個人試験
「ほんと、メロアは困り者だよ。強者を求めて学園に来るなんて」
「……」
――ニクスさんに褒めてもらいたいからって言う理由を隠す嘘が脳筋過ぎる。
私は心の中で突っ込みながら、苦笑いを浮かべた。
「メロアより強い女の子なんて貴重すぎる! どうか、あの子と末永く仲良くしてやってくれ!」
フェニル先生は私の肩に腕を回してきた。巨大な乳が顔にグイグイ通しあてられ、苦しい……。
「お、おい、あの黒服、Sランク冒険者のフェニルさんに抱き着かれてるぞ……」
「うわ、ほんとだ。う、羨ましい……。でも、何か滅茶苦茶嫌そうな顔をしてるぞ」
「そうか? いやいや言っておきながら、本当は乳が大好きな変態野郎に決まってる」
「お前が乳好きなだけだろ……」
「そうだ!」
「潔すぎな……」
橙色髪の少年と青髪の少年が私の方を見ながら、話していた。男子から見たら、嬉しい限りなんだろうが、女でぺったんこの私からしたら不愉快極まりない。
「もう、フェニル先生。乳を押し付けないでください」
「お? ああ、すまない。気づかなかった。いやぁ、無駄にデカくて困る」
フェニル先生は両手で下乳を持ち、グイグイと持ち上げた。ぶん殴りたくなったが、後方の男子たちがぶっ倒れており、相当な破壊力を持っているため、攻撃するのはやめておこう。
「はぁ……。えっと、さっきのお願いですけど、私はああいう熱血系の子が苦手で。あと、戦うのも好きじゃないのであまり仲良くできると思えないんです。なので……」
「まあまあ、そう言わずに! フレイズ家の記章を持っているキララちゃんは末永く知り合っていく仲なんだからね。ねっ! 学園に入ることが決まったら、女子寮に入るわけだし、同じ部屋とかになってくれると助かるなーなんて思っちゃっているんだ」
フェニル先生は私の前で笑いながら言う。その後、耳元に寄ってきて呟いた。
「メロア、結構切れやすいから他の生徒に手を出さないか不安なんだよ……。一応大貴族だから、王子以外に手を出しても問題ないけど……。最悪、レオン王子に手を出すかもしれないから見張っておいてほしいんだよね」
どうやら、私はメロアさんの監視役を任せたいとフェニル先生にお願いされているらしい。
――いや、フレイズ家の家庭内でちゃんと育ててよ……。私はあの子のお母さんじゃない。
「ま、まだ私がドラグニティ魔法学園に入るかはわかりませんし……」
「え? いや、どう考えても合格だと思うけど……。と言うか、ドラグニティ学園長が入れる気満々……ぐはっ!」
フェニル先生は一瞬にして浮上、上空にいるドラグニティ学園長のもとに引き寄せられると頭を何度もチョップされ、叱られていた。何か悪いことでもしたのだろうか。
「うう……。仕事しろって言われた」
フェニル先生は頭にたんこぶを作りながら戻ってくる。
――仕事してなかったのか、この先生。よく、くびにならないな。
「はぁ……、じゃあ、キララちゃん。また後でね……」
フェニル先生は仕事が嫌いなのか、いやいや試合場に向かっていた。
「おい! そこの君! 君は貴族か!」
橙色髪の少年が私に話しかけてきた。
「え? 貴族じゃないですよ」
「そうか、俺達はこの国の貴族じゃない。あと、さっきは助かった。ありがとう!」
橙色髪の少年は腕を組み、堂々と声を荒げながら言う。
「えっと、寝る前の記憶だと君に助けられたはず……。倒れそうなとき、励ましてくれてありがとう。あの時、凄く元気を貰えた」
青髪の少年は背を丸め、少々気弱に呟いた。両者ともルークス語が少々硬い。必死に覚えた言語を使っているようだった。
「えっと、お二人も平民と言うことですか?」
「そうだなー。平民と言えば平民。騎士の息子と言えば騎士の息子! プルウィウス連邦からきたライアンだ。よろしく!」
「普通に、騎士の息子と言えば伝わるよ。えっと同じく、プルウィウス連邦からきたパーズ。よろしく」
橙色髪の少年はライアン、青髪の少年はパーズと言う名前らしい。あと、ルークス語がたどたどしいと思ったら、他国の者達だった。
でも、他国にしてはルークス語が上手い。一二歳でバイリンガルなんて将来有望なんだろうな。
と言うか、騎士なら普通に貴族の可能性も十二分にある……。でも、大分フレンドリーだから、上級の騎士家系じゃないのかも。
「初めまして、ルークス王国の超田舎から来ました、キララと言います」
「キララか。まず、訊いておきたい! フェニルさんのおっぱいは柔らかかったか!」
ライアンは鼻息を荒げながら、物凄くどうでもいいことを訊いてきた。
「ごめん、こいつ、バカなんだ……」
パーズはライアンの頭をドカドカと殴り、苦笑いを浮かべながら言う。
「俺はバカじゃない。女性に興味津々なだけだ。ふんっ! 間違えるんじゃない!」
「……全然、良いことじゃないけどね。はぁ、戦う時は冷静になるのに、通常時がバカすぎて困る」
ライアンとパーズは漫才師のように、掛け合いをしながら、言い合いをする。
――面倒臭い……。まあ、一二歳児なら面倒くさくて仕方ないか。
「えっと……、フェニル先生のおっぱいは張りがあるのにしっかりと柔らかく、熱くて大きかったよ」
「ぐはっ!」
