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『ゴミ』スキルだと思われている『虫使い(蜂)』が結構使えるんですけど!<異世界冒険食べ物学園ダークファンタジー(仮)>  作者: コヨコヨ
試験本番 ~賢者と聖女も現れたけど、気にせず受験する編~

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火に潰される

「『ファイア』」


 私は真正面から切り掛かって来た少年の胸元に火の塊を打ち込んだ。


 少年は『ファイア』をまともにくらい鳩尾を殴られたのかと思うほど力強く「ぐほっ!」と言いながら、吹っ飛ぶ。どうやら、魔力の密度が高いと質量もあがるらしい。

 火の塊が重いとかわけわからないけど……。まあ、水蒸気を集めれば水になるし、冷やせば氷になるように、魔力も形を変えて質量や密度が増せば『ファイア』で吹っ飛ぶようになるみたいだ。


「うう……」


 少年は『ファイア』一発で伸びた。


「えっと……。ええ……」


 ――きっと勉強を頑張っていて実技試験をおろそかにしたんだ。そうに違いない。


 私の持っている対戦記録用紙に二つ目の黒星が付く。


「馬鹿な男だ。始めっからスキルを使って戦えばよかったのによ! 俺は弾投げのスキルを使うぜ!」


 次の相手はスキルを堂々と使うようだ。


「わかりました。じゃあ、私もスキルで使役したビーを使います」


「ビー? ははははっ、ただのビーに何ができるんだよー。じゃ、早速やらせてもらうぜ! 『ウォーターボール』」


 水属性魔法の中級を扱えるらしく、手の平に水球が生まれた。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらっ!」


 少年は私目掛けて水の塊をこれでもかと投げ込んでくる。


 ――ベスパ、少年の背後に回って『転移魔法陣』を展開して。


「了解です」


 ベスパは最弱さゆえに少年に無視され、攻撃を一切受けていなかった。容易に少年の背後を取る。そのまま小さな『転移魔法陣』を展開。


「『転移魔法陣』」


 私は入口となる魔法陣を小さく展開した。一発目の水球が魔法陣に吸い込まれ、少年の後頭部にある『転移魔法陣』から現れる。


「ぐはっ!」


 少年は自分が投げた『ウォーターボール』を背後から食らい、前に倒れ込んだ。その瞬間、他の水の玉はヘロヘロと床に落ちる。


「えっと……」


 私は試合記録用紙を見る。すると黒星が付いていた。


 ――これで良いのか。まあ、記録用紙が判定しているんだから良いんだよな。


 どうやら私と子供達の間に実力差が結構あるらしい。死地を潜り抜けた回数の差だろうか。まだ、天才級の者に出会っていないだけかもしれない。


「ま、勝てるのならいいか」


 私は楽観的に考え、勝てるのなら別に気にする必要はない。そう思っていたのだが……。


「なんか、私の周りに教師たちが多くない?」


「そうですね。まあ、人が少なくなってきたからかもしれません。皆、キララ様に注目しているのですよ」


 ベスパは私が注目されて少々嬉しいようだ。


「はぁ、あまり見ないでほしいな。見世物じゃないのに見られるって変な気分……」


 アイドルの姿を見せるのは構わない。なんせ、アイドルは見てもらう存在だから。でも、今はただのキララであり、アイドルではない。

 つまり、アイドルのオフを見られている状態だと言うこと。

 普通に生活している姿を世の者達に見られるのはアイドルにとって死活問題である。もし、超人気アイドルがジャージ姿で髪がボサボサの状態を見られたらどんな反応が来るか。きっと写真を撮られニュースにされるだろう。ま、私が食らったんだけどね。


「君、私と戦わないか?」


 とある少年が話し掛けてきた。見た目はイケメン、服装もカッコいい白い衣装。もう、目立たない方がおかしい男子だった。私はすでに七勝しており、あと三回終えれば帰れる。

 少年の髪は白に近い金髪。王子様のような整った清潔感のある顔立ち、すっと通った鼻は高く、子供ながら驚くほど大人びている。まあ、私からすればただの子供にしか見えないが。


「良いですよ」


「私のスキルは一対一の戦いで使えない。君はスキルを使うかい?」


「じゃあ、私もスキルを使いません」


 私と少年は広くなった闘技場の土地を十分に使い、八メートルほど距離を取った。


「じゃあ、先行は貰う」


 少年は左腰に掛けられている剣の柄に右手を添えながら、走る。その歩行速度は普通の人を余裕で超えていた。加えて、迫りくる圧迫感から、私と同じように戦闘経験があると思われる。


 私はローブから杖を取り出し、先端を少年に向ける。魔力を流し詠唱と共に『ファイア』の魔法陣を展開。


「『ファイア』」


 杖先から放たれる『ファイア』の威力は子供一人を容易く弾き飛ばせるほど。それだけ速度が速く、重い一撃と言うことだ。


「ふっ!」


 少年は火の塊を剣で切り割いた。魔法を切るなんて簡単にできることじゃない。剣を見るに良い品だ。加えて動きに無駄がない。良い教育者に教えてもらったのだろう。


「『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファイア』」


 私は杖先から連続で魔法を放つ。火の塊が何個も飛び、真っ赤に燃えながら少年を襲う。


「ふっ! はっ! おらっ! はあっ!」


 少年は走りながらファイアを切り割き、私の方に迫ってくる。


 ――やるな。このままじゃ追いつかれちゃう。


「『サンドアップ』」


 私は少年が走り込んでくる地面を軽くでこぼこにしておいた。


「くっ……」


 少年は足下が悪くなり、一瞬身が傾いた。だが、すぐに体勢を整え、力が入りやすい足場を瞬時に見抜き、剣を振り上げ、私の頭上に振り下ろしてくる。


 私は後方に下がりながら、剣を躱す。だが、少年は連撃してきた。バレルさんやシャインの剣速に比べたら遅い。あれに見慣れていたら、子供のチャンバラ遊びに付き合っているようなものだ。


