承認欲求を満たす
「いやぁー、料理の出来る男性ってかっこいいですね。結婚するならやっぱり料理が出来る男性の方がいいよなー」
「いつも思うが、キララは子供とは思えないほど大人っぽいな」
「いえいえ、私がそう思っているだけなので。えっとアラキさんは結婚しているんですか?」
「妻と子供が王都外にいる」
「へぇー、じゃあ、アラキさんだけ王都で料理を作ってお金を稼いでいるわけですか」
「そういう訳だ。まあ、俺はマルチスさんに拾ってもらったしがない子共だったが、専門学校にまで行かせてもらった。その分の恩返しもあるな」
「マルチスさん、良い人過ぎ……。でも、その恩をちゃんと返しているアラキさんも立派ですね。ここまで義理堅いのも珍しいです。料理人気質なんですかね」
「はは……、どうだろうな。だが、受けた恩は返す。恩は勝手に渡す。それが俺の考えだ。だから、キララも気にせず食べろ」
アラキさんは魔石コンロに火をつけ、スープを暖めた。コーンスープのような液体に余った黒パンを入れ、食べやすくしてくれた。
腸の中に肉が入れられた包……、まあ、いわるゆるソーセージをフライパンでしっかりと焼き、皿に盛り付けた後、先ほど作っていたソラルムソースを掛ける。それだけで高級感が増した。
新鮮な野菜を切り、ソラルムとミグルムを入れてからオリーブオイルのような油で軽くあえ、素材の味をしっかりと味わえるサラダまで出してくれる。普通に銀貨一枚以上の仕事ぶりだ。
私の前にある銀製の調理台に料理が盛られた皿が出される。
「うわぁ、美味しそう……。いただきますっ!」
私は両手を合わせ、食材と料理人、料理に使われた食材を作ってくれた者達に感謝して食事する。
フォークを持ち、野菜を口に頬張る。
ジャキジャキッと言う爽快な音が鳴り、新鮮度を知らせてくれた。噛めば噛むほど水分が溢れ、振られたソウルの加減が丁度良い。しょっぱすぎず薄すぎず。食物から得た油が味を纏めている。
たまたまか知らないが、私が好きな具合の味付けになっていた。
胃に食物繊維を入れた後、コーンスープに浸った黒パンを木製のスプーンですくい、口の中に入れる。
どろっと蕩けるほど柔らかくなった黒パンが口の中で溶けた。
穀物の香りはそこまで強くないが食べ応え抜群でお腹に溜まっていく。コーンスープ似のスープに使われている品が甘く、ウトサを大量に使っていないのに心が幸せになる味だった。
肌寒い季節なので、冷えた体にものすごくしみる。
心がポカポカして来た頃、ソラルムソースが掛けられたソーセージにフォークを突き刺し、ナイフで一口の大きさに切った後、食す。
パリッと言うほど皮がしっかりと張っており、噛めば噛むほど肉汁が出てくる。魔物の肉と思うと気が引けるが美味しいので気にしない。
マグロかと思って食べていた寿司のネタが全く知らない魚でもわからないように、ソーセージの肉も魔物の肉なんですよって言われないとわからないほど美味しい。
それだけ、料理人の腕が良いと言える。まあ、私の舌が田舎者すぎて調味料があるだけで心が躍ってしまうのだ。
「ソラルムソース、すごく美味しいです。酸味の中に野菜のまろやかな風味が広がってソルトとミグルムでほわほわした雰囲気がピシッとしまっています。肉の脂身といい具合に調和して、くどすぎずさっぱりしすぎない、良い具合に調整してありますね」
「キララ、料理が好きだろ」
アラキさんは私の姿を横目に食材の下準備を進めていた。
「そりゃあ、好きですよ。私が生きていられる理由は食べ物を得ているからです。その食事が好きじゃないわけないじゃないですか」
「はは、食べ物を得ずに生きていられるのなら人間じゃないな。まあ、キララが料理を得ている姿が美味しそうに料理を食べる娘に似ていてほっこりする」
アラキさんは微笑み、下準備しているかと思ったら果物を切って皿に盛りつけてくれていた。
「デザートだ。冬の品だから甘味が強い。色や形の悪い物で済まないが、味は変わらない。よかったら食ってくれ」
アラキさんは取り寄せた食材の中で見た目が悪い品を取り出し、私に賄いとして食べさせてくれた。
普段なら捨てられているか、他の皆で食べていたところを私のために出してくれるなんて優しい。
新品をくれよなんて言うのは傲慢な者の考えだ。食べ物を分けてもらえるだけすごくありがたい。
「ありがとうございます! すごく嬉しいです!」
