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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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賄い料理

「今はルークス王の坊主が牛乳をたらふく買って飲んでいるようじゃないか。私にもおすそ分けしてくれてもいいのに……、あの悪ガキめ」


 フリジア学園長はルークス王のことを子供同然に思っている。それだけで、彼女がどれだけ年上なのかわかってしまうので恐ろしい。


「まあまあ、もう少ししたら牛乳も入ってくると思いますし、マドロフ商会の株を持っているフリジア学園長のもとにも牛乳が送られるんじゃないですかね」


「な……、そうなったら毎日でも飲み続けるぞ! だ、だが、夜はお菓子を食べたらいけないんだもんな……」


「牛乳はお菓子じゃないのでいつ飲んでもらっても構いませんよ。まあ、飲み過ぎも体に悪いので、節度を持って飲んでください」


「牛乳はお菓子じゃないのか……。ウトサを入れずにあの甘味があるって、いったいどんなモークルを育てているんだ」


 フリジア学園長は目を丸くして驚いていた。


「普通のモークルですよ。自然の環境で鬱憤なく育て、乳を出しやすい環境にしてあげることが……」


「じぃー」


 フリジア学園長は私の方を見ながら目を細めていた。


「あ……、って、ルドラさんから聞きました」


 私は視線を反らし、言いそうになった言葉を飲み込む。


「ふーん、普通のモークルからあんなに美味しい牛乳が出来るんだね。すごいなー」


 フリジア学園長は普通に話しだす。まだ私が牛乳を作っていると知られていないようで、よかった。知られていたら何をしてくるかわからないからな。


 服を着替えたフリジア学園長は玄関に向かい、大きな怪鳥に乗って飛んで行った。


「あの怪鳥移動もやめて徒歩移動の方が良いんだけど、さすがに歩いて帰らせるわけにもいかないよな」


 私はフリジア学園長に手を振り、交友という名の接待を終える。


「ふぅー、肩がこる仕事だ……。まあ、友達と言えば聞こえがいいけど年上すぎるからなぁ」


 私は外から建物内に戻り、部屋に向って歩く。


「まあ、フリジア学園長も苦労している方だと思います。でも、キララ様といると終始笑顔ですから相当気に入られているようですね」


 ベスパは私の頭上を飛び、ご機嫌気味に呟いた。


「そうかな……。気に入られていいことと悪いことが釣り合えばいいけど……」


 私は部屋の前に移動し、扉を開けた。

 メイドさんが掃除してくれているのでとても綺麗なままだ。だが、地面にへたり込んでいる灰色の魔物がいた。


「うぅ……、し、しぬぅ……」


 お腹が空きすぎたのか、黒い毛が灰色に戻り、舌をだらーんと出しながら私のもとに擦り寄ってくるフルーファが掠れた声を漏らした。


「ごめん、フルーファ。帰ってくるのが遅れちゃった」


「遅れすぎだろぉ……」


 私は木製の容器に水と魔力をそそぎ、フルーファの前に出した。


「はうはうはうはうはうはうはうはうはっ!」


 フルーファは水をゴクゴクと飲んでいく。灰色の毛がみるみる黒くなっていき、痩せていた体も戻っていった。


「ぷはぁーっ、うめえーっ!」


 フルーファは一杯の魔力水で完全に復活し、元気になった。ただの水と魔力で元気になれるなんて、なんて効率がいい体なんだろうか。


「元気になってよかったね。さ、ご主人様が帰って来たのに、餌を求めるなんて悪い態度だよね。私に帰ってきてくれてありがとうとかないの?」


「キララ女王様の感性がよくわからん……。まあ、お帰り……」


 フルーファは主に家に帰って来た時のうたい文句を呟いた。


「ただいま。うん、よくできました」


 私はフルーファに抱き着き、体をわしゃわしゃと撫でた。抜け毛が酷かったのでブラッシングして綺麗にする。

 もうすぐ春がやってくるから毛が抜けるのも必然だ。


「はぅうー、そ、そこそこ……、あぁぁー、やべぇー、きもちいぃっー」


 フルーファは気持ち悪い声を出しながら、私にブラッシングされ、表情が蕩けていた。


「もう、そんな声出さないの。はしたない」


「だ、だって、あぁぁー、ちょ、今、お腹をブラッシングするのは反則ぅ……」


 フルーファは脚をぴくぴくさせながら、盛大に喜んでいた。

 私も面白がっているので、構わない。

 毛がこんもり取れた。魔力が抜けたからか灰色っぽい。ゴミ箱に捨ててディアに食べてもらおう。

 私はブローチに擬態したディアをゴミ箱に入れ、毛を処理してもらう。


 クロクマさんを召喚し、ブラッシングする。今回の戦いで沢山頑張ってくれたので魔力もふんだんに与えた。


「ぁあー、キララさんの魔力が体に沁み込んできますぅ……」


 部屋の中一杯に大きくなったクロクマさんは毛を逆立て、身を震わす。私の魔力が体に沁み込むと心地いいようだ。あまりにも大きいので、床が抜けないか心配になった。すぐに『転移魔法陣』で魔力を軽く抜き、小さくして首輪をつける。


