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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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心の休息

「フリジア殿、是非とも我が家の料理を楽しんでいってくだされ。私が言うのもなんですが、最高だと自負しております」


 マルチスさんはフリジア学園長に葡萄酒を注ぎに来た。


「うむ。楽しませてもらおう!」


 フリジア学園長は葡萄酒が入ったグラスを持ち、掲げる。軽く口を付け、ぷはーっと息を吐くと耳がピコピコと動きまくっていた。


 フリジア学園長の席に料理が運ばれてくる。その後、他の者のもとに料理が運ばれた。


 私も美味しいと感じる料理ばかり。フリジア学園長も十分楽しみながら、食事していた。


「キララちゃん、この肉、美味いなー。柔らかくて噛みやすい」


「歯が無いんですか?」


「あ、あるわっ! 歯がしっかりと残っとるのが見えんのか!」


 フリジア学園長はボケとつっこみが好きなのか、私の返しに拍子よく返してくる。その姿を見ると、座っている者やメイドたちがクスクスと笑い、心地よい雰囲気になっていた。


「はぁー。久しぶりに大勢で食事をしたが、やはり良いなー」


 フリジア学園長はお腹を摩りながら、微笑みを浮かべていた。


「お待たせいたしました。食後のデザートにございます」


 メイドが運んできたのは生クリームを使った真っ白なケーキにカカオっぽい粉が振りかけられた品だった。


「お、おおー。美しい色だ。これはモークルの乳か?」


「はい。我々が仕入れている最高級のモークルの乳でございます。美食家であらせられるルークス王も好んでいる乳ですから、気に入っていただけると思いますよ」


 ルドラさんは微笑みながら説明した。


「あの、坊主が好きなのか。そりゃ、期待できるな」


 ――ルークス王を坊主扱い……。やっぱり、凄い年上なんだな。


 フリジア学園長はフォークを手に取り、柔らかいケーキに差し込んだ。


「おお、ふわふわだ。臭くもないし、珈琲の粉が良い香りを放っとる」


 フリジア学園長は口の中にケーキを入れた。


「んんんんんんんんんんんんんんんんんんっ!」


 フリジア学園長は身を縮め、震えながら喉の奥を鳴らし、長い耳をこれでもかとピコピコさせる。フォークを持つ手が止まらず、あっと言う間にケーキを食してしまった。


「う、美味すぎる! 甘党の私が言うのもなんだが、ものすごく美味い! なんだこれは!」


 フリジア学園長は飛び跳ねながら大笑いしていた。美味しい品を食すと皆、笑顔になってしまうのか、先ほど以上の満面の笑みだ。


「フリジア学園長もよく知るケーキですよ。作り方はさほど変わりませが、素材が変わるだけで、一味も二味も変わるのです。お気に召していただけたようで何より」


 ルドラさんはわかっていたとでも言いたそうな表情で頭を下げた。


「こんなうまい菓子を食ったのはテザーロの菓子以来だ! この家にもテザーロ並の菓子職人がいるのか!」


 フリジア学園長は盛大に興奮し、舞っていた。彼女の輪郭が汗に含まれている魔力によってキラキラと光り、妖精に見えてくる。


「いや、我が家にいるのは菓子職人ではございません。普通の料理人です。ただ、料理の腕は一流ですから、菓子を作る専門家でなくとも巨匠の菓子と並ぶほど、素材の力は偉大と言うことですな」