私は果物が入った皿を受け取った。見ると、どれもこれも綺麗な見た目に切られていた。
ゴンリやベリーにナイフが入れられており、色が悪い部分を除去し、綺麗に見せている。賄いにここまでこだわってしまうなんてやはりアラキさんは生粋の料理人だ。
「はむ……。んんー、おいしぃいっ」
私はベリーを口にしてイチゴそっくりな甘味を舌全体に感じた。
今、クリームケーキを食べればショートケーキになるが生憎無い。
昔食べた味を思い出しながら、ベリーを楽しんだ。
ベスパがゴンリを欲しそうに見つめていたので、おすそ分けし、食べてもらった。もう、銀貨一枚じゃ完全に大赤字の賄いを食し、私は大満足。
「はぁー、お腹いっぱいで幸せです……。アラキさん、ありがとうございました」
「ふっ、その顔が見れただけでも十分だ。さ、厨房から出てった出てった。料理に集中したい」
「アラキさん、何かしてほしいこととかありませんか? ある程度なら叶えられるかもしれません。お金の代わりにお願いを聞かせてください」
「お願い……。そうだな……、じゃあ、手紙をウルフィリアギルドに出してきてくれ。家族宛ての手紙だ。書いたはいいが……こっぱずかしくて出しに行くのが億劫でな」
アラキさんは胸もとから蝋印までしてある手紙を取り出した。
「おやすい御用です。請け負います」
私はアラキさんが書いた手紙を受け取り、厨房を出た。
「手紙をウルフィリアギルドに届けよう」
「私が持って行きましょうか?」
ベスパは私の頭上を飛び、訊いてきた。
「ううん。暇だし、私が行くよ」
私は食後の運動がてら、レクーの背中に乗り、ウルフィリアギルドに手紙を出した。
どうやら、ギルド経由で他のギルドに手紙を送っているそうだ。一応郵便局のような仕事もあるらしい。ギルド職員って大変だな……。
手紙を出してすぐに家に戻ってくる。
別にビーにやらせればいいかもしれないが、自分で行ったと言う達成感が欲しかった。
良いことは自分でしないと意味が無い。
自分の仲間が良いことをしても自分の承認欲求は満たされないのだ。
家族が表彰されても何とも言えない気持ちになるのと同じ現象なので、出来る限り自分で問題を解決したい。
そう思っているが、ベスパが便利なのでついつい頼ってしまう。フリジア学園長が言っていた通り、スキルに依存している状態だ。
万が一、スキルが無くなった時、何もできなくなってしまう。なので、自分で出来ることは自分でする。そういう癖をつけておいた方が良いと思った。
「ふぅーん、ふふーん、ふんふん……」
私は庭園の草に水を与えていた。別に私があげる必要も無いが、自己満足のためにしている。
庭師の皆さんにも喜んでもらえるし、虫たちも泣いて、実際は翅を鳴らして喜ぶので一石二鳥、なんなら三鳥だ。
まあ、今の私なら石を魔法で放ち、八羽以上の鳥を撃墜できると思うけどね。
「キララ女王様っ、万歳っ!」
「キララ女王様っ、万歳っ!」
「キララ女王様っ、万歳っ!」
庭園に住む虫たちが私に向って叫ぶ。
ほんと気分が悪い。私は女王じゃないっての。と言ってもやめる気配がないので無視し続ける。虫だけに……。あぁ、寒い。
「冷え込んできたな……。もう三月に近いのに……」
「夕暮れですからね、家の中に入って暖を取りましょう」
ベスパは私の周りを飛びながら言う。静かな庭だと翅音が大きく響き、耳障りだ。
私は屋敷の中に入り、手洗いうがいを終わらせ部屋に戻る。『ヒート』の魔法陣で部屋を暖め、グデーッと寝転んでいるフルーファにただいまのキスをした後、椅子に座って勉強。
私も王都の生活に慣れて来た。
というか、ある程度同じ生活の繰り返しなので慣れるのも当然だ。住めば都とよく言ったもので、この部屋で落ち着きを得ている。
今、実家の家の部屋に戻ったらどんな気分になるんだろうか。うわ、せっま。というのか、ああぁー、落ちつくー。というのか。ちょっと楽しみだ。
「キララちゃん、遊びに来たよー」
扉をノックもせずに部屋に入り込んできたのはフリジア学園長だ。
今日も懲りず、部屋に来た。
最近、よく来るようになり、話し相手になっている。お金持ちに加え豊富な知識を持ち、正教会にも強く出れる女性という強者で、つけ込まないわけがない。彼女と仲良くなっておけば今後有利に動けるはずだ。そう自分に言い聞かせ……、面倒臭いお客さん接待を続けている。