「くっ! 当たらない……、なぜだ!」


 少年は剣を振りながら叫ぶ。舌を噛むかもしれないから動きながら喋らない方が良いのに……。


「あなたは化け物を見た後、ビーを見たらどう思いますか?」


「知るかっ!」


 少年は私の左手に剣の腹を当て、杖を勢いよく叩き弾いた。


「よし! これで終わりだ!」


 少年は私の武器が飛んで行ったのを見るや否や、剣を振り上げた。ここで勝負を決めに来たのだろう。

 でも、私は杖など無くとも魔法が放てる。


 少年が剣を頭上に振り上げた瞬間を見計らい、私は滑り込むように彼の体の内側に入り込む。そのまま左手で振り下ろされる前の手首を押さえ、一瞬だけ固定。一瞬の硬直の中、右手の平を彼の鳩尾に当てた。


「な……」


「『ファイア』」


 私の手の平から高密度な「ファイア」が放たれ、少年は吹っ飛ぶ。


「ぐほっ!」


 少年は鳩尾を殴られたのと同等の痛みを覚えたのか、胸を押さえながら苦しんでいる。防御魔法が張られているため『ファイア』程度では死んだりしないはずだ。


「これで……」


 私は試合記録用紙を見る。だが、黒星はついていない。どうやら、まだ試合は終わっていないらしい。


「はぁ、はぁ、はぁ……。杖が無くてもここまでの威力とは……」


 少年は剣を持ちながら立ち上がった。今までの者達は攻撃を食らったら立ち上がろうとせず、そのまま負けを認めたのに、彼は認めたくないようだ。


「一瞬、隙を見せましたよね。その瞬間が、あなたの敗因ですよ」


「はは……。そうだな。確かに私は杖を弾いた時、隙を見せた。あと色々君を見誤っていたようだ。あそこまで体を連動させられる少女は今まで見たことがない……」


 少年はよろよろと歩き始めるが、すでに立っているのが限界のようで、すぐ前に倒れ込んだ。

 手の平に持っている対戦記録用紙に黒星が付き八連勝。戦いを見たところ、今、この場にいる者の中で彼が一番強そうだった。

 スキルを使用していないとは言え、少女に負けるのが悔しいと言う感じもしなかった。単純に自分の実力不足を感じ、潔く倒れたのだろう。


 私は跳ね飛ばされた杖のもとに向かう。地面に転がっており、とても寂しそうにこちらを見ていた。私はすぐに広い上げ、土を払い、ローブの中に入れる。


「さて、あと二勝。誰かいませんかー?」


 私が手をあげても、受験生は誰も私のもとに来ない。


「私が相手をしよう」


 それを見かねてか、闘技場の観覧席にいた試験官だと思われる男性が五メートルはある壁の上段から飛び降り、私の前に立った。


「えっと……。先生が受験生と戦っても良いんですか?」


「君の実力をもっと見たいとエルツ学園長が言っている。構わないさ。私はスキルを使う気は無いが、君は使ってくれて構わない」


 試験官は腰に掛けられた剣の柄を握り、ハキハキと言う。


「あなたはスキルを使わなくても良いんですか?」


「君は少女に加え、まだ学生でもない一般人だ。そのような子にスキルを使ったら教師の面目が立たないだろう」


「そうですか……。まあ、別に構いませんよ。私もスキルを使いませんから。その代わり、先制攻撃は貰いますね。『転移魔法陣』」


 私は試験官の周りに八個ほどの小さな魔法陣を展開した。加えて指先にも『転移魔法陣』を展開。


「な、なんだ、この魔法陣。見た覚えが無い……。君が考えたのか?」


「いえ、教わっただけです。本物の天才からね。『ファイア』」


 私は指先から一発の『ファイア』を放った。赤い魔法陣を通過した魔力は火の塊に姿を変え、真っ赤に燃えながら『転移魔法陣』に入っていく。すると、試験監督の周りに展開している魔法陣が淡く光り『ファイア』が八分割されて発射された。


「くっ! この程度、問題ない!」


 試験監督は剣を振るい、五つのファイアを切り割く。だが、三つのファイアは身に食らい、苦い表情を浮かべていた。


「さ、どんどん行きますよー」


 私は試験官がどれほど強いのか知るため、一番簡単に出せる『ファイア』で物量を浴びせることにした。

 『ファイア』なんて初級も初級。魔法の基本みたいな魔法だ。だからこそ、私のような子共が使っても何ら不自然じゃない。きっとこの場にいる者はほぼ魔法が使えると思うが『ファイア』が使えない者はいないだろう。


「火の塊に押しつぶされるっ! これは、どういうことだ!」


 元剣神のバレルさんなら余裕でさばき切る攻撃だが、八発同時攻撃を五発しかさばけないとなると三発ずつ溜まっていく。

 私が八回ファイアを打ち込んだら、試験監督は二四発のファイアを受けなければならない。威力が八分割されているとは言え、もともとの威力は少年を気絶させるほどだ。

 今、試験官は一発の『ファイア』を三発受けていることと変わらない。


 私の魔力は未だ全く減っていない。なんせ、使用している魔法は『ファイア』なのだ。消費魔力量は一程度、もう今の私ならただの『ファイア』を一生放てるだけの魔力量がある。

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