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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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Sランク冒険者の自覚

「ベスパ、ウルフィリアギルドに行くから、安全な道を選んで」


「了解です」


 ベスパはレクーの前に移動し、ぶーんと飛ぶ。

 レクーはベスパを追って走り出した。三〇分程度でウルフィリアギルドの建物が見えてきた。

 いつ見ても真っ白で綺麗な建物だ。芸術作品を鑑賞しているような感覚に陥る。王城とためをはれるな。


 今日は荷台を持って来ていないので、厩舎にレクーをそのまま預けた。徒歩でウルフィリアギルドの入り口に向かう。


 冒険者の行き来が多く、目が回りそうだ。

 ポケットに手を入れて懐中時計をこっそり見ると午前九時過ぎ。

 冒険者が活発に活動する時間帯だ。

 夜遅くまでお酒を飲み、二日酔い気味なのか、顔色がすぐれない者達が苦笑いを浮かべながら移動していく。


 ――どうせ、お金を稼いでもお酒で消えちゃうんでしょって言いたい。そんな体調が悪そうなのに、依頼なんてこなせるのだろうか。これなら、新人冒険者さんの方がまだ使えそう。


 私は人間観察と言う趣味……、いや特技を無意識に行っていた。

 ウルフィリアギルドの大きな門を通るとフェンリルと思われる白い狼があくびしながら日向ぼっこしていた。

 獣族の方々がお供え物を差し出したあと、二拝二拍手一拝した後、お参りをするように願っている。

 彼らにとってフェンリルが神の化身にでも見えているのだろう。


 私は冒険者さんたちの波に逆らい、少々開いている穴をすり抜けながら人込みを移動する。

 通路の両脇にお店が沢山並んでいる。もう、大通りよりお店があるんじゃなかろうか。

 奥の方に私がよく知るマドロフ商会の支店があり、案外繁盛していた。

 獣族の冒険者たちが頻繁に出入りし、ほくほく顔で仕事に向かう。どうやら、私の提案した他の国の客に目を向けると言う作戦が成功しているようだった。


「うん、他の国の者達にとってマドロフ商会の失態なんて知ったこっちゃない。良い商品があるのだから買っているだけ。そう言いたそう……」


 私は少々安心してウルフィリアギルドの中に入る。

 建物の中はいつも通り、人でいっぱい。

 都会の市役所かなと言うくらい受付に並んでおり、話を聴いてもらうまで時間がかかりそうだ。


 私はお父さんと病院の先生であるリーズさんが所属していた冒険者パーティーの『聖者の騎士』と言う者達から手紙をもらっており、会って話がしたいと書かれていたので日程を決めに来た。

 ウルフィリアギルドのギルドマスターであるキアズさんが仲介役になってくれるはずだ。

 でも『聖者の騎士』はSランク冒険者パーティーなので依頼に引っ張りだこだろう。簡単に会えるような相手ではないと思うのだが……。


「あぁ……、あったまぁいってー。飲み過ぎた……」


「まったく、だからやめときなさいって言ったのに」


「いやぁ、飲みたいときに飲むのが美味いんだって。人生、楽しんだもの勝ちだろ」


「はぁ……、そんなんだから婚期も逃すのよ」


「う……」


「それ、ロールが言うことですか?」


「なに、チャリルだって男がいるなんて浮ついた話、聞いてないけど」


「私は聖職者ですよ。男は汚らわしい存在です……。結婚なんて……」


「滅茶苦茶お見合いしてるの知ってるぜー、聖職者の癖に性欲が相当溜まっているようで……。ぐほっ!」


 後方で何やら漫才臭がする。

 私は後方を振り返ると、手紙を送って来た冒険者たち……。『聖者の騎士』がお酒を徹夜で飲んだのか、表情が最悪なグロッキー状態で入口からやって来た。

 すると、ウルフィリアギルド内にいる者達が受付を開けるように両側に移動する。


「はぁ……。これだからおまえたちは……、Sランク冒険者ともありながら時間厳守と言う言葉を知らないのか」


 ウルフィリアギルドのギルドマスターであるキアズさんがピシッとした男性の正装である燕尾服を身に纏い、整髪料でも塗っているのかと言うくらい綺麗に整った髪を少々掻く。

 どうやら、結構イライラしているようだ。眼鏡も何度も掛け直しているし、落ち着きがない。寝不足なのかな?


