男嫌い
懐中時計を見ると、午前八時三〇分。
教室の中に試験監督が入って来た。女性の先生で若そうだ。とても賢そうなエリート社員と言った感じがする。
「では、皆さん。冊子をしまい、前を向いてください」
試験監督は教卓に問題用紙と回答用紙置き、話し始めていた。
「今日の予定を説明します。午前八時三〇分から試験の注意事項を話し、九時から四五分間、数学の試験。午前一〇時から九〇分間、国語、外国語の試験。午前一一時四五分から九〇分間、魔法学の試験を行い、昼休憩となります」
――筆記試験はエルツ工魔学園の試験と変わりないな。
「昼休憩後、口頭質問が行われ、実力試験があります。実力試験と言ってもエルツ工魔学園の試験とは違い、魔法が扱えるかどうかや、武器の扱いなどを審査員が見て判断します」
――なるほど、柔道の昇段審査みたいな感じか。型や動きを見られる訳ね。なら、力を制御しやすそうだ。
私は力の加減を誤ってエルツ学園長を気絶させてしまった。
正教会に目を付けられたくないので、力をなるべく隠したかった。だからこそ、今回の実技試験はとてもありがたい。周りの人を見て結構凄い反応をされている者を参考にすればいいのだ。
「筆記試験でスキルの使用や部外者からの補助を受ける行為は原則、不正行為と見なし処罰対象となります。では、午前八時五〇分に問題冊子と回答用紙を配ります。それまで、気を落ち着かせ、集中力を高めておいてください」
試験監督は二、三名で集まり、話し合いを始める。
すると、他の貴族の子供達も軽い談笑を挟んで、気を静めていた。
私は……。
「むむ……。やっぱり、皆、乳、デカいな……」
私は男性生徒かよとつっこまれそうなほど、女子の胸を見ていた。年齢の割に、皆乳が大きい。不信に思うほどだ。加えて貴族にかぎられる。
――胸に膨らみを足してる可能性があるな……。そうじゃなきゃ、この巨乳率はおかしい!
私は未だにぺったんこなのに、なんで他の人は……。って、今はそんなことを言っている場合じゃない。
私は頭を振り、精神を落ちつかせる。ディアの背中を撫で、ツルツルの表面の滑らかさを堪能した後、フルーファの毛並みを撫で心を静める。そんなこんなしている間に、午前八時五〇分になった。
「では、今から、問題冊子と回答用紙を配ります」
試験監督は一人一人に手渡していき、午前九時前に配り終わった。
「……では、九時になりました。試験を始めてください」
試験監督は懐中時計を見ながら言う。
私達は問題冊子を一斉に広げ、問題を解いていく。
フリジア魔術学園の問題傾向は簡単な問題を前半に多く出し、後半は難しいと言う感じ。
まあ、簡単に言えば、全員六〇点は取れるけど一〇〇点を取るのはバカ難しい問題だ。
エルツ工魔学園は問題数が多く、頑張れば八〇点や九〇点が取れる。でも、フリジア魔術学園の問題は簡単な問題さえ解ければ六〇点確実に取れる。ただ、簡単な問題を解けるのは皆同じだ。
つまり、簡単な問題なんて解けて当然ですよね? と言われているのと同じ。差が出るのは後半の問題をどれだけ取れるのか。ここが筆記試験を突破する鍵となる。
四五分間の内、二〇分間は羽根ペンを軽快に動かす音が聞こえていたが、それ以降はぴたりとやんだ。代わりに、うんうん唸る声が聞こえてくる。今、鳴り響いているカリカリ音は私が動かす羽根ペンの先に付いた金属片のみ。自分自身は集中しすぎて周りの音が聞こえなくなっているだけかもしれないと言い聞かせ、羽根ペンを動かし続ける。
――まあ、難しいけど、やったことある問題と似てるし、公式に当てはめれば解ける。私の頭はビーの頭脳数兆個……。計算問題は式さえ作れてしまえば一瞬でわかる。これでも、ライトに計算問題で負けるのはなぜだ……。
私は問題を見て数式を作り、処理の速い頭でひっ算するまでも無く答えをはじき出す。
自分の頭が良くなったように感じるが、きっとビー達のおかげなのだろうと勝手に考える。そうしないと、恐ろしいくらいに解けてしまい怖いのだ。勉強のし過ぎかな? これは能力と言っていいのだろうか。
そうなると私は普通に反則な気もする……。でも、式を作っているのは私の頭だし……。良いか。
私は深く考えるのをやめ、大問八までやって来た。当たり前のように答えが無い問題。
でも、貰った冊子に乗っている問題と同じだ。つまるところ、ライトの回答が私の脳内に残っている。
半分答えを書き、もう半分は嘘を書く。時間いっぱいまで羽根ペンを動かしていたのは私だけかもしれない。いや、集中しすぎて聞こえなくなっていただけだ……、そう信じたい。
「終了です。では、今から問題冊子と回答用紙を集めます。羽根ペンを置いてください」
試験監督が数名動き、ささっと回収していく。
試験監督の方々が私の方を見ていた気がするものの……、き、気のせいだと信じる。
