ドラグニティ魔法学園の実技試験
「おお、キララ。帰っていたか。昨晩は遅くまで頑張っていたそうだな」
マルチスさんは椅子に座りながら食事をとっていた。
「はい。少々長引いてしまいまして……。でも、無事帰ってこれました」
「そうかそうか。その顔を見るに、昨日の試験は結構うまく行ったようだな」
「おかげさまで、自分の実力を出し切れたと思います」
私は軽く会話をしながら、椅子に座る。
ルドラさんやケイオスさん、テーゼルさんにマルティさんも揃い、皆で朝食をとる。
「キララさん、昨日の筆記試験はどうだった?」
マルティさんは私に話しかけてきた。
「とても難しかったです。一人で受けたので、気は楽でしたけどね」
「え……。キララさん、一人で受けたの……」
マルティさんは目を見開き、少々驚いている様子だった。
「そうですけど、それがどうかしましたか?」
「いや、一人で受けられるなんてすごいなと思って。でも、何で一人だったんだろう……」
どうやら、マルティさんは一人と多数で受ける試験方法を知らないらしい。
マルティさんは財力で筆記試験を突破したようだ。まあ、ちゃんと勉強していたのかもしれないけど、安全に合格するためにマドロフ商会がお金を払ったのだろう。
「ん、んんっ。キララ。今日の実技試験、頑張ってきてくれ、心を折られないようにな」
ルドラさんの父親のケイオスさんは何かを知っているのか、咳払いをして私に言う。
「はい、精一杯頑張ってきます」
「キララさん、相手が強いかもしれないけど精一杯頑張れば、先生たちが見ててくれるから、最後まで全力を出し切るんだ」
マルティさんは私に恐怖心を抱かせないために両手を握りしめ、応援してくれた。根性で乗り切れと言っているようだ。
「受験者たちが強いのは、わかっていますし、私も努力してきたので、それを見せるだけです。では、そろそろ行ってきますね」
私は紅茶のカップをソーサーに置き、心を落ち着かせたあとフルーファの頭を撫でて出発を伝える。
「キララさん、こちら、昼食です」
メイド長は重めのバスケットを渡してきた。
「なんか、いつもより重い気がするんですけど……」
「今日は実技試験なので沢山動きます。昼食で体力を回復しないと持ちません」
「そ、そうですか。わかりました。ありがとうございます」
私はメイド長に頭を下げ、先に食堂を出た。
ベスパにバスケットを持ってもらい、私はトランクを持ちながらレクーが待つ厩舎に向かう。
私はレクーを厩舎から出して、彼の腰にベルトを使ってトランクをしっかりと固定する。
「よし、レクー、今日もお願いね」
「はい。任せてください」
レクーは綺麗な真っ白の鬣を靡かせ、頷いた。
私はレクーの背中に乗り、ドラグニティ魔法学園まで移動する。
午前八時集合は変わらず、午前七時に出発したのでなんの問題もなく到着した。
門前はすでにバートン車が多く並んでおり、普通に渋滞。
抜かすわけにもいかないので、バートン車の後ろに付く。早く移動しても結局渋滞に巻き込まれて、時間を食う。
「受験票を見せてください」
「はい」
私は門前にいる騎士に受験票を見せ、ドラグニティ魔法学園の敷地内に通してもらった。
レクーを厩舎に移動させ、午前七時五〇分ごろに園舎内に入った。
「ふぅ……。間に合った……。ほんと、受験者が多すぎるんだよな」
私は園舎の八階の八号室に移動し、椅子に座った。昨日と同じ部屋なので、迷わず来れた。
私が椅子に座ったと同時にフェニル先生も教室に入って来た。
「ふわぁぁ……。おはよう、キララちゃん。昨日はよく眠れたかな?」
赤い髪が鳥の巣のように跳ねているフェニル先生は、大きくあくびしながら訊いてきた。
「よく眠れました」
「そうか、それならよかった。じゃあ、午前八時から今日の実技試験内容を説明する」
フェニル先生はチョークらしき石灰を持って黒板に文字を書き始めた。
ある程度書き終わると、丁度午前八時になる。
「よし、じゃあ、説明をするとしよう」
「よろしくお願いします」
私はフェニル先生に頭を下げる。
「今日はドラグニティ魔法学園の実技試験だ。午前中に個人で試験を受けてもらう。午後に他者と試合してもらう。簡単に言うとこんなところだ」
「なるほど。フリジア魔術学園とエルツ工魔学園の実技試験を混ぜたような感じですね」
「まさか、どっちも受けたのか……」
フェニル先生は苦笑いを浮かべ、小さめの声で訊いてきた。
「まあ、興味本位で受けました」
私はそれっぽいことを言っておく。
「そうか。なら、話しは早いな。だが、フリジア魔術学園よりも個人で行う実技試験は難易度が上がっている」
「へぇ……。前の時も結構苦労したんですけどね……」
――皆に合わせるのに。
「質問いいですか?」
「ああ、構わないぞ」
「他の受験生の実技試験は私も見れますか?」
「ああ、近くで同じような試験を行う。この場のように一人で行うことは無い」
