双子のお見舞い
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「なぁ、フロック。お前、さっきの質問の答え、あれじゃレディーは意味が絶対にわからないだろ。『食え!』は、昔の自分に言いたかった言葉なんじゃなかった? 君が食事を忘れるくらい修行のし過ぎで、今の体型になってしまったのを後悔してると私にはバレバレだ。もっといい助言してあげればよかったのに。魔法の使い方とか、鍛錬の仕方とか」
「だからだろ……」
「ん?」
「あいつが昔の俺に似てバカそうだったから、あのままじゃ俺と同じ道を行くと思ったんだ」
「バカとバカは通じ合えるんだ、すごいね。私にはわらないよ」
「言ってろ……。あいつは昔の俺に似ている。絶対に変わろうと心から動いている者の眼だった。さっきの助言だけで、きっと十分だ」
「そう言うものかな……」
後に、この二名が英雄と呼ばれるようになるのはまだ先の話。
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私は、フロックさんから助言してもらったあとお爺ちゃんとお婆ちゃんの家に戻った。
「キララ、冒険者さんには会えたか?」
お爺ちゃんはメークルの毛で作ったのか、柔らかそうなクッションをお尻の下に敷きながら小さいローテーブルの近くで座っていた。
「うん! ばっちり会えたよ」
「そうかい、なら良かった。じゃあ、夕食にしようか」
――夕食! え、もうそんな時間なの。私、さっき起きたばっかりなのに。
そう思い、私は木製の窓から外を見ると空が既に暗くなっている。
「もうこんなに暗くなってる……。さっきは夕方だったのか」
「さ、キララ。夕食だ。席に座りなさい」
「は~い」
お爺ちゃんは立ち上がり、居間にある食卓テーブルに向かう。私もお爺ちゃんについて行き、木製の椅子に座った。
テーブルの上に並んでいたのは、家で食べていた料理とほとんど一緒だった。
黒パンに薄いスープ。この二種類しかない。
「こんな料理で健康でいられるのかな……」と不思議で仕方なかった。
「お爺ちゃんとお婆ちゃんの夕食はいつもこんな感じ?」
「そうね。昔から黒パンとスープはよく食べていたわ。でも昔はお肉や野菜がもっといっぱい入っていたのよ」
お婆ちゃんは申し訳なさそうに話した。
「そうだな。最近は世の中が厳しくなって、街からやってくる肉や野菜の値段がどんどん高くなる。昔は毎日でも食べられるくらい食卓に出てたんだがな」
――ここの村にお金がないのか。はたまた、国にお金がないのか。今の情報量じゃわからないな。
「皆、キララみたいな子どもにはもっといっぱい食わせてやりたいと思っている。だが、中々難しくてな。わしのような年寄りは自分達が食っていくだけで精一杯なんだ。動物達を食べるわけにもいかないしな」
――あれ? もしかしたら「食え!」という試練は相当難しいのではなかろうか。
私が目を覚ました次の日。村にお父さんが帰ってきた。
「キララ、大丈夫か! 怪我してないか!」
お父さんの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃで、継ぎはぎだらけのズボンは砂や土まみれだ。
お父さんは家の状態を見て、その場に泣き崩れてしまったらしい。お爺ちゃんが泣き崩れているお父さんを発見し、家に連れて来た。
――そりゃ、家の壁が破壊されてたら誰だって驚くよね。ましてや、家の中に娘をお留守番させていて、声をかけても返事がなく、床に血痕が残っていたら……。まぁ、食べられたと十中八九思うでしょ。
「うん! 私は大丈夫だったよ。それよりもシャインとライトは無事なの?」
私は自分のことよりも、妹と弟の体調の方が心配だった。
「ああ、問題ない。栄養不足からくる、ちょっとした風邪らしい」
――双子は栄養不足だったのか。確かに子供のころから、パンとスープだけの食事をしていたら、栄養失調にもなるよね。
「今、ライトとシャインは街の病院にいる。ただ、キララが心配になってお父さんだけ先に帰ってきたんだ」
