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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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図体がデカいだけ

「う、嘘でしょ……。な、なにあのブラックベアー……。で、デカすぎでしょ……」


 魔法使いの女性はクロクマさんを見て腰を抜かし、しりもちをついていた。


 ――だから、見ない方が良いと言ったのに……。とりあえず、巨大なゴブリンの素材を持ち帰ることは出来そう。どう見ても新種の魔物だし、情報は沢山持ち帰らないとな。


「キララ様、どうやら、一体だけではないようです」


 ベスパはまたしても私の脳内に直接話し掛けてきた。


「ギャアアアアアアアアアッ! ギャアアアアアアアアアッ!」


 私たちの周りに先ほどクロクマさんが倒した個体と同じ体長が三メートルほどゴブリンが現れた。

 数にして八体。

 普通のゴブリンならクロクマさんに恐れをなして、計画的に逃げ出す。

 このゴブリンたちは頭が悪いのか、はたまた自分たちの方が強いと信じ込んでいるのか、逃げ出す素振りはない。


「『聴覚共有』」


 私は大きなゴブリンの声を聴き、意思疎通が取れるのなら会話に転じようと考え、ベスパの耳と繋がる。


「はぁ、はぁ、はぁっ! 雌、雌っ! メスううっ!」


「雌、雌、雌、雌……。雌、雌雌雌雌……!」


 ――この大きなゴブリンたち、頭が悪いな。


「そのようですね。通常のゴブリンより頭が回らないようです。通常個体の方がやっかいな可能性がありますよ。でも、知能がからっきし無いと言う訳ではないので巨大で筋肉量の多いこちらの方が危険度は上かと思われます」


 ベスパは私の頭上に戻って来て、話し掛けてくる。


「ああ……、全く……。なんで、こんな日に限ってこんなに魔物と会うの……」


 青髪の女性は腰が抜けてまだ立ち上がれていなかった。長い間戦っていたと思われるので、魔力枯渇症を発症していると考えて間違いない。


「ぐ、ぐうぅ……。まだまだっ!」


 筋骨隆々の男性は立ち上がり、ふら付きながらも意識を保っている。いったい、何時間戦っていたのだろうか。Sランク冒険者がここまでボロボロになるなんて……。


 大きなゴブリンは声を上げ、動けない者を優先的に狙った。

 何とも卑怯な手だが、私たちは防がざるを得ないので奴らの行動に乗る形となり、主導権を握られる。


 クロクマさんは大きなゴブリン三体に囲まれ、石の剣で攻撃を受けていた。だが、生半可な攻撃では傷一つつかず、逆に首を砕かれたり、鋭い爪で体をばらばらにされていた。

 バスケットボールくらい大きなゴブリンの頭をトマトくらい簡単に噛み潰し、脳髄をまき散らして威嚇していた。


 ――やっぱ、ブラックベアーってやばいんだな……。


「キララ様、よそ見をしていると攻撃を受けますよ」


 ベスパは私の頭上で翅音を鳴らしながら呟く。


「ごめん。ごめん。さて……。周りに人がいるし、剣の方が戦いやすそう」


 私は左腰に掛けられた鎖剣の鞘を左手で握る。

 右手は柄に触れさせてぎゅっと握る。

 ほとんど摩擦なく引き抜くと真っ黒な剣身が魔法使いの女性の代わりに生み出している『ライトボール』の明りに照らされた。本体は光をほとんど吸収するほど黒いが、ネアちゃんの糸を作る時に使う粘液を塗りつけて耐久力を上げているので、光を反射させ黒曜石のように見える。


