倒れたオリーザさん
「え!ちょっと、オリーザさん!」
私は、すぐさま駆け寄り、様子を見る。
「Zzz…」
「何だ…眠ってるだけか…。じゃあちょっとお邪魔しますね…」
パンを作っているであろう、パン工房の中に入る。
「えっと…オリーザさんを寝かせられるところは…無いな。…ん?上に繋がる階段…」
その階段を上っていくと部屋があり、しっかりとベッドも備え付けられていた。
「仕方ない。このままお店の床で寝てたら邪魔だもんね。ベスパ、オリーザさんをここのベッドに運んでくれる?私は、見ないようにしてるから」
「了解です!」
ベスパが号令をかけると、オリーザさんのパン屋へ一斉に群がってくる。
――う…この音…いつ聞いても慣れないな。
オリーザさんをベッドまで運び、『ビー』たちは颯爽と姿を消してゆく。
「キララ様、終わりました!」
「よし、それじゃあ。手紙とこの箱を工房において。お店の前に、張り紙でもしておこう」
私は、店に置いてあった鉛筆で、手紙を書く。
いつもながら慣れない手つきで文字を書いていくが…。
――こっちの世界の文字…。なかなか覚えるのが難しいんだよね。5歳の時、覚えていた文字は、殆ど書けるんだけど…。昔の事を思い出してから、日本語とごちゃ混ぜになっちゃって全然覚えられない。
「よし!これでいい」
[オリーザさん、以前約束した牛乳パック10本です。遅れてしまった分、今回の御代はいりませんので、自由に使ってください。一応この箱に氷が入っていれば7日は大丈夫なはずです。しかし、開封したらすぐに使用してください。腐っていた場合すぐさま捨ててください]
「ん~、この箱…私じゃ持てないな。ベスパ…もう一回お願い」
「はい!了解です」
――重い物や大きいものを運ぶときも、凄く役に立つんだよな…このスキル。どれくらいのものまで運べるんだろ。
そんな疑問を抱いていたら、あっという間に運び終えてしまった。
「終了しました!」
「お疲れさま、後はお店の扉に、『本日終了』を書いた、この紙をどうやって貼ろう」
――画鋲もない、ノリもない、テープもない。この紙どうやってこのドアに張り付けたらいいの、挟むにしても分かりにくいし。立てかけるにも木の板が無いし。
「キララ様!私にお任せください」
「え?どうするの?」
「これを使います!」
ベスパはお尻から針を出した。
「針…」
「はい!物は試しです。キララ様はその紙を壁に押し当てておいてください」
「わ、分かった」
私は、言われた通り紙をドアに押さえつける。
「それでは行きますよ!」
ベスパは、助走をつけて紙へお尻から体当たりする。
お尻の針が紙と壁を突き刺す。
ベスパがその場を離れると、針だけがその場に残った。
「すごい、画鋲みたい…」
ベスパは4つ角に体当たりすると、しっかり紙は固定された。
「どうですか?これでよろしいでしょうか」
「うん、ばっちりだよ。それにしてもそんなに針が抜けて大丈夫なの?まぁベスパは、死んでも大丈夫だって、知ってるけど…」
「勿論大丈夫ですよ!その針も言わばキララ様の魔力ですので。私に、魔力が流れている以上は、何回でも出せます。まぁ本来の『ビー』たちでやると内臓も一緒に出てしまうので、針の取り外しはできませんが…。キララ様が命令してくだされば快く命を捧げてくれますよ」
「え…なんか重いな…」
「大丈夫ですよ、この世界の『ビー』たちは皆キララ様の味方ですから!」
「そ…そう…」
そんなことを言われても、あまり嬉しくないのは、言うまでもない。
「それじゃあ、やる事も終わったし、帰ろうか。早く戻らないと、またお母さんに怒られちゃう」
私は、舎弟君の荷台に乗り、行よりも速度を出して村へと戻った。