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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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証拠隠滅

「はは……、どうやらその懐中時計は相当やばい品みたいですね。誰にも見せない方が良さそうです」


 私はエルツ学園長の反応を見て、周りに人がいるところで懐中時計を見るのは絶対に控えようと思った。胸もとでこっそり見るくらい配慮しないといけないのかな。まあ、一瞬、ぱっと見るだけなら構わないか。


「とりあえず、このぶっ飛んだ懐中時計は返そう」


 エルツ学園長は超高い時計を店員に返すように慎重に私の手に置いた。

 私は結構粗く使っているが、彼からしたら相当貴重な品に見えているようだから、慎重に扱っているのかな。


「ふぅー、懐中時計だけでお腹がいっぱいになってしまった……。キララ君の弟が発明家になってくれれば世界がどれだけ変わるか見ものだな」


「まあ、弟は機械よりも魔法の方が得意なんですけどね」


「…………」


 エルツ学園長は顎が外れたくらい口を開けていた。

 そりゃあ、懐中時計を作れるのだから、機械が相当好きなんだと考えていただろう。だが、ライトは機械よりも魔法の方が好きなので懐中時計は片手間に作った品だ。


「は、はは……。そんな子が世に放たれたらどうなるのだろうな。あまり考えないでおこうかな……」


 エルツ学園長は自信を無くしたのか、よぼよぼと歩いていく。

 天才が現れて凡人が自信を失うのはよくある話だ。きっとテールさんが作っていた魔剣もライトならもっと早く完成させてしまうかもしれない。

 なんなら、もう作っているかもしれない。

 そんな大天才がこの世界に生まれている。世界を変える天才が数百年に一度現れる。地球でもそうだ。

 大天才が人類の技術を早め、神すら驚く速度で陸上の頂点に立った。ライトも腐らなければこの世界の礎になるのだろう。


「エルツ学園長。弟は毒にも薬にもなります。道を踏み外したら世界の脅威になりますし、正義の道を行けば弟は世界を変えます。姉の勝手な考えですけど……。彼が入学しても腐らないよう指導できる環境を整えてあげてください」


「はは……、逆にそこまで行くと荷が重くなるが……考えておこう」


 エルツ学園長はコクリと頷き、私の話を信じてくれた。大天才な弟がいるなんて話をまともに聞いてくれるなんて、良い方なんだな。


「キララ君、君は魔法を使ってわしを吹き飛ばした時を覚えているか?」


「え……。まあ、思い出したくないですけど……」


 私はエルツ工魔学園の試験の時、最後の最後でエルツ学園長を魔法で吹っ飛ばした。彼は気絶し、空気が悪くなった。そのうわさが王都に流れ、少々動きづらい気分になったものだ。


「キララ君が放った魔法はただの『ファイア』のはずだ。なのにわしが吹き飛ぶなどあり得ない。簡単に言えばもう一度わしの体に向って放ってほしい」


「……えっと、なぜですか?」


「戦士としての誇りが許せんのだ。あの時、ほんの微かな油断があった。今ここでわしの体にファイアを放ってくれ!」


 エルツ学園長はドMなのか、自ら攻撃を放ってくれとお願いしてきた。さすがに引きかけたが一二歳の少女に気絶させられたと言う事実が戦士の誇りとやらを傷つけたのだろう。


「良いんですか?」


「構わん。思いっきりやってくれ。この部屋は魔法が暴発しても周りに被害が出ないよう魔法陣が書き込まれている。『ファイア』がわしの体から反れても問題ない」


「そうですか……。じゃあ、簡単に放てるので行いましょうか」


「うむ、よろしく頼む」


 エルツ学園長は軽く頭を下げ、上着を脱ぎ、上裸になった。

 やはり年老いていても肉体美は衰えていない。背が低い体型なのにゴツゴツした体があまりにも似合っていない。

 まあ、顎髭や濃い顏によって大分マシに見えるが可愛い顏が付いていたら恐怖の対象だ。それくらいエルツ学園長の体はバッキバキだった。


「ふぅ……。あの時は少々運動不足だった。当時までとはいかないものの、できうる限り仕上げて来た。この肉体でキララ君の『ファイア』を受ける!」


 エルツ学園長は一二歳児の前で腰に手を当て、体の上半身を堂々と見せびらかしてくる。普通の一二歳児にこんなことをしたら確実に逮捕案件なので外部に漏らさないようにしなくては……。


「じゃあ、私はエルツ学園長のお腹目掛けて『ファイア』を放ちますね」


 私は右腰に付けてある杖ホルダーから魔法杖を取り出し、しっかりと握る。杖の先端をエルツ学園長に向け、魔力を溜めた。杖の先は人に向けちゃいけませんって習っていないので問題ないだろう。