「わかりました。答えてくれてありがとうございます」
「個人で行う実技試験は午前で終了だ。午後から試合形式の実技試験が行われる。皆、必死に戦うから手厳しいぞ。気合いを引き締めていけ」
「は、はい!」
私はフェニル先生に熱意に押され、声を張り上げる。
「うん、いい返事だ。では、午前八時三〇分に学園長からの話があり、午後九時から実技試験が行われる。昼食はこの場に置いてもらってもいい。無くしたくなければ、自分で持っていても構わない」
「わかりました」
――ベスパ、荷物が盗まれないかビーに見張らせておいて。
「了解しました」
ベスパが光ると、ビー数匹が部屋の周りに集まる。これで、誰が盗んだか丸わかりだし、盗まれてもすぐ捕まえられる。
「フェニル先生、準備が出来ました」
私は武器が入ったトランクを持ち、向かう。
「よし、では、闘技場に向かおう」
フェニル先生は扉を開け、部屋を出た。
私もフェニル先生の後を追い、部屋を出る。
ドラグニティ魔法学園の闘技場は三つくらいあり、ものすごく目立つ。と言うか、土地が広すぎて、どこまでが敷地内かわからない。
フェニル先生の後ろに付いていくと、後方から見覚えがある少年がやって来た。
「お、おはよう、キララさん。調子はどうかな?」
第八王子のレオン王子が試験監督と思われる騎士っぽい男性と共にやって来た。
「おはようございます。調子はいいですよ。今から、どんな試験があるのかわくわくしています」
「今から、手厳しい試験が待っているはずだよ。私は緊張しすぎて良く寝れなかった」
レオン王子は少々寝不足気味らしい。私は手を握り、魔力の流れを整えてあげる。
「えっと、何を……」
「ちょっとしたおまじないですかね。眠気は取れましたか?」
「言われてみたら……。眠くない。キララさん、君は一体……」
レオン王子の眼元にあった血のめぐりが悪い時に現れる黒いクマが消え、肌の血色もよくなっていた。そのため、キラキラとした綺麗な金髪と透き通るような白い肌がよく映える。イケメン度合が増したな。
「私はただの一般人ですよ。レオン王子と話をすることすらおこがましいくらいの身分です。なので、レオン王子は何も気にしなくて結構です」
「はは……。私も第八王子だし、ほぼ一般人だから、キララさんも気にしないでくれると助かるんだけど……」
「いやいや、第八王子と言えど、王族のお方。何か粗相をしたら失敬になりますし、関わっていい相手は同じくらいの者だけと教わりました。なので、レオン王子自ら私に話しかけてくるなんて他の貴族からしたら、羨ましいでしょう。そうなると私が目の敵にされてしまいます。止めてください」
「あ、ああ……。確かに。ごめん……」
レオン王子はなぜか、悲しそうな表情を浮かべた。
その表情がさすがに可愛そうだったので、私は彼の手を握り、綺麗な黄色の瞳を見る。
「レオン王子。私に話しかけるときは周りに誰もいない時にしてくださいね。あと、今日は一緒に頑張りましょう!」
私は満面の笑みを浮かべ、レオン王子に元気を送る。
「うぐっ!」
レオン王子は心臓を握りしめ、苦しそうにしていた。
「え、ちょ、どうしたんですか?」
「い、いや、何でもない……。心臓が跳ねただけだ……。キララさん、君は本当に貴族じゃないのかい?」
「はい、ただの一般人です」
「そうか……。残念だ」
近くに別の受験者が来たため、レオン王子は私からさっと離れた。
教室から一人で受験していた者達がゾクゾクと出てきて試験監督と共に昇降機で一階まで降りる。
そのまま、廊下を通り、扉から園舎の外に出て第一闘技場なる場所にやって来た。
周りにいるのは貴族ばかり……。服装もピシッとしておりボロボロの服を着ている者は見当たらない。ほんと、ボロボロの服で来なくてよかった。
「諸君、おはよう。昨日は筆記試験、よく頑張った。今日は実技試験だ。栄えあるドラグニティ魔法学園の入学を目指し、頑張ってくれ」
空中に浮かぶ箒に乗りながら喋っていたのは、黒いローブを身に纏い、ザ魔法使いと言う雰囲気を放っているドラグニティ学園長だった。
「今から、皆に午前中の実技試験の内容を伝える」
ドラグニティ学園長は高度を少しずつ落としながら空中を旋回し、皆に声が届くよう、喋っていた。他の学園でも同じように他の学園長が説明しているのだろう。
「午前中の実技試験は皆の力を客観的に見させてもらう。各々の気持ちと成長度合いを見極めるための試験だ」
――客観的、気持ちと成長度合い……。
「具体的に説明する。試験開始後、この場に魔物が放たれる。皆が勝てるか勝てないかギリギリの魔物だ。戦いが怖ければ参加しなくてもいい。自主参加にしよう。もちろん教員が皆に防御魔法を掛けるため絶対に死なん。その状況でも前に出られるのか。勇気がある者をわしは見たい」
ドラグニティ学園長は大分実践形式の実技試験を行うようだ。