「キララさん、一緒に寝ましょう」


 クロクマさんはぬいぐるみ状態になり、ちょこちょこと歩いて私の体にくっ付いた。


「はい、一緒に寝ましょう」


 私はクロクマさんを抱き、一緒にベッドに上がった。

 メークルの毛で作った敷布団の上に寝転がり、ブラッディバードの柔らかい羽根が沢山入った羽毛布団を羽織る。それだけで幸せ……。

 なんなら、ふわふわの毛並みになったフルーファが寄り添うように丸まって眠ってくれた。


「はぁー、こういうまったりした生活も悪くないよな……」


 私はクロクマさんを抱きしめながら目を瞑る。


「ベスパ、お休み……」


「はい、お休みなさいませ、キララ様」


 私はベスパの声を聴いて、そのまま寝落ちした。


 二月二〇日、二一日と時間が過ぎていく。


 私が設立した『ビーの巣』は順調というか、超順調に依頼をこなし、毎日お金を稼げるようになった。

 だが、私は王都に出稼ぎに来たわけじゃない。学園に通うために王都に来たのだ。加えて、私がお菓子を作れる環境に身を置くという大きな目標もある。それが出来たら、人生がもっと充実するはずだ。


 お金を稼ぎ、空いた時間にマドロフ邸の料理場に顔を出す。

 料理人は朝と夜に料理を作り、マドロフ家に出している。昼はパンを食べたり、他のお店で買ったり、各自、自由だ。

 マドロフ家の者たちは屋敷で仕事しているわけではないので、貴族への昼食が必要ない。でも、料理人たちはメイドや執事たちに昼食を作っているので、休めるわけではない。

 ただ、手が込んでいる料理ではなく賄いのような品なので、緊張感は無かった。だから、昼過ぎは話しを結構聞いてくれる。


「アラキさん。こんにちは」


 私は料理場で食材の下準備をこなしている料理長に話しかけた。

 あまり積極的に話す人ではないが、話し掛ければ受け答えしてくれるいい人だ。

 料理の腕も確かで、街にいるウロトさんと同じくらい上手い。使っている食材が違うため、何とも言えないが同じ品を使えばいい勝負になるだろう。

 是非とも、アラキさんに高級食材を使った料理を作ってもらいたいわけだが、私の実家から王都まで取り寄せるのはとても大変。なので、渋々我慢している。


「ああ、キララか。何しに来たんだ」


 アラキさんはソラルム(トマト)を潰し、真っ赤なソースを作っていた。日が経ち見た目が悪いソラルムを使っている。あまりものを残さないようにしているのだろう。


「昨日も美味しい料理を作ってくれてありがとうございます。フリジア学園長も喜んでいました」


「そうか、なら、よかった」


 アラキさんは少しはにかみ、ソラルムを潰した中に他の野菜をペーストにした品を混ぜていく。ケチャップでも作るのかな……。


「アラキさんは料理人になって何年ですか?」


「そうだな……、今、三五歳だから、一八年くらいか」


 アラキさんは見た目とほとんど同じ。少々味が出て来たおじさんで、短い茶髪を料理帽の中に入れ、落ちないようにしている。

 背丈は一七〇センチメートルくらい、全身白い料理服を着ているのに、汚れが一切目立っていない。


「今の時間からもう料理の下準備をしているんですか?」


「そうだな。下準備をすればするだけ、料理は美味しく深くなる。マレインさんは口うるさいからな、少しでも気が抜けないんだ」


 アラキさんは腕が鳴ると言わんばかりの良い表情でソラルムソースの味見をした。

 何か足らなかったのか、ミグルム(コショウ)を潰し、粉々にしてから振りかけ、香り付けする。

 ソウルやウトサも軽く加え、再度味見。頷いていた。


「うん、いい感じだな」


 アラキさんはソラルムソースを半分に分け、切った魔物の生肉を加え、あえていく。下味をつけているらしい。すでにお腹が空いてきた。


「今日も美味しそうな料理ですね。やっぱり、学園で勉強したんですか?」


「俺は料理の専門学校に行っていた」


「なるほど、やっぱり専門学校は強いですね。まだ焼けていないのににおいと見た目だけでお腹が鳴りそうです」


「今さらだが、なにしに来たんだ?」


「いやぁー、賄いでも食べられないかなーと思ってきちゃいました。ギルドの食堂で食べてもいいですけど、ここでゆっくり食べるのも悪くないなーって」


 私はウルフィリアギルドで依頼をこなし、そのまま食堂で昼食を得て帰ってくると言うのがお決まりになりつつあったが、今日は早めに帰ってきてアラキさんの賄い料理を食べに来たのだ。


「まったく、調子がいい子供だな。今はメイドや執事に昼食として出した、朝食の残りに手を加えた料理くらいしか作れないぞ」


「それで十分です。温かい料理が食べられるだけで嬉しいですから。銀貨一枚くらい出しますよ」


「大人が子供から金を取れるか。どうせ、余っていた食材と料理を使うんだ。無料でいい」


 アラキさんは回りの料理人が昼休憩をとる中、一人厨房に立ち、私に料理を作ってくれるいい人だ。

 私は厨房の近くに置かれていた椅子に座り、料理を待つ。

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