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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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本業と副業

 フリジア学園長はドラグニティ学園長のスキルも知っていた。

 ドラグニティ学園長は時間を止めているのではなく流れをゆっくりにしているだけだと言っていたが、昔は止められたのかもしれない。

 そう考えると強すぎるな。今は半径五〇メートル以内だけっぽいけど、昔は半径も広がっていたのか。

 でもドラグニティ学園長の魔力や体が衰えた影響でスキルの効果が弱まってるっぽいし、私の魔法で強化すれば昔の力を使えるようになるかも。まあ……、バレルさんの時のような強敵が現れないことを祈るしかないな。


「じゃあ、私がこの場所に来るのも控えた方がいいか……。もう、心臓がひねりつぶされそうなくらい辛いが……、キララちゃんの身の安全が最優先だ」


 フリジア学園長は泣きそうになりながら、呟く。


「私はもうすぐこの場からいなくなります。フリジア学園長の話を聞く辺り、私はドラグニティ魔法学園に行くのが良さそうですね。あの場所なら比較的安全ですし、一緒に会話できるはずです。敵も強い者は襲いたくないと思います。元剣神のバレルさんを恐れていたくらいですからね」


「バレルかー。あいつも強かったなー。ほんと、剣だけであそこまで強いの反則だ。年老いたら弱くなるかと思ったが、普通に強いままだし、魔法も切り裂かれるし、踏んだり蹴ったりだ」


 フリジア学園長はバレルさんと戦闘経験があるようだ。この方、本当に何者?


「フリジア学園長ってその職業が本業じゃなかったりしますか?」


「え? 今は本業だよ。昔は副業だったけどねー」


 フリジア学園長ははにかみながら言う。耳の裏をポリポリと掻いており、ばつが悪そうだ。


「あー、あんまり聞かない方がいい話ですか?」


「そうだね……。まあ、今は大きく動いていないし、キララちゃんは誰にも話さないと思うから言うけど、私はルークス王国を倒すために送り込まれた大森林から来た諜報員だったの。もう、八〇〇年くらい前の話しだけどね……。あ、やばい、年齢がバレちゃう」


 フリジア学園長は両手で口を閉じた。だが、彼女の年齢が八〇〇歳を超えていると言うのが今の発言で分かった。私の見立てよりも大分年上の方で、そりゃあ、誰でもガキ扱いするよなと納得する。


「そんなに昔からルークス王国に拘わっているんですね」


「そうなんだよー。大森林の爺と婆が、私に行けってうるさくてさー。もう、さっさとくたばれーって感じだよ」


 フリジア学園長は物凄くラフに話しているが、彼女にとってお爺ちゃんはお婆ちゃんと呼ぶ存在っていったい何歳なのだろう……。

 私は想像したくないので、考えるのをやめた。


「そんなフリジア学園長が正教会に恨まれているのは間違いなさそうですね」


「そうだろうねー。昔は国を滅ぼそうとしたし、今は女性の権利を上げようとしてる。奴らにとっては最悪な女になってると思うよ。でも、生きてる私ってすごいよねー」


 フリジア学園長は微笑みながら、言う。逃げも隠れもせず、大きな王都の一角に自分の根城を立てるほどの精神力。私も見習わないとな……。


 ――今のところ、ウルフィリアギルドの仕事部屋が隠れ家と言ったところか。


「へー、キララちゃん、ウルフィリアギルドで仕事部屋を持ってるの? すごいじゃん」


「……それは諜報員時代の癖ですか?」


「あ、ごめん。本業より、そっちの方が長いからさー」


 フリジア学園長は耳を引っ張りながらこいつが悪さをするんだと言いたそうな顔を浮かべる。


「まあ、フリジア学園長になら知られても構いません。ただ、変な行動を起こすと目をつけられるので気を付けてください。滅多に行かない場所に何度も行くとか、仕事に関係なく外出するとか、あいつらはどこで見張っているかわかりませんよ」


「そうだね。ちょっと用心するよ。それでさっきの私の状態と学園の食べ物の話なんだけど、お願いしたいことがある」


「なんでしょうか?」


「話を聞く限り、キララちゃんは毒物の検査が上手いようだし、食堂に使われている品の検査と学園内に正教会が作った危険物が無いか調べてほしい」


「なるほど、わかりました。今度の合格発表会の時に行きます。えっと、ウトサを使った料理に気を付けてください。最悪、ウトサを燃やして瘴気が発生したら販売を中止してください。まあ、この方法は王都に広く伝わっているはずなので改良が施されている可能性があります。そうなると厄介なので水に溶かす、草木に与える、土に入れるなどして調査してください。私が合格発表に訪れた時、全部調べます」


「わかった。とりあえず、キララちゃんの許可が得られたお菓子だけ食べるようにするよ」


「はい、そうしてください。ビーを一匹付けますから声を掛ければベスパが飛んで行きます」


「いやー、便利なスキルだね。じゃあ、キララちゃんの配下をありがたく借り受けるよ」


 フリジア学園長は髪の中にビーを忍ばせる。私には一生できなさそうだ……。


「はぁー、奴らも動き出したようですね……。尻尾が掴みやすくなりましたけど、その分危険も増えます。今後、どんな動きをしてくるかわかりませんから細心の注意を払ってください。最悪、悪魔が来ます」


