、マドロフ商会はどうですか?」


「ん? ああ、順調そのものだ。ウトサの影響を受けず、販売が出来るおかげで儲けが十分出ている。メイドたちを大量に解雇せずに済んでよかった。仕事を奪われたら途方に暮れるからな」


 マルチスさんは頭を縦に振りながら、安堵していた。


「皆さんの生活が保たれて本当によかったです。確かに私はマドロフ家からいなくなりますけど、私達の関係は無くなりません。これからも仲良くしていきましょう」


 マドロフ家の方達は頭を縦に振り、私との関係を継続してくれた。


 私は味がある食事を楽しみ、感謝しながら胃に入れていく。ウトサの味はほとんどしないがソウルの味がするので食べやすい。まあ、あまりソウルをとりすぎると体に悪いので塩味が強い食事はソースなどを削ぎ落すようにして食べる。そうしないと体が悲鳴を上げそうだ。


 食事を終えた後、私はお風呂場に向かい、広いお風呂に入った。


「はぁー。このお風呂に入れるのも、今日が最後か……。なんか、寂しくなっちゃうな」


 私はお風呂のお湯を手の平に集め、掬い上げる。そのまま顔に掛け、汚れを落とした。


「大きなお風呂って入るのは簡単だけど、手入れが大変なんだよな……」


「魔法で簡単に入れるじゃないですか」


 ベスパは身もふたもない話をする。


「そう言う意味じゃなくて……。確かに、木製の箱にお湯を入れて入ればお風呂になる。でも、そのお風呂はただのお湯溜めと同じだよ。元から用意されていてこんな広くて現実とちょっと違う優雅な空間……。花の香りに包まれているこの瞬間が良いんだよ……」


「なにを言っているのかよくわかりません」


「うーん、人の手で作られた花と自然界に咲いている花、どっちに止まりたい?」


「そりゃあ、自然に咲いている花ですよ」


 ベスパは水面に浮かぶ花に腰掛けた。


「それと同じだよ。自分で作って入るのもいいけど、いつでも入れるようにしてあって楽が出来ると言う気楽さがいいんだよ……」


「キララ様は私達に命令すれば事足りると思いますが……」


「命令するのも面倒なんだよ……。お風呂に入りたいときに入りたいんだよ……」


 私はお湯にぷかぷかと浮かびながら脱力して呟く。海に漂うクラゲの気分だ。


「さすがキララ様。面倒臭いことはとことん嫌いですね」


「別に褒められてもうれしくないな……」


 私はベスパと話すのも疲れ、ただただお湯に浮かぶ。呼吸を小さくし、暖かいお湯が身を包む感覚をしっかりと得る。それだけで私の精神が研ぎ澄まされ、瞑想と同じ効果を発揮した。そのため、いつの間にかお湯が光だす。

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