お父さんは私にぎゅっと抱き着いてきた。汗のにおいとお父さんのにおいが混ざって臭い。きっと二日間、体を洗っていないのだろう。
出来れば離れてほしかったが、泣いているお父さんを見て、私は離れられなかった。
「そうだったんだ。ねえ、お父さん」
「なんだい、キララ?」
「私、街に行ってみたい」
私はこの世界の現状を知りたかった。加えてシャインとライトのお見舞いにも行きたかった。なので、お父さんに無理を言ってお願いしてみた。
お父さんは一度迷った顔をしたが、頭を縦に一度動かした。
「わかった、シャインとライトを一緒にお見舞いしに行こう」
「うん! ありがとう、お父さん」
少しの間だけかくまってくれた、お爺ちゃんとお婆ちゃんに私はお礼を言った。お父さんも、これ以上ないというほど二人に感謝していた。きっと二人にはこれからもたくさんお世話になるのだろう。そう思えてしまうくらい良い方たちだ。
「それじゃあ、行こうか」
私はお父さんと馬車のような乗り物で街へ向かった。
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早朝から日が真上に来たころ、私たちは街に到着した。大きな城壁を抜けると、レンガの家や木材の家が並び、荷台をバートンに引かせなら動く乗り物が道を移動している情景が目に飛び込んでくる。
「うわ……、広い。人がいっぱいいる……」
東京ほどではないにしろ、私の見た街は数多くの人でにぎわっていた。
「キララ、こっちだ」
乗り物を降りた私はお父さんに手を引かれ、人ごみの中を歩いていく。
少し歩くと目の前に真っ白な建物が見えてきた。見かけからして清潔感のある綺麗な建物だ。形は四角形で、入口から多くの人が出入りしている。人気の多い施設と言うことは安全性が高いと言うことだ。
「お父さん、白い建物が病院?」
「そう、あの白い建物がリーズ病院だ。お父さんの友達が医院長の病院なんだ。キララはリーズ病院で生まれたんだぞ、覚えてないか?」
――いきなりそんな話をされても赤子のキララが覚えているわけない。普通の人間は生まれた時の記憶なんて持っているわけないでしょ。逆に覚えていたら怖いよ。
「覚えてない……」
「はははっ、そりゃそうだよな。リーズにはほんとにいろいろ世話になった。冒険者をしてた時もリーズは頼りになったな。ほんと懐かしい」
お父さんは遠い目をしながら呟いた。
「お父さんって冒険者だったの!」
私は聞き間違いかと思い、一度考える間も取らず、質問していた。
「冒険者って言うより、冒険者見習いって言う感じかな。少しやってわかったが、お父さんは冒険者に向いてなかったんだ。リーズとは冒険者養成所で知り合いになって『一緒に冒険者になろう!』と誓ったんだが、お父さんよりもリーズの方が冒険者に向いてたらしくてな。あと結構すごいパーティーに入れてもらっていたんだが、皆の冒険の足手まといになってた。それが耐えられなくてな……」
お父さんは、苦笑いを浮かべ髪を掻く。
どうやら、お父さんは冒険者と言う夢を諦め、名も無い村で仕事をしているらしい。
「どうしてリーズさんは冒険者から病院の先生になったんだろう」
「確か『歳にはやっぱり勝てない』と言っていたな」
「冒険者は年齢が大事なの?」
「まぁ、冒険者は体が基本だからな。二五歳くらいで多くの冒険者が才能の無さを痛感して引退する。ま、才能のあるやつはずっと活躍し続けるんだけどな。父さんはすぐに諦めちまったな……。もう少し続けていたら変わっていたんだろうかと考える時がある。まあ、後悔はしてない。今は家族と一緒に生活出来て幸せだ」
お父さんは笑いながら、私の頭を撫でる。
「はは……、そうなんだ」
お父さんと話しているうちに病院に着いた。病院の入り口から、中に入ると広い受付があり、多くの木製のロングベンチが置かれていた。
看護師さんのような服を着た女性と話をしている白衣姿の男性が私たちの方を向く。
「やぁ、ジーク。もう戻ってきたのかい。あ、その子がキララちゃん? いやぁ、大きくなったね。初めまして、キララちゃん。リーズ・カバリーと言います。一応この病院の医院長をしてます」