「はは……、信じがたいが、キララちゃんがいうのだからそうなのかもしれないね。悪魔か……。私も見た覚えが無い。爺や婆なら見ているかもな……」


 フリジア学園長は顎に手を置き、目を細めながら考えていた。


 ――悪魔を見ている可能性があるって何千年生きている方なんですか。なんて話をしてもいいのだろうか。


「じゃあ、キララちゃんとしっかりと会えるのは今日が最後かー。正教会のやつらをぶっ潰して正々堂々と会えるようになるまで頑張って仕事しないとね」


 フリジア学園長は立ち上がり、私の隣に座る。


「キララちゃん、話てくれてありがとう。キララちゃんが話てくれなかったら、私はきっと死んでいた。助けてくれたのもキララちゃんだし、本当に感謝してもしきれないよ。だから、私のキスをうけと……うぐぐ」


 私は迫ってくるフリジア学園長の頬を拳を押し返す。


「フリジア学園長、遊んでいる場合じゃないんですよ。少しでも気を緩めれば命を簡単に持っていかれます。私は周りに多くの仲間がいるので安らかに眠れますが、フリジア学園長は夜も寝られないんじゃないですか?」


「まあ、昔の勘を取り戻せば夜襲を掛けられても問題ないかな。すぐに慣れるのは難しいけど、まだ外部攻撃で済んでるから躱して行けば突破口が見えてくるはずだよ」


「フリジア学園長はやっぱり前向きですね。長年生きていける秘訣ですか?」


「そうかもね。辛いことは何度もあったけど、前向きに生きていれば、楽しいでしょ。その方が絶対いい人生になると思う。キララちゃんも凄い前向きだし、私達ってやっぱり似た者同士だね」


「似た者同士って嫌悪感を抱くと思うので、根本の性格は全く違うんだと思います。でも、フリジア学園長と知り合いになれて本当によかったです」


「私もだよー。キララちゃんと喋れて、本当にうれしい!」


 フリジア学園長は私にぎゅっと抱き着き、頬擦りしてくる。彼女の底はしれないが、悪い者ならすでに何かしてきているはずだ。

 信頼関係を築いて後ろからグサリなんて暗殺者みたいな手法をとってくるだろうか? まあ、取って来たとしてもビー達の目を掻い繰るのは至難の技じゃない。

 時間を止めでもしないと難しいだろうな。でも範囲外にいるビーが魔法を放ってくれれば何とかなるか。私は、出来る限り信頼できる仲間を増やし、危険から身を守る。


 私たちは応接室から出て食堂に向かった。


「うーむ、これはどうしたものか……」


 マルチスさんは腕を組み、椅子に座りながら考え込んでいた。


「そうですね……。魔造ウトサと似た品が王都で流通しているなんて予想外ですよ」


 ルドラさんはマルチスさんと話し合っていた。話の内容を聞くに、私とフリジア学園長が話していた内容と同じだ。


「マルチスさん、ルドラさん。私達もその話に混ぜてください」


「キララか。って、フリジア殿!」


 マルチスさんはフリジア学園長に話が聞かれたと思ったのか、杖を持つ。おそらく、彼はフリジア学園長に勝てないのに、血気盛んだ。


「まて、マルチス。私もキララちゃんから話は聞いた。王都に蔓延る害虫が毒を垂れ流しているようだな」


 フリジア学園長はマルチスさんの近くの席に座った。


「キララ、話したのか?」


「はい。先ほど、フリジア学園長が新しい魔造ウトサの魅了に掛かりまして、私を襲って来たんです」


「何と……。フリジア殿がキララを襲った……。なんか、破廉恥じゃな」


 マルチスさんは目を細め、私達を見回した。


「お爺様、今はそんなことを言っている場合じゃありませんよ。まあ、確かに破廉恥ですけど。妖精のように美しい者同士が……」


 ルドラさんは頬を赤らめ、いかがわしい妄想を回転が速い脳内でしているのかもしれない。


「マルチスさん、ルドラさん。何を考えているのか知りませんが、集中してください。今はマドロフ商会の危機になっていませんが、いつ、どのようにして正教会が攻めてくるかわかりませんよ」


「あ、ああ、そうだな。すまない」


 マルチスさんは頭を下げ、咳払いをしながら話し出す。


「キララはこの粉を知っているか?」


 マルチスさんは懐から白い粉が入った袋を取り出した。見るからにやばい粉だ。


「うわ……。真っ白ですね」


「これはわしらの縄張りで勝手に売っていた奴から押収した品だ。何かわからなかったが、鼠に食わせたら近くの猫に近づいて行ってな……。そのまま食われた。鼠が猫に近づくなんて言うおかしな行動をとったんだ」


「確かにおかしいですね。少し調べさせてもらってもいいですか?」


「ああ、構わん」


 マルチスさんは私に白い粉を手渡してきた。

 私は開いた試験管の中に白い粉を入れ、水を灌ぐ。だが、瘴気は発生しなかった。試験管を振り、水とよく混ぜ合わせると毒々しい紫色に変色した。

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