「すべて回収し終えましたので、休憩にします。ですが、午前一〇時から試験を始めますから、一〇分前に着席して待っているように」
試験監督は教室を出て行く。
「はうああー。も、もう、頭がパンパンですわ……」
「わ、私も……。でも、大問五までは解けましたわ!」
「私は、一度も勉強していないのに大問六まで行きました!」
「わ、私だって!」
貴族の女子達はどこまで問題を解いたかを言い合っていた。誰も、大問八の話しをしない。
「あ、あの……。すみません」
長い金髪を三つ編みにした、一般人っぽいガリ勉少女が話しかけてきた。
「え? ああ、はい? 何でしょうか」
「さっき、回答用紙がちらっと見えて……、最後の方まで埋まってませんでしたか?」
「ええっと、まあ、大問六まで真面目にやって。さ、最後の方は、て、適当に……」
「あ、そうだったんですか。大問八の問題まで解いている方がいると思って、驚いてしまって。あんな問題、解ける人いませんよね」
ガリ勉少女は頭を下げ、私のもとから去っていく。
「…………世界は広いんだよ。少女ちゃん」
私はアハハ! と豪快に笑って未解決問題を楽しそうに解きまくっていた九歳児を知っている。やはり彼は化け物なのだと、改めて知った。
午前九時五〇分。試験監督は新しい問題冊子と回答用紙を手に持ち、戻って来た。そのまま、すぐさま配る。
「では、国語、外国語の試験を始めます」
午前一〇時。試験監督が言う。皆、一斉に問題冊子を開き、回答を始めた。
国語の問題を見ると、女性関連の記事ばかり。女性の侵害問題や、政治問題、人権問題……。子供にこんな問題解かせるなよって言いたいが、学園がこのようなことを知って入ってほしいと言う意図が読み取れる。
なんせ、この学園は男性主義が根強く残るルークス王国で活躍する女性を排出するための学園なのだ。このような問題が出てきてもおかしくない。
私は普通に解いていく。別に難しい訳ではない。問題通りに回答を枠の中から見つけて埋めていくだけだ。記事を一度読まないといけないわけだが、処理速度が上がっている今の状態なら、ぱっと見ただけで内容が理解できる。人間の脳ってここまで出来るんだね……。
私は三〇分で国語の問題を終わらせた。大した量ではなく、多くの者がこの時間内に終えられるだろう。
問題は外国語だ。フリジア魔術学園は女性の人権が認められている国に生徒たちを排出するため、外国語にめっぽう力を入れている。だからか、国語の問題よりも明らかに外国語の方が難しいし量が多い。
「ビースト共和国ってほぼ男性主義社会なんだよな……」
ビースト語の問題を見ると、驚くくらい女性侵害の問題ばかりが並んでいた。どんだけ、男が嫌いなんだよと言いたくなるが、暴行罪、性犯罪、人権侵害など、大変辛い状況の記事がビースト語で書かれており、どのように思うかビースト語で書けと言う初めからビースト語で書けること前提となっている。
簡単な問題をちょろちょろと織り交ぜてくれてもいいのに……って思わなくもないが、読める私からしたら問題なく解けた。
大問八は救済問題らしく、作文だ。文章量さえ埋めれば点数が貰える可能性がある。
『女性がこれからの社会で活躍していくために、どのようにすればいいと思われるか、ビースト語で四〇〇字以上、五〇〇字以内で書け。男性との能力の違いなどの観点から、考えるように』
「はぁ……。そうだな……。なんて書こうかな……」
私は、別に社会で活躍する気など無い。なので、普通に迷った。男性との能力の違いなんて、力が弱いくらいしか、なさそうだけど。
「んー」
私は悩みながら、書いた。
『女性が男性よりも優れている点は流暢な会話術だ。多くで集まり、話し合うと言う点では、男性よりも確実に優れていると言える。この点を利用し、女性の会社を設立すれば、問題解決の糸口がすぐに見つかり、社会で活躍して行ける会社を生み出せるはずだ。ルークス王国に存在する会社の多くが男性一人が経営し、他の者は駒として扱われている。それでは天才出ない限り失敗するだろう。女性が皆、意見を出し合い、話し合えば最大限の能力を発揮し、男性にも負けない強い会社になるはずだ。……』
私は文章を書き連ね、思っていることを残した。相手にどう思われるか知らないが、私の思いは全部ぶつけたつもりだ。
フリジア魔術学園は意志が強い女性を欲している傾向にあり、意見をはっきり言うと良い点が貰える可能性があると信じ、思いっきり強い口調で書いた。
その後、見直しをしている間に、午前一一時三〇分になった。
「では、羽根ペンを置いてください。問題冊子と回答用紙を回収します」
試験監督が動き、三名程度で問題冊子と回答用紙を回収していく。枚数を確認したのち、休憩となった。
「はぁ……。脳が……」
私は机にへたりこみ、少々仮眠をとる。