 マルチスさんはケーキを口にしながら、うんうんと唸る。


 テーゼルさんとケイオスさんも泣きながらケーキを食していた。


「うっまああっ! な、なにこれ、なんで、こんな美味しいの!」


 生クリームと牛乳を使ったケーキを始めて食したのか、マルティさんは眼鏡がずれるほど驚いていた。


「高級なモークルの乳を使った品だからね。この前、牧場を経営している方から譲ってもらったんだよ」


 ルドラさんはマルティさんに説明する。


「あ、あのモークルの乳を作っている方ってどんな方なの! 伝説上の農業の神様とか! そのくらいじゃないと、あんな美味しいモークルの乳を作れるわけないよ!」


 マルティさんは眼鏡がずり落ちそうになるほど興奮して話していた。


「まあまあ、落ちつきなさい。普通の村で普通の方達が……、あー、普通の方達ではないか」


 ルドラさんは私の方を一瞬見て、言いかえた。

 いや、普通の人ですよ。私は……。他は知らんけど。特に、ライトとか……、シャインとか。


「僕も行ってみたい! ルドラ兄様が、マドロフ商会を継いだら、僕がルドラ兄様が行っていた仕事を引き継ぐよ!」


 マルティさんはルドラさんの仕事を引き継ぎたいと言う。そう言ってくれると、私も凄く助かるな。知らない人が来るより、知っている者が来てくれた方が安心だ。


「そうだなー。私もその村に行くのが楽しみでね。そう簡単に譲れないなー」


「ええー、ずるいずるい!」


 マルティさんは子供らしく、兄のルドラさんに甘えていた。


「こらこら、二人共。フリジア学園長の前ですよ。少し静かにしなさい」


 テーゼルさんがルドラさんとマルティさんの話し会いを止める。


「気にしなくてもいい。今の私はただのキララちゃんの友達だ。学園長は暇つぶしみたいなものだから、そこまで硬くしなくてもいいぞ」


 フリジア学園長は私の背後に抱き着き、にこにこ笑顔を浮かべていた。


「えっと、私は友達になった覚えが無いんですが……」


「なにを言っておる。私とキララちゃんの仲じゃないか。もう、大親友と言っても良いぐらいだと思うぞ」


 ――今日、あったのが初めてで大親友は言い過ぎ……。


「私もケーキが食べたいので、少し放してもらえますか」


「もう、仕方ないなー。私が食べさせてあげよう」


 フリジア学園長はフォークでケーキを掬い取り、私の口もとに運ぶ。


 ――お節介まで焼いてくるのか。この方……。面倒臭いな。


「い、いただきます」


 私はケーキを口に含む。まろやかな牛乳の甘味と高級な珈琲豆の香りが口内でふわっと広がり、ティラミスのような苦味が舌にガツンと来る。

 だが、ウトサの甘味がじんわりと伝わってくると苦味と打ち消し合い、鼻からコーヒーの香りが抜けていく。思わずふぅーと息を吐いてしまうほどの幸せが脳を満たした。


「キララちゃん、独り言が多いな……」


 フリジア学園長はスキルを使って私の脳内独り言を勝手に聞いてきた。


「か、勝手に聞かないでください。盗聴と同じですよ」


「すまないな。キララちゃんがどんなことを思っているのか知りたかったんだ」


「またっく、そう思うなら、口に出して聞いてくださいよ。そうしないとわかりません」


「た、確かに。キララちゃんはこのお菓子をどう思った?」


「凄く美味しかったです。ふんわりとしたスポンジ生地に空気が万遍なく含まれたふんわりと軽いクリーム。珈琲の粉が甘味が強いケーキをやわらげ、軽い甘さに仕上げている。食後でも十分美味しくいただけるケーキだと思いました」


「むむむ……。キララちゃんは食事を説明するのが上手だな。私もそう思っていたよ」


 フリジア学園長は香り豊かな紅茶を軽く飲み、ぷはーっと息を拭いて蕩けていた。


「いやぁ……。緊張が解れていく……。毎日来たいくらいだ……」


「毎日来られても困りますよ。フリジア学園長はフリジア学園長の生活があるわけですし、周りのことも考えていただかないと」


「キララちゃんは子供なのに、ずいぶんと大人な考え方をするんだな。そうなんだよ、私には私の生活があるんだよ……。面倒な会食に仕事の山……。どれだけ生きても仕事の量が変わらず、増える一方……。ああ、キララちゃん、私の心の支えになっておくれー」


 フリジア学園長は私に擦りついてくる。

 長い間、仕事をこなし続けるのもそれはそれで大変だ。心の休まりが無いと、続けることなんて不可能。そう考えると長寿なのも辛いな。


「まったく、疲れるまで仕事しちゃいけませんよ。時に休んで、まったりすることも重要です。フリジア学園長は特に長寿ですから、仕事のし過ぎで体調を崩したらもったいないです。ちゃんと休んで、仕事の効率を上げれば、仕事はおのずと減っていきます」


 私はフリジア学園長を抱きしめ、後頭部を撫でる。


「はうぅ……。キララお母さん……」


「なにを言ってるんですか。フリジア学園長からしたら、私は赤ちゃん同然ですよ」


「はは、言ってみたくなっただけだ。だが、キララちゃんの言うことも一理ある。仕事漬けの毎日にうんざりしていたところだ。たまには休まなければな。面倒な会食は断ってここに来るとするか!」


 フリジア学園長は立ち、腰に手を当てて胸を張る。


「あ、いや、別にここじゃなくても……」


「大親友もいるし、料理は上手いし、誰も気にすることなくまったりできる! 最高じゃないか!」


 フリジア学園長はその気になってしまった。


 マルチスさんとルドラさんがアイコンタクトをとった瞬間、軽く微笑んだ後、動き出す。

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