「いやぁー。酒が美味くてさー。飲んでも飲んでも飲み足らないんだよー」


 筋骨隆々の冒険者はつるつるの頭に手を置き、ぺしぺしと叩きながら言う。どうやら、まだ酔っぱらっているようだ。朝まで飲んでいたに違いない。


「はぁ……。こんな男がリーダーで大丈夫なのかしら……。今更不安になって来たわ」


 魔法使いの女性は青っぽいローブを身に纏い、青い髪を手櫛で解したあと魔女帽子を被り直す。


「大丈夫も何も、タングスさんがいなかったらこの冒険者パーティーはやっていけませんよ」


 金髪が腰まで届きそうなくらい長い女性が呟いた。真っ白なローブを身に纏い、首にカトリック教会関係者が付けているデルタ(Δ)のような三角形っぽい首飾りを付けていた。


「俺だけじゃ前衛は賄えないし、強力な壁が無いと魔物なんて戦えるわけがない。まあ、肉壁にしてやるのが丁度良い」


 口の悪い茶髪の剣士が背筋を伸ばし、顔を少々顰める。


「お前たちは私の話を聴いているのか?」


 いつの間にか受付から移動し『聖者の騎士』の目の前に立っているキアズさんが教師のように言う。


「はーい」


 四名の冒険者は子供のように返事した。


「はぁ……。こんな姿をキララさんに見せるわけにはいかないな……」


「なっ! おいおい、キアズ、話しが違うぜ。仕事を終わらせたんだからキララに会わせろよ」


「ギルドマスターだけ会ったなんてずるい!」


「あの天使みたいに可愛い赤子が一体どうなっているのか、知りたいです」


「どんな性格か知らないけどな。興味はある」


 『聖者の騎士』はギルドマスターを取り囲むようにさっと動く。だが、キアズさんはいつの間にか瞬間移動し『聖者の騎士』の拘束を逃れた。


「ちっ……。いつも通り早すぎるんだよ」


「酔っぱらっているおまえに捕まるほど衰えていない。ほら、さっさと仕事に行け」


「へいへい。わかってますよ。仕事をしてこればいいんでしょ。さっさと終わらせて戻ってくるわ」


 魔法使いの女性が長い青髪を耳に掛けながら言う。


「ああ、えっと、キアズさん。もう、ドラグニティ魔法学園の受験が終わったころだと思うので。キララちゃんが来るんじゃないかと思っています。来たら私達が会いたがっていたと伝えてください」


 聖職者の女性がキアズさんに頭を下げ、礼儀だたしくお願いしていた。


「別に怖いおじさんとおばさんじゃないって言っておいてくれよな。まあ、俺以外は全員三〇代だしぃ……ぐはっ!」


 剣士の方は女性の二名に殴られ蹴りつけられていた。

 どうやら『聖者の騎士』は中年冒険者パーティーらしい。冒険者の全盛期が二〇代前半から後半で終わる中、三〇代でも冒険者の仕事を行っているのは相当凄い。明らかに熟練者だ。


