頑張ったご褒美
「なあ、俺たちが戦って倒したゴブリンの数よりもキララとブラックベアーが戦って倒したゴブリンの数の方が多くないか?」
タングスさんは危機を脱したからか冷静になって辺りを見渡した。
「はぁ……、脳筋がいきなり冷静にならないでよ……。考えたくない現実なんだから」
ロールさんは魔法を使って地面に落ちているゴブリンの魔石を回収に掛かる。
「ロールとチャリルより若くて可愛くて強いとか、入れ替わった方が良いんじゃね? ぐはっ!」
イチノロさんはロールさんとチャリルさんに殴り蹴られていた。言わなくていいことしか言えないのだろうか。
「まったく。私たちより可愛いのは認めましょう。つ、強いかどうかは別問題ですし、長年旅してきた仲間にそんなこと言わないでください」
チャリルさんはイチノロさんの顔面を踏みにじりながら言う。
「ご、ごめんなさぃ……、ちょっとした冗談なのに……」
イチノロさんは地面にうつ伏せになった状態で謝った。女性差別が残っている中で、男性の方が女性の尻に敷かれているのは珍しい光景かもしれない。
私が弓の練習をしていると、周りにゴブリンがいなくなった。クロクマさんも辺りを見渡し、何も見つけられなくなる。
――ベスパ、ゴブリンは今ので全部?
「ここに寄って来ていたゴブリンの個体は全て倒しました。ですが、奥の方にあるゴブリンの巣にまだ残っている個体がいますね。仲間たちの帰りを待っているようです。情報を仕入れたいと思っているのでしょう」
――なるほど。でも、こんな大きなゴブリンがいると言うことは何かしら魔造ウトサの影響を受けているってことだよね?
「そのようですね。ゴブリンと近しいオークの混雑種でしょう。魔造ウトサにより、気が動転したオークがメスのゴブリンを襲った可能性も考えられます。どのようにして生まれたのかはわかりませんが、ゴブリンの繁殖能力をしっかりと受け継いでしまっているようですね。完全に駆除しないと多くの被害が出るかと思われます」
――はぁ……。ゴブリンの駆除ですら面倒臭いのに、大きなゴブリンの駆除なんて、普通の人じゃ絶対に行えないじゃん。あんな大きな個体が村に攻めてきたら子供たちが泣いちゃうよ。
私はゴブリンの巣がある位置を把握した。
西の森にある岩場と言うか、渓谷に洞窟がいくつも空いている場所で、身を隠すのに丁度いい穴場だった。
周りに木々が生い茂っており、木の実類が結構豊富。いい場所を見つけて増えたのだろう。
「皆さん、このまま奥に行くとゴブリンの巣があります。どうやらその中で大きなゴブリンが増えているようです。もしかしたら先にやって来た冒険者さんたちが攫われているかもしれません。どうしますか?」
「どうするもこうするも、今すぐ助けに行くに決まっているだろう! 痛いっ!」
タングスさんはロールさんに頭を殴られる。パーではなく、グーで。
「バカ、何の準備も無しに殴り込みに行けるわけないでしょ。真っ暗だし、攻めるなら早朝が良いわ。魔力と体力を回復させてから地形とかも考慮しないと」
ロールさんは意外と常識人らしく、考えをしっかりと回していた。
「はぁ……、ゴブリンの巣を攻めるとか、いつ以来だ……。ほんと冒険者になって、生活がやっと安定してきたころ以来かもしれないな」
イチノロさんは地面にどさっと座り、片膝を立てる。目を瞑り、過去を思い出しているかのような表情を浮かべながら言う。
「そうですね……。私達の冒険者ランクがBランクに上がった時くらいが最後ですかね」
チャリルさんも地面にペタンコ座りをして息を整えていた。
「もう、一八年くらい前じゃないか? 俺たちが一八歳くらいのころだと思うが……」
イチノロさんはタングスさんの方を見ながら言う。
「そんな前か? いや、さすがに前すぎるだろ……。多分……」
タングスさんは頭に手を置き、表情を暗くしながら言う。
「若い時はまだ生えてたのにな。仕事が多忙すぎてはげたか。いや、もう、冒険者になるころからはげてたっけか?」
イチノロさんは自分のフサフサの髪を見せつけ、自慢気に行った。
「すりつぶすぞ……」
タングスさんははげた頭に触れられたくなかったのか、眉間にしわを寄せ、静脈を浮かばせる。
「ははは……、じょ、冗談だって。気にするなよ。その方が強そうに見えて良い感じだぜ」
「んっ! そうか! そうだよな! ははははっ!」
タングスさんは機嫌をすぐに治し、高笑いしていた。単純な人だ。
「皆さん、ここで一夜を過ごすんですか?」
私は懐中時計をポケットの中で開き、もう午後一〇時近い時間だと知り『聖者の騎士』に訊く。
「そうね。一応毛布と天幕は持ってきているから一日くらい野宿出来るわ」
ロールさんは腰につけていた魔法の袋から毛布と天幕を出した。やはり魔法の袋は物凄く便利だ。『転移魔法陣』で同じように使えるが、異空間に手を入れられないのが欠点。
容量はバカみたいに多いが手探りできないと言うもどかしさを抱えている。
「はぁ……、血みどろに塗れて臭い中で眠るなんて最悪です……」
チャリルさんはぼそっと呟いた。
「仕方ないじゃない。ゴブリン対峙なんてこんなもんよ。パンと水を食べてさっさと寝ましょう。魔法陣で魔物の侵入を察知するから安心して寝なさい」