 杖の柄と手の平が触れあっている場所から魔力が外部に流れ出そうと移動を始める。どうやら、魔法が放てるくらい魔力が溜まったようだ。


「では、放たせてもらいます。『ファイア』」


 私は詠唱を言う。それと同時に杖先に魔法陣が展開された。魔法陣に魔力を流し、火の弾に変える。勢いよく射出された火の塊はエルツ学園長の腹に直撃。


「ぐふっ!」


 エルツ学園長は腹に『ファイア』を食らい、後方の壁に吹っ飛んだ。壁に叩きつけられ、蜘蛛の巣状のひび割れが前面に広がる。

 『ファイア』の勢いは止まらず、エルツ学園長ごと壁をぶち破って外に吹っ飛ばした。


「…………やっべ」


 私の『ファイア』の威力が従来よりも確実に上がっている。なんの影響か全くわからないが……、少し思い当たるところがあった。


「キララ様が軽く本気を出した『ファイア』の威力が通常より八〇倍ほど上がっている模様。魔力量が常人の八〇倍を突破したのかもしれませんね」


 ベスパは崩壊した壁から資料が流れ出ないよう、ビーとアラーネアですぐに直しにかかっていた。


「は、はは……。『ファイア』で攻撃したらエルツ学園長と壁を吹っ飛ばしちゃった。前はドラグニティ魔法学園の闘技場をぶっ壊しちゃったし……、私、魔法の扱い、下手くそなのかな」


「そんなことはありません。ただ、思っていたよりも壁の耐久力が無かっただけです」


 ベスパは壁を叩き、ボロボロと崩れる土を見ていた。


「いや……、そういう訳じゃないと思うけど……」


 私は苦笑いを浮かべ、壁をベスパとネアちゃんに綺麗に直してもらった。その間に、外に吹き飛ばされたエルツ学園長を探しに行く。

 部屋を出て、昇降機を使って一階に下り、園舎の外に出た。そのまま、エルツ学園長が飛んで行った方向に走る。


「きゃあああああああああっ!」


 女子生徒の大きな叫び声が聞こえた。


「う、ううん……」


 エルツ学園長はふっとばされてエルツ工魔学園の数少ない女子寮に突っ込んでいた。ズボンのベルトが緩んでいたのか、はたまた吹っ飛んだ衝撃で脱げたのか知らないが半尻を出しながら壁に突き刺さっている。


「あ、あちゃぁ……」


 周りが騒然としており、最悪の状況だ。

 私はビーたちの光学迷彩を使い、エルツ学園長の姿を隠す。加えて突っ込んだ壁も直した。

 エルツ学園長を救出し、他の先生が飛んでくる前に証拠隠滅。


「う、うわっ! すっごい! こんな幻を生み出す魔法があるなんて!」


 私は大げさな声を上げ、エルツ学園長があたかも突っ込んだかのような状況を魔法のせいにした。すると、生徒の目に映っていたのは幻だったと言う声が広がり、事態が鎮静化していく。


「あ、あっぶなぁ……。私のせいでエルツ学園長が変態の容疑で辞任するところだった」


 私は伸びているエルツ学園長を学園長室に運ぶ。私と言ってもビーたちの仕事だ。

 私とビーたちが学園長室に戻ったころには壁がとても綺麗に直っていた。


 私はエルツ学園長に『ファイア』を放ったと言う記憶すら幻だったと思わせようとエルツ学園長に上着を着せ、椅子に座ってもらう。作業台で眠っているように腕を組ませ、時間を巻き戻す。


 私は学園長室の扉の前に立ち、木製の扉を三回叩いて名前を言った。


「う、ううん……。あ、あれ……、わしはいったい……」


「すみません、エルツ学園長はいますか? キララ・マンダリニアです」


「え……。は、はて、わしはいったい……。さっき、キララ君に吹き飛ばされた気がするんだが……」


「え、何を言っているんですか? 私は今来たばかりですよ」


「何と……。そうだったか?」


 エルツ学園長は先ほどの攻撃で頭が上手く回っていないのか、案外信じた。なんせ、周りの状況が全く変わっていないのだ。穴が開いた壁も綺麗に直っておりパッと見ただけではわからない。


 私はエルツ学園長と同じようなやり取りを繰り返した。だが『ファイア』を撃ってほしいと言う話しは一切無かった。夢の中でどうなるか確認したと解釈したと思われる。


「じゃあ、エルツ学園長。私はそろそろお暇します」


「わかった。気を付けて帰りなさい。他の学園が気に入らなかったらいつでも編入してくるといい。わしが許可しよう」


「ありがとうございます。一度検討し、入学しなかったとしてもまた編入できるというだけで選びやすくなりました。今日はお世話になりました。では、失礼します」


 私はエルツ学園長に頭を下げ、学園長室を出た。


「はぁ……。な、何とか……行けた」


 私は精神を大きくすり減らし、汗だくになっていた。そのため、後半の記憶があまり無い。場を治められたという達成感だけが脳内を駆け巡る。


「キララ様、お疲れ様でした。エルツ学園長が女子寮に突っ込んだなんて噂が王都中に流れるところでしたよ。その原因がキララ様だなんてあってはならないことなので証拠隠滅を完璧に行いました」


 ベスパは警察よりも手際よく証拠を集め、隠滅してくれる。圧倒的な数の力だ。こういうところは頼りになる。


「ありがとう、助かるよ」


 私は長袖で額の汗をぬぐい、昇降機で一階に向かう。

 そのまま、学園の入り口付近に張り出されている合格者表を見た。合格者の受験番号が大量に並んでおり、私の受験番号八八八八番を探した。

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