ライアンは鼻から血を出して倒れた。想像しただけで脳内に血が回ったようだ。胸がデカくて可愛らしい先生がいたらそりゃあ、意識しちゃう年頃かな。
「はぁ、はぁ、はぁ……。さすが乳、俺の強敵だぜ……」
「ごめん、キララ。ライアンは悪いやつじゃないんだけど……、馬鹿なんだ」
「だから、俺はバカじゃない。女性好きだ! はははっ! 大きなおっぱいは素晴らしい!」
「だから、そんなに堂々と言うことじゃないって!」
「ふっ……」
私は不意に笑ってしまった。いかんいかん、ボケとつっこみが合わさるといい具合に笑いが起こってしまう。こんな幼稚な漫才で笑ってしまうなんて情けない。
「まあまあ、落ちついて。まだ、学園に受かったわけじゃないからさ、今はちょっとした自己紹介くらいで十分だよ。じゃあ、受かったらまた話そう」
私は両者の話し合いを聴き、気分が盛り上がった後、さっと離れた。
午後一時から始まった個人戦試験が午後五時に終わり、個人試験を受けていた者達も丁度終わっていた。
そう考えると、私の帰りは午後九時ぐらいになると予測できる。帰りは遅いな。まあ、今日で試験勉強は終わりだ、最後まで頑張ろう。
「では、前半に個人戦試験を受けた者は闘技場を出て試験監督の指示に従うように」
ドラグニティ学園長は暗くなってきたので辺りに『ライトボール』を生み出しながら、喋る。
「受験番号一番から六二五〇番の方、東側出口から闘技場の外に出てください」
試験監督が手を振りながら、私達を誘導した。
「うう……。二勝一敗……。これで入学できるのかしら……」
頭部にバタフライを髪留めのように止め、両手を握り合わせながら不安そうにしている黒髪の令嬢ことサキア嬢が歩いていた。
私はサキア嬢に声を掛けず、じっとしていたのだが……。
「ああ、キララさん。よかった、話せる相手がいて。二勝一敗って戦績としてどうなのでしょうか?」
サキア嬢は花の香りを辺りにまき散らせながら、私のもとに駆け寄ってくる。一二歳にしては大きな胸を弾ませ、不安顔を向けてきた。人形のように整った容姿が黒髪と合わさり、反則級に美人過ぎる。東洋の聖女と言ってもいいくらいだ。
「え……。ちょ、あんまり近づかれると……」
私の周りに目を光らせる男子たちの視線が集まる。
私は今、完全に男だと思われているようだった。貴族に加え美女のサキア嬢から話かけられる平民なんて周りの貴族の子息からしたら目の仇にするに決まっている。
「もう、お友達なんですから、良いじゃないですか。私、お知り合いの方が少なくて心細かったんです」
サキア嬢は私の手をぎゅっと握り、微笑んだ。
清楚系お嬢様……。その言葉が一番しっくりくる。微笑んだ顔を見ただけで大半の男子が胸を射抜かれるだろう。滅茶苦茶可愛いのだが、私にとってはとてもとても困る。
「あっ! いたいた! ちょっと、キララ、私の話しを聴きなさいよ!」
後方から真っ赤な髪を靡かせるおらおら系女子のメロアまでやって来た。
「あら、メロアさん、ご無沙汰しております」
サキア嬢はメロアに頭をさげ、丁寧に挨拶していた。
「サキア、午前中はお世話になったわ。でも、私はそこにいるキララとお話ししたの。譲ってもらってもいい?」
メロアはただ同じ階級同士の貴族に話しかけるかの如く、営業スマイルでサキア嬢に言う。
「あら、今は私がキララさんとお話ししていたのですよ。少し待っていてくださるかしら」
両者は微笑みながら、何かいがみ合いの雰囲気を醸し出していた。その間に挟まれている私は最悪の一言……。
「はぁー、個人戦は三勝したけど、なんか微妙だなー」
橙色髪のライアンが頭部に手を置き、ため息をつきながら歩いていた。
「三勝できたのなら良いじゃん。僕はキララさんに負けて二勝一敗だよ……。まあ、異論はないけど」
青い前髪を掻き上げ、おでこを出しながら青い瞳と通った鼻がしっかりと露わになり、イケメン具合が増しているパーズも一緒にいた。
「あ、えっと、知り合いがいたので、ちょっと失礼しまーす」
私は貴族のもとを離れ、ライアントパーズのもとに移動する。
「や、やあ。さっき会ったばかりだけど、ちょっと話さない? ね、話そう、話そうよ」
私は両者の首に腕を回し、貴族の二名から離れる。
「ちょ、キララ、何するんだよ。ん……、ていうか、滅茶苦茶良い匂いがするんだが……、キララは香水でも付けているのか?」
ライアンは私の体臭をスンスンを嗅ぎながら犬みたく微笑む。
「ライアン、他人の匂いを犬みたいに嗅ぐのはやめろ。失礼だろ。でも、近くにいるだけで気分が良くなる……。不思議だ」
パーズは私の魔力にあてられ、気分が良くなっているようだった。
――この際、利用できる防御札を盾にして、距離を取るしかない。
「んんっ、あー、えっと、えっと、そこの三人組。僕の護衛にならないか? 橙色髪の君はライアン君だったね。午前中は一緒に戦ってくれてありがとう。青髪の子は確かパーズ君だったね。君の戦いは痺れたよ。すごくカッコよかった。まあ、嫌だと言うのなら黒服の君だけでも……」
私が困っていると、後方から話し掛けてきたのは金髪のバチクソイケメンな第八王子、レオン王子だった。イケメン過ぎて眩しい……。