ロールさんは詠唱を呟き魔法陣を地面に展開させる。同じ魔法陣を、至る所に設置した。
「うう……、肉が食いたい……、酒も飲みたい」
タングスさんはパンを口の中に一口で入れた。
「はぁ……。こんなことになるなんてな……、もっと楽な仕事だと思ってたんだが……」
イチノロさんは水を口に含み、一呼吸おいていた。
「魔物が想像以上に増えていたんだから仕方ないでしょ。まあ、新種のゴブリンが大量に現れるなんて想像できるわけないから運が悪かったとしか言いようがないわね」
ロールさんはパンを千切り、口に頬り込む。
「はい、キララちゃんの分のパンとお水」
チャリルさんは私の分のパンと水を分けてくれた。
「……皆さん、睡眠の質を上げた方が良いので今から寝床と家を作ります。あまり驚かないでくださいね」
「「「「ん? 家?」」」」
『聖者の騎士』の方達は私が何を言っているのか理解していない様子だった。
「ベスパ、安定した木の上に一室だけの家を作って。五人分お願い」
「了解しました」
ベスパはビーやアラーネアたちと共に大きな木の上に生えている木々を伐採し、安定させるための骨組みを木々で作った後、簡単な造りのログハウスを作ってしまった。
「暖かいお風呂にも入りたいし、風呂場があるだけの部屋もお願い。二軒あればいいかな。少し広めで」
「了解です」
ベスパはビーやアラーネア達と共に大量の資源がある森の中でせっせと働いた。八分後、木造建築が七軒出来た。建築業者も顎が外れる速度だな。
「……は?」
『聖者の騎士』の方達は何がどうなっているのか理解できていない様子で、口が空きっぱなしになっている。
「皆さん、屋根の上に寝床を作りました。あの白い糸を握ってもらえば上に引き上げますから各自部屋に入って眠ってもらって構いません。あと、男、女と書かれた扉がある建物は風呂場になっているので体を清めましょう。頑張った皆さんにささやかなご褒美です」
私は暗がりでもわかるほどの満面の笑みを浮かべながら言う。
「…………て、天使か?」
『聖者の騎士』は涙目になりながら呟いていた。
私はクロクマさんのもとに向かい『転移魔法陣』に通したあと体を小さくさせ、首輪を装着。これで小さなぬいぐるみ状のクロクマさんになった。
「いいっ! 絶対に覗かないでよ! 覗いたら殺すから!」
ロールさんは女と書かれた扉の前に立ち、指先をタングスさんとイチノロさんに向ける。
「誰が、おばさんの体なんか見るか! もう、肌やら胸、尻がたるんでんだよ!」
タングスさんは恥ずかしそうに吠える。中学生の言い合いか?
「た、たるんでない! ぜ、全然たるんでないから! そもそも、たるむような乳が無いから! うぐっ……」
ロールさんは胸に手を当て、苦しそうにしゃがむ。どうやら、自分で攻撃をくらったらしい。
「チャリル、三段腹ってほんとかー?」
イチノロさんは憎たらしい笑みを浮かべながら言う。
「だ、誰が三段腹ですか! そ、そんな訳ないじゃないですか!」
チャリルさんは両手を持ち上げて怒りだした。
ローブを着ている上からだとお腹に脂肪がついているように見えない。イチノロさんはチャリルさんをからかっているだけのようだ。
「キララ、まだ、成人していないだろ~。俺たちと一緒にはいる……ぐはっ!」
タングスさんはロールさんに水属性魔法をくらい、軽々吹っ飛んだ。
「そこまで落ちてたなんて……、信じられない……」
ロールさんは顔を青くし、幻滅したような表情で言う。
「じょ、冗談だって……」
チャリルさんはタングスさんを抱えながら男と書かれた扉を開けて中に入る。
「はぁ……、これだから男どもは……。キララちゃんは私達と入るわよね?」
ロールさんは私を見ながら、目力強めで訊いてくる。
「もちろんです」
私たちは女と書かれた扉を開け、中に入った。『ライトボール』で視界を確保する。男湯の方もベスパに光源の代わりをお願いした。
脱衣所で血みどろの服を脱ぎ、木製の網籠に入れる。
「キララちゃん、いったい何者なの……。こんな建物があっと言う間に作れちゃうなんて、考えられないわ。小人族でもこの速度は無理よ。まあ、数が集まればわからないけれど……。一人じゃ絶対に無理ね」
ロールさんはローブを脱ぎ、白い肌を曝す。胸当てとパンツを脱ぎ、綺麗な大人らしい姿が露になる。
胸は……恥ずかしがっていた割に、しっかりとあり現代日本人の平均より上くらい。三〇代に差し掛かり、熟していると言えばいいのか、色気は十分あった。
「ふぅ……、聖職者の服って結構きついんですよねー」
チャリルさんも服を脱ぎ、裸体を曝す。
大きな胸が露になり、私たちとの格の違いを見せつてくる。
私は足先が真上から見えるが、彼女はまったく見えないはずだ。たるみは……あまりない。あまりということはちょっとあると言うこと。
そりゃあ、三〇歳を過ぎれば体も衰えてくる。
胸だって大きさが合う良いブラジャーを付けていなければ重力と皮のたるみによって形が崩れる。
大きい人は胸の形の崩れが顕著に現れる。小さい者は何も考える必要がない。この点が小さいものの唯一勝てる部分かもしれない。だからと言って小さい方が良いと思った覚えは一度もない。