 大きなゴブリンの動きはシャインやバレルさんより何倍も遅い。もう、来る場所もまるわかりだ。

 でも、油断はせずにビーたちの脳を使って演算処理を行い、完全に先読みした。

 相手の攻撃を回避し、武器を持っている私の胴体くらいありそうな太い腕を切り落とす。

 豆腐に包丁を入れたのかと思うほど切れ味がよく、太い腕は跳ねとんだ。


 大きなゴブリンは身を引き、なにが起こったのか理解できていないようす。


 私は立て続けに攻め、高く振り上げた鎖剣を真下に振り落とす。


 大きなゴブリンは頭のてっぺんから股先まで一本の線が入り、ずるりとずれた。真っ二つに切り裂かれ、絶命している。

 えっと、ゴブリンの頭まで剣先は届いていないのが、どうして切れているのか自分でも理解できない。


「キララ様の魔力に反応した鎖剣がほど良く伸びてゴブリンの頭部も綺麗に切り裂いただけですよ」


 ベスパは私が理解していない点を補うように意気揚々と語っていた。


「え……。な、なにあの切れ味……。魔法? スキル? でも、そんなの感じなかった」


 青色髪の女性は脚を震わしながら立ち上がる。


 大きなゴブリンが吠えると私の周りに残りの個体が全て集まってくる。四体の大きなゴブリンが私を囲い、袋叩きにして来た。

 だが、ゴブリンたちの攻撃は私に当たらない。

 なんせ、石剣なんて重い武器を持ち、単純な攻撃をされても演算処理が使える私にとっては攻撃する先が見える。

 バレルさんくらいの剣速だと演算が意味をなさないが、一秒に一振り程度の速度じゃ、寝ていても躱せる。

 まあ、一秒に一〇〇〇〇回くらい振られたら、誰も太刀打ちできないと思うけど。時を止める以外……。


「ふっ! はあっ! せいやっ! そいやっ!」


 私は大きなゴブリンのお腹を右斜めに切っていく。体がずるりとずれ、黒い血液を地面に沁み込ませていく。

 剣に付いた黒い血は魔力だからか、鎖剣がスポンジのように吸い、魔力を溜めこんだ。

 まるで生きているかのようだ……。少々気持ち悪いが、私に害をなそうとしているわけではないので無視しよう。


「ふぅ……。ゴブリンの方が頭が良いから困り者だけど、ただ図体がデカいだけじゃ意味ないんだよな。まあ、あそこにいる化け物を知っていたら、恐怖心も抱かないか」


「グラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 ブラックベアーのクロクマさんはゴブリンの体をズタズタに切り裂き、肉塊にして真っ黒な血しぶきを上げた後、天に向かって咆哮を放った。