 私はここにいるのだが、彼らが仕事に行ってからの方が面倒臭くなさそうだ。今、会ったら、キアズさんがもっと怒りそう。あと、私は酔っ払いが嫌いだ。


 『聖者の騎士』は依頼を受け、ウルフィリアギルドをあとにした。


「はぁ……。まったく……。Sランク冒険者だって言うのにその自覚が薄い……」


 キアズさんは額に手を当て、ため息をついていた。その姿を見ると、やはり疲れているように見える。


 私は他の冒険者たちを追い越さないように元から並んでいた場所に並び直して受付に対応してもらった。


「おはようございます」


 私は少し高い受付台に手を置き、背伸びしながら美人な受付の女性に話しかける。


「おはようございます。あ、この前の可愛らしい子。何か用ですか?」


「ギルドマスターと話がしたいんですけど、良いですか?」


「ギルドマスターとですか……、えっと名前と要件を言っていただけるとありがたいです」


「キララです。要件は『聖者の騎士』の手紙を読んできました。で良いと思います」


 私は聖者の騎士から送られてきた手紙を受付の美人なお姉さんに渡した。


「かしこまりました。では、一度とり合ってきます。少々お待ちください」


 受付の女性は私に頭を下げ、椅子から立ち上がり、ウルフィリアギルドの奥に歩いて行った。


 八分ほど待っていると、奥から手紙を持ったキアズさんが歩いてきた。


「キララさん、おはようございます」


 キアズさんは手を胸に当て、軽くお辞儀して来た。

 大きな冒険者ギルドを仕切っているギルドマスターにも拘わらず、態度が大きくなく子供相手にも礼儀がしっかりしているんだなと、上から目線のように感心してしまった。

 まあ、この世界で礼儀正しい姿を見ると、おおってなってしまうのは元日本人だからかもしれない。

 言わば、アメリカのような国で厳つい野蛮人ばかりが集まる施設の偉い方から礼儀正しい姿を見せられたような状態、驚いてもおかしくないだろう。


「おはようございます。えっと、仕事が立て込んでいる中、時間を割いていただき、ありがとうございます」


「いえいえ、キララさんに話したい内容があったので構いません。では、場所を移しましょう」


 キアズさんは瞬間移動のように受付から私の前に現れた。

 スキルか魔法か判断するのが難しいほど洗礼されていた。もう、スキルを使った時の光がとても弱くて見えにくくなるくらい使い込んでいるなんて、ありえるのかと思ったが、魔法で瞬間移動はライトでも出来ないので、彼がライト以上の天才か、はたまたスキルによる恩恵か悩ましいところだ。


 キアズさんは私の前を歩き、大き目な黒い革製のソファーがローテーブルを隔てて二台あり、日の光がほど良く差し込む応接室へと移動した。


 私は久しぶりにふっかふかのソファーに腰掛け、一瞬で眠りそうになる。


「キララさん、ドラグニティ魔法学園の受験、お疲れ様でした。以前からドラグニティさんに話を聞いていたんですけど、相当優秀な方のようで。まあ、新種の魔物を討伐できるくらいですから優秀なのは知っていましたけどね」


「えっと、まあ……受験は大変でしたけど、良い思い出になりました。きっと大きくなっても話のネタに困らなさそうです」


「そうですか。それなら何より……。えっと、その……、抱えているのはぬいぐるみですか?」


 キアズさんは私が抱きかかえているクロクマさんに視線を向けた。


「えっと、この子も今日来た理由の一つでして……」


 私はローテーブルの上にクロクマさんを置いた。すると、クロクマさんは二足歩行になり、軽く頭を下げる。


「え……、いま、ぬいぐるみが二足歩行になってお辞儀したように見えたんですけど」


「この子は魔物です。とても賢いので、私に力を貸してくれている仲間なんですよ」


「仲間……。にしても、こ、こんなに小さいのに、ものすごく威圧感があるのはなぜでしょう……。まるで、ブラックベアーを目の前にしているような……」


「まあ、この子はブラックベアーなんですよ」


「…………」


 キアズさんは目を細め、私を疑っていた。


「えっと、失礼ながら、ただのぬいぐるみを魔力で操作しているだけと言う可能性は……」


「まあ、そう言う可能性も考えられますよね」


 私はクロクマさんを広めの場所に移動させる。天井の高さは五メートルくらいあり、立ち上がらなければ問題なさそうだ。

 クロクマさんの首輪を外す。そのまま、魔力を送った。

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