ギルドマスター
「レクー、モテモテだね」
「別に、モテたいわけじゃないんですけどね」
「そんなこと言ったら、他の雄バートン達に嫌われちゃうよ……」
私は周りにいる、機嫌の悪そうな雄バートン達を横目に見ながらレクーを厩舎から出す。
「じゃあ、ウルフィリアギルドに向かおう。ベスパ、近道をお願い」
「了解です」
ベスパはレクーの前に出て、ビーナビを起動。スーッと移動し、私達は道筋がわからずとも、ベスパに付いて行けば確実にウルフィリアギルドに付ける。
王都の様子は相変わらず『賢者』と『聖女』で埋め尽くされており、エルツ学園長がファイア一発で気絶したと言う風の噂は程度だったので、命拾いした。
まあ、エルツ学園長も、ファイア一発で気絶させられたとか言う最悪な噂は流れてほしくないはずだ。自分の沽券にかかわるし、嘘でも気絶していないと言うだろう。寝てただけだ! とかね。
私が周りの様子を窺いながら移動していると、いつの間にかウルフィリアギルドの前にやってきていた。近くの厩舎にレクーを入れ、待っていてもらう。
「今の時刻は午前九時。冒険者さん達が活発に動く時間だ」
私はポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認。周りに多くの冒険者さんがおり、獣族と人族が混ざって目が回る。
「やっぱり、田舎の街とは比べ物にならないくらい多い……。ちょっと移動するだけで汗がびっしょりだよ」
私は巨大な門の横に付いている普通の門から入り、真っ白なフェンリルさんを見ながら、おしくらまんじゅう状態を乗り越え、ウルフィリアギルドの建物にやっとこさ入った。ここまで来る間にローブの中がムレムレ……。
冬なのに人が多いせいで暑いのなんの。いったんローブを脱ぎ、体温を調節しないとすぐ汗臭くなってしまう。
私はウルフィリアギルドに設置されている長椅子に座り、休憩して呼吸を整えた。その間、ウルフィリアギルド内を行きかう冒険者さん達を観察する。
「もうちょっと買い取り料を上げてくれませんか。これじゃあ、生活できませんよ」
「大変申し訳ございません。多くの傷があるせいで、適正価格よりも低い値段しか出せません。もう少し、丁寧に仕事していただければ、報酬をもう少し上乗せできるので、気を付けてください」
「そうですか……。わかりました」
とあるひ弱そうな冒険者さんは報酬の交渉をしていた。だが、失敗し、帰っていく。同じようなやり取りが、至る所でされていた。
「おいっ! こちとら命を張って戦ってるんだぞ! 討伐難易度Aランクの魔物の素材だ! もっと買い取り料を上げやがれ!」
「大変申し訳ございません。たとえ討伐難易度が高かろうと、素材の方がボロボロでは適正価格で買い取れません」
厳しい意見を言う受付の女性。男性の言い分もわかるが、ギルドとしてはお金儲けのため、ズタボロの素材は買い取れない。それでも冒険者達は交渉しないと生活がやっていけない。
――見ていて思うけど冒険者って、まあまあ大変な職業だな。農家とわけが違う。命貼っているんだもんな。逆に騎士はのうのうとしていても、お金が入る。家族がいるなら騎士になった方が良いんだろうな。
私は趣味の人間観察を行ったあと気分を戻し、受付に並ぶ。私が並んでいるのは相談所だ。
仕事を探す者や冒険者とあまり関係のない、役所のような場所だと思われる。
ざっと八人並んでおり、一人八分くらいの話し合いの後、どこかに行った。一時間並んでようやく私の番が来る。
「大変お待たせしました。え……。超可愛い女の子……。えっと、何しに来たのかな、もしかして迷子?」
「迷子ではありません。私は話をしに来ました」
私は高い受付台に手を伸ばし、飛び跳ねながら、手紙を差し出した。
――この台、高すぎ。もっと子供用にしてほしい。背が低い人差別だ。
「え……。しょ、少々お待ちください」
受付嬢は手紙を見るや否や、頭を下げ、ギルドの奥へと向かう。
八〇秒もしない間に、見覚えのある男性がやって来た。
「なんと……。本当に幼い女の子だ……」
質の高そうな黒い眼鏡をかけ、頬がコケている苦労人顏の男性が受付の窓口にやって来た。
服装は黒い燕尾服を着ており、髪型は長すぎず短すぎない程度に整えられていてとても清潔感がある。どこかの執事と言っても信じてもらえそうなほど姿勢が正しい。
「君が、キララと言う少女ですか?」
「はい、私がキララです」