 黒い毛が逆立ち、興奮しているように見える。


「はぁ、はぁ、はぁ……。ふぅー、すっきりしました。もう、運動不足で鬱憤が溜まっていたのでいい発散になりましたよ」


 クロクマさんは口に入ったゴブリンの骨をバリバリぼりぼりと食しながら、四足歩行で私の方に戻ってくる。


「『ウォーター』」


 私はクロクマさんの体に水を掛ける。真っ黒でわかりにくいが彼女の体にゴブリンの臭い血がふんだんにくっ付いていた。洗わないと固まって取りにくくなる。


「ふぅー、運動後の水浴びは気持ちいいですっー」


 クロクマさんは今までの戦いが準備運動程度にしか感じていないようだった。二足歩行になり体を手で擦ってシャワーを浴びるように体を動かす。器用だな……。


「な、なに? 何が起こってるの……。わ、わけわからない……」


 青髪の魔法使いは苦笑いを浮かべ、立っていたのに力尽きてペタンコ座りになった。


「驚かせてすみません。この子は私の友達なので怖がらなくてもいいですよ」


 私はクロクマさんの方に視線を送り、友達だと青髪の魔法使いに教えた。


「友達……。はは……、と、友達って……。じょ、冗談でしょ?」


「冗談じゃありませんよ。この子の名前はクロクマさんです。私の言うことなら大概聞いてくれます。飛び跳ねてください」


「はーい」


 クロクマさんは地面を潰すようにどっすんどっすんと飛び跳ねた。軽い小石が地面からの反動を受けて八センチメートルほど跳ねる。


「ええ……」


 魔法使いの女性は私の発言と共にクロクマさんが動いたのが信じられないのか、目を大きく見開き、声にならない息を吐いた。


「三回お回りして空に咆哮!」


「はいっ!」


 クロクマさんは右回転を三回行ったら四足歩行で上を向き、口を開けた。


「グラアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」


 空気がビリビリと痺れ、大声によって生み出された音波により草木が靡く。

 私の体は風圧で吹き飛ばされそうになった。


「はは……。も、もう、信じるしか無さそうね……」


 魔法使いの女性は現状を飲み込み、項垂れた。よちよち歩きで移動し筋骨隆々の男性のもとに移動する。


「ちょっと、タングス。まだまだって言っておきながら立って気絶してるんじゃないわよ」


 青髪の魔法使いは立ったまま気絶している筋骨隆々の男性の脚をパシパシ叩く。


「はっ……。い、いかんいかん。俺としたことが。敵は、魔物はどこだ! なっ! で、デカすぎる……」


 筋骨隆々の男性もクロクマさんを見て腰を引いていた。Sランク冒険者の方でも怖いものは怖いのだろう。よかった、普通の人間で。


 ――逆に、フロックさんとカイリさんはこの化け物を倒す冒険者なんだもんな。すごいとしか言いようがない。


「このブラックベアーはあの子の友達なんだって。だから、敵じゃなくて味方よ」


「味方……。ブラックベアーが味方だなんて、すごい話だな……。と言うか、そこら中、大きなゴブリンだらけじゃないか。いったい誰が倒したんだ? ロールか?」


「はぁ……、私は魔力がスッカラカン。さっき、魔力を使い切ったはずなのに今は普通に動ける時点で何かおかしいと思ってたけど、あなた、私たちに何かした?」


 青髪の魔法使いは私に話しかけて来た。やはり、魔法使いなだけあって魔力に敏感らしい。


「私の周りは普通より魔力が物凄く多いのでその分魔力の回復が早いんだと思います。あと、魔力を分け与えたりしました」


「魔力を分け与えた……。そんな荒業、危険すぎるわ。自分の魔力が枯渇したらどうするの。もし、あなたの方が魔力が枯渇したら魔物に襲われてたところなのよ。何なら、魔力の拒否反応だって起こらないと限らないし……」


 青髪の魔法使いは私の行動を叱って来た。とても、良い方だなと言う印象を持つ。


「す、すみません。皆さんが危険だと思ったので、いつも通りの対処をしてしまいました」


 私は青髪の魔法使いに頭を下げて正直に謝る。


「まあ……、あなたが来ていなかったら皆、この場でやられてた……。だから、助けてくれてありがとう。えっと、こんな醜態を晒してるけど、一応Sランク冒険者パーティー『聖者の騎士』で魔法使いをしているロールよ。よろしく」


 ロールさんは魔女帽子を取り、胸に手を当てて軽く会釈しながら言う。


「で、この図体がデカい男が『聖者の騎士』のリーダー」


「タングスだ。よろしく!」


 タングスさんは体の筋肉を見せるように胸を張り、大きめの声で言う。結構なダメージを負っていたはずだが、ケロッとしていた。


「うう……、いってぇ……。俺が切られるなんてな……、やっぱり歳か……」


 茶髪の男性が意識を取り戻し、目を空けた。


「あ、イチノロ、起きたのね。あと、自分の失態を歳のせいにするの、みっともないから止めなさい」


 ロールさんは茶髪の男性に近寄り、涙袋をぐっと押し下げ、眼球を覗く。口も空けさせ口内を見た。首を触り、腫れ具合を調べる。まるで医者のようだ。


「うん……。問題なさそうね」


「ああ……、でっかいゴブリンの武器に切られたわりに、毒っ気がない。ただのデカい石剣だったみたいだ。まあ、それで死にかけるのも情けない話だな」


 茶髪の男性はふら付きながら立ち上がる。背中が丸く猫背気味。バレルさんが見たら怒りそう。姿勢を正すことは体幹を鍛える一環です! とか言いながら……。


「それで、デカいゴブリンはどこに行った? まさか、ここが天界だとかないよな。この超可愛い子が天使な気もしなくはないが……」


 茶髪の男性は私の方を見ながら言う。気だるけそうな表情を見ると、人生に失望しているおじさん感が否めない。まあ、その苦労人顔も味と言えば味なのだが……。

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