怒りの矛先
「それじゃあ、姉さん。残った仕事してくるね! あと鍛錬してくるから!」
「はあ~い! 気を付けてね!」
2人は牧場の方へ走っていった。
――私は…今から何をしよう…。寝る…それとも、魔法の練習…レモネを使った他の何かを考える…ん~、とりあえず散歩でもしに行こうかな…久しぶりに。
日の傾きからして午後3時から4時くらいと言ったところだろうか。
丁度過ごしやすい時間帯。
季節は春…もう5月の終わりごろかな。
少しずつ気温が上がってきたような気はするけど…まだ過ごしやすい。
田舎だからかな。
草も生い茂り、人が通る道以外は伸び放題生え放題…。
それもまた風景に合っていて、いいのかもしれない。
綺麗に生えそろっていたら、人工芝みたいでちょっと嫌だし。
風邪で揺らぐ草花は何とも幻想的だ…。
秋の稲穂を思い出す…、稲穂…、ご飯…。
私はなんて残酷なことを思い出してしまったのだろうか…。
ご飯が食べたい。
元日本人なら必ず思う感情だろう。
しかし…、せっかくチーズを作ったというのに、もう違う食べ物を食べたくなってしまった…。
この気持ちはあれだ…滅茶苦茶欲しいレアアイテムを手に入れてしまった後、すぐ他のレアアイテム欲しくなっちゃう現象。
「ご飯…この世界にあるのかな…。でも、同じイネ科の小麦と大麦があるなら…まだ可能性は0じゃないよね…。世界を見てまわったら…楽しいのかも…」
私は原っぱに腰を下ろし、自然へ身を投じた。
春風が草木の香りを運び、私の髪はふわふわなびく…。
草原が春風に吹かれ波を作り出しているのを私はただただ見つめる。
自然と重なり合った感触を味わいながら…私は一時を過ごす。
私は大きく伸びをして草原に寝転がる。
そして、空を見つめたとき私は気づいた。
既に、空がオレンジ色へと染まっていたのだ。
「あ…もう帰らないと」
私はその場に立ち上がり、服に付いた土や砂を払い落とす。
「明日からも頑張って働いて、お金をちょっとでも貯めよう…。また極貧生活に戻るのは絶対いや…」
遊び相手がいないと、10歳でもお金信者の思考回路に陥ってしまうなんて…。
娯楽が無いというものは何とも寂しいものだ。
私は気分を入れ替え、明日からも牧場の仕事を頑張っていこうと心に決めた。
「ただいま…って何やってるの…」
家の中で空の牛乳パックが何パックも床に散らばっている状態だった。
「あ! 姉さん! 見て見て、こんなに作れたよ!」
テーブルの上には20個…30個…いったいチーズを何個作ったのか分からない…。
「お、キララお帰り。遅かったな」
「お父さん…何食べてるの…」
口をもごもごさせながら喋るお父さんの様子を見ると、何を食べているか私は容易に予想するが一応聞いてみる。
「なにって、このチーズってやつに決まってるだろ」
「キララもどんどん食べなさい。美味しいわよ」
何なんだろう…なぜこうなってしまうのか…
「ベスパ…今、倉庫の中にある牛乳パック…あとどれくらい残ってた…?」
「はい、約50パック以下だと思われます」
――牛乳パック…50パック以下…。村の家族は50組以上…。一家族1パックなら何とかなるかもしれないけど、買ってくれる人は2パックや3パック買って行く人もいる…。
「明日の配達…と販売どうするの…」
「え…あ!!」×4
デイジーちゃん以外察したらしく、4人は私の目の前で慌てだしている。
――私も含め…私の家族は周りを見るのが下手なのだろうか…。
その日はとりあえず、チーズを保存し、何とか腐らないように細心の注意をはらった。
「明日は牛乳を減らして…このチーズを配ろう。こんなに食べられないし…」
「はい…」×4
なぜかお父さんとお母さんも、しゅん…としてるのが可笑しい。
大人2人が床に正座している姿に、笑ってしまいそうになるのを私は。ぐっと堪える。
――レモネも使い切っちゃったみたいだし…また取りに行かないと。
「別に私は怒ってないけど…私達の作る牛乳を待ってくれている人がいっぱい居る。私達の生活はお客さんがいることで回っているの、それを忘れたら駄目だよ。お客さんが第一これはちゃんと自身の心に刻んでおかないと」
――何で私はこんなお説教みたいなことをしているのだろうか…。早く夕食を食べて寝たいんだけど…。でも…なんか懐かしいな…相手を正座させながら話すの。
アイドル時代…後輩育成に私はよく駆り出されてたけど、『アイドルの心得とは!相手の笑顔を第一に考えること!』とか言ってたっけ。
時代は令和だったけど…昭和アイドル臭くやってたな。
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