リーズさんは私と同じ視線になるために床に膝立ちになり、自己紹介をした。
――緑色の髪と同じ色の瞳。凄い、緑色の瞳なんてカラーコンタクトレンズでしか見たことない。この世界にカラーコンタクトレンズなんて普及してないと思うし、どう考えても裸眼だよね。裸眼で緑色なんて地球にいたころに出会った人の中でも見た覚えが無いよ。本物はほんとうにエメラルドみたいなんだ。
リーズさんは大きめのマル眼鏡をしており、少しズレているのが彼の忙しさを際立たせている。
体格は冒険者をやっていたと言うだけあって、細身ながらがっしりとしていた。
一七〇センチメートルほどの身長なのにすらっと長い手足。特に指先は女性よりも細く長いため、男らしさからはかけ離れている。だが、私から見ても綺麗な手だった。
服装は病院の先生なのでビシっと決まっている……わけでもない。
チノパンのような線の細いズボンに白のカッターシャツ。その上から軽く白衣を羽織り、首元には銀のペンダントがつけられていた。
『とても話しやすそうな先生だな』と言うのが私の第一印象だった。そんなリーズさんは子供の私に対しても丁寧に挨拶してくれた。どこぞの、ちびっこ冒険者と違って礼儀正しい。
「初めまして、キララです。年齢は五歳です!」
私は簡単に自己紹介する。病院の中にいるのが恥ずかしいと思うほど、今の私は汚い服装なのでちょっと申し訳ない。
「挨拶できて偉いね。うちの子なんて未だ挨拶もろくにできないんだから」
――リーズさんにも子供がいるんだ、どんな子だろ。やっぱり、リーズさんと同じで穏やかそうな子供なのだろうか。
「挨拶はすんだか? シャインとライトの部屋にそろそろ行きたいんだが……」
お父さんは腕を組みながら呟く。
「そうだね。ジークには話したいことがあるから、キララちゃんを病室に送ったあと私のいる診察室に来てくれないか」
「わかった、すぐに行く。キララ、病室はこっちだ」
「うん」
――話したいことって何なんだろう、私も聞いてちゃダメなのかな。
私はお父さんに手を引かれ、病院の一室の前に着いた。
「ここが、二人の病室だ。お母さんがいるから、先に入ってなさい。お父さんはリーズの話を聞いてくる」
「うん、行ってらっしゃい」
――何を話してくるんだろか。まぁ、今は双子の方が心配だからついては行かないけど、あとで話を聞いてもいいかな。聞いても、お父さんは話してくれないだろうな……。
私は病室の扉を開ける。すると、病室から私とそっくりな天使が飛び出してきた。
「う、うわぁ!」
私は天使の突進に驚いて尻もちをついてしまった。床が硬く、お爺ちゃんやお婆ちゃんなら骨折していたかもしれない。
「あ、お姉ちゃん。どうしてここに居るの?」
「お姉ちゃんも病気したの?」
私と同じくらい可愛い、シャインとライトは目を丸くしている。もう、可愛すぎてぎゅっと抱きしめて食べちゃいたいくらいだ。
「私は二人のお見舞いに来たんだよ」
――にしても、どうしてこんなに元気なの。一昨日まで風邪ひいてたでしょ。
「あら、キララどうしてあなたがここに居るの?」
お母さんは病院に居るはずのないもう一人の娘を見て驚いた顔をしていた。
「ライトとシャインが心配になっちゃってお見舞いに来ちゃった」
「そうだったの。まあ、リーズさんに魔法をかけてもらったら、この通り……。シャインとライトは元気いっぱいになっちゃって、お母さん一人では手に余ってたの。キララが来てくれて、ほんとに助かったわ」
お母さんは少々やつれていた。病気で心配していて心底つかれていた手前、双子が元気になりすぎたのが追い打ちになったようだ。
「お姉ちゃん、何して遊ぶ?」
「何して遊ぶ?」
シャインは私のブロンドに輝く綺麗な髪を引っ張り、ライトは私の小さな耳を引っ張る。
「いたたたた……、そんなに引っ張らないでっ」
――魔法ってすごいな。この前まで苦しそうに唸っていたのに、私に悪戯ができるまで元気に出来るんだ。私もいつかこんな魔法が使えるようになるのかな。
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