「そうですか。では、私に付いて来てください」
男性はいつの間にか、私の隣に立っていた。男性と私の間に受付台があり、冒険者からの被害を受けないよう、結構しっかりした受付窓口になっているにも拘わらず、どうやって移動したんだろうか。
「どうかしましたか?」
「いえ、どうやって移動したのか疑問に思いまして……」
「私とキララさんの近くにいた虫の位置を入れ替えただけですよ」
男性は時間がないんだと言いたそうなブラックサラリーマンっぽい雰囲気を醸し出しながら、速足でつかつかと歩く。
男性の身長は一八〇センチメートル近いので、一歩が大きい。
私は駆け足で男性を追った。
私はギルド内の応接室に移動させられた。ふっかふかの黒いソファーに腰掛け、メイドさんっぽいギルド職員の女性に紅茶を出される。
「あ、ありがとうございます……」
先ほどの男性がおらず、いったいどこに行ったのか謎だった。八分ほどして男性が戻ってくる。両手に金貨っぽい硬貨が乗った黒い板を持っており、私の前にある高そうなローテーブルに置いた。
「一度退室してしまい、申し訳ありませんでした。私はこのウルフィリアギルドを経営しておりますギルドマスターのキアズ・リーブンと言います」
男性はやはりギルドマスターだった。
「初めまして。私の名前はキララ・マンダリニアと言います。よろしくお願いします」
「マンダリニア……。マンダリニア!」
キアズさんは滅茶苦茶驚いていた。そのまま、私の両頬を手で挟み、顔をじろじろ見てくる。年上の男性が好みの私としては少々気恥ずかしいのだが……。
「えっと、家名が何か……」
「マンダリニアと言う家名に加え、どことなく似ている雰囲気。違ったらすみません。キララさんはジーク・マンダリニアのお子さんですか?」
「はい、私の父はジーク・マンダリニアです。それがどうかしましたか?」
「い、いえ。昔、色々迷惑を掛けられたものですから……」
キアズさんは苦笑いを浮かべ、ソファーに腰掛けた。
「巡り巡ってギルドの為になったか……。因果とは面白いものですね」
「なにを言っているかさっぱりわかりませんが、私は受験生ですから、早く話しを進めてください」
私は面倒臭い話をしに来たわけではない。生活資金の調達に来たのだ。
「はは……。君は、本当にジークの子ですか? あまりにも性格が似ていない……」
「私の父は正真正銘、ジーク・マンダリニアですよ。母がお腹を痛めて産んだ子で間違いありません。まあ、ちょっとませてるかもしれませんけど」
「受験生と言うことは、すでに一二歳。確かに、子供にしては大人すぎると思いますが……。まあ、いいでしょう。一度確認させてもらいますが、今回の新種の魔物を発見し、討伐したのはキララさんで間違いありませんか?」
「はい。間違いありません」
「どのように討伐したかお聞かせ願えますか?」
「私の友達にお願いして作ってもらった特殊な糸を使い、魔物を拘束。身動きが取れない状態にしてから、この剣ですぱすぱと切っていきました」
私は黒い鎖剣を見せながら言う。
「にわかには信じがたいですが……、剣で切られたと言う素材の状況から見ても正しい。信じましょう。えっと、冒険者登録は……」
「してません。ただ、テイマーの資格は持っています」
私は銅板をキアズさんに見せる。
「テイマーの資格をすでに持っているとは、中々仕事熱心な方のようですね。今回の件に関する得点は記録されませんが、よろしいですか?」
「まあ、冒険者登録できるのなら、してほしいところですが、まだ一二歳ですし、一五歳にならないと冒険者登録できないはずです。仕方ありません」
「理解していただきありがとうございます。魔物の討伐の報酬に加え、素材は適正価格で買い取らせていただきます。今回の魔物の討伐難易度はBランク。一体の討伐料を金貨五枚と決定し、八体の討伐が確認されましたので金貨四〇枚」
キアズさんは一〇枚の金貨を積んだ筒を四本、黒い板の上で移動させる。
「加えて、大きな角一本金貨五枚として八本ありましたので金貨四〇枚。魔石一個で金貨五枚なので、八個で金貨四〇枚。合計金貨一二〇枚となります」
キアズさんは金貨一〇枚が積まれた筒を一二本、前に出した。
「大分高かったんですね……」
「討伐する難易度が高いですし、取れる素材の価値が高いのに加え、魔石が大きかったため、この値段になっております。えっと、キララさんに新種の魔物の命名権がございますが、どうしますか?」




